これが逃げるという事だ   作:福泉

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お待たせしました第2シーズンを投稿いたしました。
今作の注意点ですが馬世界で某マキバオー並に人間と馬が会話してますが本人達(馬達も)会話をしているとは認識しておりません。あくまで何故か意思疎通しているけど本人たちにすれば馬の嘶きと人間の鳴き声(馬にとっては)としか認識していないという前提ですのでよろしくお願いします。
その事を認識しているのは主人公だけですが主人公が話しても人間には馬の嘶きと思われています。
その辺りがこの世界の少し変わった所であると思ってお話を楽しんでいただければ幸いです。
ご意見、ご感想をお待ちしております。



第2シーズン第1話 うまれました(馬)

なんだろう、妙に頭がくらくらする。

ぼんやりとした視界で辺りを見回すと喜んでいる何人もの人と疲れた様子の牝馬が見える。

はて?何故こんな所に?

立ち上がろうにも手足に・・・前足でした、前足後足に力が入らず立ち上がれない。

ははん、どうやら流行りの生まれ変わりと言うやつらしい。

しかし馬ですか。

畜生道に落ちた理由は・・・思い出せないというかそもそも前世が人間かどうかも分からないなぁ。

そんな事をぼんやりと考えていると鋭い声がした。

「私の息子ならさっさと立ちなさい!」

「イエス!マム!」

今まで力が入らなかったのは何なのかと思うほどに全身に力が漲り立ち上がる事ができた。

「厳しいねえイクノ姉さんは」

「私の息子なのですからこれぐらい出来て当然です」

どうやら僕の母親はイクノ姉さん・・・イクノディクタスらしい。

「さあ息子よ。立ち上がったのなら母のミルクを飲むのです」

「は~い」

まだ少しフラフラするがゆっくりと歩いてイクノ母さんの元へ行くとイクノ母さんも母乳を吸い易いように体を動かして誘導してくれる。

「しっかり飲んで立派な馬になりなさい」

先ほどの厳しい印象は和らぎ、慈愛に満ちた声と視線で僕を見つめてくれる。

「早くあのひとにも貴方を見せてあげたいですね」

「あ~・・・イクノ姉さん・・・その事なんだが・・・」

先ほどまで笑顔だった老齢の男性が渋い表情で言い辛そうに切り出す。

「ツインターボなんだがな・・・昨日心不全で死んだらしい・・・」

「え・・・?」

母の体が強張る。

「お産間近だったお前さんに言うのは体調的に拙いと思ってな・・・」

「そう・・・ですか・・・」

明らかにイクノ母さんは動揺している。

「すまん・・・まだ体調が整っていない状況で・・・」

「いえ・・・私にはこの子がいます。辛くないと言えば嘘になりますがこの子の為にも悲しんでばかりいられません」

「強いな、イクノ姉さんは」

男性はそう言ってイクノ母さんをそっと撫でた。

 

しかし父ツインターボ、母イクノディクタスなんて馬いたかしらん?

よくは分からないが生まれる時からある記憶ではそんな馬は居ないと言っている。

多分この記憶は前世の記憶の欠片ではなかろうか。

きっと前世の自分は競馬が大好きで仕方がない人間だったのだろう。

きっと死んだら馬になりたいと願ったのかもしれない。

人間だったという確証は無いが多分そうなのだろう。

しかし何故自分に該当する馬が居ないと断言できるのだろうか?

うーんよく分からない母乳ウマー・・・いかん思考がまとまらない。

とりあえず良く分からない事は後で考えるとして今は母乳を味わう事を優先しよう。

ちなみにそんな風に百面相する僕をイクノ母さんは少し変わった子ですねと思いながら見つめていた。

 

数日後・・・。

「いいですか。私たち馬にとって足のケガや病気は死につながります。健康に気を使わず惰性で生きるのはとても危険です」

「ふむふむ」

イクノ母さんが健康の大事さを語る。

自分が幼少期に体験した怪我による死への恐怖。

そしてそれを克服した後の自分の激走の歴史を語る。

「足のケガと体調不良さえ注意していれば私のように61のレースを走りぬく事ができます」

ん?今おかしな数字が聞こえたような。

「イクノ姉さんの健脚は本当だぞ。当初はそこまで走らせる予定ではなかったんだがな。走らせても走らせても全然疲れた様子のないイクノ姉さんに馬主も調教師もイケイケになっちまってな。気が付けば61戦も走ってたんだよな」

僕たち親子の様子を見ていた厩務員がイクノ母さんの話を補足してくれる。

あっれー?自分の記憶だと51戦・・・それでも十分異常だけどそこからさらに増えてません?

どうやら細かな違いはまだまだあるらしい。

しかもなぜか分からないが馬と人間が普通に会話してるし。

ただどうもお互いに会話をしているって認識は無いみたい?

