これが逃げるという事だ   作:福泉

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お待たせしました。
細かな調教シーンなどは作者の腕では表現しきれないと思いカットしてあります。
ご了承ください。


第2シーズン第2話 競走馬生の始まり(馬)

春になって暖かい日差しの中の放牧中。

心地よい暖かさにウトウトしていると牧場主さんが見慣れない男性を連れてきた。

「どうやら誰かを買いに来た様ですね」

今年は不受胎だった為に現在一緒に放牧されているイクノ母さんがそう言った。

「へ~、僕の馬主になってくれるのかな?」

「その可能性も十分ありますね」

非常に優れた血統ではなかった僕は所謂セリに出される事はなかった。

まだ馬主が付いていない状況では競争どころではない。

このままだとお肉になっちゃう!

「そうなりたくなければしっかりとアピールをしなさい」

「イエス、マム」

厳しい母の言葉を背に受けて馬主候補の方へと歩いて行った。

 

「お、ちょうどこっちに来ましたね。こいつが例のツインターボの息子ですよ」

「ほほう、こいつが」

どうも初めまして。

「本当にこいつを買われるので?」

なんと!僕を購入希望ですと!?

これは是非ともアピールをせねば!

頑張って父や母みたいに走りますので是非とも馬主になってくだせぇ!

「ははは、元気がいいな!俺はお前の親父に夢をみたのさ。お前もそんな夢を見させてくれる。そんな気がしたから買いに来た」

父が見せた夢・・・。

「ああ、最後の直線で抜き去るのも確かに強いだろう。だが最初から最後まで先頭を譲らねぇ。負けるときは潔く負ける。そんな姿に俺は浪漫を感じたのさ」

浪漫・・・。

その浪漫、僕も追っていいですか?

「おう!誰が呼んだか浪漫男こと室満男!二言はねぇ!」

「ははは、気前がいい事で羨ましいですな」

牧場主さんがそう言って室さんを褒める。

「まあ大見え切ってはいるが方々に声をかけて資金を集めた組合馬主だけどな」

話を聞くとどうやら室さんは高級輸入車ディーラーのオーナーさんらしい。

収入的に個人馬主をやれない事は無いらしいが家族と相談した上で組合馬主にしたらしい。

「まあうちの常連さんでそっち方面に気のある人間に声かけただけなんだがね」

高級輸入車を買いに来る人なので資金的に問題がある人はおらず、分散することでリスクヘッジにもなるからと声をかけた所色よい返事を貰えたそうだ。

「ははは、個人馬主なんていまや数えるほど少なくなってしまいましたよ。高いお金をかけてもレースで勝てるかどうか、馬券を買うよりさらに強烈なギャンブルですからね」

そもそも前提条件がすっごい厳しいしね~。

「さて、こいつの名前を決めないといけませんね。室さんは案がありますか?」

「資金を出してくれたメンバーには名前の候補を出してもらったんだがなぁ。デュアルジェットとかダブルスラストとかそんなのばっかだったな」

言い間違いシリーズの名前は嫌じゃぁ!

「まあどれもピンとこなかったんだがそんな中皆揃って口に出したのがドッカンターボだったな」

「ドッカンターボですか?」

牧場主さんは首を傾げた。

まああまり聞きなれない名前だしね。

「ああ、ドッカンターボってのはターボエンジン車の中でもターボラグが大きい車の愛称というか蔑称というかちょっと微妙な感じの名前でしてね。ターボってのはエンジンとは繋がってはいますがアクセルとは連動してないんですわ。エンジンが高回転になるとドカッとパワーが出る。一気に爆発的に加速するからドッカンターボなんて一部マニアの間で呼ばれてるんですよ」

「なるほど・・・しかしドッカンターボですか・・・」

お世辞にもカッコいい名前とは言い難いね。

「なのでドッカン、つまり衝撃、英語でインパクト、インパクトターボってのはどうですか?」

「インパクトターボ、確かにそちらのが格好いいですね。しかし逆ではだめなのですか?」

ターボインパクト・・・なんか類似商品みたいな名前になりそうな気がする・・・。

あ、でもこっちのが先に生まれてるのか。

「まあ簡単な直訳ですがターボの衝撃、より衝撃的なターボ、の方が速そうじゃないですか」

「まあたしかにそうですね」

こうして僕の名前はインパクトターボに決まりました。

とりあえず第一歩は踏み出せたかな?

