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先日行われた選抜レースの結果を受けて多くのトレーナーが次々とウマ娘達に声をかけていく。
特に注目を浴びたのは圧倒的な走りを見せたターボエンペラーだったが、そのあまりの才能に気後れしたトレーナー達は声を掛けられずに居た。
チームリギルを率いる東条トレーナーでさえターボエンペラー獲得を悩んでいる。
何人か声を掛けるトレーナーも居たが、ターボエンペラー自身がトレーナー達に魅力を感じず返事を保留している状態だった。
そんな状況で早いものは既にチームに所属してトレーニングを受けているがターボエンペラーは一人で自主トレーニングを続けていた。
「はっはっはっはっ!・・・ふぅ」
ジョギングを終えたターボエンペラーは大きく息をついた。
「自己流では限界がある・・・早くトレーナーを見つけなければならないが・・・」
声を掛けてきたトレーナー達はどうも魅力に欠けた。
彼らのチームは良くて1流半といった所で恐らくターボエンペラーの才能を見てそれにあやかろうとしているのだろう。
「やはり現状No.1のチームリギルか・・・あのトレーナーには些か不安だが才能の塊のチームスピカだろうか・・・」
逆オファーを掛けるべきかどうかとターボエンペラーが悩んでいた時だった。
「うむ、惜しい。実に惜しい」
特徴のある男性の声がする方を向くとそこには初老の男性が立っていた。
「貴方は・・・?」
「素晴らしい才能を持ち合わせてはいるが、己の中のケモノを御しきれんとは実に勿体無い」
男性はターボエンペラーの問いには答えずそう告げた。
「ケモノ・・・」
「そのままではたとえどんなトレーナーの指導を受けようとも、遠からず己のケモノに内側から食い殺されるだろう」
そう言って男性はターボエンペラーを見つめる。
ターボエンペラーもまた男性を見つめる。
「それはつまり、自分ならそのケモノを御する方法を指導できると?」
「はっはっはっ!そんな大それた事なんぞ出来るものか。己の中のケモノを御するのは己しかあるまい」
「ではなんだと言うのだ!」
愉快そうに笑う男性にターボエンペラーはやや苛立つ。
「怒るな怒るな。ケモノを御する方法を教えてやる事は出来ん。だが手助けならしてやろう」
「・・・本当にできるのか?」
「無論、こいつは久方ぶりに腕のなる相手に出会えたわい」
ターボエンペラーは男性の目が恐ろしいほど真剣にこちらを見つめている事に気が付いた。
「・・・ターボエンペラーだ。ご指導ご鞭撻をお願いする」
「元チームベガトレーナーの大塚だ。チームは弟子に譲ったがこれでも嘗てタマモクロスという怪物を生み出した男だ」
こうしてターボエンペラーは大塚トレーナーの指導を受ける事になった。
「さて、まずは目標を定めるとしようか。何を目指したい?」
チームルームは弟子に譲ってしまったらしいのでトレーナールームでの作戦会議となった。
「ジュニア期は特にこれと言った目標は無い。できれば朝日杯かホープフルには出ておきたいところだ。そしてクラシック3冠は確実に取りに行きたい」
「ふむ・・・そこはあくまで通過点と言うわけか。最終目標は?」
「・・・皇帝の名前を手に入れる」
その言葉に大塚トレーナーは野心的な笑顔を見せる。
「ほう、シンボリルドルフを超えると言うか。仮に7冠を達成したとしても厳しいぞ?それ程までにアヤツは絶対的だ」
勝利した数で言えば世紀末覇王と呼ばれたテイエムオペラオーも同数だ。
しかし絶対的王者として君臨しているのはシンボリルドルフである。
なぜならテイエムオペラオーは遅咲きであり、シンボリルドルフとは違い活躍できた期間が短い。
一方のシンボリルドルフは無敗の3冠に始まり、16戦の内敗北はたったの3回。
