もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之十三 聖地の番人

「よく聞け!子供を殺されたくなかったらボールを渡すんだ!」

 

虎の顔をした男、イエロー大佐が眼下に向かって叫ぶ。

彼が乗る銀色の機体には、真っ赤な三角形のリボンマークがでかでかと描かれていた。

片手には、まだ幼い小さな子供が抱えられている。

完全に機体の外に出てぶら下がっているような状態で、その気がなくてもふとした拍子に落下してしまいそうだ。

 

「ひ…卑怯な……」

 

子供の父、ボラは呆然と飛行機を見上げる。

屈強な彼は一小隊を相手取っても軽々退けるほどの腕前の持主だった。

しかし、子供を人質にとられてしまってはなす術がない。

 

「助けて父上――ッ!!」

 

悲痛な叫び声が、深い森の上空にこだまする。

 

「あれ?なんだなんだ?」

 

それを聞いて、悟空は筋斗雲の上から周囲をきょろきょろと見回した。

スピードを上げ、一気に飛行機へ近づく。

 

「このもよう、見たことあるぞ……」

「えっ!?」

「そうか!お前レッドリボン軍だろ!」

 

言うが早いか機体へ飛び移り、乗っていた男を思いっきり殴った。

鈍く低い音が響き、男の体は一撃で空中へ投げ出される。

衝撃で落下してしまった子供を筋斗雲でキャッチし、にっと悟空は笑った。

 

「オッス!」

「………………」

 

「――いててっ、あいつ!」

 

運よく木に引っかかってしまったイエロー大佐は自分の姿が隠れているのをいいことに、懐から銃を取り出す。

ボラにもあの奇妙な小僧にも通用しないかもしれないが、もう一人の小さな子供の方は本当に、ただの子供だった。

当たれば死ぬだろう。そう考え、息をひそめて狙いを定める。

 

上空から勢いよく丸太が降ってきた。

 

「ん?木と一緒に何か踏んじゃったかな」

 

度々の失敗から学び、フーイは今回、墜落するよりも先に地面へ降りていた。

ちらっと後ろを振り返るが、興味なさげに悟空の方へ歩いていく。

 

「なんだった~?」

「まだレッドリボンの連中が悪さしてたんだ」

「あー、本部がやっつけられたの知らないのかもね」

 

呆気にとられるボラの目の前にゆっくりと筋斗雲が下りてくる。

ボラの息子、ウパは涙を浮かべて父親に抱きついた。

それをしっかりと受け止め、抱きしめ、二人は無事を喜ぶ。

 

「息子を助けてくれてありがとう」

「オラ、レッドリボンのやつをやっつけるついでに助けただけだよ」

 

そう返した悟空だったが、ボラの手にあるオレンジ色の球体に目が釘付けになる。

 

「あった!おじさんが持ってるのドラゴンボールだ!」

「えっ!?」

「ねえ、みせてみせてっ!!」

「お前たちもこの玉が欲しいのか……」

 

不思議そうな顔をしながらも、すんなりとドラゴンボールを手渡す。

中にある星の数を数えて、悟空は興奮と喜びで大きな叫び声をあげた。

 

「やった――っ!四星球だ――っ!!じいちゃんの四星球が見つかったぞ――っ!!」

 

大事に握りしめて両手をあげ、やっほやっほと飛び跳ねる。

 

「一体どういうことだ?その玉は一体何なのだ?」

「おじさん、知らないで持ってたの?それはさ……」

 

ほんの数日前までは自分も知らなかったくせに、まだ喜びに浸っている悟空に代わってフーイは事情を説明した。

 

「なるほど、その球にはそんな秘密が……それで奴らがムキになって奪おうとしていたのだな……」

「でもオラは別に願い事なんてねえから、このじいちゃんの形見の四星球が手に入ればいいんだ」

「ここに来るまでの間にも一個拾ったけど、それも違ったもんね。よかったよかった」

 

にしても、と彼女はすぐそばに立つ塔を見上げる。

 

それは、建物というわけではなく、様々な彫刻が隙間なく施された柱のような形をしていた。

丸、三角、四角、波型に縦じま横じま、牛の骨……。

模様はどこまでも際限なく続く。

頭の高さを越え、木々の高さを越え、鳥の高さを越え。

ずっとずっとはるか遠く、雲の高さのその上まで。

 

「悟空のおじいちゃんの形見が、聖地カリンにあるとはね」

「知っているのか?」

「もちろん!元々、私はここを目指してたんだ。

 聖なる塔、カリン塔。てっぺんまで登れば、何倍も強くなれるって」

「ああ、そうだ」

 

ボラも、ウパも、悟空も、天に向かってそびえたつ塔を見上げた。

余りにも高いので、殆ど空を見上げるのと変わらない。

 

「塔を自らの力で上り詰めると……その頂には仙人様が住むといわれ、その方よりいただいた聖水を飲めば、己の力が何倍にもなるといわれている。

 わたしの一族は先祖代々、この聖なる塔を守っている番人なのだ」

「おじさんも上ってみた?」

 

少女の問いかけに、番人は微笑んで応える。

その声はおおらかで、柔らかく優しい。

 

「まだ若い頃、一度挑戦してみたこともあったがダメだった……まだ誰も頂を見たものはいない……」

「そうか~、たけえもんな~」

「何?怖気づいたの?」

「まさか!」

 

笑ってみせるフーイに、悟空も笑って返す。

二人の言葉を聞き、ボラはほんの少し驚いた顔をした。

 

「お前たち、二人とも上るつもりなのか?」

「ああ!」

「仙人様に会ったら、おじさんの事紹介しといてあげる」

「そうか……」

 

感慨深げに頷くと、ウパにこう告げた。

客人をもてなす準備を手伝ってくれ、と。

 

「はい!父上!」

「お前たち、今日は我が家で休んでいくといい。息子を助けてくれたお礼だ」

「え、でも……」

「塔は逃げない。頂も、無くなりはしない。しっかりと休むのも、大切な準備だ」

 

待ちきれない様子の幼い挑戦者たちを諭し、テントの中へと案内する。

ボラは、本当は、カリンの塔の言い伝えを完全に信じているわけではなかった。

力が何倍にもなるというのは、永い間そう語り継がれてきただけで、迷信かもしれない。

 

けれど、塔は確かに建っている。

多くのものが挑んでは、道半ばで諦めてしまうほどの、高い高い塔が。

塔が建っているのだから、どんな形にしろ、その頂上があるに違いない。

そして、塔に挑んだ青年の時期を過ぎ、親となって毎日塔を眺めるうち、ボラの中に一つの考えが浮かんだ。

 

仮に頂に仙人様がいなかったとしても、力を高める聖水がなかったとしても。

己の力だけでこの塔を登り切ったのなら、きっとそれだけで力は何倍にもなっているに違いない。

 

だから、彼は彼に出来る精一杯で、彼らを応援したいと思った。

少しも自分自身を疑わず、塔を上りきれると言い切る、変わった子供らに。

若き日の己を重ね、この二人ならひょっとすると、諦めてしまった頂を、その目に映すのではないか、と。

聖地の番人として。あの日頂を目指した、一人の挑戦者として。

 

 

 




誤字脱字報告ありがとうございます。
感想も、あまり返せていませんが、一件一件大切に読ませていただいています。
皆さん本当にありがとうございます。
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