朝日杯が終わり、ターボエンペラーは冬休みを実家で迎えていた。
競争ウマ娘としては活躍できなかった母クイーンダイアナは半ばシンボリ家を追い出されるような形で父の元へと嫁いできた。
シンボリ家の為の政略結婚の様なものだったが、幸いにも父との仲は悪くない。
最も忙しくて中々家に帰ってこれない父に母は若干不満があるようだが・・・。
「折角のお正月をエンちゃんと迎えられないなんてあの人も薄情ね」
「あはは・・・」
海外で大きな取引がある為にどうしても帰る事が出来ないと言われてちょっとむくれた母にどう接すれば良いのか分からず愛想笑いで乗り切るターボエンペラー。
「エンちゃん、貴女もよ。偶には顔を出しなさいって言っていたのに戻ってきたのは今日が初めて。レースの為のトレーニングが大切なのは私も分かっているわ。でもね、思い詰めないで欲しいの」
先ほどまでの不満げな表情から一変して心配そうにターボエンペラーを見つめる母。
「確かに私は競争ウマ娘になれず、シンボリ家から追い出された様に見えるかもしれない。でも私の父も母も私を愛していないなんて事はない。貴女には貴女の為に走ってほしい。私を理由に無理をしないで欲しい。そんな走りをしていては、一緒に走る娘達に失礼だわ」
「お母様・・・」
「まあ、そんな事を言って変わる貴女じゃ無い事は良く知っているわ。だって私の娘ですもの」
私自身が諦め切れなかったから・・・。
そう言いたげな母の表情をターボエンペラーはただ見つめるしかできなかった。
冬休みが明けた直後のトレーニング・・・
「何か吹っ切れる切っ掛けでもあったようだな」
「・・・そう・・・かもしれませんね」
休み明けのトレーニングの指導をしていた大塚トレーナーの言葉にターボエンペラーはそう答えた。
「お前はまだ若い。今までの真実が実はただの思い込みだった、なんて事はいくらでもある。前より表情にも、走りにも余裕が出来ている。いい傾向だ」
大塚トレーナーの表情が非常に明るいものになっている。
「私は・・・どこまで行けますか?」
ターボエンペラーの表情は、今までの成さねばならないと言う思いつめた様な表情から、どこまで自分は行けるのかという前向きな表情になっていた。
「はっきりした事は言えんよ。だが、お前ならばクラシック3冠は勿論、凱旋門賞も手中に収められると俺は確信している」
大塚トレーナーの言葉にターボエンペラーは力強く頷いた。
そして弥生賞・・・
「さあ、クラシックレース皐月賞のトライアルレース弥生賞。本日のレースを走ります11人のウマ娘達、1番人気は朝日杯を圧倒的な走りで勝利いたしました5枠5番のターボエンペラーです」
ターボエンペラーは控室で鏡を見つめていた。
「・・・大丈夫だ。必ず制御しきって見せる」
ターボエンペラーはそう呟くと控室を後にした。
「さあ、各ウマ娘のゲートインも完了いたしました。・・・スタートしました。先行争いですが好スタートを切ったラストドライブとヒガシノディジー、さらにカントールが行きます。4番手には1番人気のターボエンペラーがつけています。初めて先頭を譲りましたターボエンペラーです」
大塚トレーナーから先頭を譲るような指示は出されていなかったが、この展開は好都合とターボエンペラーはあえて抜こうとしなかった。
『走れ!追い抜け!』
「黙れ・・・お前の出番は今じゃない・・・」
ターボエンペラーは内側から湧き上がる声を懸命に押さえつける。
まだ抑えきれているとは言い切れないが、それでも突き動かされるような衝動は少しだけ小さくなった。
「向こう正面先頭は変わらずラストドライブ。すぐ後ろ2番手に上がってきました6番バンクドミンゴ。少し離れて3番手にカントール。4番手にヒガシノディジーと外に並ぶようにターボエンペラー今日は抑えています」
『早く行け!』
まだだ!
『負けていいのか!!』
まだだ!!
『その程度なのか!!!』
「黙れぇぇぇ!!!」
「残り600メートルを切ったところでターボエンペラーが仕掛けました!物凄い勢いでコーナーを曲がります!ヒガシノディジーもそれにつられて上がっていきます!先頭ラストドライブ懸命に逃げるがここで力尽きたか先頭を交代!さあ最後の直線に入ってきました!先頭は一気に抜き去りましたターボエンペラー!他のウマ娘達も懸命に走りますが明らかに実力が違います!先頭ターボエンペラーがどんどん突き放す!4バ身開いたところでゴールイン!力の差をを見せつけましたターボエンペラーです!」
「・・・まずまずだな」
「・・・抑えきれませんでした」
レース翌日の反省会。
ターボエンペラーはレースの様子をそう振り返った。
「だがあそこからの仕掛けで突き放すだけの能力がお前にある事は分かっただろう?」
「はい」
今まで先頭を走らなければならないと思っていた。
早く走る事が自身の証明だと思っていた。
「いいか、ただ押さえつけるだけじゃない。必要な時まで獲物に悟られないように爪を隠すんだ。鷹の様にな」
「爪を隠す・・・はい!」
ターボエンペラーは強く頷いた。
そして迎えた皐月賞・・・。
「さあ!今年もやってきましたクラシックレース第1戦目皐月賞!今年はどのウマ娘がこのレースを制するのか!今日出走するウマ娘達を紹介いたします!1枠1番アドマイヤカーズ!朝日杯の逆襲なるか!1枠2番サトノルーデル!初めての重賞が皐月賞です!2枠3番ファンタジースター!京王杯を1着です!2枠4番ダノンキンブリー!3戦無敗のウマ娘!3枠5番ターボエンペラー1番人気です!こちらも無敗のウマ娘!朝日杯1着です!
