これが逃げるという事だ   作:福泉

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番外編お待たせいたしました。
リクエスト受付は今日(2021年12月19日)で締め切りとさせていただきます。
ご了承願います。


二人だけの有マ記念

それはとある日の事・・・。

 

「それで、ボク達に用事ってなんなのさ?アグネスタキオン先輩」

「トレーニングもありますからお話は短いと嬉しいのですが・・・」

トウカイテイオーとサイレンススズカがチームルームを訪ねてきたアグネスタキオンを困惑しつつも応対していた。

「すまん、紅茶なんて気の利いたものは無くてな。ニンジンジュースでいいか?」

「ああ、ここでコーヒーを出されなくて良かったよ。そうしていたら何をしていたか分からないよ」

さり気無く怖いことを言うアグネスタキオンに沖野トレーナーは顔を引き攣らせた。

「実は私の研究の過程で偶然とある薬品が完成してね。私が目指している薬品では無いが今後の開発の役に立つかもしれないからデータが欲しくて君たちにも試して欲しいんだよ」

そう言ってアグネスタキオンは栄養ドリンクの瓶に入った薬品を2本机に置いた。

「え~・・・ボク虹色に発光したりするのは嫌だよう」

「私も流石に発光するのは・・・」

「君たち待ちたまえ。私がいつも発光する薬ばかりを作っていると思っているのかね?」

アグネスタキオンは心外だと言わんばかりの態度をする。

「でもアグネスタキオン先輩のトレーナーさんいつも変な色に光ってるよね」

「・・・科学の発展に犠牲はつきものさ」

アグネスタキオンはそう言って白々しく視線を逸らした。

「ンンッ!話を戻すがこの薬はそう言った面白ろ薬ではない。私が作ろうとしている薬の事は知っているよね?」

「確かウマ娘の新たな可能性を開花させる薬・・・でしたよね?」

「ああ、その通りだ。この薬はその過程で出来た偶然の副産物でね。ウマ娘の全盛期と同等の能力を取り戻す薬さ」

「全盛期ってうぇ~!?」

「嘘でしょ!?」

「なんだって!?」

その言葉に全員が驚いた声を上げた。

「ただ残念ながら永続性は無い。あくまで一時的だ」

「いや・・・それでも十分に凄い薬だな」

この薬さえあればケガで引退したウマ娘達にも希望が見えてくる。

「あと勘違いしないで欲しいのはあくまで全盛期と同等の能力という点だ。体の不調が完全に治り、元通りになる訳ではない」

「それって・・・全盛期と同じ速さで走れるけれども全盛期と全く同じ走りは無理って事?」

「ああ、あくまで体は今のままだ。ケガをした後の走りの癖はどうしようもない。それに全盛期の能力以上にはならない。ブースト薬とは違うと言う事だ」

その言葉にトウカイテイオーとサイレンススズカは少し残念そうにな表情をした。

どちらも大きなケガを体験しているだけに今なお若干の後遺症がある。

それらが消えてなくなる訳ではないのが非常に残念である。

「今はまだそれが限界だが今後も研究を続けていけば完璧に全盛期を取り戻せる薬が出来るかも知れない。だから君たちにデータ集めの為に飲んでレースをして欲しいのだが・・・」

「ねえスズカさん」

「何ですか?テイオーさん」

「スズカさんの薬・・・ボクに譲って貰ってもいいかな?」

「マックイーンさんと走りたいんですね」

サイレンススズカの言葉にトウカイテイオーは首を横に振った。

「マックイーンじゃなくて・・・師匠と・・・ツインターボと走りたいんだ」

「ターボさんと・・・」

「結局ボクとツインターボはレースを走れなかった。ボクが体調を考えてドリームトロフィーに移行しちゃったって言うのもあるけど・・・ツインターボはもう全力で走れない・・・」

ツインターボが心臓に不調を抱えている事は学園内にも広まっている。

リハビリを続けながらレースに出る為にドリームトロフィーに移行したがそれでもかなり厳しいと言われている。

「多分ボクとツインターボが戦えるチャンスはもう無い。タイミングを合わせてレースに出るにしてもお互いの体調を考えると難しい。だからこのチャンスを逃したくは・・・」

「テイオーさん・・・私は大丈夫ですから是非どうぞ」

「ありがとうスズカさん」

「あ~・・・テイオー君スズカ君・・・盛り上がってる所大変申し訳ないのだがこの薬はまだ沢山あるから別にスズカ君の分を譲る必要はないぞ」

「早くいってよ~!」

その言葉に盛り上がっていた二人は色々恥ずかしくて真っ赤になった。

 

「・・・と言うわけでツインターボ君にも是非協力して欲しいのだがどうかね?」

「おう!難しい事は良く分からないがターボで良ければいつでも手伝うぞ!」

「・・・非常に不安だがまあ何かしらのデータは手に入るだろう」

若干人選ミスだなとアグネスタキオンも思ったがリハビリしながら現役続行しているウマ娘は中央トレセン学園でも少ない。

大した事のない怪我でも恐怖から走る事がトラウマになってしまいそのまま引退してしまうウマ娘も少なくはないのだ。

選好みできるほどの人数が確保できる訳ではないし、少しでもデータが欲しい以上は多少の不確実性は諦めるしかないだろうとアグネスタキオンは気を取り直した。

「その心配は不要だと思いますよアグネスタキオンさん」

「おや?どういう事かね南坂トレーナー」

「こう見えて以外かもしれませんがターボさんは口で説明するのは苦手ですが説明が出来ない訳ではありません。それになぜか良く気の合うイクノディクタスさんがターボさんの説明を補足してくれますから抜けは少ないかと思います」

