これが逃げるという事だ   作:福泉

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第3シリーズ 皇帝のキセキ 01話 皇帝入学

春、入学のシーズン。

1台の黒いセダンが中央トレーニングセンター学園の校門前につけた。

即座に運転手が下りると後部座席のドアを開ける。

「お嬢様、行ってらっしゃいませ」

「ああ、ありがとう。行ってくる」

高身長のウマ娘が運転手に礼を言って学園内に入る。

「・・・ここがトレセン学園か。お母様、貴女への誓い。私は必ず果たして見せます」

決意を新たにそのウマ娘は歩き出そうとした。

「わぷっ!」

・・・が、その瞬間何かにぶつかった。

「す、すまない。大丈夫か?」

それはとても小柄なウマ娘だった。

「あはは、こっちこそごめんなさい。憧れのトレセン学園に入れたのが嬉しくてよそ見しちゃってましたから。えっと・・・先輩・・・ですか?」

小柄なウマ娘が首を傾げたのは先輩と思わしきウマ娘の制服が明らかに新品だったからだ。

「いいや、今日入ったばかりの新入生だ。私の名前はターボエンペラー。よろしく頼む」

「わぁ!貴女とっても大きいのね。私も新入生だよ!メロディールーンって言うの!よろしくね!」

「ああ」

同じ新入生にはどうやっても見えないがターボエンペラーとメロディールーンは握手をした。

「さて、あまりのんびりしていては式に遅れてしまう。早く講堂へ向かうとしよう」

「うん、そうだね」

二人は揃って・・・大柄なターボエンペラーが歩幅を合わせながら講堂へと向かった。

 

「歓迎ッ!諸君らは栄えある中央トレーニングセンター学園へと入学した!どの様なウマ娘を目指すのかは個人個人の思いがあるだろうが!切磋琢磨して素晴らしきウマ娘になる事を期待する!以上、理事長の秋川である!」

どうやら長い演説は嫌いらしい秋川理事長の簡潔ながらも的確な挨拶に拍手が送られる。

「続きまして生徒会長のシンボリルドルフより入学生への挨拶です」

その言葉に何人かのウマ娘たちの声が聞こえる。

7冠と言う前人未到の栄誉を手にしたウマ娘シンボリルドルフ。

その凜とした姿に憧れを抱くウマ娘は少なくない。

「あれが皇帝シンボリルドルフ・・・」

その姿には運命的な何かを感じえないターボエンペラーだが、その目は憧れの存在を見つめる目ではなかった。

「今はまだ皇帝の名は預けておこう・・・。だがいずれ私のモノとさせてもらう!」

小さく、けれどもはっきりとターボエンペラーはそう言葉にした。

 

入学式が終わると教室へと移動し、自己紹介の時間となった。

「スカーレットランスよ。憧れのウマ娘はミスパーフェクトのダイワスカーレット先輩よ。あの人みたいに1番は譲らないわよ」

明るい栗毛のウマ娘がそう強気に宣言をする。

大柄なターボエンペラーほどの身長がある訳では無いが、その発育具合は非常に良く、同年代よりも明らかに良い体をしている。

「メロディールーンです。こんなちっこい見た目ですけど飛び級じゃないですよ。一生懸命頑張りますので仲良くしてください」

可愛らしいメロディールーンに思わずクラス全員が笑顔になる。

大柄で大人びているせいで可愛らしいものと縁が薄かったターボエンペラーは一際表情が緩んでいる。

しかし自分の番が次である事を思い出すと表情を引き締めて立ち上がった。

「ターボエンペラーだ。体が弱かった為に競争ウマ娘になれなかった母の為に、そして自分の為にこの学園へ入った。目指す目標はまずはクラシック3冠を第1に狙っていきたいと思う」

その発言に教室の空気が変わる。

ここにいるのは才能の上澄みとも言えるウマ娘達ばかり。

思いは色々あるだろうが当然誰もがクラシック3冠を狙っている。

あえて口にはしなかった自分たちの夢を、ただの第1目標と言い切ったターボエンペラーに様々な視線が絡みつく。

だがターボエンペラーはそれらをあえて無表情で受け流した。

少なくとも退屈な学園生活にはならなさそうだと心の中で思いながら。

その後数人の自己紹介を終えた後、ホームルームの終了を教員が宣言して生徒達は各寮へと向かった。

「ここが美浦寮か。さて、同室は誰だろうか」

ターボエンペラーは事前に渡されていた寮の振り分けを確認しつつ中へと入っていった。

 

