これが逃げるという事だ   作:福泉

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第2シーズン第4話お待たせしました。
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第2シーズン第4話 GⅠ初挑戦(馬)

あの激走GⅢレースの後、北海道にいる事だし流石に走らせすぎたと反省したオーナー達に実家への放牧をご褒美に貰った。

故郷よ!私は帰ってきた!

「おかえりターボ。お前のレース見てたぞ」

牧場主さんに出迎えて貰って僕は放牧場へと移動する。

ふぅ・・・久しぶりにのんびりできるしお休みを満喫するぞー!

少し走った後心地の良い風の吹いている場所でゆっくり昼寝する事にした。

 

そして2週間後・・・

「レース・・・レースをクレメンス・・・」

レースが無いという解放感を満喫できたのはたった1週間ほどであり、レースが無いという状況に落ち着かない日々を過ごすようになって早3日。

段々と禁断症状の様になってきた僕を母がさもありなんといった表情で見ていた。

「やはり私の息子なだけありますねターボ。見事なレースホリックです」

母上殿、それは誇って良い事なのですか?

とりあえず調教師さんの方針で少し体重を増やすらしいのでレースが暫く無いのは確定だ。

この退屈というか虚無感を如何にして消化するのかが今の僕の課題なのであった。

 

そして次の日・・・

暇を持て余した僕は厩務員さんに悪戯をする事にした。

とはいっても脱走したりなど酷い事はしない。

それは放牧場のボロ(糞)を片付けている厩務員さんにゆっくりと気が付かれない様に近寄って行って驚かそうというだるまさんがころんだみたいなものだ。

「ふぅ」

おっと、厩務員さんがこっちを見ているな。

少し息をついているだけだがこちらを見ているので興味がなさそうなフリをする。

また作業を再開したのでゆっくりと気が付かれない様に近寄っていく。

「ん?」

気配を感じたのか厩務員さんが顔を上げたが僕は地面の草をかじるフリをして誤魔化す。

さっきより近くにいる事に特に思う事は無かったみたいですぐに作業を再開した。

チャ~ンス!

上手く死角に回り込むと厩務員さんのジャケットを噛んで引っ張った。

「おわっ!なんだターボ!この悪戯っ子め!」

邪魔されたが遊んで欲しいのだと理解した厩務員さんが顔をワシャワシャ撫でてくれる。

「悪いけどもうちょっと待ってな~」

その後に厩務員さんが作業終了後に遊んでくれた。

 

それから暫くして・・・

「よーし十分でかくなって帰ってきたな」

山田調教師久しぶり~。

牧場では調教師の指示でいつもより多めにご飯が出されていた。

牡馬としてはちょっと小柄な僕はよりスタミナをつける為にちょっと太る事になったのだ。

「これから絞って筋肉に変えるからな~」

ウィ~ッス。

こうして新たな調教を経てさらなるパワーアップを図るのであった。

 

「連戦続きだったインパクトターボ。少しの間見かけませんでしたが一回り大きな馬体になって帰ってきました。不調説も囁かれていましたがどうやら体を作ってきた模様です」

調教の仕上げとして参加したオープン戦。

距離は2000メートルだからきっと皐月賞を意識してのレースなんだろう。

覇気のある馬も強そうな馬も見当たらず、いつも通りの走りで逃げ切った。

「ちょっと見ないうちにさらに強くなったなターボ」

若井騎手にそう言って褒めてもらえた。

 

そして年が変わって3歳になりました。

う~んそろそろ一人称を俺にした方が恰好がいいかな?

新年にそんな風に気持ちを新たに今日もレースを走りました。

2月は皐月賞トライアルの弥生賞に向けての調整の為にレースは走らないらしい。

そして弥生賞を経て皐月賞を走る予定だと山田調教師に伝えられた。

ここまでコンスタンスにレースに出る馬も非常に珍しいのではないのかしらん?

