皐月賞を勝利したターボエンペラーは記者から日本ダービーに向けてのインタビューに答えている。
「ターボエンペラーさん、まずは無敗の皐月賞制覇おめでとうございます」
「ありがとうございます。多くの方に支えられた勝利ですから今後も慢心する事無く戦っていきたいと思います」
「次の日本ダービーですが勿論出走されますよね?」
「はい、無敗のダービーは勿論、菊花賞も勝利して無敗の3冠ウマ娘を目指して行きたいと思います」
強い言葉に記者達から感心する声と同時に嫌らしい視線が向けられる。
もちろん全ての記者がそういった視線をしている訳では無いが、どうしても一定数はその手の者は出てしまう。
「流石はシンボリ家に連なる者ですねぇ。あの皇帝に続くおつもりですか」
明らかに相手をただの小娘と侮った者の発言が聞こえる。
一瞬表情が強張ったターボエンペラーだったが直ぐに気持ちを落ち着かせた。
「私は私個人としてレースに挑んでいます。家の事、血筋の事を持ち出すのは共に戦うライバル達には無礼な事ですから」
名家の血を引いている以上どうしてもその手の話題は消えないだろう。
だがしかし、母に言われた様に相手が居てこそのレースだ。
「ふん、お嬢様には我々庶民の気持ちなど分からんのですな」
思った言葉を引き出せなかった記者が負け惜しみ気味にそう言った。
流石にその言葉には周りの記者達も少々不快な表情をしている。
「どの様に生きるのか。それは生まれで決まる訳ではありません。私は私の意志で栄光への道を走り抜けたいと思います」
不愉快そうな表情をした記者以外からは称賛の拍手が送られた。
「なかなか上手に受け流したな」
「以前の私では無理だったでしょう」
あまりにも余裕のなかったターボエンペラーではきっと激高してしまっただろう。
「いい事だ。焦って大人になる必要は無いが無意味な争いを生む必要は無いからな」
「はい」
「さて、話を変えるぞ。次の日本ダービーだが・・・2400メートルと中距離の中では最も長い。さらに東京競馬場の都合上内枠有利、外枠不利となる」
大塚トレーナーは日本ダービーに話を変えた。
「元々大外枠はどのレースでも不利になりやすいが日本ダービーはその中でもかなり影響の大きいレースだ。だからと言って大外枠で勝てない訳ではない。数は少ないがな」
公平性を可能な限り謳ってはいるがどうしても有利不利が発生してしまうのは仕方がない。
「内枠なら逃げるのも悪くは無いだろうが外枠の場合無理して前を取るのは危険だ」
「斜行ですね」
一定のレーンを走るわけではないウマ娘の競走において失格とされるルールが斜行である。
斜めに走ったことで他ウマ娘の走りを妨害した、あるいは危険な走りをしたと判断された場合どんな好成績を残したとしても失格となる。
「お前ならその自在の足を生かしてどの枠番でも戦う事ができる。まだまだ不慣れな差し、追い込みを中心に鍛えて確実にダービーを狙えるようにするぞ」
「はい!」
ターボエンペラーは力強く返事をした。
以前は関係者以外は立ち入り禁止で知る事の出来なかった出走抽選会の様子は近年のインターネット配信の流行を受けて公開配信されるようになった。
そうなれば地味な抽選会ではなく、大きなイベントにしたがるのが人間と言うもの。
その為に日本ダービーや有馬記念などの抽選会は注目度の高さから一大イベントと言っても過言ではない。
以前はURA幹部が内枠から籤を引いて決めるだけの単純なものだったがエンターテイメント制を持たせるために籤で選ばれたウマ娘が自ら抽選券を引くというスタイルに変更になった。
ターボエンペラーはこの茶番に付き合わされる事に多少の苛立ちを覚えたが、それだけ世間が注目しているのだから止む無しか、と自分を納得させた。
「次の抽選を行うウマ娘は・・・・!出ました無敗の皐月賞ウマ娘ターボエンペラーです!」
係員に促されてステージへと上がる。
「ターボエンペラーさん!既に幾つかの枠番は埋まっていますが望みの枠番はありますか?」
「いえ・・・特に狙っている枠番はありませんね。内でも外でも私の出来る事をする。以上です」
