これが逃げるという事だ   作:福泉

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お待たせしました。もう間もなく有マ記念へと入ります。
以前言っていた架空馬の話ですが一応のプロットが出来たので折角ですしこのまま続きで投稿したいと思います。
ご意見、ご感想いただけると励みになります。


05話 有マ記念に向けて その2

「たりゃー!」

「ちょっと師匠ぉ!ランニングだよぉ!」

どうしても全力疾走し始めてしまうツインターボをトウカイテイオーがなんとかなだめながらランニングをする。

「あの全力疾走癖はトレーニングでも収まらないのか・・・ゴールドシップも癖が強いが負けず劣らずか・・・あいつ良くあのチームをまとめ上げられるな」

沖野トレーナーは妙な関心をしながらツインターボを注視する。

「それにしてもあの蹄鉄を渡したのはなんでだ?あれはマックイーンの速度を上げるのに使ってたやつだろ?」

何度も踏まれて少しトラウマになっているゴールドシップが背中を気にしながら訊ねる。

「あの蹄鉄じゃあ最高速度は殆ど上がらないぞ」

「マジで?」

「ああ、あの時マックイーンの強化は主に筋力、車で説明すればトルクの強化だ。最高速度はマックイーン元々の素質があったから後はそこに加速力を追加してやったという訳だ」

「ん?じゃあなんでツインターボにも使わせてるんだ?スタミナ強化ならテイオーにやったトレーニングでいいんじゃないのか?」

トウカイテイオーが距離延長を行っていた時はひたすらスタミナ強化のトレーニングだけだった。

その事を疑問に感じたゴールドシップが沖野トレーナーに訊ねた。

「それはツインターボの体が小さい事が理由の一つだ。あいつもマックイーンと同じで加速力が低い。そのせいでスタートの加速でハナを取りに行く時にスタミナを多く消費してしまう。スタミナ強化も確かに必要だがそれだけではツインターボの距離延長は難しい。最大燃料だけではなく燃費改善も必要だ。だからあの蹄鉄で筋力強化をしつつスタミナトレーニングを重点的に行うという方針だ」

「は~トレーニング一つでもそんだけ複雑なんだな~」

「お前はもう少し自分のやりたいトレーニング以外ちゃんとやれ。こっちはちゃんと一人一人のデータを元にトレーニングを考えてるんだぞ」

「嫌でゴルシ」

相変わらずのゴールドシップに沖野トレーナーはため息をついた。

 

「はひぃ~これで2往復ぅ~」

坂路を終えたツインターボがへたり込む。

「よーしいったん休憩だ。水分補給はしっかりとな」

「ありがと~」

沖野トレーナーが差し出したスポーツ飲料をツインターボは笑顔で受け取ると勢いよく飲む。

「ツインターボ、腹は大丈夫か?」

「ん?別に何ともないけど?」

「それじゃあこれを食べておけ」

そうって沖野トレーナーはエナジーバーをツインターボに渡した。

「分かった~」

程よく疲れていた事もありツインターボは喜んでエナジーバーを食べる。

「あ、師匠いいな~」

「テイオーも食べるか?」

「いいの!?」

「食べすぎは厳禁だからな。テイオーはこの一個だけだぞ」

「わーい!」

トウカイテイオーもエナジーバーを受け取ると喜んで食べ始めた。

「このエナジーバーって結構おいしいね~」

「ね~」

「ウマ娘用に開発されたエナジーバーだな。人参味とリンゴバター味が売りらしい」

仲良くエナジーバーを食べる二人に沖野トレーナーも少しほっこりする。

「さて、食べて少し休憩したら次のメニューに移るからパパッと食べてしっかり休んでおけよ」

「うん!分かった!」

ツインターボは元気よく返事をした。

 