あ、イクノ母さんは別です。

とにかく3月の弥生賞が待ち遠しいなぁ。

 

そして3月、弥生賞を迎えた。

「スタートしました!やはり1頭今日も全力疾走のインパクトターボが先頭を走ります。以前より大きくなった馬体がスピードをさらに上げてますます大逃げに磨きがかかりました!2番手集団は激しいポジション争いをしながらインパクトターボを追いかけようという所!インパクトターボだけが1頭離れていますが他は固まったままレースは進んでいきます!果たしてこの暴走特急を止める事ができるものは居るのでしょうか!鋼鉄の逃亡者!今日も逃げ切り濃厚か!後続が追い上げてくる!流石に逃がすわけにはいかないと後続が伸びてくる!しかしインパクトターボの走りは緩みません!一体どんなスタミナをしているんだこの馬は!第4コーナーを回って直線!インパクトターボまだ逃げる!追う2番手集団先頭はバランスオブゲーム!その後ろローマンエンパイアは伸びないか!バランスオブゲーム懸命に追い上げるがこれは間に合いません!インパクトターボやはり逃げ切ったゴールイン!インパクトターボ!なんと9戦無敗で皐月賞への出走権を手に入れました!」

ふぅ、流石GⅡレース!

出場する馬達も実力馬揃いだった。

やっぱりだいぶ対抗策を練られて来るようになったなぁ。

まだ何とか逃げ切れているけど皐月賞は世代の頂点が集うレース。

一筋縄ではいかないだろうな。

 

レースを終えて1週間後・・・

「それでは山田調教師、やっぱりインパクトターボは皐月賞も大逃げを?」

「まあそのつもり、と言いますかこいつは集団で走るには向いてない性格ですから勝とうと思ったら自然とそうなりますね。大逃げできるかどうかは他の馬次第でしょうな」

記者のインタビューを受ける山田調教師。

「それでインパクトターボの調子はどうですか?」

「先の弥生賞を見てもらった通りタイムは問題なく、今も調教の調子は順調で皐月賞には最高の仕上がりをお見せできると太鼓判を押せますね」

「お忙しいのにありがとうございました」

他にもインタビューに行かなければならないであろう記者は手早く慣れた様子で取材を終えるとササッと立ち去った。

恐らくオグリキャップ事件以降記者側もこれ以上排除されないように注意しているのだろう。

「お前ならきっと勝てる。おべっかなんかじゃないぞ」

山田調教師がそう言って首筋を撫でてくれた。

 

そして皐月賞本番がやってきた。

 

「さあ今年もやってまいりましたクラシック三冠の第1戦目であります皐月賞。最も早い馬が勝つと言われるこのレース。晴天に恵まれた中山競馬場。馬場は良馬場です。世代最速を決めるこのレースを見ようと多くの観客が押し寄せております。特に今日は注目馬が沢山いますね解説の鈴木さん」

「そうですね。1番人気から3番人気まで殆ど差がない状況ですからこれは白熱したレースになるでしょう。特に1番人気になったインパクトターボは近年では珍しい大逃げ馬ですから盛り上がらないはずがないですね」

「さあパドックを見てみましょう。1枠1番を見事に引き当てました1番人気インパクトターボ。体重は449キロとさらに1キロの増加であります。鞍上はこれがGⅠ初挑戦の若井騎手であります。乗り換えも噂されておりましたがどうやら相性を考えてそのままの様です」

「いや~この馬は本当に珍しい馬ですよね。あれだけ多くのレースを走っているのにガレた様子も無く寧ろ大きくなって次のレースに来るんですから一体どんな調教をすればあんな風になれるのか分かりませんね」

「そうですね。9戦9勝と現在無敗のインパクトターボ。他の馬がまだ4、5戦しか走ってない事を考えると倍のペースですからね。母イクノディクタスも現役時代61戦ものレースを戦い抜いた鋼鉄の女。その鋼鉄っぷりが見事に受け継がれたと言っても良いでしょう」

「ああイクノディクタスですか。あの馬も頑丈な馬でしたね」

「今日も大逃げ我が道を行く!そんな走りを期待しましょう1枠1番インパクトターボでした」

どうやら俺が1番人気らしい。

実況の声を聴きながらグルグルと回る。

「続きまして1枠2番は3番人気サムシングブルー紅一点。牝馬による皐月賞挑戦です」

アイエェ!サムシングブルーナンデ!