「な、なんとも強気な発言!それではさっそく籤を引いていただきましょう!何番が出るでしょうか!」
他のウマ娘と違い淡々と答えるターボエンペラーに司会は多少驚きながらも進行を続けた。
「さあ!他のウマ娘達は祈るように引いた籤をあっさりと決めてターボエンペラーが引きました!番号は!なんと大外18番です!これは運に見放されたか!?」
参加しているウマ娘やトレーナー達はターボエンペラーが大外枠を引いた事に明らかに安堵した表情を浮かべた。
だが大塚トレーナーだけは不気味な笑顔でターボエンペラーを見つめていた。
「奥様、こちらを・・・」
「あら?エンちゃんからお手紙なんて珍しい」
電話すればいいのにと思いながらクイーンダイアナはターボエンペラーからの手紙を開いた。
「あらあら、あの子らしいわね」
「それは・・・」
クイーンダイアナの手には上質な紙で丁寧に作られた招待状があった。
「日本ダービーへの招待状。素直じゃ無いのは誰に似たのかしらね」
そういってクイーンダイアナは娘に良く似た笑顔で笑った。
そして、日本ダービーの日がやってきた・・・
「さあ!今年もやってまいりました日本ダービー。今を時めく18人の精鋭ウマ娘達が生涯一度の栄冠を求めて競い合います!本日注目すべきはやはり無敗の皐月賞ウマ娘ターボエンペラーでしょう!運悪く大外枠を引いてしまいましたが彼女は同期から頭一つ抜けた才能を持っています!果たしてどの様な結果になるのか注目です!」
実況の声が東京競馬場に響き渡る。
そしてその実況の声を掻き消さんとばかりに観客たちの声援が響き渡る。
ターボエンペラーは分厚い壁越しに僅かに聞こえるその声を聴きながら控室で大塚トレーナーと最後のミーティングをしていた。
「いいな、作戦通りやれば必ず勝てる。レースを楽しんで来い」
「・・・はい!」
ターボエンペラーは笑顔で頷いた。
「それでは本日の出走ウマ娘の披露です!1枠1番ロジャーバーロォ!今日がGⅠ初挑戦です!1枠2番ヴェント!苦難の道のりを経て日本ダービーに挑戦です!2枠3番エメラルドファイ!皐月賞は間に合いませんでしたがダービーには間に合いました!2枠4番サトノルーデル!皐月賞のリベンジに燃えています!3枠5番マイネルサービス!朝日杯より打倒ターボエンペラーを掲げています!3枠6番サートゥルマリア!ホープフル1着、皐月賞2着、ターボエンペラーを打ち倒すのは彼女でしょうか!4枠7番ダノンキンブリー!今度はこちらが泥をつける番だと気合十分!4枠8番メイショウデンゲン!悔しいレースが続いています!5枠9番ヒガシノディジー!クラシックに入ってから調子が今一良くありません!5枠10番クラージュゲリラ!トレーナーを頻繁に変えているとの事ですが果たしてどうなのでしょうか!6枠11番レッドジェイアル!京都新聞杯からダービーへの挑戦です!6枠12番アドマイヤフェスタ!中々芽が出ませんがダービーで花開けるか!7枠13番ヴァロックズ!重賞勝利が欲しいところ!7枠14番ランファザローズ!少し厳しい戦いになるかもしれません!7枠15番レオンレオン!青葉賞を勝ち上がっての参戦です!8枠16番ダガメディアマンタ!厳しい成績と言わざるをえません!8枠17番ノーマンマ!レース経験だけが頼りです!お待たせしました本日の1番人気!無敗の皐月賞ウマ娘!8枠18番ターボエンペラーです!」
ターボエンペラーはステージに上がるとジャージを脱いで衣装を披露する。
視線を巡らせるとこちらに手を振る母の姿を見つけた。
ターボエンペラーは一礼するとジャージを拾って戻っていった。
「さあ、各ウマ娘のゲートインが完了いたしまして間もなくスタートです。・・・さあスタートしました!おっと6番のサートゥルマリアタイミングを逃したのか出遅れてしまいました後方につけます!好スタートを決めましたのは3番エメラルドファイと1番ロジャーバーロォ!4番のサトノルーデルと15番レオンレオンが一気に上がって先行争いはこの4人となりました!そのまま第1コーナーへと向かいます!」
『恐らく他のウマ娘の作戦は大外枠になったお前に前を走らせないようにするだろう。少なくとも3人・・・あるいはもっと多くの数の先行逃げ切りを選ぶ奴らがいる筈だ。特に10番から15番辺りのウマ娘は必ず1人は逃げようとするはずだ』