「はう~午前中だけでヘロヘロだよ~」

「流石にあのトレーニングは私でもキツイわね」

鬼トレーニングを自分に課すダイワスカーレットでもツインターボのトレーニングはキツイと感じていた。

「それにしてもツインターボってそんな少しの飯で足りるのか?」

ウオッカがウマ娘の食事量にしては少ないツインターボの食事を見てそう訊ねた。

「ターボはいつもこれくらいだぞ?」

「ええっ!?そんなちょっとじゃ直ぐお腹すいちゃいますよ!私ぐらい食べないと!」

ツインターボの言葉にスピカ一の大食漢(ただし甘味はマックイーンに譲る)のスペシャルウィークが驚きの声を上げる。

「スぺちゃんはちょっと控えましょうね?最近またムッチリしてますよ?」

「あげません!」

「いやスぺちゃん誰も取らないから!」

アメリカ遠征から帰ってきたサイレンススズカに注意されたスペシャルウィークだったが必死の形相で食事を死守しようとする様にトウカイテイオーが呆れる。

「ツインターボ、これくらいなら追加で食べられるか?」

自分の食事を持ってきた沖野トレーナーがツインターボに小ぶりのおにぎりを渡す。

「ん~何とか食べられそうだけどなんで?」

「スタミナをつけるには今のツインターボの体格だとちょっと難しくてな。まず最初に少し太る必要がある」

「ええ!?ターボ太っちゃうの!?」

「少しだけだ。それに最終的にはトレーニングで元に戻るから安心してくれ」

「う~分かった~」

乙女的にちょっと納得しがたいがこれも有記念の為とツインターボは頑張って食事を食べ終えた。

 

「ひぃ!ひぃ!」

「まだ200メートル残っているぞー!」

「はひぃ~!」

ダートコースを懸命にツインターボが走っている。

トレセン学園のダートコースは1周2000メートルで作られている。

1周毎に水分補給と小休憩を行うが既に4周走っているツインターボは重い蹄鉄とあまり得意ではないダートコースにヘロヘロだった。

ツインターボはなんとか残り200メートルを走り切るとその場に倒れこんだ。

「よーしダートはここまで。休憩だ。これ、食べれそうか?」

「はひ、はひ・・・なんとか・・・食べるぞ・・・」

「そうか、がんばれよ」

沖野トレーナーが差し出したエナジーバーとスポーツドリンクを受け取りながらツインターボはいつもの笑顔を浮かべた。

 

その日の晩、沖野トレーナーの元にカノープストレーナーが訪ねてきた。

「どうですか?ターボさんの様子は」

「同じトレーニングを続けると少し飽きっぽさが見えるが本人なりに真剣に取り組んでいるよ。苦しくても投げだす事は無かった」

「・・・そうですか」

普段は中々同じトレーニングをやりたがらないツインターボが同じトレーニングをやり続けている。

カノープストレーナーは真剣なのは嬉しい事だがツインターボが気負いすぎていないか心配になる。

「大丈夫だ。メンタル面もしっかり見ている」

「すみません、顔に出てましたか・・・」

「考えることは皆同じさ。何せ俺たちはウマ娘が大好きでトレーナーやってるんだからな」

「・・・はい」

沖野トレーナーの言葉にカノープストレーナーはうなずいた。

 

2週間後・・・

 

「よ~し4往復終了だ~!」

「よしよし、いい調子だぞツインターボ」

ツインターボは確実にスタミナが付き始めていた。

小柄だった体も最初に少し太らせたおかげで痩せずにがっしりとした体になり始めている。

食事量もトレーニングだと頑張って増やし、今では一般的なウマ娘より少し多いくらいに食べられるようになっている。

「師匠今日もがんばってるね~」

「おう!今のターボならテイオーにだって負けないぞ!」

「お!言ったな~!」

トウカイテイオーとじゃれあう程に体力に余裕が出来てきたツインターボを見て沖野トレーナーは少なくとも2200であれば問題なく、2400でも辛うじて走り切れるであろうスタミナが付いたと予測する。

勿論まだまだ有記念を走り切れるかどうかは分からないが0だった数字が1にはなった。

それは大きな進歩である。

「テイオーさん、今日のトレーニングはまだ終わっていませんわよ」

「あ、ごめんねマックイーン今行くよ。それじゃあ師匠も頑張ってね~」

「おう!」

メジロマックイーンに促されてトウカイテイオーが手を振りながら走っていく。

「さ、休憩を取ったら次のメニューに移るぞ!」

「おう!エイエイムン!ってやつだな!」

「なんだそりゃ?」

「さぁ?マチタンが良く言ってた!」

沖野トレーナーは首を傾げた。

 