思わず後ろをグリッと振り返るとそこには嬉しそうなサムシングブルーちゃんが居た。

「お、お久しぶりです」

「オヒサシブリデス」

思わず片言になった俺を許してほしい。

「あ、あの、調教師さんがお前はマイルより長い距離の方が得意だからこっちを走れって」

なるほどそれは仕方がないですね。

「サムシングブルーですか。この馬はあのライスシャワーに1番良く似た馬だと言われていますね。調教師曰くマイルでは短すぎて本領が発揮できないから牝馬三冠よりクラシック三冠の方が勝てる可能性が高いとの事ですね」

「流石は漆黒のステイヤーライスシャワー産駒期待の1頭。牝馬によるクラシック三冠なるか期待されますね」

実況のそんな評価が聞こえてくる。

「き、今日は貴方に勝って見せます」

「この前みたいに逃げ切って見せるさ」

少しだけ年齢を重ねた事による精神的成長を得たのか最初こそ動揺したものの何とか落ち着きを取り戻してサムシングブルーちゃんと話す事ができた。

そんな風にお互いの事を話し合っている時だった。

「ケッ!チョーシこいてんなテメー!」

何ともガラの悪い声が聞こえてきた。

「6枠11番タニノギムレット、2番人気です」

この馬がどうやら現状人気を3分割している内の1頭らしい。

「君がタニノギムレット?」

「サマをつけやがれこのマスク野郎!いいか!無敗だかなんだか知らねーがそれはテメーが弱いやつらばかりと戦ってきたからだ!このタニノギムレット様が居る限り!テメーの優勝はありえねぇ!」

物凄い目付きの悪さで睨みつけてくるタニノギムレット。

「それはどうかな?周りの皆は俺が勝つって思ってるみたいだけど?」

「ケッ!シロートの目利きなんざ当てになるもんかよ!俺様が一番ツエーって事を見せつけてやらぁ!精々盛り上げ役でも頑張るんだなマスク野郎!」

それだけ言うとタニノギムレットはどこかへ行ってしまった。

「あ、あの人嫌いです」

「まあ・・・進んで仲良くしたくはないかな」

完璧に無視される形になってしまったサムシングブルーちゃんは不快感を隠そうともせずにし、俺も仲良くしたいとは思わなかった。

「さ、もうすぐ本番だよ。お互い全力を尽くそう」

「は、はい!今日は逃しませんから!」

う~んそれはちょっとご遠慮したいです。

 

「大丈夫・・・やれるぞ武志。GⅠもGⅡも大きな違いは無い・・・。いつも通りやれば勝てる・・・」

ガッチガチに緊張している若井騎手が鞍上でブツブツと呟く。

割と肝っ玉の強い若井騎手だがGⅠ初挑戦は流石に緊張するようだ。

大丈夫?と若井騎手を見つめる。

「すまんすまん、俺が緊張してたらお前まで緊張しちゃうな。やる事は変わらないんだ。お前を信じて走るだけだな」

馬に心配された事で緊張が弛んだのかいつもの笑顔に戻る若井騎手。

「そうだ、やる事は変わらない。お前はいつも通り走れ。後は俺がやる」

良い表情に戻った若井騎手に嘶いて答えた。

 

「さあゲートの準備が整いましてスターターが旗を振ります。そしてファンファーレ。中山競馬場に大きな歓声が響き渡ります。最も速い馬が勝つこの皐月賞。注目はやはり1枠1番暴走特急インパクトターボと漆黒の女ハンター、サムシングブルーの駆け引き。そして直線番長ことタニノギムレットの強烈な末脚でしょう。今ゆっくりと各馬ゲートインしてゆきます。最後の1頭が収まりました。・・・・スタートしました!今日も好スタートで飛び出したのはやはり大逃げインパクトターボ!それを追いますサムシングブルーのマッチレースと行ったところ・・・いや!もう1頭追っています!これはなんとタニノギムレットです!末脚勝負の直線番長タニノギムレットがなんと今日は3番手を走っております!」

なんだと!サムシングブルーちゃんが付いてくるのは予想内だったけどタニノギムレットまで追いかけてくるのは予想外だった。

「待てやゴォラァァァア!」

元々が追い込み向きなのだろうが懸命にこちらを追いかけてくる。

流石に加速力がある方ではない為か今は引き離せているがこれは終盤どうなるか分からないぞ!

