ご意見ご感想お待ちしております。
「お、起きたかターボ?どんな夢を見ていたんだ?」
どうやらブラッシングの最中に気持ちよくて寝てしまっていたらしい。
懐かしい夢を見たものだ。
まだ引退してからそれほど経っていないのに随分と遠くに感じる。
それだけあの3年間のレースは俺にとって色濃く忘れがたいものなのだろう。
引退した俺は生まれ故郷の牧場に戻り、種牡馬として登録された。
GⅠ5勝の種牡馬として期待されてはいるが、父方も母方もマイナー血統な上に大逃げ馬の子は大成し辛いという前例がある為に、高値を付けると依頼が来なくなるだろうという判断からGⅠ勝利馬としてはかなりリーズナブルな値段になった。
そのお陰か、あるいはまだ種牡馬として未知数であるからか、お得なGⅠ血統と判断されたのか、種牡馬登録された初年度の2005年には30頭ほどの依頼があった。
大半が零細牧場でお得な価格でGⅠ馬の種が買えるならもしかしたら、という奴だ。
その中で唯一例外と言えるのがブルーちゃんとの種付けだった。
馬主さんが非常に仲の良い2頭なのだからと言ってくれたらしい。
最も話題のライバルカップルの子馬なら高く売れるかもしれないという打算もあっただろうが・・・。
まあ初年度はそんな感じで割と平凡に終わったのだが次の年にまさかあんな事になるとは思わなかった。
それはそろそろ今年の種付けシーズンだなと俺がこっそり牧場でアップしていた時だった。
やたら慌てた牧場長が俺の元に走ってきた。
「ターボ!お前のブルーの子供が生まれたぞ!」
はてさてどんな子供が生まれたのかと俺は楽しみに牧場長の言葉を待った。
「それがな!なんと白毛馬だそうだ!ほら!」
Watts?
牧場長が差し出した携帯電話の写真にはかなり荒い画像ではあるがブルーちゃんと思わしき牝馬とその乳を一生懸命に吸っている白毛馬が写っていた。
そう、まさかの1頭目で奇跡的な確率、1万頭から2万頭に1頭という確率を引き当てたのである。
ちなみに他の子馬はすべて俺または母譲りの体毛だった。
当然ながらこのニュースは競馬界は愚か一般世間にすら知られるようになった。
最初は地元のニュースで珍しい白毛の馬が誕生・・・程度だったのだが噂が広まりいつの間にか全国ニュースになっていたようである。
その結果、2匹目の何とやらを狙った生産牧場から次々と種付け依頼が殺到。
まだ1年目の産駒しか居ない為に種牡馬としての評価よりは奇跡の白毛馬の種牡馬としてしか認知されていないので著名な生産牧場からは殆どお声がかからなかったがそれでも2年目は100頭を超える数を種付けする事になった。
もはや苦行である。
俺は殆ど評価されずに年間10頭くらいあれば御の字で生活できるな程度にしか考えていなかったので全くの予想外だった。
あのお願いだから餌に精力剤混ぜないでください。
美味しくないんです・・・。
その後、1歳になったサムシングブルーの2006はセリで非常に高値で取引された為、またも沢山の種付け依頼があった事は言うまでもない。
経済動物の闇ここに極まれりである。
そんなこんなでそのサムシングブルーの2006はその美しい白毛とライスシャワー、サムシングブルーと結婚に関する名前から取って、牝馬だったのでシルクヴェールと名付けられた。
シルクヴェールはその後中央競馬でデビュー。
中々勝利はできなかったがそれでも何とか未勝利は脱出し、時折重賞にも出るようになっていた。
残念ながら牝馬3冠には出られなかったが秋に何と天皇賞秋の出走条件であるオールカマーを勝利し、天皇賞秋へと出走が決まったのである。
そう言えばそろそろ出走の時間でなかったかしら?