「よく来た新入生達、アタシは寮長のヒシアマゾン。気軽にヒシアマ姉さんとでも呼んでくれ」

寮のロビーに集まった新入生達に寮長のヒシアマゾンがそう言って笑顔を見せる。

「さあまずは寮の中を案内するよ。ついてきな」

新入生達はヒシアマゾンにゾロゾロとついていく。

寮の施設の説明や諸注意を終えるとヒシアマゾンは新入生の名前を次々と呼ぶと部屋番号が書かれた紙とシーツ類を手渡していった。

「次、ターボエンペラー・・・こりゃまたデッカイのが入ってきたね。ヒシアケボノよりデカイんじゃないか?っとすまない、話がそれたね。アンタの部屋は415号室だよ。相方は同級生じゃなくてお前の先輩だ。悪い奴じゃあ無いんだが色々と誤解を受けやすい奴でな。気を悪くしないで付き合ってやってくれ」

「分かりました。ありがとうございます」

シーツ類を受け取ったターボエンペラーは部屋へと向かった。

 

「失礼します。今日からお世話になりますターボエンペラーと申します。先輩のご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします」

「ああ、(ヒシアマ姉さんから)話は聞いている。私はマキシマムターボ。(未熟な)私では(指導は)難しいだろうがよろしく」

部屋の中で「アナタもこれでコミュ力アップ!?」と書かれた雑誌を真面目な表情で読んでいたマキシマムターボが雑誌を机に置いてそう答えた。

「・・・なるほど、そういう事ですか」

恐らく非常に不器用かつコミュニケーション能力不足なのだろうマキシマムターボの様子にターボエンペラーは苦笑した。

気難しい先輩では無いのはありがたいが気楽に打ち解けられる先輩でもなさそうなのは色々と大変かもしれない。

そんな事を考えながらシーツを空いているベットに置いて振り返るといつのまにか共用のテーブルの上にコーヒーの入ったマグカップが2つ置かれていた。

もちろん砂糖とミルク付きで。

「・・・ありがとうございます」

「大した事ではないさ・・・」

言葉は少なく色々と不器用な先輩だが少なくとも本人なりに打ち解けようとしてくれているのだ。

私から拒絶してどうする。

ターボエンペラーはそう思いなおしてコーヒーを飲んだ。

その味は少し苦いがとても美味しかった。

 

翌日・・・。

 

