ギリギリのレースを制し、見事に無敗の3冠ウマ娘になったターボエンペラー。
しかし翌日の朝、彼女は起き上がる事が出来なかった。
「大丈夫か?エンペラー」
「すみませんマキシマム先輩」
足に熱と痛みを感じたエンペラーは何とか起き上がろうとしたが直ぐに異変に気が付いたマキシマムターボが無理に動かないように言ったのだ。
マキシマムターボはとりあえず寮長のヒシアマゾンに理由を話して朝食と湿布薬を持ってきてくれたのだ。
「今ヒシアマゾン寮長が(学園に)連絡を入れてくれている。今日は(学園を休んで)大人しくしていると良い」
「はい」
足のケガはウマ娘にはつきものだ。
ただし場合によっては深刻な事態もあり得るので素早く対応するようにできている。
過去、怪我を隠したまま通学しようとして大惨事になったケースもあったからだ。
「エンペラー、9時頃にタクシーが寮の前に来るからそれに乗って病院に行くんだ。大塚トレーナーも一緒だ。マキシマムは悪いがアタシと一緒にエンペラーをタクシーに乗せる手伝いをしてくれ」
連絡を終えたらしいヒシアマゾンがそう言って部屋に入ってきた。
「ああ、もちろんだ」
「すみませんヒシアマ姉さん、マキシマム先輩」
「気にするな。昨日のレース、良く頑張ったな。皆お前を褒めてたぞ」
「・・・はい!」
ターボエンペラーは嬉しそうに笑った。
そして病院でターボエンペラーは診察を受けた。
「筋肉炎症と関節部に炎症が起きているようですね」
「・・・まさか!」
「ああいえ、言い方がまずかったですね。屈腱炎ではありませんのでご安心ください」
医者の言葉に大塚トレーナーは大きく息を吐いた。
もちろんターボエンペラーも握りしめていた拳から力を抜いた。
「幸いにも危険な炎症は無く、比較的軽度の炎症が殆どです。少し時間はかかりますが後遺症は残りませんし治療が難しいものでもありません。疲労が溜まった事が原因ですのでしばらく激しいトレーニングやレースはできませんが問題なく治る炎症ですのでご安心ください」
医者の言葉は非常に穏やかで安心させる響きだった。
「どれぐらい期間はかかりそうですか?」
「そうですね・・・体質や経過にもよりますが早ければ2ヶ月・・・安全をとって3ヶ月といったところでしょうか」
「そうなると有馬も無理か・・・」
11月に行われるジャパンカップはもちろん、年末に行われる有馬記念も諦めざるをえない。
それはターボエンペラーにとっては辛い事だった。
「すみません・・・私が不甲斐無いばかりに・・・」
「無敗で3冠を達成したウマ娘を誉めこそすれ叱るトレーナーはトレーナーではない。ただの阿呆だ。お前は俺が育ててきたウマ娘の中でも最高のウマ娘だ。胸を張れ!そして誇れ!勝ったものがしょぼくれていては負けた者が惨めではないか!」
「大塚トレーナー・・・」
「起きてしまった事を悔やむより、未来を見据えて走れ!おっと、今走るのは厳禁だったな」
そう言って大塚トレーナーは笑った。
「ありがとうございます」
その言葉にターボエンペラーは笑みを返した。
病院での診察を終えた後、ターボエンペラーは学園へと戻った。
「エンペラー、大丈夫だったか?」
「ああ、幸いにもそれほど酷い怪我ではなかったよ」
「そいつはゴールデンだな」
学園に戻って直ぐに出会ったのはゴールデンマキシマとゴールデンドライブの2人だった。
「・・・ところでまだ2人は授業中のはずだが?」
当然ながらトレセン学園でも通常授業は存在する。
真面目なターボエンペラーは途中からでも授業に出ようと教室に向かっている途中だった。
「はっ!あまりにも退屈だから抜け出しちまった!」
「オレはマキシマを引き戻す為に出てきたんだぜ」
マキシマは自分勝手に、ドライブはマキシマを連れ戻すという名目で2人ともサボっているらしい。
「2人とも少しは真面目に授業に出ないと後が怖いぞ」
「ふっ!俺達に怖いものなど!」
「あるわけが無いぜ!」
2人は決め顔でポーズを取る。
そんな2人の後ろに1人のウマ娘がやってきた。
「へぇ・・・そいつぁ凄いねぇ・・・」
2人は決め顔のまま青くなりダラダラと大量の汗を流す。
「けどなぁ・・・センセを困らせるのはちぃと違うんでないかい?お2人さん?」
逃げられないように真ん中に入り2人の肩を素早く掴んだウマ娘。
「おおおおおおお親分ん!?」
「いいいつからそこにぃ!?」
「あんた等がまた授業を脱走したってエアグルーヴ副会長さんから連絡があってねぇ・・・。あんた等のご両親からもよぉく頼まれた以上は義理を欠く真似はできねえわなぁ」
どこか普通でない雰囲気を持つそのウマ娘はゆっくりとした口調で話す。
「ワシはいっつも言っとるよなぁ・・・?カタギに迷惑かけるんじゃねぇって・・・」
2人の肩を音が聞こえそうなほど握りしめ、低く力強い声は威厳と共に強烈なプレッシャーを放つ。
「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!す、すいやせんでしたぁぁぁぁぁ!!」」
ゴールデンドライブとゴールデンマキシマは即座にその場に土下座した。
「謝るんはワシじゃねえだろうが!さっさと戻ってワビいれてきな!」
「「し、失礼しますぅぅぅぅぅ!!」」
大慌てで2人は教室に向かって走っていった。
「あー・・・えっと・・・」
