追記:ようやく時間が取れましたので修正しました。
「ほいお待たせ!こぼさない様に気を付けて食べてくれよな」
「は~いありがとうございます」
調理の順番で一番最後になったマチカネタンホイザがクレープを受け取ると料金を店主に手渡した。
「それじゃあ行きましょうか」
「モグモグ、おいしーよーマチタン」
「ターボさん、クリームが鼻の頭についてますよ」
待ちきれないと一足先に食べ始めたツインターボがどうやったのか鼻の頭にクリームをつけている。
「ああもうターボったら仕方ないわね。イクノ、悪いけどちょっと私の持ってて」
ナイスネイチャが自分のクレープをイクノディクタスに渡すとティッシュを取り出してターボの顔を拭いてあげた。
「ありがとねナイスネーチャン」
「誰がネーチャンか」
ペシっと軽くターボの頭をナイスネイチャが叩く。
そんな様子を笑いながら見ていたイクノディクタスがマチカネタンホイザが少し奇妙な表情をしている事に気が付いた。
「タンホイザさん、どうされたのですか?」
「え?ううん!何でもないよ」
一口食べた自分のクレープを首をかしげながら見つめていたマチカネタンホイザだったが何でもないと首を振って改めてクレープを食べ始めた。
その様子が少し気になったイクノディクタスだったがナイスネイチャにクレープを返してほしいと言われてすぐにその事を忘れてしまった。
四人はそのまま商店街をブラブラと散策し、ウマ娘御用達のアミューズメントパーク・・・というド直球なネーミングのカラオケ店兼ゲームセンターに入っていった。
「「「「君の愛バが♪」」」」
やはりこれを歌わないと中央トレセン学園のウマ娘でないだろうとばかりにうまぴょい伝説は良く歌われている。
なのでこのカラオケ店では大体履歴にうまぴょい伝説が入っているため景気付けで歌われる事が多い。
皆歌えるし嫌いなウマ娘はまず居ないのでトップバッターは誰かでもめるより皆で合唱して盛り上がってそのまま続けていった方が乗りやすい等の理由もある。
そのままハナは譲らないとツインターボが曲を入れていたのでツインターボ、マチカネタンホイザ、ナイスネイチャ、イクノディクタスと一周した時だった。
「ねえマチタン、大丈夫?」
お手洗いに行こうと立ち上がったツインターボが少し様子のおかしいマチカネタンホイザに気が付いた。
「ほんとだ!タンホイザ大丈夫なの!?」
ナイスネイチャも異変に気が付いて慌てて駆け寄った。
「顔が真っ青です!それに震えています!」
イクノディクタスがマチカネタンホイザの体の様子をうかがいながら内線用の電話を取った。
「はい、ご注文は~」
「すみません救急車を一台お願いします!」
「へ!?あ、はい!」
慌てた様子で内線が切られるとすぐに店員がやってきた。
「今救急車を呼びました。それとこちらを使ってください」
店員が差し出した毛布をイクノディクタスは受け取るとマチカネタンホイザにそっとかけた。
「イクノはタンホイザについててあげて!私はトレーナーに電話をかけてくるから!」
「ターボは!」
「えっと・・・お会計お願い!」
「分かった!」
スマホを手にお店の外へと出ていくナイスネイチャに店員にお会計を頼んでいるツインターボ、そしてマチカネタンホイザが少しでも楽なようにしようと服を緩めたり姿勢をゆっくりと変えさせたりするイクノディクタス。
三人はそれぞれ慌ただしく動いていた。
ウマ娘に対応できる病院は限られている。
まだまだ未解明の部分が多いウマ娘に医療技術が追い付いていないのだ。
骨折などの外科医であれば普通の人間と大きな違いが少ない為、辛うじて普通の医者でも対応ができるが内科医となるとその数は非常に限られている。
さすがに中央トレセン学園のおひざ元である為にそれほど遠くない場所にウマ娘担当医が所属している総合病院があるがそこで担当医は頭を悩ませていた。
「喉を中心に蕁麻疹が出ていますから恐らく食物アレルギーの一種だとは思うのですがマチカネタンホイザさんにアレルギーはありますか?」
「いえ、少なくとも日常口にする食べ物にアレルギーがある事はありません。トレセン学園でもアレルギー検査を入学時に実施しておりますのでまず漏れは無いかと・・・」
全寮制である中央トレセン学園ではウマ娘第一を掲げる理事長が本人も無自覚なアレルギーがあってそれが原因で体調を崩す事などあってはならないと入学時にアレルギーテストを念入りに行っている。
