もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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幕間 ジャングルの修行

フーイが旅に出る1、2年前のある日の事。

 

「今日から一週間は儂と特別訓練だ。嬉しいか?」

「うれしい!わーい!」

 

桃白白に言われるがまま、彼女は両手をあげてバンザイした。

その様子に満足げに頷くと、ひょいっと小さな体を抱えて飛行機の助手席に乗せる。

慣れた手つきでよどみなく操作盤を扱い、スムーズに出発した。

眼下で見送る鶴仙人と天津飯が、見えなくなるまでフーイは手を振っている。

 

ところで、桃白白は余り乗物を必要としない。

下手な車などよりも走った方がよっぽど早いからだ。

その辺にある柱や丸太を投げて飛び乗れば、ジェット機などよりもずっと早く移動できる。

 

では、何故飛行機を購入したのか?

理由は簡単。兄である鶴仙人にとってもとっても怒られたからだ。

フーイを引き取ってから、仮にも拾ってきた者として、師匠として、桃白白はなるべく鶴仙流の道場へ帰るようにした。

それまでは年に2,3度だった帰省はあっという間に月1に増やしたのだ。

 

困ったのは鶴仙人、もとい彼の庭である。

深々と突き刺さる柱が与える芝生と地面へのダメージも、年数回ペースならまだどうにかなった。

しかし月1となるとそうもいかない。あっという間に穴ぼこだらけになり、あちこちで丸い形に草が禿げ上がる。

 

「いい加減に柱で帰ってくるのをやめろ」ととくとくと説教を受けた。

年甲斐もなく。

 

だから、特に必要もないのに飛行機を買ったのだ。

カスタマイズで様々な武器やギミックを仕込むのが楽しくなかったとは言わない。

その為に操作盤にはマシンガンだの魚雷だの水中ライフルだの、物騒な文言が並んでいる。

 

ステルスを意識したかなりの静音使用もあり、こうして飛んでいる間も気にせず鳥がすぐ近くを飛んでいく。

道場があった山からは随分遠いところまできたようで、植物の様子がかなり変わっていた。

うっそうと木々が生え、うっすらと煙のように霧が舞う様子は森というよりジャングルと言った方が正しい。

 

「この辺でいいだろう」

「ここで修行するの?」

「ああ」

 

ぱかっとフーイが座っている側のドアが開く。

身構える暇もなくあっというまに、力強く突き飛ばされ下に向かって落下していく。

 

「えええ~~~~っ!?」

「6日後に迎えにくるぞ――!!」

 

バキバキと枝を折りながら、なんとか無傷で着地する。

 

「いてて……つきっきりでみっちりやってくれるかと思ったら……放置なんて酷くない?」

 

ズレた悪態をつきながら起き上がった視界を、影が覆う。

雲でも流れてきたのかと見上げると、そこには巨大な爬虫類の頭があった。

鱗に覆われた体、小さな手、長い尻尾。

まぎれもない恐竜が、その口をあんぐりとあけ、一飲みにしようと迫ってくる。

 

「ばーか」

 

のを、たった一発で殺してしまう。

 

「今日のご飯はこれかぁ。火ってどうつけるんだろ。気でつくかな?」

 

こうしてフーイのサバイバル生活が始まった。

 

これといった強敵がいるわけではない。

本気を出さなくても一発でのせてしまう生き物ばかりだ。

とはいえ、油断しっぱなしというわけにもいかない。

鋭い牙や爪で不意をつかれれば、流石に普通に痛いし怪我も負う。

 

それなりにボロボロになりながら、何かに気づく感覚もあった。

 

鳥の羽ばたき、小さな動物たちのじゃれ合いや何かの群れの遠吠え。

様々な動物の足音から分かる、大体の大きさ。強さ。

何かを追っているのか、探しているのか、逃げているのか。

木の葉のかすれる音に混ざる息遣い。

 

ついでといっては何だが、武空術の練習も行った。

前々から教えられてはいるのだが、中々できない。

気弾が撃てるならそう難しいことではないと、鶴仙人も桃白白も言っている。

けれどできないのは、集中力のせいだとも、何度も指摘されていた。

 

全身に気を巡らせる。

薄く、満遍なく、行きわたらせる。

それがどうしてもできない。

何ヵ所かに強くかたまるか、逆に完全に散っていってしまう。

今ならできそうな何かを掴めた気がしたのだが……。

 

「あ――!もう!!」

 

ゴロンと大の字になった体を、象が器用に避けて通り過ぎていった。

 

 

そうして、約束の6日目。

再びジャングルの上空に一機の飛行機が訪れる。

空中でホバリング状態のまま扉が開き、乗っていた男がひらりと飛び降りた。

 

そのまま自由落下状態で真っすぐに――

――いや、木々の間を微妙にすり抜けながら降りてくる。

物理法則を無視したかのような柔らかい着地で地面に着地しようとした、瞬間。

 

がさりと近くの草むらが揺れ、思わずそちらを見る。

と、音がしたのとは逆方向から弾丸のように鋭い体当たりが襲う。

のを、くんっと体を浮かせて避け、そのまま上から踏みつぶした。

 

「ぐえっ!」

「なかなか元気な様だな。感心したぞ」

「お~も~い~!」

「何を言う、羽のように軽いだろうが、ほれほれ」

「ギブギブ!降参!」

 

ようやく下敷きから解放されたフーイは、服のあちこちが破け、ほつれ、かなりみすぼらしくなってしまっていた。

が、本体の方はかなりぴんぴんしている。やせたり、やつれたりしている様子もない。

どことなく雰囲気は変わっているようだ。無論、いい方へ。

 

「どうだ?私の特別サバイバル訓練は」

「寂しかった!こんなに一人なの初めてだったし」

「……そうか」

 

ずっこけそうになりながらも、いつものようにくしゃくしゃと頭を撫でてやる。

 

「さっきの奇襲はなかなかだったぞ」

「通じなかったけど」

「私を誰だと思っている」

「世界一の殺し屋、桃白白でしょ! 知ってるよ!」

「そうだ。お前の不意打ちなんぞへでもないわ」

 

ひょいっと行きと同じように体を抱え、そのまま宙を飛んで飛行機の中へと戻る。

数日ぶりのクッションにフーイは機嫌よく座り、感触を確かめた。

そのまま窓の外を眺めていると、緩やかに方向転換をしている事に気づく。

回れ右にしては妙な動きだ。

 

「道場に帰らないの?」

「お前がホテルでひと風呂浴びてからだ」

「えー、道場のお風呂でいいじゃん」

「修行の褒美だ。レストランで今まで食べたことがないものを、思う存分食わせてやろう」

「ホント!?」

「ああ。兄ちゃんには今回の修行の事は秘密にしておけよ」

「うん!」

 

目を輝かせ、はしゃいだ様子のフーイは、何も考えず簡単に元気よく頷く。

その言葉を聞いて桃白白はひそかにそっと胸をなでおろした。

ジャングルに落として数日放置したと知ったら、あの過保護な鶴仙人が一体どれだけ怒り狂うことか。

世界一の殺し屋だって師匠は怖いし、どれだけ強くなっても弟は兄に中々頭が上がらないのだ。

 

 

 

 

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