「おう、こいつぁ失敬。ついついあいつらの事で手一杯になっちまって挨拶が遅れたねぇ。ワシはアンタガタイショー。あのタワケ共の知り合いでねぇ。昔は素直で良い子達だったんだが都会に来て変な影響でも受けたのか悪戯ばかりしやがってねぇ。ワシがこうして尻拭いをしてやっとるわけだ」
「それは・・・大変ですね。あ、私はターボエンペラーと言います。彼女達とはクラスメイトになります。今日は病院で診察を受けていたのですがまだ授業に間に合いそうだと思い向かっています」
「おお、噂はかねがね聞いとるよ。はぁ・・・あのタワケ共に君の爪のアカでも飲ませてやりたいねぇ」
その後アンタガタイショーの愚痴を聞きながらターボエンペラーは教室に向かった。
「エンペラーちゃん大丈夫?」
教室に入ると真っ先にメロディールーンが声をかけてくれた。
「ああ、心配かけてすまなかったなメロディー。幸いそれほど酷い怪我ではなかったよ。君との勝負が楽しすぎて少し頑張りすぎてしまったらしい」
「そっかー、私も楽しかったよ!今度は絶対に負けないからね!」
自分との勝負をまた望んでくれるメロディールーンにターボエンペラーは嬉しく思った。
「全く、あんまり心配させないでよね。貴女は私がいつか倒すライバルなんだから」
「相変わらず素直じゃないなランス。だがありがとう。君からの挑戦を楽しみにしているよ」
「分かればいいのよ」
言葉はキツイが心根は優しいスカーレットランスもそう言って胸を張った。
ちなみに授業は逃げ出していたゴールデンドライブとゴールデンマキシマが教師に土下座をして謝り倒しているせいでストップしていた。
恐らくまた後でアンタガタイショーからお叱りを受ける事になるだろうなぁとターボエンペラーは2人を見ながら思った。
そして週末を迎えた・・・
「エンちゃん!温泉に行くわよ!」
「お母様!?」
突如寮にやってきたクイーンダイアナにターボエンペラーは驚いた声を上げた。
「怪我の治療には温泉が一番よ!さあさあ急いで急いで」
「あのちょっとああああああああああ!」
強引に母に連れ出されてしまうターボエンペラーだった。
そんな様子を寮生たちはただポカンと眺めた。
「ふぅーやっぱり温泉は良いわねぇ」
ここは福島県いわき市の温泉宿である。
「ええ・・・確かに気持ちが良いです」
道中で色々と説得されてとりあえずは納得したターボエンペラーは仕方がないと諦めて温泉を堪能している。
「ごめんなさいね。貴女が怪我をしたってトレーナーさんから聞いていてもたってもいられなくなっちゃって・・・」
「いえ・・・お母様の気持ちはとてもありがたいです」
温泉の温かさと母の気持ちが少し硬くなっていた気持ちを柔らかくしてくれた気がした。
「貴女は昔から真面目で一生懸命だから・・・今回の事も絶対に思い詰めてるだろうって思って・・・」
「・・・お母様には敵いませんね」
「ええ、だって貴女の母ですもの」
そう言ってクイーンダイアナは微笑んだ。
「お母様」
「なあに?」
「私は私として、その上で皇帝を超えてみせます」
「ふふ・・・その時を楽しみにしているわね」
クイーンダイアナは娘に涙を見られぬように空を見上げた。
ファンによるキャラクター設定考察
ターボエンペラーの故障
菊花賞後の診断で酷いコズミと診断され、大事をとって休養している史実にならっている
当時のマスコミが先走り記事で屈腱炎と書いたが即座に誤報であると否定されている
これ以降ターボエンペラーの調教師は馬体に負荷のかかる3000メートル以上のレースは控えるようになった
アンタガタイショー
アンタガタイショーは父インパクトターボ、母父グラスワンダーの牡馬であり、馬主は変わった名前を付ける事で有名な大物個人馬主さん
生産牧場の関係者からは生まれついてのボス馬と評されるほど風格があった
実際に牧場でも当時のボス馬が成り行きでなったボス馬だったと言う事もあってかアンタガタイショーに直ぐに譲ったと言うエピソードがある
威嚇したり力付くで従わせるボス馬ではなく、頼れるボス馬だったらしくいつも他の馬が傍に居たらしい
その風格を気に入った馬主さんから第1希望「オヤブンサン」第2希望「オオオヤブン」と命名候補を出されるも、当時闇賭博問題などがニュースで話題でもあった為に審議会から却下され、アンタガタイショーと命名されたと言う経緯がある
厩務員からもオヤブンの愛称で呼ばれていた
ホープフルステークスと皐月賞トライアルである弥生賞を圧倒的実力で勝利したものの、その後に肺を患い、治療こそ成功したが競争能力を失って引退した為に幻の皐月賞馬と呼ばれている
キャラクターの表情がどこか体調悪そうに見えるのは肺を患って引退した事からだろう
アンタガタイショーに頭が上がらないゴールデンドライブとゴールデンマキシマ
中々言う事を聞かず、悪戯好きで困った馬筆頭であったゴールデンドライブとゴールデンマキシマだがアンタガタイショーの前では決して悪戯をせず大人しかったというエピソードが由来だろう
アンタガタイショーが病気で引退して牧場に帰る事になった時、厩務員達は何とかしてアンタガタイショーを2頭の為に厩舎に残せないか本気で相談したらしい
温泉に入るターボエンペラー
治療促進の為に競走馬リハビリテーションセンターに行ったことが由来だろう
温泉が気に入ったのか中々上がろうとしなかったらしい
そこまで重度の炎症では無かったが馬体重の重いターボエンペラーを気遣った調教師らが送る事に決めたらしい
この事が理由でマスコミの先走り記事が出された