トレーナーは商店街へと車を走らせた。
焦る気持ちがついつい速度を上げてしまうがここで自分が事故など起こせばそれこそナイスネイチャの有馬記念にすら影響を及ぼす。
必死に気持ちを抑えながらトレーナーは慎重に運転をする。
運がいい事に信号に恵まれて直ぐに商店街へと到着することができた。
近くのコインパーキングへと車を止めたトレーナーは広場へと急いだ。
買い物客や遊びに来ている学生などで賑わう商店街をかき分けて広場へと到着するとそこにはクレープ屋と思わしきキッチンカーがあった。
「ちょっと店長さん!これは無いんじゃない!?」
キッチンカーの前ではダイワスカーレットが怒りをあらわにしていた。
「全く!いくら副業だからって衛生管理を疎かにしていいわけないじゃない!」
「まったくその通りで!本当に申し訳ない!」
怒鳴るダイワスカーレットに平謝りする店主。
「ダイワスカーレットさん、何があったのですか?」
「ああ、カノープスのトレーナーさん!このクレープ見てください!」
そういってダイワスカーレットが差し出したクレープの上には小さい蜘蛛が「オッス!オラ蜘蛛!」という感じでクリームに乗っていた。
「どうやら気が付かないうちに天井と棚の僅かな隙間に蜘蛛が卵を産み付けてたみたいでして・・・」
「たまにしか使わないならそういう時は丁寧に隅から隅までチェックしなさい!」
「おっしゃるとおりです・・・」
強面店主はすっかりうなだれてしまっていた。
「蜘蛛・・・!それです!」
「へ?」
トレーナーは店主に実情を話した。
「実はタンホイザさんがここのクレープを食べたあと蕁麻疹が出てしまいまして・・・」
「そんな!それじゃあタンホイザの有馬記念は!」
「残念ながら辞退するしかないでしょう・・・」
店主はトレーナーの言葉に真っ青になった。
「ほんっとうに申し訳ない!」
キッチンカーから飛び出てきた店主はその場で土下座した。
「私に謝ってもらっても仕方がありません」
「そ、そうだよな!お嬢ちゃんに直接謝らないといけないよな!」
「とにかく私は病院に戻ります」
「俺も店を閉めてすぐに向かいます!」
トレーナーは病院の名前と病室番号のメモを店主に渡すと駐車場へと向かおうとする。
「あの!私たちチームスピカでお手伝いできる事があったらいつでも言ってくださいね!近いうちにお見舞いに行きます!」
「ありがとうございます!」
ダイワスカーレットの言葉に手を振ってお礼を言うとトレーナーは走り出した。
「戻られましたか。マチカネタンホイザさんは先ほど目を覚ましましたよ。まだ起き上がれるほど回復はしていませんが」
「原因が分かりました。タンホイザさんは蜘蛛を誤って食べてしまったようです」
「蜘蛛ですか・・・それは何とも不運な。ありがとうございます。これで少しでも早く治療する事ができます」
医者がそう頭を下げるとカルテに原因:蜘蛛の誤食と書き込んだ。
「有馬記念の事は残念ですが我々も最善を尽くします。貴方はできるだけ彼女を支えてあげてくださいね」
「はい!それはもちろん!」
トレーナーは力強く頷いた。
「あ・・・トレーナーさん・・・」
病室に向かうと目を覚ましたマチカネタンホイザが喋りづらそうにトレーナーを呼ぶ。
「無理なさらないでください。それと、原因ですがイクノさんの読み通りクレープに原因がありました」
「そうですか・・・やはりあの時・・・」
もっともその時すでに食べてしまった後だったので何かできた訳ではないのだがそれでもイクノディクタスは責任を感じずにはいられなかった。
「貴方の責任ではありませんよイクノさん」
トレーナーはそう言ってイクノディクタスを慰める。
「・・・いだ・・・」
「ターボ?」
「ターボのせいなんだぁ!!ターボがぁ!!ターボがクレープ食べようなんていったからぁ!!うわぁぁー!!!」
「落ち着いてくださいターボさん!貴方の責任では!」
泣き出してしまったツインターボをトレーナーが必死に宥める。
「ターボのせいなんだぁ!!!マチタンの有馬記念を台無しにしちゃったぁー!!」
しかし自責の念に囚われてしまったツインターボは泣き止まない。