それ故に同じGⅠの勝利数を持ってしてもシンボリルドルフを超えられなかったのである。
「8冠以上を取れば!」
「可能性はあるだろうな。だが世論はそれほど単純ではないぞ?シンボリ家の血筋ではな」
「・・・知っていたのか」
「お主が思っておるより世間とは狭いものよ」
ターボエンペラーはシンボリルドルフと同じシンボリ家の血を引いている。
「くそ!この血を忌々しく思った事はあれど感謝した事など一度も無い!」
「お主の母君か・・・」
シンボリ家出身でありながらシンボリの名を与えられなかった母、クイーンダイアナ。
脆弱な娘などシンボリ家に相応しくないとばかりの態度はクイーンダイアナにとって屈辱的だった。
それでも腐らず、決して自分に重責を負わせないように育ててくれた母に感謝はしている。
シンボリルドルフへの強い思いは単なる自分の自己満足にすぎない。
だがそれすら敵わないともなればどうしたらよいのか最早分からなかった。
「お主とシンボリ家の血は切っても切り離せないものだ。だがそんなシンボリ家が唯一達成できていない成果を上げればお主個人に目を向けさせる事もできるかもしれんな」
「それは一体・・・」
「日本がまだ1度しか手にした事が無い至高の栄誉、凱旋門賞だ」
それはチームスピカのゴールドシップがたった一度だけ達成した日本競馬界の悲願。
「だがゴールドシップの評価は・・・」
「うむ、アヤツは国内の成績はそこまで良くないからな。まあマキシマムターボという最大のライバルが居たのも理由なんだがな・・・」
お互いに勝ったり負けたりしていた為に完全に評価が割れてしまい、どちらも皇帝ほどの絶対王者といった雰囲気に成らなかったのも大きい。
偶然ゴールドシップが勝った。
世間にはそう思われてしまったのだ。
「だからこそだ。たった一度の偶然ではない完璧な凱旋門賞制覇。それがお主の下克上への道だ」
「偶然ではない・・・完璧な凱旋門賞制覇・・・」
その言葉はターボエンペラーの胸にスッと入ってきた。
「目指します。完璧な凱旋門賞制覇を・・・」
「うむ、ではまず早速やるべき事があるぞ」
そう言って大塚トレーナーは何やら意味ありげな表情をした。
『しばらくは体を鈍らせない程度のトレーニング以上のトレーニングは禁止だ。少し準備が整うまで勉強でもしとれ』
そう言われてしまったターボエンペラーは渡されたトレーニングメニューを終えると手持無沙汰になってしまった。
何もしないのも落ち着かないので仕方がなく図書室でレース教本やフランス語入門書などを読んでみる。
レース教本は為にはなるが読めば読むほど走りたくなってしまうし、フランス語はボソボソとした発音が何とも気になる。
早く本格的なトレーニングがしたいと思いながら数日過ごした。
「待たせたな。相手方の都合がようやくついたのでな」
「初めまして。インパクトターボです。よろしくね」
「初めまして。ターボエンペラーです。こちらこそよろしくお願いします」
大塚トレーナーが連れてきたのは少し小柄なウマ娘、運命的な何かを感じるインパクトターボ先輩だった。
「それでは早速並走するぞ。距離は2000だ」
「「はい」」
練習用コースのスタートラインに二人は並んだ。
「ヨーイ、スタート!」
「ッシ!」
大塚トレーナーの合図と同時にインパクトターボが飛び出した。
ターボエンペラーもそれを追う形で走っていく。
前を走る存在が居る。
その光景がターボエンペラーは許せない。
『走れ!追い抜け!何者にも負けるな!』
内側から膨れ上がる衝動に任せて足を速める。
流石に先輩だけあって中々追いつけなかったがそれでもコースの中頃には追い付く事が出来た。
だが抜けない。
必死に前に進もうとするが並ばれる事を嫌がって速度を上げたインパクトターボを追い抜けない。
『その程度か!』
「私は!負けない!」
