これが逃げるという事だ   作:福泉

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第2シーズン第16話お待たせいたしました。
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第2シーズン第16話 いざ名種牡馬(馬)

春・・・。

それは出産を迎える馬、種付けをする馬で牧場が最も忙しい時期である。

GⅠ勝利産駒種牡馬となった事で去年に引き続き俺には大量の種付け依頼がやってきた。

流石にリーズナブルなお値段のままだとGⅠ種牡馬というブランドを維持するのに問題があると他の生産牧場などから言われた為に値上がりしたが、それでもかなりの数である。

いや~・・・俺なんかに180頭もの種付け依頼とか・・・震えるぜ・・・。

いくら馬の種付けシーズンが2月から7月までと比較的期間があるとはいえ1日に複数回こなす必要がある。

優良種牡馬が短命なのも分かる気がする・・・。

「いいか新入り。君は競争成績はあまり良くなかったが良血統故に種牡馬として非常に期待されている」

「はい、ターボ先輩」

俺は新入り種牡馬君に種牡馬としての心構えをアドバイスしていた。

「そしてそんな君に一つだけアドバイスをしておこう。50を超えたらやばいと思え」

「え・・・?」

「いいか!50を超えた辺りでもはやただの苦行だ!100を超えた辺りで出てはいけない何かが出ていく感覚になり!150以降は『あ、俺命削ってる』ってなるからな!」

「ええ・・・」

困惑する後輩種牡馬だがそれが現実だからな!

他の種牡馬達も大げさな、といった様子だがお前ら負け組種付け馬に言われとーないわ!

悔しかったら50回以上種付けしてみろ!

今年の種付け回数言ってみ!