 

「どうだー苦しく無いかー?」

あれから暫くして鞍をつける訓練が始まった。

最初は違和感があったがキュッと締められると走り出したい気分になるのは競走馬としての性か。

「よーし、今日は乗馬の訓練もするからなー」

馬具になれた頃を見計らって次は乗りの訓練が始まった。

前世の記憶のお蔭かあまり苦にならず、すぐに人をのせて走るのに慣れた。

 

「怪我に注意を怠らないようにして頑張りなさい。貴方ならそれが出来るはずです」

「分かったよ母さん」

イクノ母さんに見送られて、馬運車に乗り込んでいく。

これから美浦トレーニングセンターへと移されるのだ。

「がんばってこいよー!」

「怪我するなよー!」

牧場主や厩務員達に見送られて僕は旅立った。

 

やってきました 美浦トレーニングセンター。

ここがあの父も所属していた美浦トレーニングセンターか~。

「おう、お前がツインターボの息子だな」

ウッス、インパクトターボです!よろしくお願いします!

どうやら自分の調教師であろう人が近寄ってきた。

「わしの名前は山田だ。室さんとの話はしっかりついとる。お前さんの事はわし等に任せるとの事だ」

まあ素人さんが下手な口出しするよりよっぽどそっちのがいいよね。

「イクノディクタスの息子でもあるからどれぐらいレースに出れるか楽しみだな」

おっとこれはスパルタになりそうな予感・・・。

「まずはレースに出れるようにせんといかんな」

よーしエイ!エイ!ムン!で頑張るぞ!

・・・自分で言っててエイ!エイ!ムン!ってなんぞ?

 

「やあ山田さん、うちのインパクトターボの調子はどうですか?」

調教が始まって少ししてから馬主の室さんが美浦トレセンにやってきた。

「やあ室さん、ちょうどインパクトターボの事で話がしたかったのです」

「何かありましたか?」

訝し気に尋ねる室さん。

「今後のインパクトターボの事なんですがね、逃げ一辺倒になりますがよろしいですか?」

「その様に判断された理由をお伺いしても?」

「ええもちろん、何度か走らせてみて思ったんですがターボは出足の加速は素晴らしいものがあり、速度も悪くなく、スタミナも中々に良いものがあります」

「ふむ、それだけ聞くと良い事のように思えますが?」

確かに悪い評価ではなさそうに聞こえるけど・・・。

「ええ、ですがこいつには圧倒的に末脚がありません。全くない訳ではないのですが伸びが悪いですね」

「つまり差しや追い込み向きではない、と?」

「ええ、先行でも辛いでしょうね。何せ目の前に他の馬が居るとレースに集中できてないようですから」

いやん、バレてたのね。

実際他の馬が前に居ると気になるというか落ち着かないのである。

「そうですか。山田さんがそう判断したのならそれに従いますよ。ああそうだ、あんまり気にするようなら外してやってもいいのですがメンコを着けさせてやってもいいですかね?」

「そうですね。少しは集中力が増す可能性がありますが馬によっては逆効果ですしね」

そういって室さんはメンコを持ってこちらにやってきた。

お久しぶりですオーナー。

「元気そうだな。お前にいい物を持ってきたぞ」

そういって取り出したのは青いメンコだった。

「お前の親父がつけていたメンコと同じ色で作ってきた。気に入ったか?」

鮮やかな青に耳の先だけ白と緑の縞模様のメンコは室さんの手の中で輝いて見えた。

嬉しいです!早く付けて付けて!

「ははは、そうか気に入ったか!」

室さんは嬉しそうに笑って近くにいた厩務員にメンコを着けるようにお願いした。

「おう、良く似合っているぞ」

顔と耳を覆うメンコ。

新品のはずのそれからは何故か懐かしい匂いがした。

 

それから暫くして・・・。

「山田調教師、お久しぶりです」

「おお若井君元気だったかい。そろそろG1は出られそうかね?」

「はい、今30勝ですから次に勝てれば出られますね」

山田調教師が何やら小柄な男性と話している。

会話の内容から察するにまだまだ若手の騎手なのだろう。

「こいつがお前に乗ってもらいたいインパクトターボだ」

「こいつがあのツインターボの息子ですか」

「おう、ついでに言えばイクノディクタスの息子でもあるな」

「あの鋼鉄の女ですか」

拝啓故郷の母上様。

貴女の二つ名なんかパワーアップしてませんか?

「こいつを走らせる時は難しいぞ。必ず先頭を走らせないと急にやる気を失うからな」

「逃げですか。逃げ馬には何度か乗ったことがありますので様子を見ながら、ですね」

ウッス!自分逃げなら自信あるッス!