内なる声に押されてさらに力を込めて前に進んだ。
「どうだ!」
ついにコース終盤で抜く事に成功した。
しかしそこまでだった。
「え!?」
抜いたと思った瞬間、足から力が抜けた。
転倒する事は無かったが速度はどんどん落ちてゆく。
結局抜き返されてゴールする事になった。
「それがお前の弱点だ」
「何故・・・2000なら走り切れるはずなのに・・・」
「エンペラー、私がちょっとずつ速度を上げてた事に気が付いてた?」
「え・・・?」
インパクトターボの言葉にターボエンペラーは顔を上げた。
「エンペラーの走りは確かに凄いよ。でも走りに余裕が無さすぎる。私のペースに無理に合わせて逃げようとするから明らかに余計なスタミナを消耗してるね」
「その通りだ。インパクトターボのペースを追い抜こうとしてお前はペースを自分で乱している。それではいかに優れた才能を持っていようとも無駄だ」
「し、しかし私は!」
「最初から最後まで1番は譲りたくないよね。私もそうだから分る分る」
インパクトターボの言葉に味方を得たと思ったターボエンペラーは大塚トレーナーを睨む。
「だからこそ自分のペースを自分で乱しちゃ駄目だよ。全体のペースを自分が掌握してやらなきゃ」
「あ・・・」
その言葉にターボエンペラーは思い違いをしていた事に気が付いた。
「エンペラー、私は大逃げしかできないウマ娘だけど、それでもレース毎に作戦を変えてるんだ。貴女は私なんかより凄い才能を持ったウマ娘だって大塚トレーナーから聞いてるよ。同じ逃げでも色んな作戦がある。さらには貴女には逃げ以外の作戦だってある。それを潰しちゃ駄目だよ」
「・・・はい!」
明らかに今までと表情が変わったターボエンペラーに大塚トレーナーは口角を上げた。
「さて、今後のトレーニングの予定だが・・・俺の弟子のチームに合同練習の手伝いを頼んである。お前にとっても有意義な練習になるからしっかり学べ。お前の中のケモノに負けないようにな」
「分かりました。インパクト先輩、ありがとうございました!」
「ふふ、がんばってね」
インパクトターボの差し出した右手をターボエンペラーは強く握った。
「本日より合同練習に参加させていただくターボエンペラーです。ご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします」
「大塚先生より話は聞いています。私は新井と言います」
まだまだ若い新井トレーナーがそう言って頭を下げた。
「トレーナーちゃん、マヤも挨拶したいな」
「ああ、すいません。こちらは私が指導しているウマ娘のマヤノトップガンさんです」
「アイハブ、初めまして~。マヤノトップガンです」
新井トレーナーが紹介したのは小柄なウマ娘のマヤノトップガンだった。
「初めまして、私はターボエンペラーです」
「おっきくていいなぁ・・・。マヤもこれぐらいおっきかったら大人の女として魅力的になれるかなぁ?」
「えっと・・・」
「すみません、マヤノさんは大人の女性に強い憧れがありまして」
「なるほど、マヤノ先輩、大人の女性の魅力とは身長が大きいからと言ってなれる訳ではありません。知識と経験、その二つがとても重要ですよ」
ターボエンペラーはとりあえず無難な返答をする事で話を進めようとした。
「知識と・・・け、経験!?」
ボフンッ!と、音が聞こえてきそうなぐらいにマヤノトップガンは顔を真っ赤にした。
「や・・・やっぱりエンペラーちゃんは大人の女なんだね・・・」
「・・・何か非常にまずい勘違いを与えてしまったみたいですね」
「すみません・・・思春期特有のものですから・・・」
私の方が後輩のはずなのだが・・・と、ターボエンペラーは途方に暮れてしまった。
その後、どうにか落ち着いたマヤノトップガンとターボエンペラーはトレーニングコースにやってきた。
