ご意見ご感想お待ちしております。
私の前を走る3人。
キタちゃん、サトちゃん、ルーちゃん・・・。
待って!置いてかないで!
「ッ!夢・・・か・・・」
「ターちゃん・・・ついてくぅ・・・すぅ・・・」
相変わらず左腕をルーちゃんに抱きしめられたまま(以前の抜け出し事件以降抱き着き具合が酷くなった)私は目を覚ました。
まだ薄暗い窓の様子を見るに夜明けまではまだ時間がかかるだろう。
「ふぅ・・・もう一回寝よう」
同じ夢は見たくない。
そんな風に思ったが幸いにも夢を見る事は無かった。
「ターボ、体調でも悪いのか?」
「いえ、体調は特には・・・」
タイムを計ってくれていた山田トレーナーが渋い表情をしながら私に尋ねた。
「最近タイムの伸びが悪いな。停滞期かスランプか。どちらかは分からないが今のままだとジャパンカップは厳しいぞ」
その言葉に私は思う所があった。
「多分・・・気持ちの問題だと思います」
「・・・菊花賞か」
山田トレーナーの言葉に私は頷いた。
「お前にとって公式戦で初めての負けだ。今までの負けとは重みが違う。それが勝負というものだ。簡単に切り替えれるとは言えん。俺が何を言った所でお前の中で決着をつけなければならない事だ。無論相談には乗る」
「はい、ありがとうございます」
私は山田トレーナーにお礼を言った。
「ふぅ・・・ここまで私は精神的に弱かったんだなぁ・・・」
気持ちが乗らないままトレーニングを続けても怪我の原因になるから少し休めと言われて私は行く当てもなく学園を彷徨っていた。
周りでは多くのチームがトレーナーの指導の下、トレーニングに励んでいる。
その光景を見るとこんな事をしている場合ではない、と思うのだが残念ながら心は動いてくれなかった。
「たりゃー!」
そんな私にあの声がまた聞こえてきた。
どうやらチームカノープスが近くでトレーニングをしているらしい。
運命的な何かに引き寄せられて私はそちらに向かった。
「ふぅ・・・やっとターボも調子が戻ってきたぞ」
「そうですね。不整脈も出ていませんしとりあえずは問題は無いかと。ただ、まだまだ油断は禁物ですよターボ」
ツイン先輩とイクノ先輩が仲良さそうに会話をしていた。
「相変わらずの世話焼き女房ねえイクノは」
「ターボは危なっかしくて放っておけませんから。それよりネイチャ、あの子は?」
「今はタンホイザと一緒に少なくなった消耗品類の購入に行ってるわ。あの子にも覚えて貰わないといけないしね」
どうやらカノープスの新人さんはタンホイザ先輩と買い出しに出ているらしい。
「あれぇ?インパクトじゃん!どったの?」
「お久しぶりですツイン先輩、イクノ先輩、ネイチャ先輩」
私に気が付いたツイン先輩が声をかけてきたので私は頭を下げた。
「どうしたのですか?何やら元気が無いようですが」
「あの・・・少しだけお時間いいですか?」
私は運命的な何かを信じてお二人に相談してみる事にした。
「なるほどな~トランプか~」
「ターボ、トランプではなくスランプです」
ボケなのか天然なのか若干定かではないがツイン先輩は真剣に考えてくれているようだ。
「私の悩みなんて非常に贅沢だとは思うんですけど・・・どうしても意識がそちらにばかり行ってしまって・・・」
「そうですね。私も61戦ほどトゥインクルシリーズでは走りましたがGⅠは一つもとれていませんからね。皐月賞とダービーの2冠を達成した貴女の悩みは非常に贅沢とも言えます。ですが、そんな赤の他人の妬みや僻みなど関係ありません。今、貴女がどう思っているのか。これが一番大切です」
「イクノ先輩・・・」
イクノ先輩はいつものキリっとした表情を柔らかい笑顔に変えて私を見つめてくれていた。
「厳しい事を言います。インパクト、貴女が勝負の世界で走り続ける以上これからもその悩みは尽きる事はないでしょう。私だって答えは出ませんでした。でも走り続ける事で見える何かがある。私はそう思うからこそ幾多のレースに出続けてきたのです。今はまだ見えずとも、いつかきっと見えると信じて」
「そうそう、イクノの言う通りだぞ。私たちに出来る事は、どんなレースだって諦めずに走る。これしかないんだぞ」
「ツイン先輩・・・ありがとうございます」
重く圧し掛かっていた暗い気持ちが、幾分か晴れた気がした。
「まだ気持ちに整理はつきませんけど・・・。次のレース、ジャパンカップ・・・諦めずに走り切りたいと思います」
「頑張りなさい、インパクト。きっと貴女の先に光り輝く何かがあります」