「ふむ、ならばよろしく頼むよ。私は他にも頼みに行くのでこれで失礼させていただくよ。邪魔もしたくはないからね」

そう言ってアグネスタキオンはカノープスのチームルームを出て行った。

それと入れ替わるように真剣な表情をしたトウカイテイオーが入ってきた。

「あれ?テイオーどうしたの?」

「ツインターボ、あの日の約束・・・ボクとの勝負、受けてもらうよ」

そう言ってトウカイテイオーは以前ツインターボから送られた様に果たし状をもってきた。

誤字を良くするものの意外な達筆のツインターボと違い、子供っぽい丸文字じみたトウカイテイオーの果たし状をツインターボは一瞬キョトンとした表情で見つめたあと、満面の笑顔で受け取った。

「おう!勿論だぞ!」

「しかしテイオーさん、ターボさんはまだリハビリ途中で・・・あ!?」

南坂トレーナーは先ほどアグネスタキオンが渡した薬を見る。

「うん、ボクも同じ薬を貰ったよ。これを飲んで真剣勝負しよう」

「コースは?」

ツインターボの表情がどこか獲物を狙う様な笑みへと変わる。

「・・・芝、右回り、距離・・・2500メートル」

「・・・有記念」

そのレースはトウカイテイオーにとっても、ツインターボにとっても思い入れの深いレースだ。

「流石に有記念と全く同じには出来ないけれど、ボク達が戦うには一番相応しいと思うんだ」

「おう!勿論だぞ!」

トウカイテイオーが突き出した拳にツインターボが拳をぶつける。

「感ッ動ッ!そのレース是非私に手伝わせて欲しい!」

「うわぁ!理事長どっからいたのさ!?」

突如現れた秋川理事長に全員が驚く。

「些事!そんな事より折角の真剣勝負、相応しい舞台を用意しようではないか!」

「あの秋川理事長・・・流石に職権乱用では・・・?」

「愚問!ウマ娘達を輝かせるのが我々の使命、よって問題は無い!万事任せて貰おう!」

そう言って置いてきぼりなトウカイテイオーとツインターボを残して秋川理事長は去っていった。

その後、事がばれてたづなさんにお説教される秋川理事長が居たとか居ないとか・・・。

しかし二人の真剣勝負の舞台は滞りなく整い、後日二人は中山競場に訪れた。

 

『さあ!本日行われますエキシビジョンレース!トウカイテイオーVSツインターボのマッチレースです!このレースは現在URAにて協議中のアグネスタキオンが新規開発した、ウマ娘の全盛期と同等の能力を取り戻せる薬を使用したテストレースです!今後の結果次第では怪我で惜しくも引退したあのウマ娘達が再びターフに戻ってくるかもしれません!』

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」

中山競場を地鳴りのような歓声が包み込む。

「たはは・・・なんかすっごい大事になっちゃったなぁ・・・」

ただツインターボとの約束を果たしたかっただけだったのに、とトウカイテイオーは苦笑する。

「応援ある方がターボは嬉しいぞ!」

細かい事は気にしないツインターボは嬉しそうに観客にアピールしている。

「やれやれ・・・私までこんな舞台に上がる事になるとはね」

トレーの上に2本の薬を乗せたアグネスタキオンが若干飽きれながら二人に近寄ってきた。

「個人的にデータが取れればそれで良かったんだが、まさかURAまで巻き込んだ大騒動になるとは思わなかったよ。秋山理事長の行動力は侮りがたいね」

そう言ってアグネスタキオンは二人に薬を渡した。

『今アグネスタキオンからトウカイテイオーとツインターボに件の薬が渡されました!』

「そんな所まで実況しなくていいよう!」

いつもと異なる状況に少し照れながらトウカイテイオーは薬を飲んだ。

ツインターボはいつもと変わらずに笑いながら薬を飲む。

「少ししたら体が熱く感じると思うがそれが薬が効いている証拠だ。その熱が有るうちは全盛期と同等の能力を発揮できる。念の為に医者も居るし私も待機しているから不調を感じたら直ぐに走るのを止めるように。いいね?」

「うん!」「おう!」

アグネスタキオンはそう言って空き瓶を受け取るとターフから出て行った。

残ったトウカイテイオーとツインターボは薬が効いてくるまでストレッチなどで体を解す。

やがて二人とも体の奥底から熱くなってきた事を係員に告げ、軽く走ってウォーミングアップを済ませるとゲートへと入った。

『さあ!薬の効果が十分に発揮され!二人のウォーミングアップも終わりました!1番にツインターボ!2番にトウカイテイオーです!・・・スタートしました!先に行きますのはやはりツインターボ!トウカイテイオーも好スタートでしたがハナを譲りました!』

