夏の合宿を大塚トレーナーによるキツイトレーニング漬で送ったターボエンペラーはその走りをさらにパワーアップさせていた。
焦る気持ちを抑え、驕る気持ちを殺し、必死にトレーニングをしたターボエンペラーの表情は鋭い目つきも相まってどこか現役時代のシンボリルドルフを彷彿とさせた。
「やあ、天皇賞へ向けての調整は上々かね?」
学園に戻って早々にシンボリルドルフがターボエンペラーに声をかけた。
「・・・会長さんですか。何か御用で?」
「いいや、ただの世間話さ」
自分の憎しみは思い込みであったが、やはり良い思いの無いシンボリルドルフに対してはどうしても当たりがキツクなってしまう。
「・・・やはり似ているな」
「何がですか?」
「君と君の母君だよ。君にとっては屈辱に感じるかもしれないがシンボリ家の者として彼女の事は知っている。そして君のその眼は彼女もよくしていた。それは私もであり、そして私の母もだ」
「・・・・」
「血の繋がりと言えば聞こえは良いだろう。だが私には同時にこう言えるとも思っている。血の呪いと・・・」
「血の呪い・・・」
「実際に君にとっては呪いでしかないかもしれない。だが君の血を否定する事は不可能だ。しかしそこで立ち止まってしまっては何も得られない。君は君だ。世間の声など気にするな。己の道を進め。それが、皇帝として君に送る言葉だ」
「・・・私は貴女を超えてみせます」
「その時は喜んで皇帝の名を君に譲ろう。ついでに会長の席も要るかい?」
「・・・譲られた玉座に興味はありません。精々奪われるその時まで震えながら温めておいてください」
「ふっ、そう易々と奪われたりはしないさ」
トゥインクルシリーズを退き、現役時代の鋭さは失われたと言われているシンボリルドルフ。
しかし軽い喋りとは裏腹にその表情は研ぎ澄まされた日本刀の如く鋭利だった。
「時間を取らせてすまなかった。天皇賞秋を楽しみにしているよ」
一瞬でその鋭利な表情を温厚な笑みに変えてシンボリルドルフは立ち去った。
ターボエンペラーはその背中を見送った。
いつの間にか固く握りしめていた拳をゆっくりと解きながら。
SIDE:ドリームアイ
「ドリームアイ!これ以上のトレーニングは許可できない!」
「ですがトレーナー!」
「落ち着くんだ!本番前に故障してしまっては意味がない!」
ドリームアイは焦っていた。
自分の思う通りに走らせてくれるトレーナーの期待に応えようと7冠まで手にする事ができた。
しかし8冠目はこの間逃してしまった。
表向きはさほど気にしていない風を装ったが実際には負けず嫌いのドリームアイは非常に悔しがっていた。
まして相手は無敗を誇る5冠ウマ娘。
例え自分のほうが戦績は良くとも油断できる相手ではない。
(私にはもう、時間が無いのに!)
ドリームアイは自分の全盛期が終わり、既に緩やかに下降し始めている事を悟っていた。
(恐らく私が勝てる可能性があるのは今年一杯!長距離の苦手な私が勝てるチャンスは天皇賞秋とジャパンカップの2回!あと一つ!あと一つで皇帝を超えられる!短距離絶対王者と呼ばれたお母様の誇りにかけて!)
ドリームアイは悔しそうに拳を握りしめた。
そして天皇賞秋を迎えた。
『さあ!まもなく始まります秋の三大GⅠレースの第1戦目天皇賞秋!今年も多くの実力派ウマ娘達が勢揃いしています!注目は現在7冠を達成しています最強ウマ娘候補筆頭のドリームアイ!そしてもう一人は未だ無敗の5冠ウマ娘ターボエンペラー!果たして勝つのは7冠か無敗か!はたまた他のウマ娘達が下克上を果たすのか!注目の一戦です!』
実況の声と共に多くのファンからの熱い声援が東京競馬場に響き渡る。
そんな熱いファン達の空気とは異なり、披露ステージ裏には張り詰めた空気が流れていた。
特に見ているだけで首筋に刃物を突き立てられている気分にされる2人が居た。
ドリームアイとターボエンペラーだ。
「楽しみだね。もう直ぐ貴女に初めての屈辱を味あわせる事が出来ると思うと」
「たかが7冠を達成した程度でもう勝ったつもりか?私は貴女を見くびっていたようだ」
「聞いてるよ?私が7冠達成したから焦ってトレーナーと大喧嘩したって」
「何、ちょっとした勇み足という奴だ。貴女こそトレーニング過多だってトレーナーと喧嘩したって聞いたけど?」
挑発に挑発を返す2人に周りの係員は冷や冷やしている。
勿論周りのウマ娘達もそんな2人を射殺さんばかりのキツイ視線で睨み付けている。
華々しいウマ娘達の活躍の裏にはこうした殺伐とした光景がある事をウマ娘関係者以外は知らない。
『まもなく出走します13人のウマ娘達を振り返ってみましょう。1枠1番ブレストツーピース!2枠2番カナデ!3枠3番ダイワキャバレー!4枠4番ダノンキンブリー!4枠5番ウインブレイド!5枠6番フェールメン!5枠7番クロスジェンティス!6枠8番、無敗の5冠ウマ娘ターボエンペラー!6枠9番ミラクル!7枠10番、7冠ウマ娘ドリームアイ!7枠11番スカーレットカール!8枠12番ダノンプレミオ!8枠13番ジケンボー!以上13人のウマ娘です!』