「後ろは気にするな!走れターボ!」

若井騎手の言葉にハッとして足に力を込めなおして走り続けた。

「さあまだまだ逃げ続けています白い帽子1番インパクトターボ!その後ろに3馬身ほど離れて紅一点牝馬の2番サムシングブルー!少し間が空きまして今日は珍しい11番タニノギムレットが後ろを引っ張る形で走っております3番手!尋常ではない速度で駆け抜けて行きます今年の皐月賞!果たして勝利するのは暴走特急インパクトターボか!女ハンターサムシングブルーか!それとも末脚爆発タニノギムレットか!はたまた他の馬なのか!今1000メートルを通過!タイムは58秒と非常に速いペース!」

俺は懸命に飛ばし続ける。

「ついてく・・・!ついてく・・・!」

しかしサムシングブルーちゃんは3馬身以上引き離されないように走り続けているようだ。

後ろを見ずとも声がその場所を教えてくれる。

「ッザッケンなよゴォラァ!」

だいぶ遠くではあるがタニノギムレットの怒声も聞こえてくる。

「いいぞターボ!お前のペースだ!」

若井騎手が走りをサポートしながら教えてくれる。

大丈夫!勝てる!

「さあインパクトターボ早くも第4コーナー!サムシングブルーがじりじりと上がってきた!タニノギムレットはここまでハイペースだったが大丈夫か!?他の馬を引き連れたまま上がっていきます!残り300メートルと短い直線と強烈な坂!インパクトターボにサムシングブルーが並びかける!タニノギムレットも上がってきた!」

ぐぅ!もう少しなのに!

「今日は!勝ちます!」

「勝つのはタニノギムレット様だぁ!」

直線に入った所でサムシングブルーちゃんに完全に隣に並ばれ、その少し後ろにタニノギムレットが迫ってきた。

ちくしょう!ここまで来たのに!

懸命に走るがこれ以上速度を出せそうにない。

その時だった。

目の前に見える小さな体・・・。

誰だ!?他に走っている馬なんて・・・!?

あの走りには見覚えがあった。

決して強そうにない、ボロボロの走り。

しかし決して諦めず隣を走る最強馬に先頭を譲らなかったあの背中。

あの背中に憧れた。

いや、あんな走りをしたいと思った。

いいや!あの背中を超えたいんだ!

その時、完全に燃え尽きたと思った体に再び火が灯った!

「完全に追い付かれたと思ったはずのインパクトターボがまた伸びる!きつい坂を駆け上がり!その差を僅かにだが広げていく!」

「嘘!?」

「なんだとぉ!?」

うわあああああああああああ!

体の底からの叫びと共にゴール板を走り抜けた。

「やりましたインパクトターボゴールイン!二代目逃亡屋襲名披露の檜舞台!それに選ばれたのはこの皐月賞でした!見事に逃げ切りましたインパクトターボ!一度は追い付かれたかと思いましたが!渾身の走りで見事に先頭を守り抜きました!鞍上の若井騎手が何度も何度もガッツポーズをしております!GⅠ初勝利!無敗の皐月賞馬です!」

ああ・・・やったよ・・・父さん・・・。

あの一瞬だけ見えた幻。

それは生きて顔を見る事すら出来なかった父さんからの応援だったのかもしれない。

「また・・・逃げられちゃいましたね」

「いや・・・強かったよサムシングブルーちゃん」

流石に疲れてウィニングランというよりウィニングウォークといった方が良いほどゆっくりと歩く俺にサムシングブルーちゃんが近寄ってきた。

「やっぱり強いです。優勝おめでとうございます。でも次は逃がしません」

「ありがとう。次も逃げ切って見せるさ」

そう言って笑いあっている時だった。

「チックショォ!何やってんだギムレットォ!こんなんが俺様の走りだとぉ!」

怒声を上げるタニノギムレット。

しかしそれは自分に向けての声だった。

「ふざけるな!俺様はこんなんじゃ終わらねぇ!絶対!絶対にだ!」

咆哮を上げるタニノギムレットを周りの馬達も驚いて見ている。

「やいテメェ!インパクトターボつったな!そのツラ!覚えたからな!次は覚悟しやがれ!絶対に俺様が負かしてやるからな!せいぜい怯えていやがれ!」

一方的に捲し立てるとタニノギムレットは去っていった。

やれやれ・・・厄介なのに目をつけられたなぁ。

でも、今日は俺の勝ちだ!

 

インパクトターボ 牡3歳 10戦10勝 主な勝鞍 GⅠ皐月賞 GⅡ弥生賞




前回忘れた次回予告

第1回選抜レースを終えて騒がしくなる中央トレセン学園。
トレーナーの思いとウマ娘たちの思いが交錯するスカウト。
はたして私たちはどんなトレーナーと出会うのだろうか。

次回第2シーズン第4話 スカウト初挑戦(ウマ娘)
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