これが逃げるという事だ   作:福泉

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第3シリーズ第8話お待たせいたしました。ご意見ご感想お待ちしております。


第3シリーズ 皇帝のキセキ 08話 飛翔の時

ケガのリハビリの為、ターボエンペラーは軽いトレーニングしかできないので少しフラストレーションがたまりつつあった。

「・・・もう終わりか」

「物足りなさそうだな。仕方がないが我慢してもらうしかないな」

炎症を悪化させない為には程々の運動で納めるしかない。

全く動かないのは体も固くなるので良いことは無いが、体が温まってきた辺りで運動を止めなければならないのでどうしても今までのトレーニング量からすれば物足りない。

「春までは我慢しろ。復帰後にトレーニングもレースもしっかりと走らせてやるからな」

「ふぅ・・・そうですね。早く治して思いっきり走りたいです」

タオルで汗を拭きながらターボエンペラーはそう答えた。

「そうだな」

大塚トレーナーはそう答えた。

 

そして年明け後の診察にて・・・

 

「かなり炎症も治まってきていますね。この様子ならそろそろトレーニングの負荷を通常まで戻しても良いですよ。もちろん無理は厳禁ですが」

「本当ですか!」

医師のその言葉にターボエンペラーは喜んだ。

「ええ、今週中には完治するでしょう。よく我慢できましたね」

医者はそう言って微笑んだ。

 

『そうか。なら完治した頃を見計らって一度タイムを計り、その後に復帰レースをどうするか考えるぞ』

「はい!」

病院を出た後に大塚トレーナーに電話で連絡を入れたターボエンペラーは通話を切ると小さくガッツポーズをし、そのままジョギングしながら学園まで帰っていった。

 

そして翌週・・・

 

「ハァァァァァッ!」

「なるほど・・・」

タイムウォッチを止めた大塚トレーナーは少し顔をしかめた。

「どうですか?」

「そうだな・・・タイム次第では大阪杯を復帰レースと考えていたが、これは何か一つレースを走ったほうが良いな」

そう言って大塚トレーナーはタイムをターボエンペラーに見せる。

「やはりだいぶ落ちていますね」

「ああ、特に後半の伸びが悪くなっているな。今後のトレーニングで取り戻せるだろうがレース勘の取戻しも考えればやはり1度レースに出たほうが良いだろう。今後の事も含めて一度ミーティングするぞ」

「はい!」

 

「さて、今後のレース予定だが・・・まず復帰レースは金鯱賞だ。競場は異なるが大阪杯と同じ2000のレースで勘を取り戻すぞ」

「はい」

「それとその後の話になるが・・・お前の体調を考えて3000メートル以上のレースには出ない事にする」

その言葉には口惜しさが滲み出ていた。

「それじゃあ春の天皇賞は・・・」

「お前の能力ならば勝てない事は無い。だがそれはお前の命と引き換えになる。お前の適性距離は2000メートルから3000メートルと幅広い。だが2800以上の距離は受けるダメージが大きすぎてお前の体がもたない。お前の目指す先は決して命を犠牲にした果てにあるわけではないだろう?」

「それは・・・」

ターボエンペラーは俯いた。

「これがルドルフの時代ならお前は走るしかなかったかもしれない。今はGⅠレースも増えてきている分負担のキツイレースを避ける事は決して悪い事ではない。それでも尚あいつを超える成績を残せているウマ娘は居ないんだ。それが現実だ。すでに2個レースを逃していて焦る気持ちも分る。だが無理をして引退するような事になってしまえば所詮その程度のウマ娘だったのだと言われるだけだ」

大塚トレーナーの言葉にターボエンペラーは拳を固く握りしめた。

「7冠を超える。皇帝を超える為には時に引く事も重要だ」

「・・・分かりました」

大きく息をついてターボエンペラーは拳を解いた。

 