「いっくぞー!ターボ全開だー!」

「負っけないぞー!」

二人は気合と共に走り出した。

『さあ二人ともスタート直後のコーナーを曲がり終えて1週目のスタンド前を走ります!先に行くのはツインターボ!あの時を思わせる全力疾走です!大きく離されましてトウカイテイオーが行きます!その差は40メートル程とやはりツインターボが大逃げ!それを追うトウカイテイオーと言った展開です!ツインターボ間もなく第1コーナータイムは57秒2とかなりのハイペース!追うトウカイテイオーも58秒8とこちらもハイペース!2500メートル果たして勝つのはどちらか!』

 

SIDE:ツインターボ

 

動ける!行ける!走れる!

心臓は正常な鼓動をまだ刻んでいる!

肺もまだ痛くない!

これが自分本来の走りだと本能で理解する。

その中でも最高の走りが出来ている。

それはきっとトウカイテイオーも同じだろう。

だからこそもっと引き離さなくてはいけない。

「だってテイオーが一番怖いのは!先行のペースで走りながら最終直線での末脚なんだから!」

その柔軟な体から生み出される全身のバネを利用した驚異的な末脚。

通常末脚に自信のあるウマ娘は序中盤はやや抑え気味な事が多い。

しかしトウカイテイオーは速いペースで進みながら、後半でもしっかりと加速できる優れた足の持ち主だ。

もし怪我さえなければ無敗の3冠ウマ娘として名を挙げていたに違いない。

だからこそ・・・。

「負けられないんだ!絶対に!」

もっと引き離すんだとツインターボはさらに加速した。

 

SIDE:トウカイテイオー

 

足が軽い!確かに以前はこんな走り方だったかもしれない!

足のバネを最大限に活用し、地面を跳ねるように加速していく。

嘗ての自分の走りと遜色無い。

もちろん全てが完璧に同じではないだろうがそれでもここまで走れるのは久しぶりだ。

自分の中でも最高の走りと言える。

それはきっとツインターボも同じだろう。

だからもっと早く走って追い上げなければいけない。

「だってターボが一番怖いのは!限界ギリギリまで出し切れちゃうその走りなんだから!」

通常限界寸前まで走れるウマ娘は非常に少ない。

本能的に制限してしまうからだ。

しかしツインターボはその制限が無い。

いつでも疲れ果ててしまうまで走り切ってしまう。

その走りがあの伝説を生んだのだから。

だからこそ・・・。

「負けられないよね!絶対に!」

追い抜くためにトウカイテイオーはさらに加速した。

 

『さあ向こう正面を回って早くも第3コーナーにツインターボが掛かる!トウカイテイオーもその差をジリジリと詰めていきます!ツインターボ見事なコーナリングで第4コーナーへと入ります!追うトウカイテイオーその差がどんどんと縮まります!さあツインターボが最後の直線に入りました残り300メートル!トウカイテイオーとの差はもう残り4バ身だ!トウカイテイオーがどんどんと追い上げる!ツインターボが懸命に逃げる!さらに差が縮まる!残り200メートルでその差は1バ身!トウカイテイオーがツインターボを捕らえた!しかしツインターボも粘る!トウカイテイオー差し切れるか!残り100メートル!並んでいる!ツインターボとトウカイテイオーが並んでいる!』

「負けられないんだぁ!」

「勝つのはボクだぁ!」

『並んだままゴールイン!勝ったのはどっちだ!ビジョンにご注目ください!これは・・・トウカイテイオーが僅かに先にゴールイン!勝ったのはトウカイテイオーです!しかしツインターボも数センチでの敗北!実に良いレースでした!二人に惜しみない拍手をお願いいたします!』

「ゼヒーッゼヒーッ・・・負けたぁ・・・さすがテイオーだぞ・・・」

「ハァ・・・ハァ・・・強かったよ・・・ツインターボ・・・」

やはり限界まで出し切って地面に寝転がるツインターボにトウカイテイオーが大きく息をしながら手を差しだした。

ツインターボがその手を握って握手をすると一段と大きな歓声が轟く。

次の瞬間トウカイテイオーは膝から力が抜けてツインターボに伸し掛かった。

「ぐぇぇ・・・テイオー重いよぉ・・・」

「ごめんねツインターボ・・・薬の効果が切れちゃって力が入らなくなっちゃった」

近くで待機していた係員がすぐに駆け付けてトウカイテイオーをストレッチャーに乗せてくれた。

同じくツインターボもストレッチャーに乗せられた。

「ふむ・・・激しいレースだと効果時間が短くなるようだな。それに効果時間切れで脱力か・・・。いいデータが取れたよ。二人とも今日はありがとう。後日体感レポートを提出してもらうよ」

アグネスタキオンが何かをメモしながら二人にそう告げる。

「うぇぇ~・・・レポート苦手だなぁ・・・」

「ターボと一緒にイクノに手伝ってもらおう」

「あははは、そうだね」

二人は笑いながらもう一度握手をした。

そして観客に二人で手を振るとそのままストレッチャーで退場した。




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