その日の夕方・・・

 

「はひぃ~・・・終わったぁ~・・・」

「よしよし、前よりずいぶんと沢山のメニューをこなせるようになってきたな」

今日の最後のトレーニングを終えてトレーニング場に仰向けで倒れているツインターボに沖野トレーナーが笑顔を見せる。

「くぅ~俺もあれだけ頑張ればいつかきっと有記念で勝てるな!」

「あら、有記念で勝つのは私が先よ」

「なんだと!」

「なによ!」

いつもの喧嘩が始まる二人だが周りはあまり気にしない。

お互いを認め合っているからこそ突っかかるのであってそれ以上の事は何もしないのだから下手に触れるとかえって面倒臭い事を皆知っているからだ。

「有記念か・・・私も走ってみたいなぁ」

「スズカさん」

自身も長距離は適正外である為にちょっと憧れのあるサイレンススズカがそう呟く。

「有記念・・・私には苦い思い出ですわ」

「あはは、マックイーン負けちゃったもんね」

「ええ、あれは私の慢心が生んだ結果。亀ではなく兎であった私のせいですわ」

「亀?兎?どゆこと?」

メジロマックイーンの例え話が分からずにトウカイテイオーは首を傾げる。

「兎と亀という童話がありますでしょ?登場する兎は亀を意識し続けていた為に負け、亀はゴールのみを意識していたから勝った。天皇賞の前にお婆様にそう言われましたわ」

「なるほど~ボクが負けちゃったのもマックイーンを意識しすぎちゃったからなのかなぁ?」

「さすがにそれだけではありませんわ。適正距離が有りますもの」

あの時は確かにメジロマックイーンの事ばかりを考えて勝てる事が当たり前と思っていた。

トウカイテイオーは自身の才能に天狗になっていたのだと改めて反省する。

勝って当たり前が続くと気持ちで負ける。

それはメジロマックイーンもトウカイテイオーも経験してきた苦い記憶である。

「あのシンボリルドルフですら3回の負けがあるんだ。世の中に絶対って言うのは絶対にありえないんだ」

「全戦無敗のウマ娘は確かに何人か居ますがそれも様々な理由が絡んでの結果ですわ。確かに永遠に勝者として君臨するのは不可能ですわね」

ウマ娘として必ず訪れる引退。

それは敗北ではないが勝者としては終わりを迎える。

「そっか、そうだよね」

「お前たちは数あるウマ娘達の中でも最高の頂に手をかけたウマ娘達だ。それは誇って良い事だぞ」

沖野トレーナーはそう言ってスピカの面々を笑顔で見つめた。

「良いセリフですね。先輩」

「うっ!聞いていたのか・・・」

沖野トレーナーが振り返るとそこにはカノープストレーナーともう一人影があった。

「・・・マチタン!もう退院できたの!?」

その影がマチカネタンホイザだと気が付いたツインターボがガバッと起き上がった。

「ウマ娘だから何があるか分からないってお医者様が言うから症状が治まっても念の為に入院してたんだけど、しばらくは激しい運動さえしなければもう大丈夫だって」

そう言ってマチカネタンホイザが笑顔を見せた。

「う゛~マ゛ヂダン゛~!」

「わっ!」

ツインターボがマチカネタンホイザに抱き着く。

「ターボちゃん重いってば~」

「おがえりマヂダン~!」

嬉しそうに、だけれども困った様に笑うマチカネタンホイザと泣き笑いの表情で叫ぶツインターボ。

そんな二人を見て全員が笑顔になった。




下に書く事が無くて寂しいのでちょっとした次回予告をしておきます。

有マ記念に向けて記者達が注目ウマ娘達を取材に訪れる。
怪物三冠ウマ娘、ナリタブライアン
女傑、ヒシアマゾン
ブロンズコレクター、ナイスネイチャ
漆黒のステイヤー、ライスシャワー
快速逃亡者、ツインターボ
それぞれのウマ娘達の決意はいかに
次回 06話 皆の有マ記念、皆の気持ち 

読んでくれないと(ゴルシが)暴れちゃうぞ!
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