「先にレッドリボン軍から片付けよう」
見よう見まねでレッドリボン軍の飛行機を運転しながら、酷く冷静にフーイは言った。
キッチリと縛り、目隠しまで施したブルー将軍はカメハウスに預けてある。
先ほど、街中くの公衆電話で通報してあるので、間もなく警察が来て回収してくれるだろう。
「賛成!」
「だよねー。悟空ならそう言ってくれると思った!」
「でも、オラ、あいつらの家知らねぇんだよな……フーイはしってんのか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」
オートパイロットと書かれたボタンを押すと、ファイルボックスをごそごそ漁る。
そのなかから特に大きな地図を取り出して広げると、ある地点に赤い印がしてあった。
三角形を二つくっつけたリボンのような図形の中には、「R・R」と書かれている。
「ここが本拠地に間違いないよ。ナビのマップにも記録してあるし」
「よーし、それじゃあ筋斗雲で……」
「待った待った!」
外に飛び出そうとした首根っこをフーイが慌てて捕まえた。
「最初はさ、この飛行機でゆっくり近づこうよ」
「なんでだ?」
「相手を油断させるためさ」
得意げに話す彼女の口ぶりには、独特の雰囲気がある。
明らかに、人から聞きかじった知識を他人の前でひけらかす時のそれだった。
「向こうも多分ドラゴンボールのレーダーを持ってるから、私達の大体の位置は知ってるはず」
「じゃあ急いだ方がいいんじゃねぇか?」
「チッチッ。敵はさ、私達の移動速度を見て、大体これぐらいで到着するだろうって算段をつけるわけよ」
「うんうん」
「ってことは、その到着する時期に合わせて準備しようって考えるじゃん」
「そうだな」
「じゃあ、私達が相手の予定より先に到着したら?」
「……あいつらを不意打ちできる?」
「そういうこと!」
ニヤッと笑ってみせると操縦かんを握り直し、オートパイロットのスイッチを切る。
あたりに丁度良さそうな広場を見つけると、そこへ向かってゆっくりと機体を下降させた。
「そういうわけで、2,3日は途中でキャンプしながら目指そう。
日が暮れそうだし、今日はこの辺りでご飯にしようよ」
「お前、頭いいなぁ!」
「でしょ~?」
ぴょいっと二人そろって飛行機から下りると、備え付けのサバイバルバックから、寝袋やら何やらを取り出す。
ホイポイカプセルの中にきちんとしまい、フーイがポケットへ大事に入れた。
「じゃ、どっちがおっきい晩御飯を捕まえられるか勝負だ!」
「お――!」
揃って小さなこぶしを突き上げる様子は可愛らしい。
が、周囲の動物は恐怖を感じ、身を震わせたとか、震わせなかったとか。
~・~・~・~
「よく来てくれたな」
近頃毎日のように入り浸っている作戦会議室ではなく、レッド総帥は本来の定位置である執務室のイスに収まっていた。
とある、特別な来客を自ら出迎えるために。
長い三つ編みに可愛らしいリボン。
薄いピンク色と紺色の中華服。
それに似合わない、太い眉毛と口ひげを蓄えた、人相の悪い顔。
細く鋭いがどこか締まりのない目、とがった鼻。
そして、胸のあたりには大きく丸に殺の文字。
背中にはストレートに
そう、彼こそは紛れもない。
「世界一の殺し屋、桃白白だじょー」
桃白白本人だった。
「あらかじめ言っておきますが、私の仕事料は法外ですぞ」
「仕事をきっちりやってくれさえすれば、いくらでも払う」
「一人始末するにつき、一億ゼニーいただきましょう」
「一億ゼニー……!!」
法外どころか、普通に生きていれば夢物語のような金額に、思わずブラック補佐は目を見開いた。
けれどレッド総帥は動揺することなく、寧ろ当然であるかのような態度で落ち着いている。