3枠6番クラージュゲリラ!ラジオNIKKEI杯1着です!4枠7番ヴァロックズ!若駒ステークス1着です!4枠8番ヒガシノディジー!東京スポーツ杯1着です!5枠9番メイショウデンゲン!弥生賞2着です!5枠10番シュバルツリーズ!少ないレースがどう響くのか!6枠11番ラストドライブ!京成杯1着です!6枠12番サートゥルマリア2番人気です!ホープフルステークス1着の無敗ウマ娘!ターボエンペラーとどちらが無敗の皐月賞ウマ娘になるか期待がかかります!7枠13番ブレイキングボーン!苦難の道のりでした!7枠14番ダンディマインド!レース経験は豊富です!7枠15番クリタアウディー!実力的にはもう少しと言ったところか!8枠16番ダガメディアマンタ!こちらもやはり厳しいか!8枠17番アドマイヤフェスタ!ホープフルステークス2着!逆襲なるか!8枠18番ノーマンマ!門別トレセン学園からの編入生です!以上18人フルゲートです!」
ステージでの衣装披露が終わるとターボエンペラーはターフへと移動した。
「これが皐月賞の空気・・・」
朝日杯の時よりもさらに大量の観客が客席を埋め尽くしている。
あの時ですら重い空気だったのがさらに重くなった空気がターボエンペラーに伸し掛かる。
「能鷹隠爪・・・お前を殺す訳じゃない。獲物が欲しければ殺気を封じるんだ」
教えられた言葉を胸に、ターボエンペラーは胸の底で蠢く自分の衝動にそう話しかけた。
「さあ、全員が綺麗にゲートに収まりました。・・・スタートしました皐月賞!好スタートを切ったのは12番サートゥルマリア!ダノンキンブリーも好いスタートでしたが先に行くのは14番のダンディマインド!クリタアウディーも3番手まで上がってきました!ダノンキンブリーは4番手!アドマイヤカーズがその後ろにつけまして最内側!その隣に5番のターボエンペラーが居ます!そのさらに外に7番のヴァロックズ!まもなく向こう正面です!」
ターボエンペラーは狙った通りの位置で走り続ける。
『まだか?』
まだ始まったばかりだ。
今日は弥生賞の時よりも大人しい。
おかげでペースが乱れずに済む。
『早くしろよ・・・お前も我慢が辛いだろ?』
「いいや・・・寧ろ心地良い!」
余裕の無かったあの時では分からなかったレースの楽しさ。
それが今ターボエンペラーにも漸く分かり始めてきた。
「さあ・・・決めるぞターボ!」
レースは半分を過ぎて終盤へと向かっていく。
「さあ3、4コーナー中間を回って先頭はダンディマインド先頭か!?残り400を切りました!」
「行くぞ!『狩りの時間だ!』」
ターボエンペラーは衝動を開放した。
先ほどまで冷静だった表情が獰猛に歪んだ。
「間を抜けて飛び出したのはターボエンペラーです!ターボエンペラーが第4コーナー終盤で一気にトップに躍り出た!7番のヴァロックズ!その外から12番のサートゥルマリアもすごい脚で追い上げるが全く追いつきません!引き離す!ターボエンペラーが完全に後ろを引き離す!ヴァロックスもう一度懸命に上がる!サートゥルマリアも必死の形相で追い上げる!しかし完全にターボエンペラーですゴールイン!無敗の皐月賞ウマ娘はターボエンペラーが奪い取りました!見事な走り!見事な勝利!皇帝の軌跡が皐月賞に刻まれました!」
ターボエンペラーは右手を高く上げ、人差し指を1本だけ伸ばした。
観客の巨大な歓声がターボエンペラーに向けられた。
その声にターボエンペラーは初めて笑顔で答えた。
ファンによるキャラクター設定の考察
ターボエンペラーの様子が変わった理由
朝日杯の様子を見て騎手の載せ替えが行われたターボエンペラーを表していると思われる
弥生賞までに慣れさせる為に冬の間に大塚騎手と何度もトレーニングを行っている
大塚騎手は「良くも悪くも能力が高すぎて騎手を信頼していない。これを抑えるのは中々苦労しそうです」とインタビューに答えている
弥生賞で抑え切れなかったターボエンペラー
大塚騎手が懸命にターボエンペラーを必死に宥めて先頭を取るのを止めさせたが仕掛けのタイミングはかなり早めだった
インダビューでももう少し我慢させたかったと語っている
皐月賞で覚醒したターボエンペラー
弥生賞では大塚騎手が必死に抑えていたが皐月賞からは無理に抑えなくても指示に従う様になった
ようやく自分を共に戦う相棒だと認めてくれたのだろうと大塚騎手は後にそう語っている