「エンペラー、何か悩んでいるのか?」

マキシマムターボは表紙にインパクトターボが描かれたウマ娘雑誌を手にそう尋ねた。

その表紙にはターフの2枚目、花道を征くと書かれている。

「すみません・・・表情に出ていましたか?」

「私で良ければ相談にのろう」

雑誌の途中に栞を挿みながらマキシマムターボがそう言った。

「ありがとうございます。実は今後の事で悩んでいまして・・・」

ターボエンペラーは胸の内を話す。

「トレーナー以外にはあまり話した事は無いのですが・・・私はシンボリルドルフを超えたいんです。その為には8冠以上を達成するというのが最低条件ではあるのですが・・・トレーナーから春の天皇賞は諦めろと言われてしまって・・・」

「なるほど、(皇帝の勝利した春の天皇賞に)出ない事で本当に(皇帝を)超えたと言えるのか分からない・・・という所か?」

「・・・はい」

相変わらず言葉は足りていないが運命的な何かを感じる関係かマキシマムターボの言いたい事は良く分かる。

「意外に思うかもしれないがあの皇帝は当時はまだGⅠでは無かったがジュニア期チャンピオン決定戦であった朝日杯に出ていない」

「え?」

その事にターボエンペラーは驚いた。

皇帝と謳われているシンボリルドルフが朝日杯を走っていないとは思わなかったからだ。

「もちろんそれには理由があった。当時のURAは世界からはあまり評価されていなかった。だからジャパンカップと同日に開催されるレースで世界に対して日本をアピールするという目的だった。結局その行為が成功したかどうかは分からないが、当時はほぼ無名だったシンボリルドルフが日本に評価される様になったのはクラシック期に入ってからだ」

「あの皇帝にもそんな時期が・・・」

「そうだ。評価と言うものはどうあがいても先行しない。結果を出してこそ初めて評価される。そして7冠という頂を超えた者はまだ誰一人として存在しない。たった一度の功績である凱旋門賞を勝ったはずのアイツ、ゴールドシップでさえ皇帝を超えたと言われて居ない」

マキシマムターボの言葉は事実だった。

功績だけ言えば確かに初めての凱旋門賞を制覇したゴールドシップの方が凄いと言われるかもしれない。

しかしタイミングを逃して海外レースに出走できなかったシンボリルドルフを絶対視する者からすれば国内成績で劣るゴールドシップが皇帝を上回ったとは言い辛い。

結局のところ人が評価するのは自身の物差しの範囲を超えないのである。

「8冠を達成して、初めてシンボリルドルフを超えた。世間はそう評価するだろう。例えどんなレースであろうともな」

「・・・ありがとうございます。マキシマム先輩」

「・・・負けるなよ。自分に・・・」

「・・・はい!」

ターボエンペラーの表情からは迷いが消えていた。

 

3月、金鯱賞・・・。

 

『・・・スタートしました!好スタートでハナを奪ったのは無敗の3冠ウマ娘ターボエンペラー!菊花賞後に故障したとの報道がありましたが問題なく完治したとの事です!』

ターボエンペラーはあえて先頭を取りに行った。

リハビリ後の走りではどうしても後半の伸びが足りないと判断した為だ。

『さあ2番手で先頭を狙うのはダイワキャバレー!外から12番のマイネルフェイロンがこれに加わります!その後ろにギバドン!外からサトノソルダンが並びます!間にサートゥルマリアがダービーの雪辱を晴らさんと狙っています!先頭はターボエンペラーのまま第1コーナーを抜けて第2コーナーに入ります!向こう正面へ向けての緩い上り坂!今日は逃げを選びましたターボエンペラーリードは3バ身!2番手で前を狙うはダイワキャバレー!その後ろ1バ身離れてマイネルフェイロンと言った体制になりました!8番サトノソルダンが外に抜けて4番手まで上がってまいりました!斜め後ろ内側にギバドン!その後ろにサートゥルマリア向こう正面に入りました!間が少し開きましてテイデンスクールとラストドライブ!その後ろ3バ身ヒガシノディジー!その外に11番のジュンバルタン!その後ろルートマイウェイとプレイジャーニー!最後方はサトノサーキッドです!1000メートルは60秒ジャスト!』

