これが逃げるという事だ   作:福泉

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番外編お待たせいたしました。


祝勝会

記念を見事に勝利したツインターボの祝勝会。

チームカノープスのメンバーは勿論の事、協力してくれたチームスピカのメンバーを招待して大規模に開催する事になった。

チームカノープスのチームルームをツインターボ以外のメンバーで飾り付けて、料理などを運び込んで盛大に行われる事になった。

 

「せーの「「「「優勝おめでとうツインターボ!!」」」」」

パンッ!パンッ!とクラッカーが鳴る

「にしし、皆ありがとうね」

頭に王冠(南坂トレーナーお手製)を載せたツインターボが照れたように笑う。

ここまで盛大に祝われることは初めてなので嬉しいのと同時に照れくさい。

「それにしてもあのナリタブライアン先輩に勝つなんて本当に凄いわね」

「ああ、あのすっげぇ走り、最高だったぜ!」

ダイワスカーレットとウオッカがそう言って褒めてくれる。

「ターボはただ夢中で走ってただけだぞ」

実際ツインターボはレース中の事は朧気にしか覚えていない。

限界まで出し切ってしまった為に覚えて居られるほど余裕がなかったのだ。

「うーん、私も有記念走りたかったなぁ」

「スズカさんはそのままアメリカに行っちゃってドリームトロフィーリーグに移行しちゃいましたからね」

ツインターボを羨ましそうに見るサイレンススズカにスペシャルウィークが苦笑いをする。

「あれだけトレーニング頑張ったんだし、師匠が勝ててボクも嬉しいよ」

「本当ですわ。トレーナーさんの指導が実を結んで良かったですわ」

トウカイテイオーとメジロマックイーンも我が事の様に喜んでいる。

「おいおい、少しは俺を信用してくれよ」

「日頃のトレーナーの行いが悪いからだろ」

完全管理型のトレーニング指導は取らない沖野トレーナーとウマ娘の関係性はトレーナーと生徒と言うよりは共に戦う仲間と言った関係性の方が近い。

一方で自主性に任せる部分が大きく、さらに沖野トレーナー自体のうっかりもあってどうしても尊敬される対象には成り難い。

その結果チーム間の仲は良いがどうにも信用される関係にはならないのである。

一方で押しが弱くウマ娘に負けてしまいがちな南坂トレーナーはここぞと言う時の行動力や調整力に優れているので尊敬される関係では無いが信頼と信用はされている。

トレーナーという仕事はとても大変なのである。

「チームカノープスの初めてのGⅠ、取られてしまいましたね」

「ホントね。私がこっそり狙ってたんだけどね~」

「でもうれしいです。ターボちゃんのお蔭で私もセンターで踊れましたから」

今までGⅠにあと一歩届かないレースばかりだったチームカノープス。

同じチームメイトとは言え取られてしまったのは悔しいがそれよりも誇らしい気持ちで一杯だ。

「だからいつも言ってるでしょ。ターボが1番だって」

ツインターボはそう言って笑う。

その言葉はいつもどこかに居る弱気な自分を鼓舞する為の言葉だった。

でも今はその言葉を心から喜べる自分がいる。

それがとても嬉しい。

「ちょっとターボおトイレ行ってくるね」

「早く戻ってきてね」

チームルームを出ていくツインターボを南坂トレーナーだけが真剣な表情で見つめていた。

 

「ッハァ・・・」

ツインターボは少し周りから影になった壁にもたれ掛かると胸を押さえて大きく深呼吸した。

「大丈夫・・・ターボはまだ大丈夫・・・」

「やはり無理をしていたんですね」

ツインターボが驚いて顔を上げるとそこには南坂トレーナーが居た。

「トレーナー・・・どうして・・・」

「以前からターボさんの走りには問題があると思っていました。通常のウマ娘は限界ギリギリまで走るという事はしません。本能的に出来ないんです。心臓にかかる負担が大きすぎるからです。ですがターボさんはいつも限界ギリギリまで走ってしまいます。特にレースでの走りはいつ見ていてもヒヤヒヤしていました。いつかレース途中に倒れてしまうのではないかと」