俺のその言葉にほかの種牡馬が黙った。

種牡馬の格付けはこの牧場では俺がダントツでトップなのだから。

ふん!分かればよろしい。

そんな俺の様子にどうやら本当らしいと思った新人種牡馬君が密かに怯えていた。

まあ来年以降どうなるか分からんがね。

俺はそんな事を思いつつラジオの競馬中継に耳を傾けた。

今日は皐月賞。

マイルレースであるスプリングステークスをギリギリ3着入賞したバクソウオーが出走するのである。

正直なところ勝てる見込みは無い。

何せ1600のレースでは勝ち星があるが1800以上ではまだ0なのである。

調教師もオーナーも勝ち目はないと見ているが折角権利があるのだから記念出走させてやろうという事らしい。

そもそも暴走癖が治らず1600のレースですら時々ヘロヘロになって負けることがあるバクソウオーが果たして皐月賞を走り切れるのだろうか。

そんな事を思いながらラジオに耳を傾けた。

『まもなく始まります第70回皐月賞。今年も世代最速を決めるクラシックレースのシーズンがやってまいりました。注目は1番人気のヴィクトワールピサ。ここまで非常に優秀な成績を収めております。またもう一頭の注目馬は暴走でお馴染のバクソウオーがまさかの皐月賞に挑む事でしょう。短距離とマイルでは悪くない成績ですがそれも1600以下のレースに限られます。果たして皐月賞の2000メートルを走り切れるかが注目されます。荒れたレースになりそうです今年の皐月賞。出走馬を振り返ってみましょう。1枠1番リルダヴァル。鞍上福永祐一騎手。1枠2番ハンソデバンド。鞍上蛯名正義騎手。2枠3番トーセンアレス。鞍上田中勝春騎手。2枠4番ネオヴァンドーム。鞍上安藤勝己騎手。3枠5番ローズキングダム。鞍上小牧太騎手。3枠6番バクソウオー。鞍上若井武志騎手。4枠7番レッドスパークル。鞍上秋山真一騎手。4枠8番バーディバーディ。鞍上松岡正海騎手。5枠9番サンディエゴシチー。鞍上浜中俊騎手。5枠10番シャイン。鞍上和田竜二騎手。6枠11番エイシンフラッシュ。鞍上内田博幸騎手。6枠12番エイシンアポロン。鞍上池添謙一騎手。7枠13番ヴィクトワールピサ。鞍上岩田康誠騎手。7枠14番レーヴドリアン。鞍上藤岡佑介騎手。7枠15番ダイワファルコン。鞍上北村宏司騎手。8枠16番ヒルノダムール。鞍上藤田伸二騎手。8枠17番ガルボ。鞍上後藤浩輝騎手。8枠18番アリゼオ。鞍上横山典弘騎手。以上18頭フルゲートでのレースとなりました。今スターターが旗を振ってファンファーレです。さあ春の王者は誰になるのか。次々とゲートインしていきます。最後の1頭が無事に収まりました。体制完了。・・・スタートしました!1頭ものすごい勢いで飛び出していきましたのはバクソウオー。いつでもどこでも大暴走のバクソウオー、果たして2000メートル走り切れるのでしょうか。2番手につきましたのはハンソデバンド。レッドスパークルは勢いが付きません最後方。2番手争いはバーディバーディ、サンディエゴシチー、外からアリゼオも追い上げてきます4番手。後ろに続きますのはネオヴァンドームにローズキングダム。さらに内から1番リルダヴァル。1番人気ヴィクトワールピサは後方から4番手の位置にいます。先頭はググっと離れてバクソウオー。果たしてどれだけ開いているのか最早分かりません。2番手はバーディバーディ。少し離れて3番手ハンソデバンド足を貯めます。外にはサンディエゴシチーが並んで集団を形成しています。その後ろローズキングダムとネオヴァンドーム。外にはアリゼオが続いています。バクソウオー早くも1000メートルを通過、タイムは54秒・・・54秒!?スプリントレースではありません。繰り返しますこのレースはスプリントレースではありません。後方集団がやっと向こう正面に入りました。ローズキングダムが中団あたりで少し控えるような動きを見せています。他にはリルダヴァル、エイシンアポロンなどがグループを形成しております。後はシャイン。そしてその後ろのヴィクトワールピサが徐々に上がっていきます。ガルボ、エイシンフラッシュ、この集団は固まっています。その後ろにレッドスパークル。その後ろ3馬身はなれてヒルノダムールは後方から3番手です。後方集団残り800を切りました3コーナーに入ります。先頭バクソウオーは早くも第4コーナーに入っていますが疲れてしまったか足色が鈍くなってまいりました。果たして2000メートルを走り切れるのでしょうか。2番手集団も残り600を切りました!バクソウオー必死に前に進みます残り500メートル!2番手はバーディバーディが辛うじて前にいますがサンディエゴシチーが並びかけてきます。内からはハンソデバンド!バクソウオー直線に入りましたがここでさらにガクっと失速!懸命に若井騎手がムチを入れてなんとか前に進ませています!さあ馬郡がバクソウオーに迫ります!残り200メートルを切りましたバクソウオー届くのか!届いてしまうのか!2番手には内をついてヴィクトワールピサが抜け出してきた!バクソウオーはまだ辛うじて走っている残り100メートル!どんどん差が詰まってこれは追い付かれそうだ!必死に前に進むバクソウオー!ヴィクトワールピサが伸びる!エイシンフラッシュも伸びてきている!バクソウオー届くか!ヴィクトワールピサが差し切るのか!バクソウオー限界か!ヴィクトワールピサが抜いたところでゴールイン!なんと2000メートルであわや勝利かと思われたバクソウオー!しかし勝ったのはヴィクトワールピサです!2着には何とか走り切りましたバクソウオーです!』

おお!適正距離外のはずのバクソウオー頑張ったじゃないか!

走り切れれば御の字だったはずの皐月賞で2着はすごいな!

こうしてやや波乱に満ちた皐月賞は終わった。

なおダービーには流石に無謀すぎるという理由で出走は辞退したそうだ。

シルクヴェールは世界初のGⅠ白毛馬という事で海外から熱いオファーを受けてドバイのGⅠとフランス凱旋門賞に参戦するとの事で現在は日本に居ない。

また数少ない白毛の繁殖牝馬としての期待が強いために今年で引退との事。

可能な限り多くの白毛馬を生んでほしいのだろう。

現在活躍している俺の産駒はこの2頭のみ。

珍しい産駒と言えば3年目、まだ格安GⅠ種牡馬だった時に種付けした農業高校の牝馬の産駒だろう。

高校からの依頼の話を聞いた室オーナーが種付け料を寄付して種付けしたのである。

子供たちの為になるし税金対策にもなる、とは本人の話だが単純に照れ隠しだろう。

セリでは程々の値段で取引され、中央競馬でデビューする為に今調教中との事。

今年のデビューはもう少し先だし残念ながらまだ代表産駒は増えなさそうだ。

大した活躍できなくてもいいから逃亡屋の異名を継ぐ産駒が出来てほしいぜ。

そんな風に思いながら俺は日々を過ごしていた。

 