そんな事をブラッシングを受けながら考えていると厩務員さんがラジオの電源を入れてチャンネルを合わせてくれた。
牧場の間では競馬の放送をラジオで馬たちに聞かせておくとなぜか大人しくなる事が知られている為にラジオが厩舎内に設置してあるのだ。
実際今まで厩舎内で落ち着かなかった他の馬たちも聞き入るようにラジオに集中している。
もちろん俺もシルクヴェールが気になるので聞き耳を立てる。
『さあ、今年もやってまいりました第140回天皇賞秋。今日の東京競馬場は晴れ、馬場は良馬場となっております。注目の1番人気は4枠7番女帝ウオッカ。海外遠征を終えてヴィクトリアマイル、安田記念を勝利しておりますウオッカ。天皇賞連覇に期待がかかっております。そしてもう1頭注目馬がいます。奇跡の白毛馬。あのサムシングブルーの産駒、7枠13番シルクヴェールです。オールカマーを見事に勝利し、天皇賞への切符を手に入れました。父はあの大逃げで話題となったGⅠ馬インパクトターボです。はたして初の白毛馬のGⅠ勝利となりますでしょうか。これがGⅠ初挑戦であります。まもなく出走となります天皇賞秋。出走馬を振り返ってみましょう。1枠1番コスモバルク。地方の星。1枠2番スクリーンヒーロー。前年度ジャパンカップを制しています。2枠3番カンパニー。毎日王冠ではウオッカを下しております。2枠4番アドマイヤフジ。鞍上はスミヨン騎手。3枠5番ヤマニンキングリー。札幌記念を勝利しております。3枠6番アサクサキングス。07年菊花賞馬。4枠7番ウオッカ。1番人気です。鞍上は今年からの相棒武豊騎手。4枠8番キャプテントゥーレ。こちらは葦毛です。5枠9番サクラオリオン。函館記念を勝っております。5枠10番シンゲン。新潟大賞典、エプソムカップを勝利しております。6枠11番スマイルジャック。鞍上は三浦皇成騎手。6枠12番ドリームジャーニー。今年の宝塚記念を制しております。7枠13番シルクヴェール。奇跡の白毛馬。美しい鬣と尻尾を靡かせております。7枠14番サクラメガワンダー。今年の金鯱賞を1着です。7枠15番オウケンブルースリ。京都大賞典を1着。8枠16番ホッコーパドゥシャ。福島民報杯2000メートルのレコード持ちです。8枠17番エイシンデピュティ。08年の宝塚記念を勝利しております。8枠18番エアシェイディ。大外枠ですがどうでしょうか。以上18頭フルゲートでの出走です。今スターターが旗を振りましてファンファーレです。東京競馬場に押し掛けた観客たちの歓声が響き渡ります。さあ間もなくゲート入りが完了します。係員がどきまして体制完了。・・・スタートしました。綺麗に並んだスタートになりました。ドリームジャーニーは勢いがつきません最後方。オウケンブルースリなども後ろから行きます。先頭争いはスクリーンヒーロー。外からエイシンデピュティが行きます。間に挟まれてキャプテントゥーレと3頭の先頭争いです。コスモバルク4番手。その後ろにヤマニンキングリーとサクラメガワンダー。内側にアドマイヤフジ。中団グループにシンゲンが居ます。内にカンパニー、外にホッコーパドゥシャが居ます。中段グループ後ろ側、内にオウケンブルースリ外からエアシェイディ。その後ろに白い馬体のシルクヴェール。そしてウオッカは後方から5番目の位置に居ます。その後ろにスマイルジャック、アサクサキングスが続いています。ドリームジャーニとサクラオリオンが後ろの2頭です。3コーナーカーブに向かいます。先頭はエイシンデピュティ。キャプテントゥーレが2番手になりました。まもなく1000メートルを通過タイムは59秒8です。っとここで後方に控えていましたシルクヴェールがどんどんと前に進んでいきます。中間1000メートルを過ぎたところでシルクヴェールが前に上がっていきます。物凄い勢いで早くも先行馬集団を追い抜いて先頭のエイシンデピュティに並ぶ・・・いや並びません!エイシンデピュティを抜いてシルクヴェールが単独で先頭に立ちました!その差を3馬身、4馬身と広げていきます!ロングスパートをかけましたシルクヴェール!しかし早すぎないでしょうか!?最後まで走り切れるのか分かりません!さあシルクヴェールが先頭で直線に入りました残り500メートル!まず集団を抜け出してきたのはカンパニー!後方から内側をついてウオッカも上がってきます!先頭はシルクヴェールその差はまだ3馬身!懸命に逃げる残り300メートル!シルクヴェール逃げる!カンパニーが追いすがる!ウオッカが内側から抜け出してカンパニーに並びかける!シルクヴェールがまだ先頭その差は2馬身!ウオッカがカンパニーを抜いて前に出る!ウオッカ届くか!シルクヴェールが逃げ切るのか!残り100メートル!ウオッカ渾身の走り!しかしシルクヴェールだ!シルクヴェールが逃げ切ってゴールイン!これが私のヴァージンロード!なんと1000メートルものロングスパートで走り切りましたシルクヴェール!最後の直線は父インパクトターボを思わせる走り!差して逃げる!なんという走りを見せてくれたのでしょうかシルクヴェール!白毛馬史上初のGⅠ勝利です!』
やったー!よくやった我が娘シルクヴェール!
