もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之十七 お待ちかねのお説教

帰りの飛行機の中でのフーイは、ひどく静かでおとなしかった。

座席に背中をくっつけて座り、物憂げに俯いて口をきつく結んでいる。

おそらく、今までの人生の中で一番静かだったのではないか。

その理由は勿論、

 

「鶴仙人のじっちゃん怒ってるよなぁ~~」

 

すでに確定しているお説教だった。

 

「わかってて行ったんだろうが」

「それはそうなんだけど……」

 

ちなみに、桃白白が涼しい顔で正論を吐いているのは、既にお説教をすませた後だからだ。

フーイをたきつけたのをしっかり見抜かれ、キッチリ叱られたのだ。

道場で正座させられたのは数年ぶりだった。

なお、前回の正座は柱で庭をめちゃくちゃにした件である。

 

「何とか怒られないようにできないかなぁ!」

 

逃げ場のない車内の中、少女はありもしない解決策を考え、頭を抱え続けていた。

 

 

 ~・~・~・~

 

 

つい昨日のこと、鶴仙人は不思議な体験をした。

天津飯に稽古をつけている最中、体の内側から暖かな光が溢れてきたのだ。

突然の事に慌てふためいたものの、幸いというか、光はすぐに消えてしまった。

何事かと訝しんだが、原因はさっぱりわからない。

 

しかし、それからというもの不思議と体の調子がいい。

衰え始めていた体力が戻ってきたかのように、活力がみちみちている。

 

そのせいか、いつもの型の確認のための組手で、勢い余ってうっかり拳があたってしまった。

と、殴られた天津飯の体が軽く2mほどふき飛んだ。

あまりのことに、ふっとんだ方よりも、ふっとばしたほうが呆然としていた。

怪我はなかったのが幸いである。

 

彼自身にも、直ぐ側で見ていた天津飯も、全く見当もつかないことだった。

一時的なものかと思ったが、次の日に当たる今日、一夜過ぎて朝を迎え、目が覚めても相変わらず、体の調子がすこぶる良い。

どういうわけだろうと思いながら、フーイの帰宅を待ち構えているのが今のこと。

 

いつものようにとても静かに、飛行機は庭へ下り立つ。

気負わぬ様子で桃白白はさらりと降りてきた者の、もう一人はなかなか顔を出さない。

しばらく待っていたが、一向に姿を現す気配がなく、しびれを切らして鶴仙人は低い声で名前を呼んだ。

 

「フーイ」

 

終身刑を言い渡された囚人のような足取りで、のそのそと彼女は地面に足をつけた。

恐る恐る鶴仙人を見上げ、悲しそうな眼差しで顔色をうかがう。

これは怒られることがわかっている事をやった時の、一種の癖だった。

そんなに叱られるのが嫌なら初めからやるなと、天津飯あたりは常々思っている。

 

「ごめんなさい……」

「何故謝る?」

「じっちゃんの言うこと無視して、勝手に外へ修行しに行ったから」

「なるほど、自分が何をしたのかは分かっているようだな」

 

しばらくの沈黙の後、鋭い怒声が飛ぶ。

 

「馬鹿者!そこに直れ!」

「はい!」

 

びくりと体を震わせ、彼女は行儀よく足をそろえて正座した。

その後はお説教の始まりである。

 

勝手に家を飛び出したことは勿論、止めた理由もきちんと話していたのにそれを無視したこと、そもそも普段からしてフーイは言いつけを破りがちであること。

更にはそこから続いて日常の振る舞いや修行での態度など。

こまごまと、丁寧に丁寧に指摘する。

一々ごもっともなので、口をはさんだり反論をする余地はない。

 

「兄ちゃん、いつもより勢いがないか?」

 

こそこそと桃白白が天津飯に耳打ちをした。

万一聞かれようものなら、勿論、流れ弾は命中し飛び火が炎上する。

 

「昨日妙なことがあってから、体調がいいみたいで」

「あ~」

 

同じくこそこそと耳打ちされた返答に、思わず気の抜けた声が出る。

間違いなくドラゴンボールのせいだろう。

桃白白だけでなく亀仙人も、昨日、同様の出来事を体験していた。

異様に体調がいいのも完全に一致している。

 

「心当たりがあるんですか、桃白白さん」

「まあなぁ」

 

訳知り顔、というには何とも歯切れが悪い微妙な表情を浮かべた。

ここでそのことを鶴仙人に言ってしまってもいいのだが、と兄を眺める。

何でも願いが叶う――それこそ世界征服であっても――願い玉を使って、健康長寿を願われたとしれば、間違いなく説教は止まるだろう。

というか、恐らく驚きのあまり、消えてなくなる。

 

事情を吞み込ませるには何度も繰り返し説明しなければなるまい。

実際に目にした桃白白ですら、信じがたい出来事だった。

真っ黒く染まる空、神々しい輝きと共に現れる神龍。

そして短冊に書かれるような、抽象的すぎる願い。

 

「たやすい願いだ」と言った太い声が中々頭から離れない。

そりゃあたやすかろう、と桃白白は思った。

鶴仙人も亀仙人も桃白白ですら、年齢はすでに200歳を超えている。

その上で拳銃程度ならもろともしない強さを誇っているのだから、既に十二分に『元気で長生き』なのだ。

 

それでも一応、相応の効き目というものはあったようだが。

 

少し迷って、桃白白は結局今ここでは言うのをやめた。

悪いことをしたのなら、しっかり叱られるべきだからだ。

そう思って自分も叱られたのだから、中断してやる義理はない。

 

「ところで天津飯」

「はい、なんですか?」

「お前も旅に出てみたいか?」

「えっ」

 

あからさまにドキリとした彼に、まだまだだなと内心思う。

天津飯はフーイとは違う意味で素直過ぎ、また真面目過ぎた。

この性格のままでは殺し屋など夢のまた夢だろう。

鶴仙人の方では、そう思っていないかもしれないが。

 

「心配するな。近いうち、そういう話が出るだろう。

 お前はしっかりしているからな」

「はい」

 

憧れる人物に褒められ嬉しかったのか、天津飯はほんの少し興奮した様子で頷いた。

そうこうしているうちにお説教がひと段落したのか、フーイが立ち上がる。

少しくたびれたのかしなってしまった雰囲気の彼女。

鶴仙人にそれと、と声をかけられ肩が跳ねた。

 

「帰ってきたらまず言うことがあるのではないか?」

「……!」

 

ぱあっと顔を輝かせ、抱きついて叫ぶように言う。

 

「ただいま!」

「おかえり」

 

しわくちゃの手が優しく、さらりと頭を撫でた。

 

 

 

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