一般的な食物アレルギーから花粉症やハウスダストまで調べた後、治療可能な物や治療した方が良い物には専門医と相談しながら対応している。
幼い頃の苦い経験から体調管理に関して強い思いのあるイクノディクタスは学園側の実態もしっかりと把握していた。
体調不良の原因が分からない。
これがこの二人を悩ませる。
「す、すみません!タンホイザさんの容体は!」
「トレーナー!」
診察室に飛び込んできたトレーナーにイクノディクタスが駆け寄った。
「現在は抗アレルギー反応薬を投与して様子を見ている状況です。食物アレルギーの一種だとは思うのですが原因が特定できない事には・・・」
医者がそう告げるとトレーナーは力なく椅子に座り込んだ。
「ああ、なんて事だ。折角の有馬記念が・・・」
「今ネイチャさんとターボさんがタンホイザさんの病室に居ます。二人もかなり動揺していますからそちらにも・・・」
「すみませんイクノさん、トレーナーで大人の私がしっかりしないといけないのに」
「いいえ・・・私も来ていただいて助かりました・・・」
気丈に見えるイクノディクタスだがやはり年頃の女性には辛い状況だったらしくトレーナーが来て明らかにホッとしている。
「一度病室に行きましょう」
医者はそう言って立ち上がった。
「あ、トレーナー」
「ネイチャさん、大丈夫ですか?」
「あたしはなんとか・・・でもターボが・・・」
「う゛~ドレ゛~ナ゛~」
先ほどまで泣いていたのであろう目を腫らしたツインターボがトレーナーに抱き着いた。
「タンホイザさんの容体は?」
「ひとまず小康状態といったところです。原因が特定できない以上対処療法しか方法がありません」
アレルギー反応と一括りにしてもその治療法はアレルギー事に大きく異なる。
特に食物アレルギーの場合原因物質が特定できないと一時的に症状を緩和させる薬を投与するしかなく、治療が難しい。
「さらにひどい蕁麻疹が喉を中心に発症しています。この治療は簡単には終わりません」
蕁麻疹は治療が難しい症状の一つだ。
あっさり治る事もあれば半年以上も症状が治まらない事さえある。
「じゃあマチタンの有馬記念は!」
「無茶です!最悪走っている最中に呼吸困難で死ぬ事だってありえるのですよ!」
食物アレルギーは軽く見られがちな症例であるが実は最悪の場合命に係わる非常に厳しいものだ。
食べて直ぐに症状が現れる即効型、食べてしばらくしてから症状が現れる遅延型。
この二種類の食物アレルギーはどちらも命に係わる可能性があるのだが、他人が共感し辛い症状という事もあってどうしても軽視されてしまう。
命を繋ぐことを第一に置く医者として到底許可出きる事ではなかった。
「仮に症状が治まったとしてもそれが治療が済んだのか単に潜んだだけなのかは我々医師でも判断が難しいのです。ましてその後に激しい運動をして大丈夫という太鼓判を押せるのはかなり先の話になります。せめて原因が特定できれば少しでも早く判断出来るのですが・・・」
医者も真剣に悩んでいるからこそ悔しそうな表情で眠っているマチカネタンホイザを見つめる。
「・・・クレープ・・・」
「え?」
「いえ、先ほどクレープを食べている時にタンホイザさんの様子が少しおかしかった気がしたのですが・・・」
トレーナーが来たことで落ち着いたのか、イクノディクタスがふと先ほどの事を思い出した。
「でもクレープはあたしたちも食べたし普段だって全く食べた事の無いものじゃないわよ?」
「それに入ってた食材も特に変なものは無かったよ?」
「ええ、ですがどうしてもそれが気になってしまって・・・」
三人の言葉を聞いたトレーナーはずっと握りしめていた拳をほどくと真剣な表情で三人に尋ねた。
「そのクレープ屋さんはどこに?」
「商店街の広場です。お店ではなくキッチンカーですのでまだそこに居るのなら、ですが・・・」
「分かりました。皆さんはタンホイザさんについていてあげてください。私はそのキッチンカーにあたってみたいと思います」
「あ!トレーナー!」
「廊下は走らないでください!」
医者の忠告も聞こえないままにトレーナーは走り出した。
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