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念願の有馬記念を勝利して、そして年が明けた。
シンボリクリスエスが有馬記念で引退式をし、俺はまたライバルを一人失った寂しさを感じながら年明けの美浦トレーニングセンターで過ごしていた。
室オーナーはまだ俺を引退させるつもりではないようだが俺ももう5歳だ。
競走馬の全盛期は短い。
俺があとどれくらい走れるのかは分からないが俺はまだ走れる。
新たな馬達もどんどんと登場している。
勝つのは難しくなってくるだろう。
「ようターボ。今日も元気そうだな」
そんな事を考えているとほかの馬の調教を終えた山田調教師が俺に声をかけてきた。
「お前のおかげで担当する馬が増えてうれしい限りだよ。本当にお前のお陰だ」
よしてくれ山田調教師。
それにそんな言い方されるとまるで今すぐにでも引退するみたいじゃないか。
「本当に年月ってのはあっという間だな・・・。お前ももう5歳だ。競走馬としての時間はもうそれほど長くないな」
頑張れば6歳や7歳でも走れるかもしれない。
しかしそれは怪我のリスクを高めるし、何より血を繋ぐ事を第一とするサラブレッドにおいてリスクは避けなければならない事だ。
「残り少ない時間。お前の好きなだけ走らせてやれる様、俺も頑張るからな」
ああ、俺も後悔しない様がんばるさ。
俺はそう決意を固めると次のレースに向けての調教に励んだ。
2月 GⅡ京都記念
「有馬の覇者!インパクトターボが完全に逃げ切り体制!去年に引き続きGⅡ京都記念を逃げ切ったゴールイン!」
よし、まだまだいけるな。
俺はそう思ったが残念ながら山田調教師や相棒はそうではなかったらしい。
「若井君、今日のレースを走ってみてターボの様子はどうだったかね?」
「はい、やはり山田さんに指摘されていた通り僅かではありますがラストの息が続かなくなっていました。余裕があったので無茶はさせませんでしたが以前に比べると速度が落ちてますね」
どうやら山田調教師にも相棒にも俺は目に見えて弱くなって来ているらしい。
「まだまだ行けるとは思いますがターボの強みは活かし辛くなってくるでしょうね」
「やはりそうか・・・一度室さんと話をした方がいいな」
ここからどれだけ衰退していくか。
まだ分からないがやはり俺の競走馬としての寿命は終わりを迎えつつあるらしい。
残念だが仕方がない。
悔いの無い走りがしたいものだ・・・。
SIDE:室満男
「そうですか・・・ターボも引退時期ですか・・・」
『はい、今すぐに、と言うわけではありませんが私の見立てでは今年一杯が限界でしょう。無理して来年以降も走らせる事は不可能ではありませんが勝利するのは難しいでしょう。また怪我や病気のリスクを考えますと・・・』
電話越しにも山田さんの苦悩が伝わってくる。
「分かりました。山田さんがそう判断したのならそうしましょう。ただ・・・できればもう一度だけ有馬を走らせてやりたいのですが可能ですか?」
『そうですね。多くの馬が有馬で引退をしていますからタイミング的には問題は無いかと。負担を掛けすぎない様に様子を伺いながらレースを組んでいきたいと思います。ただGⅠは勝てないかもしれません』
「ええ、無事にターボが走り切ってくれたらそれでかまいません」
『分かりました。最善を尽くします。失礼します』
そういって山田さんは電話を切った。
私は携帯電話を下すと大きくため息をついた。
本当に競走馬の寿命は短いものだ。
あっという間の浪漫だったな。
幸いターボが稼いでくれた賞金は非常に潤沢で次の馬を買うだけの余裕もある。
すぐに次の馬を、とは気持ち的にもなれないが共同馬主の皆さんにも話だけはしておかないといけないな。
私は携帯電話を再び持ち上げると共同馬主たちに電話を掛けた。
SIDE:インパクトターボ
どうやら予想以上に俺の体は劣化してきているらしい。
「どうだ?ターボの様子は」
山田調教師が助手に俺の様子を尋ねる。
「はい、飼食いは普段とそれほど違わないですがやはり以前に比べるとレース後の疲れが残るみたいで元気が無いですね。毛艶もあまり良くないです」
以前ならもっと早くに回復して直ぐに次のレースに出る事が出来たが、回復に時間がかかる様になっていた。
俺自身が自覚した一番最初の症状がこれとはな・・・。
「そうか・・・やはりレースの頻度は落とさなければならないな」
