これが逃げるという事だ   作:福泉

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第3シリーズ第13話お待たせいたしました。ご意見ご感想お待ちしております。


第3シリーズ 皇帝のキセキ 13話 フランスへ

激闘を制したターボエンペラーだったがその代償は決して小さくなかった。

 

「関節炎ですね」

「また・・・ですか・・・」

「今回は無理な体勢で力をかけた事が原因ですね」

医者の言葉にターボエンペラーはブレストツーピースを躱した時かと思った。

接触しないようにかなり強引な走りになった為に体にかかった負荷に関節が限界を迎えたのだ。

「おそらくですが今後も関節炎が起こる可能性がありますね。あまりに悪化するようですと屈腱炎も起こす可能性があります」

前回の場合はそこまで深刻な状況ではなかったので医者の表情も安心させるような笑顔だったが、今回の表情は真剣そのものだ。

「トレーナーさんとは今後の事をしっかりと話し合う事をお勧めします。医者として、これ以上の無茶は賛同できません」

「はい・・・」

ターボエンペラーは熱を持つ右足をさすりながら返事をした。

 

「そうか・・・やはり秋のGⅠ3連戦はお前には負担が大きすぎたか」

大塚トレーナーはそう言って視線をターボエンペラーの右足に向けた。

「いいえ、あの無茶な走りさえなければ問題なかったと思います」

あそこで抜け出なければ恐らく勝てなかった。

ターボエンペラーはあの判断に後悔は無い。

「治療期間を考えると大阪杯は無理だな・・・ならいっそ早めにフランスに行くか」

「早めに・・・ですか?」

「日本のターフと違ってあちらのターフはクッション性が高い。その反面長い芝生が足にまとわりついてパワーが無いと速度がだせん。さらに移動の負担や現地になれる事を考えれば早めに現地入りして体調を整えた方がいいだろう。お前の体調次第だが現地でも1度レースを走ってから凱旋門賞に挑むべきだろうな」

「そうなるとフォア賞でしょうか?」

「お前の体調次第だがそうなるな」

凱旋門賞の前哨戦として選ばれるフランス重賞のフォア賞。

しかし凱旋門賞での活躍ウマ娘が少ないので近年ではステップレースとしては疑問視されている。

「トレーニングは日本のトレセン学園と交流がある学校が受け入れてくれる。凱旋門賞に向けて俺も勿論学園側も全力でバックアップしてくれる。心配はするな」

「はい!」

 

ターボエンペラーの怪我の治療が終わり、渡航しても問題がない状況になった為に仲の良い友人達が旅立つ彼女に激励会を開いてくれた。

「それじゃあエンペラーのフランス凱旋門賞制覇を願って・・・カンパーイ!」

「「カンパーイ!」」「「ゴールデン!!」」

スカーレットランスの掛け声と共に全員がグラスを鳴らした。

2名ほど異なる掛け声だったが気にする者は居ないだろう。

「ありがとう、応援してくれる皆の期待に応えられる様に全力を尽くすよ」

「がんばってねエンペラーちゃん、私ももう一度エンペラーちゃんと戦えるようにレース頑張るから!」

メロディールーンがそう言って笑顔を見せてくれる。

「有記念じゃあゴールデンにやられちまったからな」

「今度は俺がゴールデンに決めてやるぜ」

ゴールデンドライブとゴールデンマキシマがそう言って拳を突き出す。

「カイザーシュラークにリベンジしてきなさい!そして今度は私が貴女にリベンジするから!」

発起人のスカーレットランスがそう言って指を突き付ける。

「ああ、必ずリベンジを果たしてくる。そして皆でもう一度勝負をしよう」

ターボエンペラーはライバルであり友人である彼女らが居る事がとてもありがたい事だと思った。

たった一度の敗北や2度目の怪我でも落ち込んでいる暇すらない。

それは時々内向きに考えすぎてしまう自分には程よく前を向く機会をくれる。

「ああ絶対だ・・・絶対に・・・制覇してみせる」

 

そして渡仏当日・・・。

 

「まさか会長直々の見送りとは・・・」

「凱旋門賞制覇は我々としても決して見逃せないレースだからな。たった1度ではあるが手にした栄冠を再びと願うのはおかしな事ではないだろう」

空港には生徒会を始め多くの生徒が集まっていた。

「エンペラー、(フランスでは体調に)気を付けてな」

「マキシマム先輩・・・」

マキシマムターボからの言葉少ない激励にエンペラーは笑う。

「エンペラー、何を渡したらいいのか悩んじゃって・・・結局こんなものしか用意できなかったけど・・・」

そう言ってインパクトターボが手渡したのは幾分かすり減った蹄鉄だった。

「これは・・・?」

「私が初めてGⅠを勝った時につけていた蹄鉄だよ。記念とお守りとしてずっと大切にしてきたんだ」

そう言ってインパクトターボは照れたように笑う。

「貴女が勝てるようにしっかりと願いを込めておいたから」

「インパクト先輩・・・ありがとうございます!」

ターボエンペラーは蹄鉄を胸に抱きしめると見送りに来てくれた全員に手を振って飛行機へと向かった。

 

そしてフランスの空港にて・・・

 

「Willkommen!Turbo Emperor!」(ようこそ!ターボエンペラー)