「それではこれより第1次選抜レースを始める。名前を呼ばれたものからこちらに並ぶように」

選抜レース進行役のトレーナーが名簿を片手に次々とウマ娘を呼んでいく。

呼ばれたウマ娘は返事をするとスタートラインに並び、お手伝いのウマ娘の合図でレースを開始する。

「早く私の番にならないかなー。ワクワク」

レースへの興奮を全身で表現するメロディールーンについついターボエンペラーは顔を綻ばせてしまう。

良家故にどうしてもある程度は厳しくならざるをえない生活だったが、それでも決してガチガチの生活ではなかった。

しかし幼少期から大人びていた性格をしていたターボエンペラーに贈られる物は、どうしても可愛いからは縁が遠い物が多かった。

そんな中でも数少ない可愛い物が精巧に作られたビスクドールだけだった。

それもある程度の年齢になるとやはり貰うことは無くなり、可愛い物に若干飢えていた。

両親は流石に自分の娘が可愛い物が好きだという事は知っていたが周りの目もある為に中々プレゼントする事も難しかった。

その結果、行き処を失った可愛い物を愛でたいターボエンペラーの気持ちは未だに心の奥底でしっかりと燻ぶっている。

見た目も仕草も可愛らしいメロディールーンは、ターボエンペラーのそんな気持ちを激しく刺激して堪らない。

そんな事を緩んだ頭で思っていると何やら下半身に違和感がおきた。

怪我をした様な事は無い筈だがと思って下を見ると黄色いシャツに黒いベストの男性が真剣な表情をしながら自分の足を無遠慮に触っている。

「これは凄い・・・頑丈な足にそれを支える見事な筋肉・・・強力な瞬発力を生み出すのに十分過ぎる力強さだけではなくここまでのしなやかさを併せ持っているなんて・・・」

「・・・・何をしている」

蹴り飛ばすのは流石に問題があるだろうからと不審者の頭を鷲掴みにした。

「あだだだだだだだだだだ!」

「乙女の足を無断で触るとはどういうつもりか弁明があるのなら聞こう」

慌てふためいたりはしないがそれでも流石に不機嫌になったターボエンペラーの容赦ないアイアンクローが男性の頭にめり込む。

「す、すまない!俺はこの学園のトレーナーの沖野だ!有力なウマ娘の足をみるとつい発作的に触ってしまうんだ!」

トレーナーの証であるピンバッチを指さしながら沖野トレーナーが必死に弁明する。

「そうか・・・一応この件は後で他の教員と相談させていただく。悪気がないとはいえ不愉快だ」

「う・・・また減給されるのか・・・」

痛む頭を抑えながら沖野トレーナーは去っていった。

「やれやれ・・・あのトレーナーに指導されるウマ娘が可哀想になってきた・・・」

「次!1番にアッシュストーリー、2番にディープモッド、3番にレミゼラブル、4番にエービオン、5番にフィルムコート、6番にディアフォーン、7番にメロディールーン、8番にターボエンペラー」

自分の番が来たらしく名前を呼ばれたターボエンペラーは色々あって緩んでいた気持ちを引き締めると練習用コースに入っていく。

「一緒にがんばろうね」

「ああ、いいレースにしよう」

隣に並んだメロディールーンに声をかけられ、先ほどの事もあってかやっぱり気持ちがレースに集中できなかった。

「ヨーイ、スタート!」

その結果ターボエンペラーは出遅れてしまった。

 

「ここからアッシュさんの伝説が始まるッスよ!」

アッシュストーリーは得意の逃げをうった。

他のウマ娘も先行策なのかアッシュストーリーに続く。

数少ない差しを選んだメロディールーンと出遅れたターボエンペラーが最後尾だ。

「このままぶっちぎってやるッス!」

アッシュストーリーがそう思った時だった。

ゾクリッ!

後ろから強烈なプレッシャーを感じたアッシュストーリーは後ろに視線を向けた。

すると他のウマ娘達も後ろからのプレッシャーを感じたのか全員後ろを見ていた。

「あ・・・」

そして、視線の先には獰猛な笑みを浮かべた(牙を剥いた)ウマ娘(化け物)が居た。

「大丈夫!アッシュさんの足なら十分に逃げ切れ・・・る?」

慌てて前を向いて全力疾走しようとしたアッシュストーリーの目に信じられないモノが映った。

「何で前に居るッスか!?さっきまで後ろに居たはずッスよね!」

自分の前を走るウマ娘(化け物)

つい先ほどまで一番後ろに居たはずのウマ娘(化け物)が、逃げ足自慢の自分を置いてどんどんと先に進んでいる。

「認めないッス!認めないッスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

もう後半の事なんてどうでもいい!

今ある全力で前を走るウマ娘(化け物)を打ち倒す!

そんな気持ちとは裏腹にウマ娘(化け物)の背中は小さくなっていった。

秀才では本物の天才(化け物)には敵わない。

そんな光景をマジマジと見せつけられたレースとなった。

 

「凄いわね・・・あの子・・・」

「あの出遅れからあそこまで突き放すなんて・・・」

新入生のスカウトに来ていたトレーナー達がざわつく。

「早すぎて逃げに見える、ウチのマルゼンスキーと同じね」

「違う・・・そうじゃない・・・」

チームリギルを率いる東条トレーナーの言葉に沖野トレーナーが口を開けたままそう呟いた。

「あら、沖野君。どういう事かしら?」

「俺はいつもの癖であいつのトモを触ったんだが・・・」

東条トレーナーはまたなのねと額に手を当てたがとりあえず話を聞くことにした。

「頑丈な骨格を支えるしっかりとした筋肉、僅かに違和感があったが差し、追い込み向きの脚だと思っていた。だがあの走りは完全に逃げの走りだ」

「差しや追い込みが得意なウマ娘だって逃げをしない訳ではないわよ」

実際に自分の可能性を広げるためにあえて苦手な走りをするというウマ娘はある程度居る。

「だがそれは逃げっぽい走りであって本当の逃げの走りじゃない。どう足掻いても本物の逃げとは似ても似つかない。けれどもさっきの走りは本物の逃げの走りだった・・・。」

その言葉に東条トレーナーの表情が変わった。

「沖野君、何が言いたいのかしら?」

「さっき言った違和感なんだが実は少しだけ心当たりがある・・・その違和感を感じた事があるウマ娘は俺の中でもたった2人だけ・・・マヤノトップガンとサムシングブルーだ」