「まずは芝2000で並走をしましょうか。マヤノさん、走り方は任せますよ」
「アイコピー、マヤにお任せ!」
二人はスタートラインに並んだ。
「ヨーイ、スタート!」
新井トレーナーの掛け声と共に二人は走り出した。
マヤノトップガンは差しか追い込みを選んだのか前を走ろうとはしなかった。
「相手にペースを握らせず・・・自分のペースで走りきる・・・」
ターボエンペラーはインパクトターボの言葉を思い出しながら前を走る。
今まで兎に角速く走る事しか意識してこなかったが自分のペースを探して迷いながら走るターボエンペラーは走り辛さを感じていた。
「マヤ分かっちゃったかも!」
レースも終盤に差し掛かった辺りでマヤノトップガンが未だに戸惑い気味のターボエンペラーを追い抜こうと足を速めた。
「くっ!させるか!」
ターボエンペラーも抜かせまいと足を速める。
『お前はこの程度でいいのか?』
「だまれぇぇぇ!」
内なる声を振り切るようにターボエンペラーは叫びながら走り切った。
2人は並んだままゴールした。
「何かずいぶん走り辛そうな様子でしたが・・・」
「それは・・・その・・・」
誰かに頼る事が苦手なターボエンペラーは言葉にできなかった。
「トレーナーちゃん。マヤ、エンペラーちゃんの事分かっちゃったかも」
「マヤノさん、何が分かったのですか?」
「エンペラーちゃんはマヤと同じ脚質だと思うの。だけど今までそれを知らなかったから違う走りを試そうとして頭と体が混乱しちゃってるんだと思うんだ」
マヤノトップガンはそうターボエンペラーを評価した。
「マヤノさんと同じ脚質・・・なるほど、先生が気に入る訳です」
「では私は追い込みが得意なのですか?」
先ほどのレースを思い出しながらターボエンペラーはそう尋ねた。
「いいえ、マヤノさんの脚質は自在・・・全てが得意というまさに天才型とも言うべき脚質です」
「脚質自在・・・」
今まで積んできた練習は全て逃げのものだった。
いきなり全ての脚質が得意だと言われても戸惑ってしまう。
「大丈夫です。先生も私も自在脚質の指導には慣れています。いきなり全ての戦術はできなくてもいいんです。一つ一つしっかりと練習していけば必ず勝てる様になります」
「・・・よろしくお願いします」
ターボエンペラーはこの時初めて真剣な気持ちで指導を受ける気持ちになった。
トレーナー選びに悩むターボエンペラー
選ぶ馬全てが大活躍する室氏に多くの調教師からオファーがあった(噂レベル)
室氏がターボエンペラーの調教師を選ぶのに苦労したとインタビューに語っている(何に苦労したのかは不明)
室氏がターボエンペラーを競り落とした時に室氏が注目する馬だからと値段が高騰し、室氏がセリにも苦労した事も関係しているか?(室氏が初めて参加したセリでもある。なおインパクトターボとマキシマムターボは両方とも庭先取引であり、それぞれ800万と3500万で購入されている)
シンボリの血を憎むターボエンペラー
シンボリルドルフが偉大過ぎた為に中々評価されなかった事への室氏の不満を反映したか(血は確かに重要だが頑張っている馬を応援して欲しいと発言している)
インパクトターボに逃げ切られるターボエンペラー
ターボエンペラーがプライドと勝負根性が高すぎて騎手の言うことを中々聞かない為、併せ馬でターボエンペラーに我慢する事を理解させようとした事が由来か
実際に併せ馬をしたのはインパクトターボではなく、その産駒で大逃げ重賞勝利馬のネコダッシュである
走り方に悩むターボエンペラー
ターボエンペラーが我慢出来る様になったのは3歳の時に乗り換えた、いぶし銀の職人と呼ばれたベテラン大塚騎手になってからである
朝日杯まで騎乗していた今田騎手とは相性が悪く、レース中に掛かり気味に逃げるターボエンペラーの手綱を引いているが無視されている様子が記録されている