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ぼんやりとする視界に笑顔の大きな女性が見えた。
「目が覚めましたか~。ママでちゅよ~」
手足にも力があまり入らないし動けない事を考えるとどうやら赤ん坊に生まれ変わったらしい。
なるほど、今流行りの転生というやつか!
どうやらこの女性が母親らしい。
まだあまり定まらない視界で辺りを見回すが極々普通の病院に見える。
どうやら異世界転生ではないらしい。
それにしても妙に頭の上がヒクヒクするがなぜなのだろう?
「よくやった卓子!」
ほぎゃ~!喧しい~!
突然の大声に驚いてついつい泣いてしまった。
赤ん坊は泣く以外にはまだまだ感情表現ができないのだろう。
「あなた!大きな声出しちゃだめじゃない!」
「・・・すまん」
小さな声で叱る母親に父親と思わしき男性が小さくなって謝る。
しかしびっくりした。
あんなにも大きな声を出せるとはすごいな父!
「それにしてもウマ娘か・・・まさか俺たち夫婦にウマ娘の子が生まれるとはな・・・」
「私の家系には何人かウマ娘が入っているらしいから遺伝よきっと」
ウマ娘とはなんぞや!?
その疑問が解決するのはだいぶ先の話だった。
どうも!さんしゃいになりまちた!
失礼かみまみた!
どうやらある意味異世界転生で間違いなかったようです。
この世界には哺乳綱奇蹄目馬科の動物は存在しないみたい。
代わりにいるのがウマ娘。
人間の容姿にウマの耳と尻尾を取り付けた不思議な生命体。
分類的には人間に入るらしく性別欄が男・女・馬になっていたのは驚いた。
ウマ娘というのは俗称らしく正式な性別は馬が正しいらしい。
なおウマ娘は須らく娘、女性しかいないみたい。
割合は男女馬比で5:4:1。
結構少ないのねウマ娘。
その為に昔から神聖視されてきたらしく、古代ではファラオはウマ娘かウマ娘から生まれた男児であったり、日本でも卑弥呼はウマ娘だった、とか天皇家には何人ものウマ娘が嫁いでいたりするらしい。
実際今の皇后陛下もウマ娘ですしね。
後は歴史的偉人も何人かウマ娘だったりする。
父親は歴史の教師らしくその手の本には困らなかったのがありがたい。
有名どころであればナイチンゲールやジャンヌダルクもウマ娘であったようだ。
後は前世で好きだった三国志に出てくる赤兎馬はどうなったのかと調べてみたら呂布と合体していた。
呂布奉先の二つ名が赤兎だったらしく、敵将の血に塗れながら飛ぶような身軽さで戦う姿から血まみれ兎、赤兎と言う二つ名がついたらしい。
『呂布です!ヒヒン!』
一瞬頭の中にやたらイケメンボイスのUMAが浮かんだがすぐに消し去った。
「あらあら、またお父さんの本を引っ張り出してきちゃって駄目じゃない」
「あ~かえして~」
今読んでいたのは近代日本史の教科書だった。
流石に子供が読む本ではないので悪戯していたと思われたのだろう。
「はい、こっちの絵本をお母さんと一緒に読みましょうね~」
そう言って母が持ってきたのは白雪姫だった。
おおう、白雪姫もウマ娘になってるのね。
まあこの世界だと美しい娘≒ウマ娘の公式が成り立つから仕方がないのかもしれないけれど。
あ、白雪姫の継母女王もウマ娘になってて自分で手を下すんじゃなくて魔女に依頼してって話になってる!