「次はどうしますか?」
「産経大阪杯を考えていたが念の為に見送った方がいいな。5月の金鯱賞にしよう」
3月4月と休みか・・・。
やれやれ、短い全盛期だったぜ・・・。
幸いにもあれから直ぐに体調は良くなったのでどうやらまだこの体は大丈夫の様だ。
ただ今年引退する事などを考えて山田調教師も少し神経質になっている様で大阪杯は回避して金鯱賞に変更になった。
そんな金鯱賞に向けての調教を受けている時だった・・・。
「そうか・・・サムシングブルーも引退か」
「はい、先日行われた天皇賞春に出走した後に右前足に熱が出たようで。繁殖牝馬として期待されていますからそのまま引退を決めたそうです」
なんとブルーちゃんまで引退してしまったのだ。
あれほど戦ったライバルがまた一人減った事に俺は少し落ち込んだ。
同じ美浦トレセンに居たけどトレセンだと数えるほどしか顔を合わさなかったなぁ・・・。
所属している馬の数が数なだけにどうしても中々顔を合わす機会がなかった。
そんな事を考えていると・・・。
「やあ、山田さん」
「鈴井さんと・・・サムシングブルーじゃないですか」
どうやらブルーちゃんの調教師さんがブルーちゃんを連れてきたらしい。
「もしかしたら最後になるかもしれませんし、ずっと競い合ってきたライバルですからここを離れる前にと思いまして」
「そうですか。2頭ともすごく仲が良かったですからね。きっとターボも喜びますよ」
俺が馬房から顔を覗かせるとブルーちゃんが少し悲しそうな表情をしていた。
「やあブルーちゃん。引退なんだってね・・・。足、大丈夫かい?」
「はい、痛みはあんまり。できればターボさんとはもっと走りたかったですけど・・・残念です」
中々言葉が見つからない。
「俺も残念だよ。でも無理しちゃったらそれこそ大変だ。ブルーちゃんはこれからお母さんになって強い子を沢山産まなきゃいけないんだから」
「そうですね。私のお母さんがそうだったように、私も強い子を産まないといけないですね」
ブルーちゃんはそう言って精いっぱいの笑顔を見せてくれた。
「ブルーちゃん。俺も遠くないうちに引退する。種牡馬入りは出来る。だからもしかしたらまた会えるかもしれない」
「はい、その時は優しくしてくださいね」
本当に会えるかどうかは分からない。
それでもその言葉を嬉しそうに受け取ったブルーちゃんは鈴井さんに連れられて去っていった。
この寂しさが俺をまた弱くした。
そんな気がした。
5月 GⅡ金鯱賞
寂しさに浸っていても時間は止まらない。
気が付けば金鯱賞の日がやってきた。
体力は十分あるがやる気が少し足りないままパドックを回っている俺に1頭の馬が突っかかってきた。
「おいお前!やる気が無いなら帰れ!」
「お前は・・・?」
「聞いて驚け!あの有馬記念に何度も出走し!ジャパンカップにも勝利したナイスネイチャの息子!ナイスファイトとは俺の事だ!」
「ナイスファイト・・・ん?どっかで聞いたような・・・?」
俺がそんな風に思っていると・・・。
「今日は負けないぞインパクトターボ!」
「む、タップダンスシチーか。なあなあ、ナイスファイトって知ってるか?」
俺は以前引き分けたタップダンスシチーにナイスファイトの事を聞いてみた。
「ん?ああこいつか。シルバーコレクターで有名なやつだな」
シルバーコレクター・・・それってつまり・・・。
「永遠の二番手か」
「うう・・・お前たちなんて大っ嫌いだー!」
ナイスファイトは大きく嘶いた。
ちなみにレースはまたも俺に逃げ勝負を挑んできたタップダンスシチーとのマッチレースになった。
ちょっと危なかったがなんとか勝てたぞ。
その後、体調は問題ない状況だったが宝塚記念は季節が悪く負担がかかるという理由で回避。
7月8月はじっくりと休養に充てる為に放牧。
そして9月にレース勘の取り戻しと調子を見る為にGⅡオールカマーに出ることになった。
「インパクトターボだけが!インパクトターボだけが早くも第4コーナーのカーブに入ってきました!後続とは大きな差が開いています!インパクトターボが大きく逃げる!トーセンダンディが必死に追いかけますがこれは届かないか!トーセンダンディこれはもう無理!見事に決めました!逃亡屋インパクトターボ!」
うむ、しっかり休んだおかげか悪くない。
ちょっと他の馬には悪い事をしたかもしれないが有馬記念に向けての作戦も試してみたが上手くいった。
さて・・・次は直接有馬なのかな?
