もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之十五 強いぞ!桃白白!

いつもと同じ声、同じ相手。

相手の頭上を取る戦法は、フーイのお気に入りだった。

ただ、いつもと違うのはその高度と速度である。

 

桃白白は激しく動揺した。

明らかに人体が原型を留める範疇を超えている。

いくら彼女が頑丈だったとしても無事では済むまい。

 

みるみるうちに豆粒ほどの大きさから、どんどんフーイの体は近づき、大きくなっていく。

何を考えるよりも先に、半ば無意識にとにかく手を指しだそうとした瞬間。

ふわっと空中で彼女の落下は止まり、そのままゆっくりと地面に着地した。

 

「……舞空術を覚えたのか」

「へへー、結構大変だったよ」

 

中途半端な格好で固まった両腕は、目にも止まらぬ速さで引っ込められる。

自慢げに胸を張る少女に感づかれなかったのは幸いだった。

その代わり、ボラにはバッチリと見られていたが。

 

真面目が故に純朴で聡い彼は、しばし戸惑ったものの、桃白白の狼狽えようとフーイのはずんだ表情を見てすべてを理解した。

心配を押し隠す様子には、暖かな眼差しすら向ける。

槍をしまうと律儀なことに、桃白白へ向かって頭を下げた。

 

「申し訳ない、何か勘違いがあったようだ。彼らと貴方は知り合いなのだな」

「うん? そうだが?」

 

勘違いの原因はおおむね殺し屋側にある。

が、本人がピンと来ていないため、返事もどこか曖昧になってしまった。

そうこうしているうちに、やや遅れて筋斗雲にのった悟空も到着する。

塔の上はどんなだったの?というウパの純粋な質問に、悟空とフーイはほとんど同時に口を開いた。

 

「カリン様って仙人様じゃなくて仙猫様でさ」

「で、カリン様には亀仙人のじっちゃんもあってて、じっちゃんも塔に上ってたんだ!」

「そうそう、鶴仙人のじっちゃんの若い頃だったら、どのくらいでカリン様からツボを奪えたと思う?」

「カリン様っていじわるだからなぁ!桃白白のおっさんも意地悪な顔してるけど」

 

塔での出来事を口々に話する二人に、桃白白は露骨にうんざりとした顔をする。

ようやく本題らしき超聖水の話が出てきたところで、ピタリとフーイの鼻先を指さした。

ぽかんとした顔で、少女は付きつけられた指先を見つめる。

 

「力が何倍にもなったなら、試してみるだろう?」

「……あはは、そうだったそうだった」

 

師匠からの宣戦布告に、彼女はにいっと狂暴に微笑む。

そして、真正面からその懐に飛び込んだ。

 

「はあっ!」

「ふっ」

 

殆ど射出に近い動きは、けれど大きく後ろに跳ばれ避けられる。

なおも距離を詰めようとしたところを、素早いケリが何発も襲い掛かった。

背を低くして軸足を狙おうとするも、大きくジャンプしてまた避けられる。

そのまま体重をかけ踏みつけようとする膝の動きを、地面を転がってかいくぐった。

 

「く…とうっ!」

「ほっ、はっ」

 

追撃をかわし、反撃に移るのではなく、頭上を飛び越えることで背後をとる。

回し蹴りをしゃがんで避けようとすると、そのままかかと落しを食らった。

怯まずに足を掴んで投げようとするが、掴んだ靴がすっぽ脱げてしまう。

 

「うっそっ!」

「甘いわい」

 

無防備な横っ腹を丸太のような足がなぐ。

思いっきりカリン塔に叩きつけられ、掴んだ靴は宙を舞い、着地すると再び桃白白の足元に収まった。

が、次の一呼吸の内にフーイは柱を足場にし、真横に向かって飛んでくる。

それを避け、頭が来る位置を狙い再び蹴りでカウンターを狙ったその時――

 

「!」

 

――くいっと彼女の軌道が上に向かって歪んだ。

通常ありえない動きで桃白白の頭上を越え、真上の位置から指を突き出す。

必殺の一撃を繰り出そうとする。

 

が、太い腕が伸びるとあっというまに胸倉を掴まれ、地面にたたきつけられた。

そのまま短い手足を器用に押さえつけられる。

 

「いたいいたい!ギブ!ギブ!負けました!」

「ふん」

 

放された後もフーイはしばらく地面を転がる。

それは痛がっているというわけではなく、だだをこねているのに近かった。

結構いい線いってたのにとか、おしかった、とかブツブツ言っている。

 

「わしに勝とうなど100年早いわ」

 

自信満々で笑ってみせる桃白白だったが、内心かなり焦っていた。

いい線行っていた、というフーイの言葉は間違っていない。

少なくとも一瞬、確かに彼は無防備だった。

勝敗を分けた反応速度は、単に経験と訓練の差に過ぎない。

 

そう、経験と訓練。

カリン塔に上り、カリン様との修行を終え、超聖水を飲み、力が何倍にもなったフーイが、何故桃白白に勝てなかったのか。

それは単純に、桃白白がめちゃくちゃ頑張ったからである。

 

めちゃくちゃ!頑張ったのだ!

 

桃白白は間違いなく天才だった。本来、彼にかなう相手などいない。

多少腕に自信がある標的であっても軽い運動にすらならない。

だから、殺し屋を続けていくうえで特別、努力など必要なかった。

 

そこへ現れたのがフーイである。

彼女はみるみるうちに強くなる。

体も育って力強くなっていくし、不意打ちのセンスも上がっていく。

その成長を目の当たりにするにつれ、一つの疑念が頭をよぎった。

 

このままの調子で不意打ちされ続けていると、そのうち本当にやられてしまうのではないか?

 

まだこんな、自分の人生の20分の1しか生きていないような、小さな小さな弟子に。

不意をつかれて一撃貰ってしまうのではないか?

 

それはものすっごくかっこ悪い、と彼は思った。

ついでに、必死こいて避けるのも我慢ならないぐらいかっこ悪い、とも思った。

弟子の攻撃ぐらい、余裕綽々でさばいた上、反撃で叩きのめすぐらい出来なくてはならない、と。

 

存外、彼はかっこつけなのである。

 

だからそのためにとても頑張った。

 

基礎的な体力づくりや筋トレ、型の練習は欠かさない。

優れた武闘家がいると聞けばこれを叩きのめし、強い集団がいると聞けばこれも叩きのめす。

戦場に首を突っ込んだこともあった。

とある国では近頃、一夜にして一軍が消えたという怪談じみた伝説が囁かれているが原因はこの男である。

 

今日の勝利は、そんな地道な努力とプライドでつかみ取った勝利だった。

恐らく慢心していれば、なすすべなく無様にひっくり返っていただろう。

今よりさらに腕をあげなければ、明日その日が来てもおかしくないのだが。

 

「やっぱり桃白白は強いなぁ」

 

負けたくせに何処か嬉しそうで、満足げな少女は、決して知らぬことである。

 

 

 ~・~・~・~

 

 

「オラも桃白白のおっちゃんと戦いてぇ!」

「一億ゼニーだ」

「えっ!?」

「ああ、今なら20周年キャンペーンで半額の5千万ゼニーにしておいてやるぞ」

「か、金とるんか……」

「プロの殺し屋さんだからな」

 

 

 




というわけで桃白白強化イベントです。
感想で見抜いている方がいらっしゃって震えておりました。
今後もしばらくは桃白白が一番強いです。
追記:驚異の99%以上オフ(5千ゼニー→五千万ゼニー)を修正しました。ありがとうございます。
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