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マキシマムターボのダービー制覇に号泣して牧場が少し騒ぎになってから早くも2ヶ月が経過した。
夏の暑さを避ける為、また重賞レースが少ない為に夏は放牧のシーズンとも呼ばれている。
我が息子マキシマムターボも菊花賞に向けて体調を整える為に生まれ故郷の牧場へと帰ってきた。
「父さん、ただいま」
「お帰りマキシマム。良く・・・良く頑張った」
再び目頭が熱くなり始めたが息子の前で号泣するのは格好悪いと必死に堪えた。
「皐月賞、ダービーと走ってどう思った?」
「うん、やっぱり中央競馬って凄いなって思ったよ。強い馬が沢山居るし。特にゴールドシップが凄くて、ちょっとでも気を抜いたら負けるかも!って思ったよ」
それは俺も思った事だった。
「いいライバルに出会えたな。その出会いを大切にしろ。ライバルの居ないレースはただ自分との闘いでしかない。それはそれで大事な事だがライバルが多ければ多い程俺たちは強くなる」
「父さんのライバル達の事、知りたいな」
「そうだな・・・最初に出会ったのはサムシングブルーだ。今は俺とも子を生す間柄だが一番最初の時は怖い馬だと思ったな。何せ俺がどれだけ飛ばしても必ず後ろについてくるんだからな」
「そうなんだ・・・それはすごいな」
「ああ、凄い牝馬だぞ。次に出会ったのがタニノギムレット。俺からダービーを奪っていった奴だ。気性の荒い奴ではあったが誰よりも己に厳しい奴だったな。俺はアイツの気迫に僅かに届かなかった」
そう、あの時俺は無敗で居た事で僅かにだが天狗になっていた。
俺ならダービーでも逃げ切れる。
そんな思いが絶対に俺を打ち負かすと誓うタニノギムレットに負ける原因を作った。
俺はあの時絶対に逃げ切ってやる!と思わなければいけなかったのだ。
「父さん・・・」
「だがそんな思いもお前のお陰ですっかり消えたよ。ありがとう」
「ううん、俺が勝ちたかったんだ」
「そうか・・・。さて、次のライバルの話だな。次はそうだな、一番戦った数で言えばシンボリクリスエスが一番だな。同じ様な距離適性だったからあいつとは何度も競り合った。勝つ時もあれば負ける時もあった。それでもアイツとの闘いが一番燃えた。負けたくないと一番強く思ったのもアイツだったな」
もっとも数多く戦ったシンボリクリスエスがどうしても印象が強い。
実力は数字にすればほぼ同格。
あいつの方がスピードに優れる分スタミナに余裕が無い。
燃費の良さと持続力で優れる俺に潰される事も多かった。
逆に俺は末脚の弱さが理由で抜かれて負けていた。
「タップダンスシチーは唯一俺と引き分けた奴だな。重馬場という特殊な条件ではあったがそれでも引き分けたのはアイツの根性だな」
「重馬場は俺も苦手かも・・・」
日本産駒の馬で重馬場が得意な馬の方が少ないだろうな。
「そして最後のライバルがゼンノロブロイ。俺に引導を渡した名馬だ。アイツとの勝負は俺の中で最高の走りを最後に出来た。勝てなかった事は悔しいが恨みはない。それがライバルだ」
「ライバル・・・アイツも俺の事そう思ってくれてるかな?」
おそらくゴールドシップの事だろう。
「ははは、あれだけお前に牙をむいてる奴は他に居ないぞ。少なくとも負けたままにはしないだろうさ」
「そっか、うれしいな」
落ち着いた性格のマキシマムがそう言って少し嬉しそうにしていた。
「マキシマム。ダービーを俺の為に走ってくれたのは嬉しい。だが今後は自分の為に。そしてお前を応援してくれる皆の為に走れ。俺を重きに置くな」
「・・・はい!」
マキシマムは夏が終わる少し前にトレセンへ戻っていった。
時は流れて菊花賞がやってきた・・・。
「マキシマム・・・無理だけはするなよ・・・」
「お願い・・・無事に帰ってきて・・・」
長距離の適性は俺もスズカミラーも低い。
特に長距離を逃げで勝つのはさらに厳しい。
足にかかる負担は普通に走るより大きい。
俺は頑丈さには自信があったからギリギリまで頑張った。
しかしマキシマムにそれが受け継がれているかどうかは分からない。
「少しは自分の息子を信じなさい。それでも私の息子ですか」
「お袋・・・」
「イクノさん・・・」
以前の事を思えば年を取って少し丸くなってきたがそれでもまだまだ牧場内の牝馬リーダーとして厳しいイクノ母さん。
「私たちに出来るのはただ信じて待つ。それだけです」
「そう・・・だな・・・」
「はい・・・」
そう言うイクノ母さんも落ち着かない様子だ。
それでも良く知っている俺が辛うじて気が付く程度だ。
きっとイクノ母さんもこんな気持ちでラジオを見つめていたのだろう。
ラジオは菊花賞の様子を伝えてくれる。
『さあ、第73回菊花賞。注目は1番人気のマキシマムターボ。皐月賞、ダービーを制し、3冠に挑みます。果たして菊花賞を逃げ切れるでしょうか。初めて挑みます3000メートル。他の馬が追い抜くのか、マキシマムターボが逃げ切るか。本日走る馬をご紹介いたしましょう。1枠1番ゴールドシップ、2番人気です。マキシマムターボに強く威嚇したのでパドックでは別周回となりました。1枠2番マキシマムターボ、1番人気です。皐月賞、ダービーを逃げ切りました3代目。菊花賞も逃げ切りなるでしょうか。2枠3番ベールドインパクト。2枠4番ラニカイツヨシ。3枠5番アーデント。3枠6番ロードアクレイム。4枠7番エタンダール。4枠8番ニューダイナスティ。5枠9番フジマサエンペラー。5枠10番マウントシャスタ、3番人気です。6枠11番ビービージャパン。6枠12番コスモオオゾラ。7枠13番ダノンジェラート。7枠14番ミルドリーム。7枠15番ユウキソルジャー。8枠16番スカイディグニティ。8枠17番タガノビッグバン。8枠18番トリップ。以上18頭フルゲートでのレースです』