8月・・・。

種付けも一段落し、牧場も少し落ち着きを取り戻した頃・・・。

「今日はあの名馬は今。という事で大逃げで一世を風靡しましたインパクトターボ号の故郷へとやってきました」

どうやら競馬番組の撮影らしい一向が牧場へとやってきた。

厩舎内でのんびりしていた俺の所に女子アナとスタッフが牧場長と室オーナー、それに相棒を連れてやってきた。

さすがに山田調教師は忙しいのかこれないようだ。

「それでは改めまして皆さんよろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします」」」

こうして撮影がスタートした。

「しかし父親ツインターボの命日の翌日に生まれるとはまさに運命的ですね」

「ええ、当時は一部ファンの間では走り足りなかったツインターボが生まれ変わった、なんて言われてましたね」

もちろんそんな事は無いだろうがファンとしてはそういった思いもあるだろう。

「生まれた時はそれほどかからずに立ったから悪くなさそうだという評価でしたね。もともとツインターボもイクノディクタスも優秀な血統とは言い難いですから期待値も程々でした」

「では室さんは何が決めてでインパクトターボを購入されたのですか?」

「私はツインターボに惚れてましてね。その血を受け継ぐ馬がどうしても欲しかったというただそれだけの理由だったんですよ。セリにも出されていないから他の馬主さんに色々と情報をいただきまして出会えたのがこのインパクトターボだったんです」

へぇ、室オーナーにもそんな苦労があったんだな。

「それでは今話題の暴走馬、バクソウオーの騎手で元インパクトターボ専属騎手の若井騎手にもお話を伺ってみましょう。若井さん、最初にお聞きしたいのですがインパクトターボとバクソウオーの違いはどんなのがありますか?」

お、騎手目線からの俺と息子の違いも知りたいな。

「そうですね。インパクトターボもバクソウオーも序盤から飛ばして先頭を走るという走りは似ていますが全く異なりますね。ターボの方は意外に見えるかもしれませんが頭が非常に良くてですね。一度走ったレース場を覚えているんですよ。あと私の手綱さばきでレースの距離を凡そ判断していましたね」

「どういう事なんですか?」

「そうですね。分かりやすい比較で言えば同じ年で勝った宝塚記念と有馬記念の手綱さばきを見ていただければ分かるんですが、宝塚記念と有馬記念では有馬記念の方が追う回数が少ないんですよ。その回数でターボは今日は長いんだなって理解するんですよ。そうすると自分である程度速度を調節して走り切れるちょうどの速度を維持するんです」

「ええ!?そうなんですか!?」

レース場を覚えていたのは事実だ。

押された回数は距離というよりは速度を決める基準にしていた。

作戦は相棒に任せて俺は走る事に集中していたからな。

「ええ、本当に素晴らしい馬ですよ。バクソウオーの方は頭は悪くはないんですが・・・その頭の良さが逆にああ成ってしまった原因という状況ですかね?」

「と、言いますと?」

ほう?

「あの子は体も小柄で当初は全く期待されてなかったらしいんです。でも調教を始めると悪くない走りをすると分かったので周りがバクソウオーを誉めまくったらしくて、どうもそれを覚えちゃったみたいなんですよね」

「あーあれだな。小さい子供が大人から褒めてもらった行動を繰り返すみたいなやつだな?」

「ええ、その通りです。バクソウオーにとっては調教でもレースでも兎に角速く走れば褒めてもらえるから暴走する。騎手が抑えようとしても褒めてもらうのを邪魔されてるとしか思ってないんじゃないですかね」

「なるほど、バクソウオーの暴走にはそういった理由があったんですね」

「ええ、ですからターボとバクソウオーの飛ばしっぷりは似ていて非なるものですね」

こうして撮影は問題なく終わり、俺は久しぶりに相棒を背中に乗せた。

久しぶりに乗せた相棒を重く感じたのは俺が衰えたのかそれとも想いがそう思わせたのか。

相棒、息子を頼むぜ・・・。




次回予告

宝塚記念を終え、2度目の夏季強化合宿。

今年はサトちゃんが居ないけど、新しい仲間と一緒に頑張るぞ。

次に目指すは秋3冠レース。

目指せ名ウマ娘。

第2シーズン第16話 いざ名ウマ娘
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