それとももう一回走るのかな?
11月 GⅠジャパンカップ
山田調教師も室オーナーも三連覇を期待していないと言えば嘘にはなるが縁の深いジャパンカップを外す事は出来ないと出走を決めた。
「さあ、今年もやってまいりました第24回ジャパンカップ。今年は5頭の招待馬が走ります。注目すべき馬は前回同着ながら2連覇を達成しましたインパクトターボ。3年連続での出走となりました。果たして史上初のジャパンカップ3連覇なるか。それともほかの馬がそれを阻むのか。注目しましょう」
お客さんの注目が集まる中パドックをグルグルと回る。
流石にヤンキーオカマはもう居ないか。
元々海外の馬なのだから居なくても不思議では無いのだが寂しさを感じてしまう。
「4枠8番インパクトターボ。3番人気です。以前の出走ペースからすれば非常に今年は少ない数となりましたが今年もジャパンカップにやってまいりました。3連覇なるか、多くのファンが期待しています」
3番人気か・・・。
流石にファンも引退が近い事を悟っているんだろう。
それでも応援してくれるんだからありがたい。
「お久しぶりです。また会いましたね」
「ゼンノロブロイか。今日はいいレースにしよう」
「5枠9番ゼンノロブロイ。1番人気です。前走の天皇賞秋では見事1着。クラシックでは芽が出ませんでしたが古馬戦に入ってから頭角を現してきました」
「すごいじゃないか。これは俺もウカウカしてられないな」
「はい、皆のお陰です。そして貴方のお陰でもあります。僕は貴方に勝ちたいんです」
ゼンノロブロイはそう言って闘志を露わにした。
物静かな外見に反して熱い馬だったらしい。
「なら超えてみるんだな。悪いが簡単には負けないぞ」
「はい、もちろんです」
パドック周回を終えて、俺たちはそれぞれの騎手を乗せる。
さあ相棒、残り少ないレースの時間だ。
SIDE:実況
「さあ、間もなく始まります第24回ジャパンカップ。今年は5頭の海外馬が出走いたします。果たして勝利するのはどの馬か。勝つのは日本か海外か。本日走ります16頭を振り返ってみましょう。1枠1番ポリシーメイカー。フランスからの参戦です。1枠2番リュヌドール。同じくフランスから参戦です。2枠3番ハーツクライ。鞍上は武豊騎手。2枠4番ナリタセンチュリー。京都大賞典では1着です。3枠5番フェニックスリーチ。海外のGⅠカナディアンインターナショナルステークスを勝利しています。3枠6番マグナーテン。このレース最高齢の8歳です。4枠7番デルタブルース。今年の菊花賞馬です。4枠8番インパクトターボ。史上初のジャパンカップ連覇の王者。果たして3連覇なるでしょうか。5枠9番ゼンノロブロイ。今年の天皇賞秋を制した実力馬。期待されます。5枠10番コスモバルク。地方所属からクラシックレースに参入した地方の星。果たしてどうでしょうか。6枠11番ヒシミラクル。鞍上は角田騎手。6枠12番ハイアーゲーム。鞍上はデムーロ騎手。7枠13番トーセンダンディ。オールカマーではインパクトターボにしてやられました。逆襲なるか。7枠14番ホオキパウェーブ。今年の菊花賞2着です。8枠15番パワーズコート。イギリスからの参戦です。8枠16番ウォーサン。ドイツGⅠバーデン大賞を勝っております。以上16頭の紹介でした。さあゲートの準備が整ったようです。スターターが旗を振り、今ファンファーレです。東京競馬場を歓声が包みます。さあ次々と馬たちがゲートインしていきます。今最後の1頭が収まりました。・・・スタートしました。ややバラついたスタートになりました。好スタートを切りましたのはインパクトターボ、ゼンノロブロイの2頭。先頭争いはやはりインパクトターボが取りました。その後ろにつけましたマグナーテン。トーセンダンディも並んでいきます。コスモバルクは4番手。さあルメールとの相性はどうでしょうかコスモバルク。