頑張れ・・・マキシマム・・・。
馬の神に祈りを捧げながら俺はただラジオを見つめ続けた。
『さあ、ゲートの準備が終わりましてスターターが旗を振ります。ファンファーレを京都競馬場に響き渡ります。各馬が次々とゲートインして行きますがゴールドシップがやはり嫌がり中々入ろうと・・・いや!今日はやる気かゴールドシップ!先に収まったマキシマムターボを睨みつけながらゲートに収まりました!係員が出ます。・・・スタートしました!2番マキシマムターボやはり好スタートで先頭を取ります!同じく1番ゴールドシップも好スタートですがスッと後ろに下がります!2番手は外からビービージャパンが行きます!3番手はコスモオオゾラが果敢に攻めます!坂を下りまして800標識を通過しました!その後にタガノビックワン!その後ろにトリップ18番!その後ろ8番ニューダイナスティが馬郡に飲まれながら走っています!この間に9番藤政エンペラーが外に出ます!さらに14番ミルドリーム!5番のアーデントも上がっていきます!先団馬郡のちょうど真ん中15番のユウキソルジャーいい位置!4コーナー回ってスタンド前に入りました!その後ろに10番のマウントシャスタ!ここから先頭までは9馬身ぐらいの位置!最内はベールドインパクトスタンド前を通過!外から16番のスカイディグニティが上がっていきます!さあ拍手に迎えられて最初の1000メートルですが59秒5と3000メートルにしては少し早いペースかもしれません。7番のエタンダールも先団を追って徐々に上がります!後方ですが6番ロードアクレイムが後ろから4番手!その後ろに4番ラニカイツヨシですが後方2番手ゴールドシップが前方を強く睨みつけて狙っています!第1コーナーカーブ!これを見るように最後方ダノンジェラート!ゴールドシップは後方から2番手で第1コーナーを曲がっていきます!さあ行きます2番のマキシマムターボ!リードは3馬身取っています!単独2番手ビービージャパン。その後ろにトリップが上がってきました3番手!フジマサエンペラーも外から上がっていく!インコース少し控えてコスモオオゾラ!その斜め後ろにタガノビックワン!外に5番アーデントと続いて向こう正面に出ています!その後ろに8番ニューダイナスティ、その外から10番マウントシャスタがジワッと前を追って上がり始めました!後は14番ミルドリームが坂の上りに入ります!内から7番エタンダール!その後スカイディグニティ!その後馬郡の中ユウキソルジャーが居ます!そして外から1番ゴールドシップが進撃を開始する!グングンと加速して一気に馬郡を追い抜いて前に出ていく!坂の上りで仕掛けましたゴールドシップ!一気に先団に追いつき!そして追い越しました2度目の坂越え!さあ3コーナー坂の下りに入ります!2番マキシマムターボ先頭でリードは3馬身!11番ビービージャパンが2番手!その後トリップ、マウントシャスタ、大外にゴールドシップが動いた!皐月賞2着!ダービー2着!菊花賞はどうか!?マキシマムターボがまだ先頭のまま4コーナーカーブ!2番手争いはビービージャパン!トリップ!ゴールドシップが並んでいる!その後ろにラニカイツヨシ!外からベールドインパクトが上がってきた!直線に入りました!マキシマムターボ逃げる!ゴールドシップが一気に上がって追い付いた!2頭が並んでいる!しかし先頭はまだマキシマムターボ!懸命に前に進む!ゴールドシップが抜いたか!なんとマキシマムターボが抜き返した!ゴールドシップも渾身の走りでもう一度抜き返す!何という2頭の叩き合い!抜きつ抜かれつ!2頭並んだままゴールイン!しかし最後の最後で外ゴールドシップが僅かに前に出たか!内田博幸が右手を高く上げました!マキシマムターボ惜しくも3冠ならず!』
「ああ・・・」
思わず零れてしまった声。
しかしそれは俺では無かった。
「・・・お袋」
「私も年を取りましたね・・・」
イクノ母さんはそれだけ言うと恥ずかしそうに去っていった。
何だかんだで勝負に一番強い思いがあったのはイクノ母さんだったのだろう。
「よく頑張ったね・・・マキシマム・・・」
「そうだな・・・今度帰ってきたら沢山誉めてやろうな」
3冠は確かに残念だった。
だがアイツの全力の走りだ。
父である俺が認めてやらないで誰が認めてやるんだ。
「いいライバルに出会えたんだ。あいつも今以上に強くなるさ」
「頑張ってね、マキシマム」
いいレースを楽しんで来い。
競馬四コマ『馬なり1ハロン劇場』著:よしだみほ より
逃亡屋一家編
1コマ目 「大爆走でナリタブライアンにケンカを売る初代ツインターボ」
2コマ目 「大爆走でシンボリクリスエスをバテさせる2代目インパクトターボ」
3コマ目 「大爆走でゴールドシップを煽る3代目マキシマムターボ」
4コマ目 「我ら逃亡屋一家参上!」で決めポーズ
次回予告
有馬記念を制し、秋3冠を達成した私。
次に挑むはURAファイナル。
今まで戦ってきたライバル達と本当の意味での決勝戦だ。
負っけないぞー!えい!えい!むんっ!
第2シーズン第19話 ライバル(ウマ娘)