もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之十六 願い事一つ

「ドラゴンボール、残り1個になっちゃったけどどうする?」

「どうするって?」

「せっかくだから全部集めて願い事叶えようよ」

 

桃白白の飛行機の後部座席、二人の子供が何事か話し合っている。

武天老師に会ってみたいという彼の要望により、三人はカメハウスへと向かっていた。

悟空の膝の上のリュックサックには、願い玉が3つ入っている。

預けている3つと合わせれば、あと1つでどんな願い事も叶うのだった。

 

「願い事って言ってもなぁ、フーイはなにかあるのか?」

「う~~~ん」

 

腕組みをして、じっくりと考えを巡らせる。

が、次の瞬間には、実にあっさりとした口調で「ないなぁ」と零した。

 

「ないなら集めたって仕方ないじゃないか」

「いや待って待って、なんかある、何かはあるから。

 だってせっかくあと一つなんだし、使わないともったいないじゃん」

 

ドラゴンボールもそんな、期限切れ間近のクーポン券のような物言いをされる筋合いはあるまい。

操縦桿を操りながら、桃白白はそんなふうに思った。

子供同士の話に口を挟むつもりはなかったが、聞こえてくるものは聞いてしまうのだから仕方がない。

ドラゴンボールの話も半信半疑ではあるものの、考えてみないほうが無理な題材ではある。

 

どんな願い事も一つだけ叶うとしたら、一体何を願うのか。

様々なアイディアが浮かんでは消える。

そして、こうした話は他人の意見も気になるものだった。

自分では気づかなかった、魅力的な願い事が聞けるのではないかと。

 

「あ、そうだ!」

「どうした?」

「桃白白の殺し屋さん20周年記念のケーキとかどう?」

 

いらない、と彼は思った。

神龍が作る、殺し屋さん20周年記念のケーキというものは見てみたい気もしたが、それはそれとしていらない。

フーイの口ぶりは悟空に対してのもので、自分に対して提案しているふうではなかったため、返事はしなかったが。

 

「でもそれだと悟空に不公平か」

「別に構わねぇけど、でもオラ、でっけぇケーキは食べたいな」

「ケーキを頼んでみる?家ぐらいあるやつ」

 

きゃっきゃと話は弾んでいく。

でもケーキなら色んな種類が食べたい、ケーキだけじゃない食べ物も食べたい。

ああでもないこうでもないと話は進んでいく。

けれど、どれもピンとこないのか、中々願いは定まらない。

 

「あ、そうだ」

 

もう間もなくカメハウスにつくという頃合いで、フーイはこそこそ悟空に耳打ちをする。

少年はぱっと顔を輝かせ、それがいいそれがいい、と頷いた。

ようやく結論が出た二人は、満足げな顔で微笑んでいる。

並外れた聴覚で囁きをバッチリ聞いた桃白白はというと、こいつら七夕かなにかと勘違いしているのではないか、とやはり呆れた。

 

 

「アッサラ~~ム」

「…………」

「…………」

 

最早どこの国のものかもわからないあいさつに呆気にとられ、沈黙のまま見つめる亀仙人。

桃白白もまた、沈黙で返す。

見つめ合う二人の老人の間を微妙な空気が漂った。

 

亀仙人としても、目の前の男が警戒するべき相手だとは分かっている。

悔しいが、腕前では自身に勝るとも劣らないであろう。

が、古い馴染みの弟が、初対面でよく分からないジョークを飛ばしてきた時の反応としてはこんなものである。

 

「ほ、本当にあなた、桃白白さんですか……?」

「試してみられるか?」

 

ほんの数日前に聞いたのと同じセリフをクリリンに言われ、全く同じ風に彼は返す。

といっても、やはりこのジョークの笑いどころを理解しているのは本人以外いないのだが。

 

「本物だよー、サインもらう?」

「いやいいよ!結構です!」

 

フーイの言葉に慌ててクリリンは顔の前で両手を振る。

 

「お前も亀仙流の弟子か?」

「そ、そうだ!……です……」

 

ただ見つめられているだけなのに、何となく少年はしょんぼりとしてしまう。

散々フーイからどれだけ強いのか凄いのか、そして容赦がないか聞かされていた。

が、実際に目の前にすると話に聞いていた以上だとわかった。

殺し屋は興味があるのか分からない眼差しを向けると、ついっと亀仙人の方へ向き直る。

 

「武天老師、二人で少し話がある」

「……わかった」

 

「大丈夫かな……」

 

心配そうな顔で見送るクリリンを、悟空とフーイはきょとんとした顔で見ていた。

 

カメハウスに入った桃白白は、勧められもしないのに自然な動作でソファへ腰かける。

飲み物を出すかどうか少し迷って、結局何もせずそのまま亀仙人は向かいの席へ座った。

ただ座っているだけなのに、達人同士であるせいで妙に隙が無い。

先に口を開いたのは桃白白だった。

 

「悟空とかいうガキを育てたのはお前か?」

「いや、違う。悟空は、わしの弟子が拾って育てた子供じゃ」

「そうか。なら、大猿については知っているか?」

「前回の天下一武道会を見ていたのか」

 

悟空が大猿に変身するところは大勢に見られていた。

殺し屋であっても、一角の武闘家なら知っていても不思議はない。

だが、桃白白は首を横に振る。

 

「私が知っているのは、フーイも大猿になるからだ」

「なにっ!?」

 

勢いよく立ち上がったせいで、テーブルがガタリとゆれる。

サングラスの奥の目を大きく皿のように見開き、亀仙人は詰め寄った。

 

「どういうことじゃ」

「どうもこうも、そのままの意味だ。満月を見ると、あいつは変身する」

「しかし、あやつに尻尾は……」

「生えるたびに切っている」

「……なるほどな」

 

いくらか落ち着いたのか、元通りすとんと席につく。

顔を片手で覆い、顎髭を撫でた。

肩に力が入っていたのを感じ、深々と息を吐く。

 

「その話をしに来たのか」

「そうだ、何か知っているのではないかと思ったが、無駄足だったようだ」

「気になるのか、あやつらが何者か」

「大猿になると、恐ろしく強くなる。数倍、いや十倍程度か」

 

亀仙人は重々しく頷いた。

彼はつい先日、身をもって体験している。

その上、大猿になってしまえば理性も何もない。

最早彼らを止められる人間はいないだろう。

 

「月を壊したのは正解だったな」

「……悟空もフーイも、怪物ではないぞ」

「そんなことは知っている。あいつらがドラゴンボールに何を願うつもりか知っているか?」

「なに?」

 

「亀仙人のじっちゃんと鶴仙人のじっちゃんと、桃白白がいつまでも元気に長生きしますように。だと」

 

そう言いおいて桃白白は席を立つ。

あとには笑えばいいのか喜べばいいのか呆れればいいのか、わからなくなって間の抜けた表情の亀仙人だけが残された。

扉の向こうでは子供たちが3人でじゃれ合っている。

 

彼らともう1人ヤムチャをくわえた4人が占いババの試練に挑むのも、再びピラフ一味の野望を阻止するのも、そして無事に7つ目のドラゴンボールを手に入れ願いを叶えるのも、また別の話。

 

 

 

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