その後ろ、ゼンノロブロイはここにいます中団前目。さあ1コーナーから2コーナーに、縦長になりました。先頭はインパクトターボその差は7、8馬身といったところでしょうか向こう正面に向かいます。その後ろマグナーテンが追いかけます。6、7番手を走っているのがゼンノロブロイです。さあ向こう正面に入ってきましたペースはまずまず早いといったところか。インパクトターボリードは8馬身程。マグナーテンが懸命に追います。その後ろにコスモバルクがつけています。ルメールとの折り合いはどうか。その外にトーセンダンディ。ヒシミラクルが続いている。フェニックスリーチイギリス馬。その外にゼンノロブロイがいます6番手。その後ろにフランス馬2頭がいましてこの辺りが真ん中でしょうか。デルタブルース菊花賞馬。その外にナリタセンチュリー。その後ろにウォーサンがいます。そしてその後ろからパワーズコート。パワーズコートは後ろに控えている。パワーズコートは後ろに控える形になっています。インパクトターボ早くも3コーナーを終えて4コーナーへ!インパクトターボ若井騎手逃げは慣れたものだ逃げている!まだ縦長のままだ!マグナーテン疲れたか!コスモバルクが2番手!ゼンノロブロイが外に出て前に上がってきた!直線に入って先頭はインパクトターボ!コスモバルク必死に追い上げます!ゼンノロブロイが一気に上がってくる!コスモバルクを抜いてインパクトターボに並びかける!インパクトターボまだ粘る!ゼンノロブロイも必死に走る!インパクトターボか!ゼンノロブロイか!ゼンノロブロイ前に出た!ゼンノロブロイ!ゼンノロブロイ!ゼンノロブロイが差し切りましたゴールイン!2着にコスモバルクが滑り込みましてインパクトターボ惜しくも3位!ジャパンカップ覇者敗れました!勝ったのはゼンノロブロイです!」
SIDE:インパクトターボ
「ッシ!」
スタートは完璧にこなせた。
何頭か出遅れた様だが俺には関係ない。
隣にいたゼンノロブロイも俺に引っ張られたのか良いスタートだったが後ろに下がっていった。
別の馬が前に押し出される形で2番手になり少し悩んだ末に俺についてくるようだ。
何時もの様に後ろは無視してただ先頭を一人走り続ける。
後ろにはブルーちゃんもクリスエスも居ない。
だがしっかりと感じるプレッシャーはゼンノロブロイのものだろうか。
そうか、ライバルはまだ居るんだな。
そう思うと俺は足に力を込めて逃げ続ける。
展開が動いたのは第4コーナーを曲がった後だった。
「うおおおおおおお!オラだって勝ちてーべや!」
コスモバルクが訛り全開で追い上げてくる。
「そこです!捕らえました!」
「来たか!ゼンノロブロイ!」
俺は必死にゴールを目指して走る。
抜かせない!
簡単に抜かせてなるのもか!
しかし、そう思う俺の心とは裏腹に、体の方がついていかなかった。
ゴール手前のわずか数十メートル。
一瞬の息切れを見逃さなかったゼンノロブロイが俺を追い抜いて行った。
しかも最後の最後で道産子の意地を見せたコスモバルクにも抜かれてしまった。
くっ!やはり厳しいか!
・・・老兵はやはり去らねばならないな。
「おめでとうゼンノロブロイ。俺のラストランになる有馬記念。一挑戦者として挑ませてもらうぞ」
「ありがとうございますインパクトターボさん。こちらからも貴方に全力で挑ませていただきます」
俺はそうゼンノロブロイに声をかけた。
インパクトターボ 牡5歳 25戦20勝 主な勝鞍:02年GⅠ皐月賞 02年GⅠジャパンカップ 03年GⅠ宝塚記念 03年GⅠジャパンカップ同着1位 03年有馬記念 02年GⅠ日本ダービー2着 02年GⅠ菊花賞2着 02年GⅠ有馬記念2着
次回予告
勝てなかったジャパンカップ。
落ち込んでいても時間は待ってくれない。
まだ答えは出ないけれど、走って走っていつか答えを掴んで見せます。
第2シーズン第13話 有馬を迎えて(ウマ娘)