最後は隣の国の王子様(白馬がいないので輿に乗ってるのが何とも面白い)に義母共々助けられるって話になってるし・・・。
後で絵本を色々読んでみたら基本お姫様はウマ娘になっていた。
実際英国王室でもウマ娘のお姫様はいらっしゃるし何より現役女王陛下がウマ娘だもんね。
尊い血筋には必ずと言って良いほどウマ娘の血が入っているし仕方がないね。
過去にはウマ娘の伴侶はとてつもないステータスだったのだから。
なお私の両親は二人とも普通の人間だが私はウマ娘として生まれてきた。
これは割とよくある話らしく、ウマ娘の妻から普通の女児が生まれる事もあるしその逆もしかりだそうだ。
また生まれてすぐのウマ娘の身体能力は普通の女児とほとんど変わりがない。
強いて言うなら視野範囲が広いのと聴覚が敏感なぐらいしか違いが無い。
だが年齢とともに少しずつ差異が大きくなっていき、小学生になると完全に運動能力では大人と子供以上の差が生まれる。
なので小学校では体育のみ別授業となっている。
一緒にしたらそれこそ事故が怖い。
そりゃ~小学1年生の時点で頑張って走れば原付の制限速度(公道では30キロです)を追い越せるんだからねぇ。
もちろん都会の小学校ではウマ娘専用クラスを作る事もできるが田舎の学校ではそれも難しい。
私の生まれは物凄い田舎では無いけれどウマ娘専用クラスを作れるほど人数がいる小学校ではなかった為に学校側も色々工夫しているらしい。
運動会などは別の学校と合同開催にしてウマ娘同士で競わせるなど色々大変なのだとか。
父が夜にお酒を飲みながらそうぼやいていたのを覚えている。
早く他のウマ娘達と遊ぶの楽しみだな~っとぼんやりと絵本を眺めながらそう思った。
そして気が付けばもう小学6年生である。
いや時間飛びすぎ!と思うかもしれないが何せ小学校の内容は前世とほとんど違いが無いのだからしょうがない。
ウマ娘用の体育なんかも基本別枠で授業を受けるだけで内容に大きな違いが無かったからだ。
色々な都合で球技系はほとんどやれませんでした。
サッカーのシュートなんかしたら某子供名探偵か某少年サッカーキャプテンの強烈シュートだからしかたないね。
リアルで○○君ふっとばされた!は洒落にならない。
さて今私は二つのパンフレットを前に頭を悩ませている。
一つは地方トレセン学園のパンフレット、もう一つは中央トレセン学園のパンフレットである。
地方トレセン学園のメリットは実家が近い為に土日に帰る事ができる事くらいか。
デメリットはウマ娘達の中に向上心があるウマ娘が少ない事やトレーニング施設などの質で劣る事、レースもあまり注目されない事か。
中央トレセン学園のメリットは質の高いトレーニング施設やトレーナー、上を目指すウマ娘達で溢れかえっている事、レースの注目度はそれこそ前世の比ではない。
デメリットは実家が遠いので長期休暇以外では完全に寮生活になる事と都会暮らしに適応できるか分からない事・・・。
色々メリットが多い中央トレセン学園がやはり魅力的なのだが果たして私は入る事が出来るのだろうか。
当然だがレベルが高い分入学難易度も高いと聞く。
落ちてしまったからじゃあ地方トレセン学園に・・・とは気分的にも中々上手くいかないだろう。
逆に地方トレセン学園に最初から決めてしまうと後で後悔しそうではある。
そんな風に頭を悩ませていると母がそっと頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。学校の先生もこの成績なら十分中央トレセン学園でやっていけるって言っていたし後はあなたのがんばり次第よ」
「そうだぞ。お前は俺たちの娘なんだ。大丈夫さ」
両親に背中を押されて私は中央トレセン学園を受験する事に決めた。
そして私は見事に合格する事が出来たのであった。
「ふわ~ここが中山競馬場・・・」
母に連れられて(父が仕事の都合で来れなかった為)やってきた中山競馬場。
今日は12月25日、そう有馬記念である。
物凄い人の数に苦労しながら私たち母子はレースを見るために中へと入っていった。
「暮れの中山競馬場、天候は晴れ、良馬場となっておりますが冷え込みは厳しいです。ですが観客の熱気は最高潮、レースの始まりを今か今かと待っております」
解説の人の声を聴きながら私はレースが見えるように一番前に出る事にした。
幸い私が子供のウマ娘と気が付いた周りの人が笑顔で前を譲ってくれたので簡単に一番前へと出てこれた。