「しかし、貴方はとても運がいい。
今年は私の『殺し屋さん20周年記念キャンペーン』で半額セールを実施中である。
一人につき5千万ゼニーでサービスしましょう」
「…………ど……どうも……」
が、よどみなく告げられた、文章としては間違っていないものの、何かがちぐはぐな文言に、また違う様子で目を見開き、ぽかんと口を開けた。
どうにもゆるんだ独特の雰囲気に、ブラック補佐が疑わしそうに片眉をあげる。
「本当に貴方、桃白白さんでしょうね……」
「試してみられるかな?」
睨んだわけではない。凄んだわけでもない。
ただ、どこか楽し気に、ニヒルに笑ってみせただけ。
それでも、何故か確信を抱かせる。
頷けば殺される。それも、小枝を折るように、アリを踏むように。
「い、いや別に……」
ほんの少し汗をかいて、ブラック補佐が顔の前で両手を振る。
丁度その時、執務室の頑丈なドアが叩かれた。
努めて控えめにしようとしているが、明らかに乱暴で、どうも焦った様子が感じられる。
「どうした、はいれ」
「失礼します!レッド総帥!」
息を荒げながらも、兵士はきっちりと規則通りの敬礼を見せる。
涙ぐましいほどの生真面目さだったが、そんな彼をしても動揺は堪えきれない。
総帥の許可を得るよりも先に、怒鳴るのに近い大声で喚く。
「例の子供らしき反応が、急速に近づいています!」
「なんだと!?」
「これまでの速度であれば、2日後に到着予定でしたが、今のままではっ」
「まさか明日にでも」
「い、いえっ!さ、さ、さっ……」
「3時間後か!?」
「30分後ですッ!!」
「「な、なにぃっ!?」」
声をそろえて驚く二人を、どこか冷めた目で桃白白は眺めている。
「どうやら時間があまりないようですな。標的を教えてもらいましょうか」
「こ、この二人です」
慌てて胸ポケットからブラック補佐が二枚の写真を取り出す。
一枚は特徴的な髪形に、山吹色の胴着をまとった尻尾の生えた少年。
もう一枚は灰色の瞳で鋭く睨む、真緑と黄色の胴着を着た少女。
その二枚をよくよく見つめ、特に二枚目を念入りに観察すると、桃白白は。
「ふ…く……くはっ!わはははは!」
笑った。
先ほどのニヒルな笑みよりもずっと深く、面白そうに、楽しそうに、心の底から。
決して明るいとは言えない。人相のせいか性格のせいか。
本人としては他意がないのに、恐ろしく邪悪に見える。
「わ、笑い事じゃないんですよ!
ただの子供だと思ったら大間違いです、並の強さじゃありません!」
「知っている」
と、っとささくれてごわついた指先が、彼に触れた。
そのままスポンジか何かに突っ込んだように、指が体の中へ沈む。
一瞬、たった一瞬で、ブラック補佐は物言わぬ死体となって崩れ落ちる。
真っ赤な毛の長い上等な絨毯へ、真っ赤な血が水たまりのように広がる。
「な、なにをっ、どうしたんだ桃白白!」
「どうしたもこうしたも、まさかこの私へ、弟子を殺せなどという馬鹿馬鹿しい依頼をする者が現れるとはな」
「なっ!?」
咄嗟に構えた兵士の銃は、一瞬で手元から消える。
びゅっと舌を長く突き出してキツツキのように頭を振ると、もう一つ死体が増えた。
「そ、そんなばかな……わ、わかったぞ!貴様もドラゴンボールを狙っているんだな!だからあのガキどもを」
「ドラゴンボール?」
「しらばっくれるな!そうか、お前の手下ならあの強さもッ……!」
「何を言っているか分からんが、心配するな」
ごと、と背の低い男の頭が机の上へ落下する。
胴体のほうは、椅子に座ったままいつまでも殺し屋の方を指さしていた。
「出血大サービスだ、貴様の分の代金はタダにしておいてやる」