早すぎず遅すぎず、ターボエンペラーが先頭を走る為に他のウマ娘たちはやや慌てているが決して急ぎすぎの速度ではない。

ただ今回のレースでは逃げを得手とするウマ娘が居なかった事もターボエンペラーにとっては有利に働いた。

2番手を走るダイワキャバレーも逃げよりは先行型のようである。

その為にターボエンペラーのペースが特段早いものでは無いが先頭を取ろうとはしなかった。

『ターボエンペラー豪快な走りで逃げ続けています!さあここからゴール手前300メートルまでは長い長い下り坂!ターボエンペラー早くも第3コーナー!早くも差を広げていきます!大きく曲がって間もなく第4コーナーに入ります!先頭変わらずターボエンペラー!後ろのウマ娘たちは間に合うのか!懸命に藻掻いているが差が詰まりません!さあコーナーを曲がり終えて最終直線です!ゴール手前には落差2メートルの急激な上り坂!しかしターボエンペラーモノともしません!あっという間に坂を上りきってそのまま押し切る!必死にサートゥルマリアが追い上げてきましたが届きません!ターボエンペラー堂々とゴールイン!無敗の3冠ウマ娘として見事な復帰レースでした!』

観客たちに向かってターボエンペラーは大きく右手を挙げた。

それに答えるように大きな歓声があがった。

 

「復帰戦としては悪くない走りだったな。後半も速度が落ちていないしこれならば来月の大阪杯もいけるだろう」

「ありがとうございます」

大塚トレーナーは満足そうにそう言った。

「油断はするなよ。クラシックレースと違いシニアレースはベテランが混じってくる。能力はお前の方が上でも技術でそれをカバーするウマ娘は必ず居る。まして無敗のお前は違反にならないギリギリのラインで潰しに来るだろうからな」

「はい!」

ターボエンペラーは力強く返事をした。

 

4月、大阪杯・・・。

 

『さあ間もなく始まります大阪杯!GⅠレースに昇格したのはごく近年!ですが新しい春のGⅠとしてその存在感を示しています!さあ本日走ります12人のウマ娘達をご紹介いたしましょう!1枠1番ルートマイウェイ!2枠2番サトノソルダン!3枠3番去年の凱旋門賞に出走しましたブレストツーピース!4枠4番一昨年のダービー馬娘ワイアリアン!5枠5番エリザベス女王杯のミッキーライラック!5枠6番1番人気!無敗のクラシック3冠ウマ娘ターボエンペラー!これが5つ目のGⅠ挑戦です!6枠7番ステイパーフィッシュ!6枠8番ダノンキンブリー!7枠9番は大ベテランマカマキ!7枠10番ジケンボー!8枠11番カナデ!8枠12番ティアラ路線で活躍しましたクロスジェンティス!以上のウマ娘達です!』

春にしては冷たい風の吹く阪神競場に熱い観客の歓声が響き渡る。

ターボエンペラーはターフで体を温めながらも周りから突き刺さる視線を感じていた。

「・・・これがシニアレースの洗礼か」

先の金鯱賞でも気にはなっていたがここまで露骨ではなかった敵意。

やはりGⅠともなれば相手を引き摺り下ろしてでも奪い取ってみせると殺気立つウマ娘は多い。

当然無敗のターボエンペラーに初めて泥を付けてやるぞという気配を隠そうともしない。

「ふ・・・この程度で竦んでいて凱旋門賞がとれるか」

ターボエンペラーは無敗の王者として不敵な笑みでライバルたちを睨み返した後ゲートに入った。

『さあ最後に11番のカナデがゲートに収まりました。・・・スタートしました!なんと!大勢のウマ娘が出遅れた!?いや!違います!ターボエンペラーを警戒しすぎてゆっくりとスタートしたターボエンペラーに引き摺られてペースを乱した様です!その隙を見逃さずにターボエンペラーが間を抜けて一気に前にでます!先頭は珍しく逃げを打ったダノンキンブリーです!』

ターボエンペラーは真ん中の枠番から囲まれる事を避ける為にスタートをあえて急がなかった。

ところが前走で逃げを選んだターボエンペラーを警戒してか、多くのウマ娘が慌て気味のスタートで走りだそうとしたが、ターボエンペラーがゆっくりとスタートした事に気が付いて動揺したせいか勢いがつかなかったり躓いてしまったりとバラバラのスタートになってしまった。

