「ドラゴンボール、残り1個になっちゃったけどどうする?」
「どうするって?」
「せっかくだから全部集めて願い事叶えようよ」
桃白白の飛行機の後部座席、二人の子供が何事か話し合っている。
武天老師に会ってみたいという彼の要望により、三人はカメハウスへと向かっていた。
悟空の膝の上のリュックサックには、願い玉が3つ入っている。
預けている3つと合わせれば、あと1つでどんな願い事も叶うのだった。
「願い事って言ってもなぁ、フーイはなにかあるのか?」
「う~~~ん」
腕組みをして、じっくりと考えを巡らせる。
が、次の瞬間には、実にあっさりとした口調で「ないなぁ」と零した。
「ないなら集めたって仕方ないじゃないか」
「いや待って待って、なんかある、何かはあるから。
だってせっかくあと一つなんだし、使わないともったいないじゃん」
ドラゴンボールもそんな、期限切れ間近のクーポン券のような物言いをされる筋合いはあるまい。
操縦桿を操りながら、桃白白はそんなふうに思った。
子供同士の話に口を挟むつもりはなかったが、聞こえてくるものは聞いてしまうのだから仕方がない。
ドラゴンボールの話も半信半疑ではあるものの、考えてみないほうが無理な題材ではある。
どんな願い事も一つだけ叶うとしたら、一体何を願うのか。
様々なアイディアが浮かんでは消える。
そして、こうした話は他人の意見も気になるものだった。
自分では気づかなかった、魅力的な願い事が聞けるのではないかと。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「桃白白の殺し屋さん20周年記念のケーキとかどう?」
いらない、と彼は思った。
神龍が作る、殺し屋さん20周年記念のケーキというものは見てみたい気もしたが、それはそれとしていらない。
フーイの口ぶりは悟空に対してのもので、自分に対して提案しているふうではなかったため、返事はしなかったが。
「でもそれだと悟空に不公平か」
「別に構わねぇけど、でもオラ、でっけぇケーキは食べたいな」
「ケーキを頼んでみる?家ぐらいあるやつ」
きゃっきゃと話は弾んでいく。
でもケーキなら色んな種類が食べたい、ケーキだけじゃない食べ物も食べたい。
ああでもないこうでもないと話は進んでいく。
けれど、どれもピンとこないのか、中々願いは定まらない。
「あ、そうだ」
もう間もなくカメハウスにつくという頃合いで、フーイはこそこそ悟空に耳打ちをする。
少年はぱっと顔を輝かせ、それがいいそれがいい、と頷いた。
ようやく結論が出た二人は、満足げな顔で微笑んでいる。
並外れた聴覚で囁きをバッチリ聞いた桃白白はというと、こいつら七夕かなにかと勘違いしているのではないか、とやはり呆れた。
「アッサラ~~ム」
「…………」
「…………」
最早どこの国のものかもわからないあいさつに呆気にとられ、沈黙のまま見つめる亀仙人。
桃白白もまた、沈黙で返す。
見つめ合う二人の老人の間を微妙な空気が漂った。
亀仙人としても、目の前の男が警戒するべき相手だとは分かっている。
悔しいが、腕前では自身に勝るとも劣らないであろう。
が、古い馴染みの弟が、初対面でよく分からないジョークを飛ばしてきた時の反応としてはこんなものである。
「ほ、本当にあなた、桃白白さんですか……?」
「試してみられるか?」
ほんの数日前に聞いたのと同じセリフをクリリンに言われ、全く同じ風に彼は返す。
といっても、やはりこのジョークの笑いどころを理解しているのは本人以外いないのだが。
「本物だよー、サインもらう?」
「いやいいよ!結構です!」
フーイの言葉に慌ててクリリンは顔の前で両手を振る。
「お前も亀仙流の弟子か?」
「そ、そうだ!……です……」
ただ見つめられているだけなのに、何となく少年はしょんぼりとしてしまう。
散々フーイからどれだけ強いのか凄いのか、そして容赦がないか聞かされていた。
が、実際に目の前にすると話に聞いていた以上だとわかった。
殺し屋は興味があるのか分からない眼差しを向けると、ついっと亀仙人の方へ向き直る。
「武天老師、二人で少し話がある」
「……わかった」
「大丈夫かな……」
心配そうな顔で見送るクリリンを、悟空とフーイはきょとんとした顔で見ていた。
カメハウスに入った桃白白は、勧められもしないのに自然な動作でソファへ腰かける。
飲み物を出すかどうか少し迷って、結局何もせずそのまま亀仙人は向かいの席へ座った。
ただ座っているだけなのに、達人同士であるせいで妙に隙が無い。
先に口を開いたのは桃白白だった。
「悟空とかいうガキを育てたのはお前か?」
「いや、違う。悟空は、わしの弟子が拾って育てた子供じゃ」
「そうか。なら、大猿については知っているか?」
「前回の天下一武道会を見ていたのか」
悟空が大猿に変身するところは大勢に見られていた。
殺し屋であっても、一角の武闘家なら知っていても不思議はない。
だが、桃白白は首を横に振る。
「私が知っているのは、フーイも大猿になるからだ」
「なにっ!?」
勢いよく立ち上がったせいで、テーブルがガタリとゆれる。
サングラスの奥の目を大きく皿のように見開き、亀仙人は詰め寄った。
「どういうことじゃ」
「どうもこうも、そのままの意味だ。満月を見ると、あいつは変身する」
「しかし、あやつに尻尾は……」
「生えるたびに切っている」
「……なるほどな」
いくらか落ち着いたのか、元通りすとんと席につく。
顔を片手で覆い、顎髭を撫でた。
肩に力が入っていたのを感じ、深々と息を吐く。
「その話をしに来たのか」
「そうだ、何か知っているのではないかと思ったが、無駄足だったようだ」
「気になるのか、あやつらが何者か」
「大猿になると、恐ろしく強くなる。数倍、いや十倍程度か」
亀仙人は重々しく頷いた。
彼はつい先日、身をもって体験している。
その上、大猿になってしまえば理性も何もない。
最早彼らを止められる人間はいないだろう。
「月を壊したのは正解だったな」
「……悟空もフーイも、怪物ではないぞ」
「そんなことは知っている。あいつらがドラゴンボールに何を願うつもりか知っているか?」
「なに?」
「亀仙人のじっちゃんと鶴仙人のじっちゃんと、桃白白がいつまでも元気に長生きしますように。だと」
そう言いおいて桃白白は席を立つ。
あとには笑えばいいのか喜べばいいのか呆れればいいのか、わからなくなって間の抜けた表情の亀仙人だけが残された。
扉の向こうでは子供たちが3人でじゃれ合っている。
彼らともう1人ヤムチャをくわえた4人が占いババの試練に挑むのも、再びピラフ一味の野望を阻止するのも、そして無事に7つ目のドラゴンボールを手に入れ願いを叶えるのも、また別の話。