大塚トレーナーの読みは的中した。
大外枠で斜行を避ける為には全力で前を狙うか後ろに下がるかしかない。
そして15番のレオンレオンが私の妨害を兼ねて全力で先頭を取りに行った。
だから私は最初から先頭を取りにいかなかった。
無駄にペースを乱すのではなく、身を潜め、相手にペースを乱してもらうのだ。
「2バ身開いてバロックズ!続いてクラージュゲリラ!その内側にダノンキンブリー!後方集団にサートゥルマリアが付けました!今1、2コーナー中間を過ぎまして先頭は15番レオンレオンが大逃げリードを6バ身!2番手にはロジャーバーロォ!その後ろにサトノルーデル!エメラルドファイまでが先行集団です!向こう正面に入りました!5番手にダノンキンブリー!クラージュゲリラが続いてその後ろにマイネルサービス!13番バロックズが中段前の方!内側に14番ランファザローズ!外側に1番人気18番ターボエンペラーが居ます!明らかに先行するウマ娘達は中段に居るターボエンペラーを警戒して飛ばしております!」
先頭を走るレオンレオンは明らかにオーバーペースだ。
その後ろを走るウマ娘達も前を警戒するべきか私を警戒するべきかで悩み、必然とペースが乱れている。
後方は後方で中段を走る私を警戒して無意識にだが前に詰めている。
大逃げをするレオンレオンがペースを握っている様に見えるが私はその存在感だけでペースを支配しているのだ。
「インパクトターボ先輩・・・貴女のおっしゃった事!今分かりました!」
「向こう正面中間を過ぎました!ターボエンペラーの後ろにはヒガシノディジー!外にサートゥルマリア!先頭までは15バ身!いや20バ身はあるでしょうか!1200を切りました!後方集団レッドジェイアルとノーマンマが続いて!インコースは2番のヴェントが続いています!後方外からダガメディアマンタとアドマイヤフェスタが上がろうかというところ!3コーナーカーブ!最後方はメイショウデンゲン!縦に長い展開で3、4コーナー中間!ジワッジワッとターボエンペラーが外から上がっていきます!」
少しずつ、上げすぎないようにしながら私は足を速める。
抜かれたら後がない先行集団は抜かれまいと足を速め、置いていかれまいと後方集団も足を速めた。
集団の真ん中にいながら私は完全にレースを支配する事に成功していた。
「先頭のレオンレオンリードは6バ身ほどありますがどうでしょうか!2番手ロジャーバーロォ少し間が広がりました3番手のサトノルーデルとは4バ身ほど開きました!その内からダノンキンブリーが前を狙います!エメラルドファイ!マイネルサービスが前を狙います600メートルを切りました!直線に入りましてレオンレオン栄冠まで残り500メートル!しかし大外から一気にターボエンペラーが上がってくる!中段からごぼう抜き!あっという間に差が詰まります残り400メートル!レオンレオンここで先頭を交代!ロジャーバーロォが先頭ですが明らかに次元が違う!ターボエンペラーがあっという間に追いついた残り300メートル!必死に追い上げてサートゥルマリアも上がってきたが届かないか!残り200メートル目前でターボエンペラーが先頭に立った!ロジャーバーロォ必死に食い下がるも離れていく残り100メートル!これはもう完全に決まったターボエンペラーゴールイン!大外不利と言われる日本ダービーでターボエンペラーが見事に決めました!無敗の2冠ウマ娘達成です!」
観客の声援に答えるように、ターボエンペラーは二本指を掲げた。
その光景を涙ぐみながらクイーンダイアナは拍手で見守った。
ファンによるキャラクター設定の考察
抽選会で不気味に笑う大塚トレーナー
実際に行われた日本ダービー抽選会の放送に大外枠で苦笑いをする馬主の室氏に対して不敵な笑みを浮かべていた
大塚トレーナーの読みの的中
実際にレース後のインタビューで予想通りの展開になったから無理をする必要がなかったと発言している
実際に15番リオンリオンの騎手は自分が大逃げする事でターボエンペラーの動きを封じようとしたと発言している