記念では辛うじてレースを終えてからだったがそれでも倒れた時は非常に驚いた。

周りには悟られないようにしていたがあの時は生きた心地がしなかった。

レース中のアクシデントで引退するウマ娘を何人も見てきた。

あの時は最悪の事態が起きたかもしれないと覚悟した。

幸いにもすぐにツインターボは目を覚ました。

表彰式もライブも問題なく終える事が出来た。

しかしカノープスメンバーを常に細かく見ている南坂トレーナーはツインターボの表情が僅かに歪んでいるのを見逃してはいなかった。

周りは転倒した後に体を痛めた程度に思っていた。

事実レース後の軽い診察でも軽い打撲が見つかった程度だった。

だがその内側はボロボロだった。

常に限界まで出し切るツインターボは本人も知らないうちに体を蝕み続けていたのだ。

そしてついに体が悲鳴を上げたのだ。

「ターボさん、近いうちに病院で精密検査を受けましょう。そしてその後の事を考えるべきです。貴女自身の為に・・・」

「ターボは・・・ターボは・・・まだ・・・」

「ターボさん、貴女は十分頑張りました。そして1番にもなりました。もう・・・無理をする必要は無いんですよ・・・」

ツインターボはずっと無理をしてきた。

強気で勝気な発言をずっと続けてきた理由、それは自分が本当に強いウマ娘では無い事を知っていたからだ。

もちろん強いウマ娘でありたいとは思っている。

だがそれを叶えられるだけの才能が無いこと、小柄な体が競争に向いていない事は理解していた。

それでも諦めなかったのはレースへの強い憧れがあったからだ。

「ターボは・・・ターボはぁ・・・」

泣きじゃくるツインターボを南坂トレーナーはそっと抱きしめた。

「大丈夫ですターボさん・・・貴女は強く素晴らしいウマ娘です。これまでも・・・そしてこれからも・・・」

「うん・・・」

ツインターボは耐えきれぬ悔しさを拭い去るように南坂トレーナーの胸に顔を押し付けた。

 

「あ、師匠やっと帰ってきたね。ほらほら、主役が居なくちゃこれを出せないでしょ」

「ごめんねテイオー、ちょっと寄り道しちゃってたんだ」

涙の跡を隠す為に少し寄り道をしていたのは事実だ。

「ケーキの準備ができましわ」

そう言ってメジロマックイーンが大きなホールケーキを持ってきた。

『優勝おめでとう』と書かれたチョコレートのプレートが乗った大きなホールケーキには蝋燭が刺して灯してある。

「ローソクは何か違わなくないですか?お誕生日じゃないんですから」

「ケーキの箱に一緒に入っていたからついやっちゃったけれど確かに違うかも・・・?」

スペシャルウィークの言葉にサイレンススズカも同意する。

「まあいいんじゃないかしら。お祝い事には違いないんだし」

「細かい事は気にした方が負けだぜ」

こういう時は意見が合うダイワスカーレットとウオッカが先に進めようとする。

「まあいいじゃないか。こう言ったパーティーの醍醐味的なもんだろうさ」

「早くケーキ食わせろよぉ」

揉めるよりは先に進ませた方がいいだろうと促す沖野トレーナーと食い気のゴールドシップがケーキを催促する。

「にゃはは、今日は皆ありがとうね。それじゃあ!フーッ!」

ツインターボが蝋燭を吹き消すと拍手が起こる。

その後にキッチリと同じサイズに切り分けられるイクノディクタスの手で切り分けられたケーキを楽しむと、寮の門限も考えて解散となった。

こうしてツインターボの祝勝会は終わりを迎えた。

 

そして翌日、トレーニングを休んでツインターボは病院で精密検査を受けた。

「全身を検査いたしましたが骨格などには大きな影響は見られません。ですが心電図に少し異常が見られます。そこまでではありませんが不整脈の兆候があります。これまでも激しいトレーニングやレース中に心臓が痛む事がありませんでしたか?」

「確かにギリギリまで走ると胸が痛い事があったぞ。それとこの前の有記念の後は何もしてなくても少し変な感じがした事があったぞ」

その言葉を聞いた医師がカルテに書き込む。

「やはりそうでしたか。今回の気絶は恐らく過労が原因であってそこまでの危険な気絶ではないでしょう。ですが気絶自体は決して安心できる事ではありません。今後も同じような走りを続ければ最悪命にかかわります」

その言葉にツインターボは俯いた。

「ツインターボさん。何もレースを諦める必要はありません。まずは少し体を休め、その後リハビリを行えば問題なく走れるようになりますよ」

「本当?」

「ええ、本当です」

医者の顔は決して嘘は言っていなかった。

「決して楽な道ではありませんが一緒に頑張って行きましょう」

「おう!ターボ頑張るぞ!」

ツインターボはそう言って笑った。




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