「うおお!お前の娘はすごいなターボ!」
一緒に聞いていた厩務員さんがそう言って一緒に喜んでくれる。
「やったなターボ来年また種付けでモテモテだぞ!」
しまったそうだったぁ!
いや種付けは行為自体は嫌いじゃあないんですよ?
ただ数が多すぎてちょっとね?
そこ!贅沢モノめなんて言うな!
お前も数か月で100回種付けとかやってみろ!
後半なんかただの苦痛だぞ!
それに精力剤入りの餌は不味いんだぞ!
それからしばらく俺は他の牡馬から贅沢モノと呼ばれてちょっと仲間外れにされたのだった。
俺が悪いのか!?
そんな風に不貞腐れているとまだつけっぱなしだったラジオから裏でやっていた新馬戦の実況が流れ始めた。
『スタートしました。ややばらついたスタートになりました。1頭飛び出したのはバクソウオー。しかし様子がおかしいです。鞍上今田平太騎手懸命に手綱を引いてバクソウオーを制御しようと必死ですがバクソウオー全く言う事を聞きません!完全に暴走状態に陥っておりますバクソウオー!そのままコーナーに入りますボウソウオー・・・失礼しましたバクソウオー!今田騎手がなんとかコーナーを曲がらせていますが大きく膨れ上がって曲がっております!膨れ上がった結果後続が一気に迫りますがボウソウオーがまだ先頭!なんという馬なんだボウソウオー!大回りをして追い付かれたのにまた後ろを引き離す!ボウソウオー先頭!騎手との折り合いがつかないままゴールしましたボウソウオー!・・・あ、バクソウオーです!1着はぼうそ・・・バクソウオーです!』
おいおい大丈夫なのかボウソウオー・・・じゃなかったバクソウオー。
ん・・・?
バクソウオー・・・はてどこかで・・・。
ああ!確か2年目に種付けした中に確かサクラバクシンオー産駒の牝馬が1頭いたはずだ!
そいつの名前がバクソウオーだったはず!
こいつも俺の子供かぁ!
その後もバクソウオーは乗り換えられた騎手の言う事を聞かず、暴走を繰り返した為に某新世紀アニメになぞらえて暴走モード突入などと言われてしまったのである。
短距離戦メインで暴走しつつも勝ってしまっているのだから質が悪い。
1戦ごとに騎手が変わり、4戦目のマイル戦にて乗り替わったのが俺の元相棒若井騎手だった。
インパクトターボの息子だから若井騎手ならいけるのでは?という馬主と調教師の願いが見て取れる。
なお相棒でもバクソウオーの暴走癖は治らなかったが、元々馬の邪魔をせずにコースを誘導する事に慣れていた・・・というか慣れざるをえなかった相棒はバクソウオーを見事にコントロールしてゴールに導けるという事で専属が決まったらしい。
その後バクソウオーは徐々に出走距離を伸ばし、勝ったり負けたりしていったのである。
親父、あんたの血はまだ続いてるぜ・・・。
インパクトターボ代表産駒:シルクヴェール バクソウオー
JRACM風
2003年 有馬記念
『大逃げは勝てない馬のする事だ。すぐにつぶれてダメになる』
そんな言葉は戯言だと、我が身で証明してみせた馬が居る。
生涯成績26戦20勝。
父から受け継いだ逃亡者魂。
母から受け継いだ鋼の肉体。
その馬の名は、インパクトターボ!
『先頭はインパクトターボ!シンボリクリスエスも凄い末脚だがインパクトターボ今日は抜かせません!苦しいシンボリクリスエス!頭半分が越えられません!サムシングブルーも必死に差を詰めますが苦しい!インパクトターボまだ粘る!残り100メートル!坂を駆け上がってまだ先頭!インパクトターボだ!インパクトターボが今1着でゴールイン!』
脇目も振らずに走り抜けろ!
答えがそこにあると信じて!
有馬記念!
次回予告
レースの楽しさを思い出した私。
次に挑むは宝塚記念。
久しぶりのGⅠレース、負けないぞ!
第2シーズン第15話 まだ想いは続いている(ウマ娘)