「とりあえずデビュー戦はこいつの好きに走らせてやれ。後ろとの距離を意識してしっかりとこいつをゴールまで導いてやってくれ」

「分かりました。よろしく頼むぞ、インパクトターボ」

こちらこそよろしくね。

 

やってきましたデビュー戦。

場所は中山競馬場。

ここが親父が逃げ切った競馬場・・・。

そう思うと胸が熱くなる。

「ほら、行くぞ」

厩務員に促されてパドックへと足を運んでいった。

 

「中山競馬場、第六レース2歳新馬戦1800メートル。今年から馬齢の数え方が0歳からスタートに代わりました。今まで3歳が新馬戦でしたが今年からは2歳が新馬戦となります。そんな節目の年にデビューする今日の6頭。1番ボンバーストライク、482キロ、騎手は松永騎手です。2番ゴールドヘッド、455キロ、騎手は小田騎手。3番サラリーシーフ、471キロ、騎手は泥田騎手。4番インパクトターボ、443キロ、騎手は若井騎手。5番ワッタイム、461キロ、騎手は暁騎手、6番シルバーボール、騎手は桂騎手。以上六頭です」

ここがターフ、ここが戦場・・・。

荒ぶるほかの馬たちを余所に一人そんな事を考えていた。

「大丈夫、山田さんが太鼓判を押したお前ならやれる」

騎手の若井さんがそう言って首筋を叩いて宥めてくれる。

大丈夫、ちょっと緊張してるだけだから。

首を振って返事を返す。

誘導員に促され、ついにゲート入りした。

 

SIDE:実況

「収まりました。・・・スタートしました。一頭飛び出しました4番インパクトターボ良いスタートを切りました。どんどんと後続を引き離していきます早くも3馬身。まだ固まったままの後続一頭インパクトターボだけが飛びぬけていますがこれはどうだ早すぎないか?鞍上との折り合いがつかないのか?いや、若井騎手押しています。これはなんと大逃げです。新馬戦でまさかの大逃げとは大胆な作戦に出ました若井武志。二番手集団から大きくリードを取りましてこれは12、3馬身といったところでしょうか?大きなリードをさらにさらに広げていきます。後方は行くべきなのか抑えるべきなのか悩みどころです。折り合いがつかない騎手もいます。さあインパクトターボの大逃げに場内は新馬戦とは思えないほど沸いています。果たしてセーフティリードになるのか。それとも後続が差し切るのか。早くも残り800メートル。インパクトターボまだまだ飛ばしております。すでに20馬身近い差が開いています。後続はついに痺れを切らして上がっていくようですが思うように上がれません。インパクトターボだけが第4コーナーに入ります。後続がやっと上がってきますがこれは完全にセーフティリードだ。直線に入ってインパクトターボ一人旅。ですが失速する気配も緩める気配もありません。鞍上の若井騎手ムチは打っていませんが流す様子もありません。インパクトターボ見事な逃走劇で今ゴール板を駆け抜けましたゴールイン。名前の通り衝撃的なデビューをしましたインパクトターボ。見事な大逃げに会場から歓声が上がっております。今後が楽しみな馬がデビューいたしました。」

 

SIDE:インパクトターボ

決まった!スタートダッシュ成功!

一気に速度を上げて他の馬を引き離す。

「いくぞ!ターボ!」

後ろの若井騎手も走りを手助けしてくれる。

「お前は走りに集中しろ!余計なことは考えるな!」

余計な事は考えない。

後ろも、ペースも無視してひたすら前に進む。

細かなコース取りは若井騎手が指示してくれる。

カーブを曲がるときに重心を移動させて曲がりやすくしてくれる。

前へ、前へ、前へ・・・。

気が付けばあっという間にゴールを超えていた。

・・・あれ?もう終わり?

「すごいなお前は。あれだけ走ったのにまだまだいけそうだな」

若井騎手がそう言って首筋を叩いてくれる。

うん、とりあえず勝てたからよし!

 

「どうだ?インパクトターボの具合は?」

「特に疲れた様子も無くまだまだ走れそうな感じですよ。あれだけの爆走で異常が出る様子もないですし」

実際確かに走った後だから多少疲れてはいるがまだまだ余裕がある。

「ほう、流石はイクノディクタスの息子だな。室さんとの相談次第だが続けてレースに出してみるのもありだな」

「無茶して潰さないようにしないといけませんね」

そもそもガラスの足と言われるくらい華奢なんだよねサラブレッドの足って。

「まあさすがに今日明日走らそうって訳じゃあないんだ。様子見て大丈夫そうならな」

多分すぐに走る事になるんだろうなぁ。

そんな事を思いながら大きく息をはいた。




次回予告

ついに来ました中央トレセン学園。
ここから私のトゥインクルシリーズが始まるんだ!
そして私は運命の出会いを果たす。

第2シーズン第2話 競争人生の始まり(ウマ娘)
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