意思疎通は出来ているけど会話しているとは認識しないって何とも不思議な光景だなぁ。

「うん、おかしな様子も無いしそろそろ放牧の時期だな」

どうやらそろそろこのお部屋から出してもらえるらしい。

馬になった本能なのか早く走りたくてウズウズしている。

「いいですか、貴方はまだまだ体の使い方になれていません。怪我だけはしない様に注意しなさい」

「分かったよイクノ母さん」

母の言葉に返事をしながらまだ見ぬ外へ憧れていた。

 

「ひゃっほー!」

本能全開で走るのタノシー!

語彙が死ぬー!

「走るときの感じはツインターボそっくりですね。毛色は私そっくりですが」

勢いよく走る僕をのんびりと眺めるイクノ母さん。

「疲れ切る前に休むのですよ!」

「ひゃはーい!」

絶叫と返事が混じり合った声を返すとそのまま走り続けた。

その結果・・・。

「私は言ったはずです。疲れ切る前に休みなさいと」

「はひ~・・・」

本能を抑えきる事が出来ずバテバテの状況でイクノ母さんの隣にへたり込んだ僕を冷たい目でイクノ母さんが見つめる。

「楽しいのは分かりますが限界をちゃんと把握しなさい。極度の疲労は怪我の元です」

「ふぁい・・・」

疲れから眠たくなってきたのでその返事を最後に眠ってしまった。

 

人間と違い馬の成長は早い。

半年もすれば離乳して子馬だけでの生活になるからだ。

周りからは母馬と引き離された子馬達の悲痛な叫びが聞こえてくる。

「いいですか。これで永遠の別れという訳ではありません。少々寂しいかもしれませんが落ち着いて行動しなさい。貴方ならそれができるはずです」

「分かったよイクノ母さん」

その後、何人かの厩務員が馬房に入ってきてイクノ母さんを連れて行った。

急に一人で部屋に残された不安はあったもののイクノ母さんに後で叱られる事を思えば我慢できるものだった。

「さすがイクノ姉さんの息子ねお前は。随分と落ち着いてるわね」

そうでもないんだけどいい子いい子してくれる若い女性厩務員の手に癒しを感じながら大人しくしていた。

その後しばらくは一人が寂しかったが直ぐに慣れていった。

 

「まってまって~」

「やだよ~」

今日も今日とて放牧中。

同じ年の子馬達とかけっこするのが存外楽しい。

これも馬の本能のなせるものなのか。

ただ追い付かれるのは嫌いだし一緒に合わせて走るのも落ち着かない。

「先頭は譲らない!」

「まてまて~」

その後全員が疲れるか飽きるまで追いかけっこを続けた。

 

「ほれほれ!走れ~!」

「「「わ~!」」」

冬が近くなってきた時期になると厩務員に追い立てられる様になった。

なるほどこれが追い運動というやつか。

後ろから大人の馬に追い立てられて走らされる。

ものすごく早く走る訳ではないが運動不足にならない様にする為に結構な時間走ることになる。

そこでも当然先頭は譲らなかったがかなり疲れるのでできればほどほどにして欲しい・・・ダメか。

「お前はいつもバテバテだな」

性分なんです仕方がないんです。

「やっぱりターボの息子だねぇ。群れを嫌うのは」

そう言えば自分ツインターボの息子でしたっけ。

名前は知ってるけどレースははっきりと見た事無いなぁ。

大逃げで有名だったってのは知ってるけど。

「そうだ、お前の親父のレースを今度見せてやるからな」

ありがとうございまーす。

 

数日後、馬房で休んでいると厩務員の田中さんが小型のモニターを持ってやって来た。

「お前の親父のレース映像あったぞ。ちょっと画質が悪いけどな」

早速モニターに映像を映してくれる田中さん。

その映像を食い入る様に見つめた。

そこには有馬記念を逃げ切る父ツインターボの雄姿が映っていた。

ありえない、あの有馬記念で勝ったのはナリタブライアンの筈。

しかし映像は最終直線でも先頭を譲らず、ギリギリの所で勝利した父ツインターボが映っている。

「あの時は誰もがナリタブライアンが勝つと思っていた。ツインターボは大逃げしても途中で潰れると誰もが思っていた。だがお前の親父はその全てを出し尽くす事で逃げ切って見せたのさ。ツインターボ一世一代の大逃げ。あの時は思わずテレビに向かって叫んじまったよ」

そう言って田中さんは映像を消すとモニターを片付け始める。

なれるかなぁ・・・父さんみたいに・・・。

「なれるさ、お前はツインターボとイクノ姉さんの息子なんだぞ」

そう言って田中さんは笑った。




次回予告
どうやらこの世界には人間とウマ娘という種族が居るらしい。
良くは分からないがウマ娘に生まれてしまったのなら目指してみましょうトゥインクルシリーズ。

次回第2シーズン第1話 うまれました(ウマ娘)
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