「ターボちゃん・・・だいじょうぶ・・・だよ・・・」
「マ゛ヂダン゛~!!!ゴベンネ゛ェ~!」
ツインターボはマチカネタンホイザに縋り付いて泣き始めた。
「そう!お嬢ちゃんには何の責任もねぇ!」
「クレープ屋のおじさん」
そこにはクレープ屋の店主が何やら木の板とタオルに包まれた何かを持って立っていた。
「お嬢ちゃん、この度は俺のせいで大変な目に合わせてしまって申し訳ねぇ!さらに大事な試合までフイにしちまった!男、五十嵐龍二!ケジメをつけにきやした!」
すると店主は木の板を床に置き、タオルに包まれていた包丁を握りしめると自身の左手の指を切り落とそうとした。
「ちょっと!何してるんですか!」
「放してくだせぇ!ケジメをつけさせてくだせぇ!」
トレーナーが慌てて店主の腕をつかんで止める。
イクノディクタスとナイスネイチャはどうしたらいいのか分からずただオロオロとし、何が起こったか分からないツインターボとマチカネタンホイザは困惑した表情でその状況を見つめていた。
最終的に通りがかった看護師が「病院でけが人を増やすな!」の声と共に店主を気絶させた。
「大変面目ねぇ・・・」
話を聞くとこの店主、10年以上前に暴力団を辞めたのだという。
現在はその時から世話になっている土木事務所で働きながらクレープ屋もやっているとの事だ。
「色々苦労させてきた妻には迷惑かけれねぇ、何とか責任を取らなきゃいけねぇと思ったら頭の中が真っ白になっちまって・・・つい昔の癖が・・・」
「そんな事をしたら余計に奥さんに迷惑かかるでしょ」
ナイスネイチャは呆れた様子で店主を叱る。
「それでタンホイザさん、どうしますか?」
「私は・・・気にしてません・・・不幸な・・・事故・・・ですから」
「せめて入院費用などは負担させてくだせぇ。それぐらいしないと妻に合わせる顔がねぇ」
その後トレーナーと店主、医者の三人で話し合い、費用負担などを決めていった。
いつまでも病院に居るわけにもいかないのでトレーナーは三人を車に乗せて学生寮へと送り届けた。
「私は明日、タンホイザさんに荷物を届けてから来ますのでそれまで自主練をお願いします」
「分かりました」
「ネイチャさん、気持ちは分かりますが貴方は自分のレースに集中してくださいね」
「そうね。タンホイザの分も頑張らなきゃ」
「ターボさん、何度も言いますが貴方の責任ではありません。あまり気に病まないでくださいね」
「うん・・・」
三人はそれぞれの寮へと戻っていった。
「そうなんだ・・・タンホイザさん出られないんだ・・・」
「うん・・・」
寮の食堂でライスシャワーとツインターボが話をしていた。
「ライスも、タンホイザさんの分までがんばるね」
「ありがとうねライス。きっとマチタンも喜ぶよ」
いつもの元気がないツインターボにライスシャワーもどう励ましていいか分からない。
そんな時だった。
「皆さん!今日もバクシンしてますかぁ!?私はしています!」
「あ、バクシンオーさん」
果たして彼女に悩みはあるのだろうか。
日々之爆進のサクラバクシンオーが二人の所へやってきた。
「やや!?ツインターボさん元気がバクシンしていない様子ですがどうかしましたか!?まさか今日のご飯に大嫌いなピーマンが出たとかですか!?」
「いや・・・そう言う訳じゃないんだけど・・・」
「では私に相談してみてください!これでも学ッ級ッ委員長!ですから!」
ちなみに中央トレセン学園に学級委員長という身分は無い。
「実は・・・」
ツインターボはサクラバクシンオーに事情を説明した。
「なるほど!それなら私に名案があります!」
「大丈夫かなぁ・・・」
不安なライスシャワーだったが一応サクラバクシンオー的には励ましているのだろうと口を挟まなかった。
「ツインターボさん!ズバリ!バクシンあるのみです!」
「・・・やっぱり・・・」
不安が的中したとライスシャワーは困った表情でツインターボの方を向く。
「ターボさん?」
しかしそこには珍しくとても真剣な表情で悩んでいるツインターボが居た。
「そっか・・・そうだよね」
ツインターボはガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
「ターボ!有馬記念に出る!マチタンの分まで・・・ううん!マチタンと一緒に走る!」
「おお!それでこそバクシンです!」
「ターボさん・・・でも有マ記念の締め切りは・・・」
「リジチョーにジカダンパンしてくる!」
そう言ってツインターボは走り出した。
「ちょっとツインターボさん!もうすぐ寮の門限ですよ!」
「たづなさん!リジチョーはどこ!?」
校門前で門限破りの見張りをしていたたづなさんにツインターボは尋ねる。
「理事長ならまだ理事長室に・・・」
「ありがとう!」
「ああ、こら待ちなさーい!」
走り出したツインターボをたづなさんが追いかけていく。
二人はあっという間に走り去ってしまった。
「リジチョー!」
「もう!廊下は走ってはいけませんし理事長室にはノックをしてからにして下さい!」
「ターボさんにたづなさん!?」
ツインターボが理事長室の扉を勢いよく開けて中に入るとそこにはカノープスのトレーナーも居た。
「あれ?トレーナーなんでいるの?」
「私はタンホイザさんの事を報告しに来たのですよ。ターボさんは?」
「そうだった!リジチョー!頼みがあるの!」
「拝聴!聞こうではないか!」
いつもの通り扇子を広げて理事長がツインターボに話を促した。
「ターボを有馬記念に出場させて!マチタンと一緒に走るんだ!」
「いやいやターボさん何をおっしゃってるのか分かっているのですか!タンホイザさんは走れない・・・」
「静粛!まだ続きがあるようだ!」
「マチタンが走れないのは分かってる!だからターボがマチタンの思いと一緒に走るの!マチタンの衣装で!ターボ絶対に勝つから!」
真剣な表情をするツインターボに理事長は笑みを浮かべる。
「許可!URAの方には私から話を通しておこう!」
「ありがとうリジチョー!」
「ですが理事長、ツインターボさんとマチカネタンホイザさんの衣装ではサイズが合いませんよ?」
たづなさんの意見ももっともである。
ウマ娘の中でもかなり小柄なツインターボとマチカネタンホイザでは衣装のサイズはどうがんばっても合わない。
ましてウマ娘のレース用衣装は特殊な造りでフィッティングを含めれば数か月はかかる代物だ。
「えっとえっと全部じゃなくてもいいから!」
「タンホイザさんの帽子ぐらいならいけるのではないでしょうか?」
「トレーナー!」
ツインターボはトレーナーの方を向く。
そこにはいつもの柔らかい笑顔をするトレーナーが居た。
「ですがターボさん、分かっているとは思いますが有馬記念はそう簡単に勝てるレースではありません。特に今年は怪物と呼ばれた三冠馬、ナリタブライアンさんが出場しています」
トレーナーは表情を引き締め、厳しい口調でツインターボを諭すように言う。
「分かってる!それでもターボが勝つんだ!どんなきついトレーニングだってするから!」
「・・・分かりました。」
ツインターボの真剣な表情にトレーナーは頷いた。
「たづなさん、お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「明日、ターボさんの為にやりたい事が出来てしまったので私の代わりにタンホイザさんへ着替えなどの荷物を届けていただけないでしょうか?」
「理事長、よろしいですか?」
「許可!私も手伝える事があれば何でも相談してほしい!」
「ありがとうございます!」
トレーナーは二人に深々と頭を下げた。
皆さんの感想とお気に入りが創作意欲に繋がってます。大変ありがとうございます。
まだ構想段階ではありますが有馬記念勝利馬となった馬のツインターボ世界の話で架空馬からウマ娘化という話も考え中です。もちろん父ツインターボです。
新規小説として投稿するかこの小説の第二幕として投稿するかは分かりませんがプロットが固まったらまたお知らせしたいと思います。
あと作者は競馬知識などはダビスタやネット情報、ウマ娘アニメ&アプリなどが主なので現実には則さない点や怪しい点などがございます事を念の為に申し上げておきます。