「・・・脚質自在、まさに才能の塊ね」

学園No.1チームを率いる東条トレーナーでさえ冷や汗を隠せない。

「さらに付け加えれば恐らく彼女の才能は先ほどの2人を上回ると私は見ています」

「桐生院トレーナー・・・」

2人の元に桐生院トレーナーがやってきた。

「私は彼女の母親を知っています。まだ私が幼い頃、桐生院家前頭首、私の御爺様が指導に当たっていたウマ娘、クイーンダイアナ。恵まれた体躯に抜群のスタミナを持っていた彼女は残念ながら競争ウマ娘にはなれなかった・・・」

「・・・何かあったのね」

「はい・・・彼女の足は・・・強すぎる自身の脚力に耐え切れなかったんです・・・もし骨がぜい弱でさえなければ無敗の3冠は勿論、それ以上の偉業を成し遂げていただろう。御爺様は晩年そう語っていました・・・」

「まさに至高のウマ娘・・・それ故に指導するとなると並大抵の覚悟じゃあ無理だな・・・」

沖野トレーナーの言葉に2人は肯いた。

「脚質自在のウマ娘を指導するのは簡単では無いわ・・・そこにくわえてあれだけの才能ともなれば・・・」

「下手な指導をすれば逆効果・・・トレーナーとしての資質を疑われてしまいますね・・・」

恐るべき才能のウマ娘を目にしたトレーナー達は唯々驚愕するだけだった。

 

「ふぅ・・・」

息一つ乱さずにターボエンペラーは深呼吸をした。

そんな様子を見た一緒に走っていたウマ娘達は息も絶え絶えの状態で絶望の表情をしていた。

ただ1人を除いて(・・・・・・・・)

「エンペラーさんすごい!私もあんな走りをしてみたい!」

そこには憧れの視線を隠そうともしないメロディールーンが居た。

「いいや、私の走りはまだまだだ。今はただ力任せの強引な走りに過ぎない。これではいずれ勝てなくなる」

ターボエンペラーはそう自分の走りを評価した。

「なら私ももっともっと強くなる!エンペラーさんと一緒に走れるくらいに!」

「ああ、その時を楽しみにしているよ」

ターボエンペラーが差し出した握手をメロディールーンは笑顔で握り返した。




ファンによるキャラクター設定の考察

メロディールーン(メロディーレーン)にやたらとデレるターボエンペラー

ターボエンペラーはメロディーレーンが一緒に走ったレースを全部出遅れている
騎手によるとターボエンペラーは明らかにメロディーレーンが気になっている様子との事(ただし恋愛的な意味ではなく心配、庇護対象として)
牧場関係者曰くターボエンペラーは以前から小柄の馬に好かれる傾向があったらしい
ターボエンペラーもまた小柄の馬を心配する様子がよく見られたとの事
ターボエンペラーは見学者の子供には絶対に怖い思いをさせなかった(愛想を振りまく事もあった。逆に無遠慮な大人には塩対応だったらしい)
ターボエンペラーは小さいものが好き(猫とのエピソードも多い)


皇帝の名前を狙うターボエンペラー

デビュー直後は名前負けするだろうと散々な評価だった為
3冠を達してもシンボリルドルフの孫としてしか評価されなかった為
調教師が「こいつは皇帝を超える馬だ」と豪語した為


コミュニケーションに悩むマキシマムターボ

マキシマムターボはゴールドシップと仲良くしたかったらしいがゴールドシップはマキシマムターボが大嫌いだった
ゴールドシップがなぜ自分を威嚇するのか理由が分かっていなかった
そもそもゴールドシップが威嚇していると思っていなかったかもしれない(騎手曰く)


マキシマムターボと同室な理由

同じ父親、同じ馬主だからだろう


獰猛な笑みを浮かべるターボエンペラー

ターボエンペラーは通常時とレース中の性格がガラッと変わる馬だった(騎手や調教師曰く、本当に同じ馬かと思うほど)
普段は穏やかなターボエンペラーの瞳が、レース中のみまるで獲物に狙いを定めた肉食動物の様だったと多くの騎手が語っている
あまりの凶暴な気配に一緒に走っている気弱な馬が逃げようとして騎手を振り落とした事もあった


競争ウマ娘になれなかった母親

ターボエンペラーの母、クイーンダイアナは事実競走馬として登録されていない
競走馬登録されなかった理由は蹄が弱く、裂蹄を頻発した為
クイーンダイアナはその力強すぎる走りに蹄が耐えきれなかったのだと言われている
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