「カイザーシュラーク!?どうしてここに!?」

空港で待ち構えていたカイザーシュラークにターボエンペラーは驚いた。

「アナタがこっちに来るってキイテじっとシテラレナカッタノ!」

恐らくカイザーシュラークのトレーナーらしき男性がすまなさそうな表情でこちらを見ていた。

多分どうしても言う事を聞かないので諦めて連れてきたのだろう。

日本と違いさすがに一人で行かせるには欧州の治安は少し不安だ。

勿論ターボエンペラーにも大塚トレーナーが一緒に来ている。

「Vaterもエンペラーのにひさしぶりにアイタイって!」

「ふぅ・・・大塚トレーナー」

ターボエンペラーは困った表情のまま大塚トレーナーの方を向いた。

「まあ1日2日なら問題は無いだろう。俺の方からこちらの学園には連絡を入れておく。親戚だから問題は無いだろうしな」

「すみません、よろしくお願いします」

「Gehen wir schnell!」(早く行きましょう!)

「Beruhigen Sie sich Kaiser!Bitte kontaktieren Sie uns」(落ち着けカイザー!連絡はこちらまでお願いします)

カイザーシュラークのトレーナーはターボエンペラーの腕を引っ張っていくカイザーシュラークを何とか宥めながら大塚トレーナーに自分の連絡先を伝えて後を追いかけた。

大塚トレーナーは手を振ってそれを見送ると、まずはお世話になる学園に事の顛末を伝えるために電話を取り出した。

 

「久しぶりだねターボエンペラー。カイザーが無理を言ってしまってすまないね。兄さんは相変わらず忙しく飛び回っているのかい?」

「お世話になります叔父様。ええ、正月はおろか結婚記念日すら仕事で居ないなんてと良く愚痴を聞かされています」

「ははは、兄さんらしいな」

そう言って父に良く似た笑顔を見せる叔父にターボエンペラーは実家のような安心感を覚える。

「義叔母様もお元気そうで良かったです」

「ヒサシブリねエンペラー」

カイザーシュラークの母、カイザリンマリアがターボエンペラーをハグする。

「アナタとカイザーの凱旋門賞がイマから楽しみだわ」

 

数日後、ターボエンペラーはフランスのウマ娘学校の練習コースを走っている。

「どうだエンペラー、初めての海外ターフは」

「噂には聞いていましたがかなり力を籠めないと思ったように加速できないですね」

「日本の芝生と海外の芝生は種類が異なるからな。葉が長くてクッション性が強い反面そこから抜け出して加速するためのパワーが必要だ」

普段硬い地面で走っている者が柔らかいクッションの上で速く走る事が出来ないように、柔らかい地面をあまり走りなれていないターボエンペラーはその違いを実感していた。

「お前のパワーなら問題ないだろう?」

「簡単に言ってくれますね。慣れは必要でしょうがやれなくはないと思います」

足元の硬さを図るようにターボエンペラーは何度かジャンプする。

「フォア賞までにこのターフに慣れるぞ。それができなければ凱旋門賞など夢のまた夢だ」

「分かっています。もう1周、タイムを計っていただけますか」

「もちろんだ」

ターボエンペラーは大塚トレーナーの掛け声と共に走り始めた。

 

SIDE:カイザーシュラーク

 

※会話文はドイツ語だと思ってください

 

「またエンペラーの監視か?一度勝った相手になぜそんな事を?」

「あらトレーナー、最も有力なライバルについて研究するのは当たり前でしょう?」

カイザーシュラークの言い分にトレーナーは渋い表情をする。

「そう何度も何度もフランスまでくる必要性も無いだろう。経費で落とすにしても限度がある」

「けち臭いわね!知ってるわよ!私の指導してるからって色んな名家から臨時指導の依頼をされているの!」

「ぐぅ・・・」

痛い所をつかれたトレーナーがうめき声をあげる。

「・・・そんなに気になるのか?」

「・・・嫌な予感が消えないのよ。あの時の勝ちがまるで偶然だった。そんな気持ちが消えないの」

カイザーシュラークが見つめるターボエンペラーは足元の硬さを確かめながら何度も走っている。

「・・・予感か。その予感を現実にさせない為にも練習に戻るぞ」

「また来てもいいかしら?」

「俺の財布が空にならなければな」

カイザーシュラークは後ろ髪をひかれながらも帰っていった。




ファンによるキャラクター設定の考察


2度目の関節炎

有馬記念以降に関節炎が発覚して再び休養に入っている
この時の関節炎もあまり酷いものではなかったが獣医が癖になっている可能性があり、今後悪化する可能性を指摘した


早めの渡仏

調教師と大塚騎手の判断で早めに渡仏してターボエンペラーの体調を整えつつフランスのレースに慣らしておきたいと判断した為に早めに渡仏している


インパクトターボの蹄鉄

室オーナーがお守りとして実際にフランスまで持っていった蹄鉄が由来だろう
その時の蹄鉄は今現在も室オーナーの自宅に有り、マキシマムターボとターボエンペラーの蹄鉄と一緒に飾ってある
最初はマキシマムターボの蹄鉄も持っていくつもりだったが奥さんから無くしてしまったら大変だし1つにしたらと言われてインパクトターボの蹄鉄だけにしたらしい
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