「がんばるんだぞインパクト。諦めなければきっと良い事が待ってるぞ」
「はい!」
私は心からの笑顔を浮かべた。
「さあ、今年は中山競馬場で開催されますジャパンカップ。海外からの招待ウマ娘達と日本のウマ娘達が激闘を繰り広げます。果たして勝つのは海外か!それとも日本か!皆さんの注目が集まります!」
もうすぐパドック披露が始まる。
衣装に着替えた私はまだ落ち着かない気持ちを胸にパドックステージへと向かう。
「5枠9番、2冠ウマ娘インパクトターボです。日本らしい衣装に海外からのお客さんも歓声を上げております」
衣装を披露し終えた私はターフに移動する為の地下通路に移動する。
「やあ、久しぶり~」
「シンボリクリスティ・・・」
「クリスでいいよ~長いから」
近代的な将校軍服風の衣装のクリスがそう言った。
「ダービーは負けちゃったけど今日は負けないよ~」
そう言ってクリスは先に歩いて行った。
負けたくない。
その気持ちは皆同じだ。
「シケたツラしてやがるな。インパクト」
「スレッジハンマー・・・」
パンクな勝負服に身を包んだスレッジハンマーが居た。
「ケッ!テメェみたいなヤツに負けた俺様が情けねえ!」
それだけ言うとスレッジハンマーは不機嫌さを隠さずに去っていった。
そうか、私が情けないままじゃ勝ってきた相手にも申し訳ないんだ・・・。
スレッジハンマーの言葉に私は目を瞑って強く深呼吸すると両頬を自分で叩いた。
「よし!やるぞ!」
まだすべての迷いが消えたわけじゃあない。
それでも誰もが誇れる自分である為に私は走ると決めた。
SIDE:実況
「さあ、世界の強豪ウマ娘が日本に集いますジャパンカップ。今年は例年の東京競馬場2400メートルではなく今年は中山競馬場2200メートルでの開催です。海外からの招待ウマ娘は今年は9人。果たして日本は世界に届くのか。今日走るウマ娘達をもう一度紹介いたしましょう。1枠1番フォルネウス。フランス凱旋門賞にも参戦しております。1枠2番インディジェーン。香港のクイーンエリザベスカップ3着です。2枠3番コーラス。去年に引き続きジャパンカップに参戦です。2枠4番インテリジェンスジュエル。アイルランドから参戦です。3枠5番スレッジハンマー。今年のダービー2着、GⅠが欲しいところです。3枠6番アグネスフレイ。天皇賞秋ではシンボリクリスティに敗北、逆襲はなるでしょうか。4枠7番シンボリクリスティ、2番人気です。天皇賞秋では歴戦のウマ娘達を下して見事1着でした。4枠8番セイラフィン。日本の雰囲気に慣れないのか先ほどの勝負服披露で観客を睨むような気配がありました。5枠9番1番人気インパクトターボ。皐月賞、ダービーを制した2冠ウマ娘。果たして世界に届くのか。5枠10番アマゾンバック。去年のダービーウマ娘にしてジャパンカップ覇者。6枠11番テイエムシー。去年の桜花賞と秋華賞を制覇しました。6枠12番ブレイブスカイ。フランスG1ディアヌ賞の勝者です。7枠13番ナリタトップジョー。天皇賞秋2着と悔しい思い。7枠14番ストームホーク。アラブの王族ウマ娘が今年も参戦です。8枠15番マグナムテン。毎日王冠1着です。8枠16番エアシャカール。最近調子が思わしくないとの事ですがどうでしょうか。以上16人です。さあゲートの準備が整いましてスターターが旗を振りました。ファンファーレです。多くの観客に見守られながらウマ娘達が次々とゲートインしていきます。最後の一人が収まりました。・・・スタートしました。先行争いはここまで負け無しのインパクトターボがやはり飛び出しました。他のウマ娘達はまだそれほどペースを上げていません並んでいます。今日は一人旅になりましたインパクトターボが大きくリードを開いていきます。後方集団先頭を取りましたのはマグナムテン。ナリタトップジョーなどがごった返していますこの辺り、シンボリクリスティは中団内側にいますが周りを囲まれてちょっと苦しいか。集団を抜けてスレッジハンマーが外に出てきました。インパクトターボはそんな後ろを振り返る事なく飛ばしております早くも10バ身以上差を広げています。後方集団はまだ落ち着きません。各ウマ娘達の熾烈なポジション争いが続いています。2番手はマグナムテン。その後ろにナリタトップジョーとセイラフィンが居ます。その後ろではシンボリクリスティが前と横を塞がれてもがいています。外からスレッジハンマーが前を狙います。