係員に案内されてウマ娘達がゲートに次々と入っていく。
ターボエンペラーの恐ろしい雰囲気にまだ経験の浅い係員が少しビビりながらゲートに案内した。
最後のウマ娘がゲートに入り、係員が下がった。
そしてゲートが開かれた。
「スタートしました!綺麗に揃ったスタートになりました!3番のダイワキャバレーが好スタートでハナを取りに行きます!しかし外からダノンプレミオがスッと先頭に立ちます!ダイワキャバレーここは譲ります2番手につけました!3番手にはミラクルが追走しています!向こう正面に入っていきます!先頭を走りますのはダノンプレミオ!4バ身空きまして2番手にダイワキャバレー!また少し間が空きまして3番手にミラクル!その外目4番手に7冠ウマ娘のドリームアイ!その後ろ内側にダノンキンブリー!外側にウインブライドが並びます!その後ろ内側ブレストツーピース外側ジケンボー!少し間が空きましてクロスジェンティスとフェールメンが並んでいます!その後ろに無敗の5冠ウマ娘ターボエンペラー今日は後方に控えています後方2人はスカーレットカールと最後尾のカナデです!』
ターボエンペラーは中段に控えて走る事にした。
東京競馬は530メートルもの長い最終直線が売りのコースだ。
だからこそターボエンペラーは末脚の活かせる追い込みを選んだ。
それは同時にどうしても焦りが募る自分の心を鎮める為でもあった。
(いいかターボ。焦るなよ。仕掛けを間違えるなよ。心は熱く、頭は冷静に・・・決めに行くぞ!)
レースは終盤に差し掛かり、東京競馬名物の大欅を超えようとしていた。
『さあ残りは600メートル!間も無く最終直線です!先頭を行きますのはダノンプレミオ懸命に逃げています!ミラクルが2番手!ダイワキャバレーが並んでくる!400を通過してドリームアイが上がってくる!後方からターボエンペラーが大外に持ち出して中段を撫で斬りにして上がってくる!ドリームアイここで末脚を炸裂!残り200メートル!先頭はドリームアイ!ターボエンペラーが恐ろしい追い上げ!クロスジェンティスも懸命に追い上げてきたが厳しいか!ドリームアイか!ターボエンペラーか!8冠か!無敗か!並んだままゴールイン!勝ったのは果たしてどちらか!』
観客たちは固唾をのんで掲示板を見つめた。
『でました!勝ったのは8番ターボエンペラー!無敗の6冠達成です!ドリームアイ惜しくも敗れる!8冠の壁は険しい!果たしてこの巨大な壁を超えるウマ娘は現れるのでしょうか!』
「・・・よし!」
ターボエンペラーは密かにガッツポーズを決めた後観客に向かって手を振った。
「・・・くっ!ジャパンカップは・・・負けない!」
ドリームアイは踵を返すと控室に戻っていった。
SIDE:???
羽田空港に1人のウマ娘が降り立ち、入国手続きをしていた。
入国管理官は手続きに従い入国目的を訪ねた。
「Is the purpose of entry for tourism or business?」(入国目的は観光ですかビジネスですか?)
「I came to see my father's birthplace.But that's not all」(父の生まれ故郷を見に来たの。でもそれだけじゃないわ)
入国管理官は怪訝な表情をした。
「It's combat」(戦いによ)
入国管理官があからさまに表情を変えたのを見てウマ娘は慌てた様子で訂正した。
「Just kidding!」(冗談よ!)
ウマ娘は噂には聞いていたが日本人って真面目でジョークが通じないのねと思った。
「Have a nice sightseeing」(よい観光を)
ウマ娘はパスポートを受け取った。
「Oh, und ich unterstütze den Japan Cup」(それとジャパンカップ応援してますよ)
突然のドイツ語に振り向いたウマ娘は笑顔の入国管理官を見てしてやられた事に気が付いた。
その後タクシーに乗り、ウマ娘は目的地へとたどり着いた。
「いらっしゃい。我が家のように寛いでね」
「Stieftante!」(義叔母様!)
ウマ娘を出迎えたのはクイーンダイアナだった。
「ドイツから日本へようこそ。カイザーシュラーク。凱旋門賞制覇おめでとう」
「Danke!」(ありがとう)
それはドイツの凱旋門賞ウマ娘、カイザーシュラークだった。
ファンによるキャラクター設定の考察
焦るドリームアイ
7冠を達成したアーモンドアイ陣営が8冠行けるかもしれないが反面全盛期を過ぎてしまっているアーモンドアイが今が全盛期のターボエンペラーとの直接対決を勝てるかどうかでかなり焦っていたという話が元になったと思われる
挑発しあうドリームアイとターボエンペラー
関係者が直接挑発したのではなくとある競馬雑誌の煽り記事が元ネタだろう