「しめた!」

後ろから走るつもりだったターボエンペラーだったがその隙を見逃さずに前の好位置につく事に成功した。

『早くも大混戦の大阪杯!先頭はダノンキンブリー!2番手にジケンボー!続きましてクロスジェンティス!その内側にターボエンペラーが居ます!6番手にミッキーライラックが追走しています!まもなく第1コーナーに入ります!』

後ろの方ではペースを乱してしまったウマ娘たちが必死に立て直しをしている。

逆に逃げ切りを図ったダノンキンブリーなどは明らかにペースが速い。

その中でも不気味なのはペースを乱さずにきっちりマークしているミッキーライラックだろう。

「ペースを乱すなよエンペラー!ペースは自分が掌握するものだ!」

前にプレッシャーをかけつつ、不気味なミッキーライラックを警戒しながらターボエンペラーは走った。

『先頭ダノンキンブリーペースが少し早いか!?2番手のジケンボーがジワジワと迫ります!間が3バ身と少し離れて3番手にクロスジェンティス!4番手にミッキーライラックとターボエンペラーがけん制しあっています!その後ろまた少し間が空きましてワイアリアン!向こう正面に入ります!ステイパーフィッシュ何とかここまで持ち直してきました!間もなく1000メートルを通過タイムは59秒とやや速いペース!』

逃げはあまりした事のないダノンキンブリーはターボエンペラーを警戒してペースが乱れている。

おそらく逃げ先行が得意なジケンボーに追いつかれたせいかさらにペースを上げた。

そんなオーバーペースの2人を見ながらターボエンペラーは自分をマークするミッキーライラックを警戒する。

「流石は女王といったわけか!だが私も3冠ウマ娘の意地がある!」

「ッ!?」

『さあ第3コーナーを曲がって先頭変わらずダノンキンブリーだがやや疲れが見えるか!?2番手ジケンボーもペースが鈍くなってまいりました!3バ身ほど離れてクロスジェンティスその後ろにピッタリとターボエンペラーがつけています!ミッキーライラックは内側からターボエンペラーを警戒中!後方は序盤の乱れが原因かバラついたままです!さあ第4コーナーを駆け抜けて先頭はダノンキンブリー!直線に入って外からクロスジェンティスが上がってきた!しかし新たな皇帝が!ターボエンペラーが間を割って一気に前に突き抜ける!ミッキーライラックも内側からダノンキンブリーをかわす!ミッキーライラックが僅かに先頭か!?しかしターボエンペラーが驚異の末脚で前に出る!あっという間に半バ身のリードを築いてゴールイン!勝ったのはターボエンペラー!無敗の5冠目!』

大きな歓声に出迎えられて、ターボエンペラーは右腕を高く上げた。




ファンによるキャラクター設定の考察


天皇賞(春)に出ないターボエンペラー

馬体重が重く、適性はあっても馬にかかる負担が大きすぎるという理由で出走をしなかった
マスコミの中には逃げたと評するところもあったがインパクトターボ以降馬の故障率がやや増加傾向にあった為にファンからはそれほど批判的には言われなかった


マキシマムターボが読んでいた雑誌の表紙


インパクトターボのヒーロー列伝のキャッチコピー、「(ターフ)の二枚目、花道を征く」からだと思われる
ちなみに二枚目とは歌舞伎における色気のある男性(=イケメン)の役の事(実際に当時からイケメンが演じている)
インパクトターボは実際に綺麗な栗毛で見た目も良かった


金鯱賞を逃げ切るターボエンペラー

実際のレースでも逃げ切りで走っている
理由はリハビリ後のタイムの伸びが悪く、末脚勝負では厳しいのではないかと大塚騎手が判断した為


大阪杯で大量の出遅れ

逃げ、あるいは先行策を取ると思われたターボエンペラーを囲もうとした馬達がゆっくりとしたスタートのターボエンペラーに惑わされてバラバラの動きになった
その隙を見逃さなかった大塚騎手は素早く先行策に切り替えて前を取りに行った
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