早くもインパクトターボが残り1000メートルを切りました。マグナムテンが上がっていきます。シンボリクリスティはやはり身動きが取れません。インパクトターボ早くも第3コーナー。マグナムテンが後方集団を引き連れて差を縮めていきます。セイラフィンが内側からマグナムテンを抜いて前に出ました!第4コーナーを回り切ってインパクトターボが直線に入ります!2番手はセイラフィン!懸命に差を詰めます!シンボリクリスティが漸く集団を抜け出した!ファウルネスとスレッジハンマーがすごい末脚!一気にセイラフィンを抜いてインパクトターボに迫ります!インパクトターボ懸命に逃げる!ファウルネス届くか!スレッジハンマーが先に前に出た!インパクトターボ逃げ切れるか!残り100メートル!スレッジハンマー届くか!届くか!並んだ!並びました!インパクトターボも譲らない!スレッジハンマーが抜いた!スレッジハンマーが僅かに抜けると同時にゴールイン!スレッジハンマー!ダービーの借りを返しました!インパクトターボ惜しくも2着!今年のジャパンカップを制したのはスレッジハンマーです!今右手を高く高く上げています!」
SIDE:インパクトターボ
「ッシ!」
ゲートが開くとともにいつもの様に私は飛び出した。
今日は誰もついてこない。
キタちゃんもルーちゃんも居ない。
その事がありがたくもあり、同時に寂しくもあった。
一瞬余計な事を考えたと私は頭からその事を消し去ると走る事だけに集中する。
海外のウマ娘達は日本のコースを確かめるようにやや緩やかな走りの様だ。
「あの子!レースの定石を知らないの!?」
誰かのそんな声が聞こえてきたがこれが私の定石なんだ。
知らないなら黙っていて。
「ハッ!腐ってても走りだけは上等じゃあねえか!今日こそやってやらぁ!」
スレッジハンマーのそんな声が聞こえてくる。
「どいてよ~。上手に走れないじゃないか~。また会長に叱られる~」
マークされてしまったのか思うように走れないであろうクリスの情けない声も聞こえてくる。
「くぅ!このまま逃がす訳にも行かないけどどうしたらいいの~」
2番手の娘はまだ迷っているようだ。
だったらこのまま大きなリードを作って逃げ切って見せる。
私はそう決めるとさらにリードを広げた。
最後の直線に向けてコーナーを勢いよく曲がる。
「待ちなさい!貴女の勝手は許さないわよ!」
アメリカウマ娘が追い上げてくる。
「やっと出れた~!待て待て~!」
クリスもやっと追い上げてきた。
でもこのプレッシャーは彼女じゃない。
「待たせたな!今日こそ俺様が勝つ!」
「スレッジハンマー!」
「サマを付けろこのメガネ!」
残り僅かな距離を私とスレッジハンマーは懸命に走った。
「勝つのはスレッジハンマー様だぁ!」
後ほんの僅か私は優勝に手が届かなかった。
「やったぜお袋!見てるか!あんたの娘は!最強だ!」
右手を上げて勝利を宣言するスレッジハンマーに私は拍手を送った。
「惜しかったですねインパクト」
「2着おめでとう!よくがんばった!」
出場者用の控室に戻った私に応援に来てくれていたイクノ先輩とツイン先輩が声をかけてくれた。
「すみませんイクノ先輩、ツイン先輩。折角応援に来てくれたのに・・・私・・・勝てませんでした・・・」
堪えていた涙を流す私をイクノ先輩がそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫です。貴女にはまだ次があります」
「・・・はい」
「そうだぞ!諦めるなインパクト!テイオーがそうだったみたいに!ターボがそうだったみたいに!諦めなければきっと夢は叶うぞ!」
「・・・はい!・・・はい!!」
私はイクノ先輩の胸に抱かれたまま涙を流し続けた。
育成目標:ジャパンカップを3着以内に入る CLEAR
インパクトターボのヒミツ
実は何かの列に並ぶと先頭に行きたくなってしまうので並ぶのが嫌い。
インパクトターボの1コマ
ツインターボ「後は・・・まかせた・・・ぞ・・・」
インパクトターボ「師匠ー!!!!」
サムシングブルー「あのお二人は何やってるのですか?」
イクノディクタス「今度のテイエムオペラオーさん主催の劇に登場する志半ばで力尽きてしまう師匠とその遺志を受け継ぐ弟子の演技の練習中だそうです」
次回予告
俺も5歳になってしまった。
周りは次々と引退していき、寂しくなっていくばかりだ。
俺はまだ走れる。
第2シーズン第13話 5歳を迎えて(馬)