「さあ各ウマ娘が続々とゲートに入っていきます。選び抜かれた13人、有馬記念を取るのは誰か。最後のウマ娘が収まりました。・・・スタートしました!ナリタブライアンが好スタートを見せました!ですが内からやはり予想通りにツインターボが飛ばして行きます!ツインターボ早くもリードを広げて行きます。二番手集団にはハイサイシーサーなどが居ます。先頭との差は早くも7、8バ身と言ったところ。ナリタブライアンは・・・二番手集団の後方につけておりますがライスシャワーなどがガッチリとマークしております。集団を嫌ってかナリタブライアン外へ出ます。一度目のスタンド前ですがツインターボさらにリードを広げてもはや50メートル以上開いているでしょうか。ツインターボが大きく逃げます。外に出たナリタブライアン二番手集団に並びかけます。さらにその外ライスシャワーとサクラチトセアメがマークしております。ナイスネイチャも外へ出ました」
目の前を13人のウマ娘たちが走っていく。
周りの唸るような歓声に驚きつつも私の眼はレースに釘付けだった。
「有馬記念の距離は2500メートル、長距離としては短いがそれでもスタミナを問われる距離だ」
「どうした急に」
重度の競馬ファンであろう男性二人が話し合っている声が聞こえてきた。
「早すぎるんだ」
「ツインターボが飛ばすのはいつもの事だろう?」
「確かにツインターボのペースは56秒に近い尋常ではないペースだが他のウマ娘達ですら58秒切りそうだぞ」
「なんでそんなに」
「ナリタブライアンが好スタート過ぎたんだ」
「どういう事だ?」
「おそらくナリタブライアンは好スタートを切る事で他のウマ娘達にプレッシャーを与えようとしたんだろう。前寄りではあるが差しが得意のナリタブライアンが前を走ろうとしているとトリックを仕掛けたんだ」
「でもそれが何でハイペースに?」
「ナリタブライアンの予想外だったのがツインターボだ。逃げウマ娘は複数いても大逃げ、しかも後先考えない破滅逃げとも呼べるウマ娘はそうそう居ない」
「そうか!全員がナリタブライアンを意識し過ぎたあまりに!」
「ああ、ナリタブライアンの好スタートをツインターボがあまりの速さでハナを取ってしまったから二番手集団がペースメイクをミスったんだ。自分達が遅すぎると勘違いした。さらにナリタブライアン自身は下がろうとしたが」
「徹底マークのライスシャワーやサクラチトセアメ、全体のペースが速くなった事で引っ張られた後方集団に押し上げられたって訳か」
「ああ、さらにナリタブライアンは集団を嫌う質だ。外へ逃げたが下がろうにもマークがついている」
「そして二番手集団は外に出たナリタブライアンを意識してさらに飛ばす・・・」
「ある種の悪循環が出来上がってしまったな・・・」
「すっごいね~」
「わ!君は・・・?」
二人の結論に思わず感嘆の声を出した私を二人は驚きながら見ていた。
「私来年トレセン学園に入学するから学校の下見しながらレース見に来たの!」
その言葉に二人は笑顔になった。
「あの青いお姉ちゃん早いね~」
あれだけ引き離しているのだ。
きっと強いウマ娘に違いない。
「だが最初が早いだけでは勝てない。それがレースだよ」
「え~ずっと一番って格好いいのに~」
「ならあのお姉ちゃんが勝てるように応援してあげよう」
「うん!」
私の素直な返事に二人は微笑ましいものを見たと顔をいい笑顔をしていた。
「最終コーナーを回ってまだツインターボが先頭だ!後続の娘達は苦しいか!しかしこのウマ娘!怪物三冠ウマ娘ナリタブライアンが大外から一気に捲り上げる!場内はどよめきと歓声に包まれている!」
レースも最終直線に入って大盛り上がりだ。
まるで地響きのような歓声を受けて青い髪の小柄なウマ娘と黒い髪のウマ娘が競り合っている。
青い髪のウマ娘はもう限界なのかもしれない。
走るフォームはメチャクチャで、顔もとても苦しそうだ。
黒い髪のウマ娘の方も苦しそうだがまだ力が残っていそうだ。
「あと少しだぞー!」
「ツインターボ行けー!」
隣にいる二人が大きな声で青い髪のウマ娘、ツインターボに声援を送る。
「がんばれ~!青い髪のお姉ちゃ~ん!」
私も精一杯の大声で彼女を応援する。
一瞬だったが彼女と目があった気がした。
「負けられないんだぁ!!今日だけはぁぁぁぁぁぁ!!」
彼女から渾身の咆哮が放たれた。
「残り200を切っているがナリタブライアン苦しいか!?ツインターボがまだ先頭!懸命に粘る!ナリタブライアン苦しいながらも追い上げる!内ツインターボ!外ナリタブライアン!ツインターボ!ナリタブライアン!まさかまさか!まさかのツインターボ逃げ切ったゴールイィン!これが逃げるという事だ!」
その日、私はあの小さな背中に憧れた。
次回予告
見慣れない顔が居る。
どうやら僕の馬主になってくれる人物らしい。
どんな名前を付けてくれるのかなぁ?
そしてついに始まる競走馬生。
第2シーズン第2話 競走馬生の始まり(馬)