もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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ピッコロ大魔王編
其之十八 鶴仙流の弟子


それほど昔の話でもない、数年前の事。

庭をボコボコにした罪で説教を食らった桃白白に、当時3歳程度だったフーイはてちてち近づいた。

無邪気に膝に手を置かれ、彼が身じろぎ一つしなかったのは、しばらく正座するように言いつけられていたからだ。

渋い顔を下から覗くだけに飽き足らず、フーイは舌足らずに聞いた。

 

「どうして正座してるの?」

 

よく殺されなかったものだが、当時の彼女は純粋に疑問だったのだ。

別に彼を煽るつもりはなかったし、怒られた理由を尋ねているわけでもない。

 

鶴仙人よりも桃白白の方がずっと強い。

戦闘民族の血だろうか、そのことが本能的にわかっていた。

それなのに、どうして自分より弱い相手に従うのか?

 

質問の表面でなく本質をくみ取ったのか、桃白白は軽くため息を吐いた。

何に対してのものなのかはよく分からない。

とにかく、彼は幼く無知な弟子に一つだけ教えて、それを質問への答えとした。

 

「師弟と兄弟は、単に強いとか弱いとかいうものではない」

 

やはり意味が分からずに、少女と呼ぶにも幼すぎる彼女は首をかしげる。

が、間もなくして鶴仙人がやってきて、両手で抱えられ回収されていった。

そのころのフーイはまだ、力づくでもしわくちゃの手を振り切れなかったのだ。

 

そして、現在、フーイが旅から帰って来てひと月もたたない頃の事。

 

「そろそろお前も旅に出るか」

 

食後のお茶をすすりながら鶴仙人はそう言った。

言われた天津飯は驚きと喜びで声を張り上げて元気よく返事をする。

眼差しにはやや誇らしげな輝きも感じられた。

そして、それを聞いたフーイはあからさまにぶすくれる。

 

「何で天津飯にはあっさりオッケーでるの!」

「なぜなのか本当にわからんのかお前は!」

 

唸るように上げた抗議の言葉は、倍の勢いで押し返された。

しまったと思った時にはもう遅い。

くどくど語られる内容はいつもと同じで、それは結局フーイが何一つ変わっていないことを示している。

 

「そもそもお前は何事に対しても注意力散漫で、集中力の持続が短すぎる。

 身の回りの事もずさんに過ぎる。あんなに少ない持ち物でどうしてあんなに部屋を散らかせるんじゃ。

 一人で旅をするということは、武術の心得以外にもそういう自立する力が求められるのだ。

 大体な……」

 

長い長いお説教を、何も言われずともフーイはちょこんと正座して聞いている。

そうしないという発想はそもそも存在しない。

最も、もっと注意を惹くもの――例えば久々に帰ってきた桃白白とか――が現れれば、あっという間にそのことで頭がいっぱいになって飛び出してしまうのだが。

 

彼女はもうすでに、鶴仙人よりも強い。戦わなくてもわかる。

既に実戦から遠ざかって長い老爺と伸び盛りの彼女では、比べ物にならなく、なり始めている。

だから、別にフーイが彼の言葉を黙って聞く必要はないし、背筋を正す理由もない。

全ての価値を強弱に置くのなら、そうだ。

 

けれど実際は違う。彼女は黙って殊勝に話を聞いているし、必要とあれば罰も謹んでうける。

ある種すりこみに近い面もあるだろう。

何といっても鶴仙人はフーイの育ての親であるのだし。

しかし、もっとも強い理由は、とある感情である。

 

一般的に敬愛と呼ばれるが、その言葉自体をフーイは知らない。

彼女は自分の五感や心の動きに素直過ぎて、一つ一つの名前や定義に関しては全くの無頓着だった。

 

一通り説教を終えると、鶴仙人は天津飯に向き直った。

 

「よいか、旅とはいえ修行の一環じゃからな。

 行き先と経路ぐらいは決めて、儂に相談の上、きちんと準備をしてから出発するように」

「もちろんです」

 

心強い返事に、鶴仙人は満足げにうむ、と頷く。

 

「ところで、既に目的地の候補はあるのか?」

「……カリンというところへ行ってみたいと思います。

 私もフーイがあったという仙人様の元で修行がしたいのです」

 

ちら、と正座したままの姉弟子を見た天津飯。

師匠からは死角の位置で、彼女はニヤッと自慢げに笑った。

いわゆるドヤ顔である。彼はフーイへ目を向けたことを後悔した。

 

「なるほどのう。確かに、こやつの話を聞く限り、よい経験になりそうだ」

「詳しい位置や移動手段を知りたいので、地図をお借りしたいのですが」

「わかった。後でわしの部屋にくるといい」

「ありがとうございます」

 

この時点ですでに、見切り発車(というか射出)で見当違いの雪景色へ突っ込んだフーイとは雲泥の差がある。

ますます鶴仙人は天津飯に感心した。

これなら安心して送り出せるというものだ。

とはいえ、万一ということもあるから、と、あるものを彼に手渡す。

 

「これは、小型の発信機のようですが……」

「道なき道もあろう、自分の居場所を見失うと人は容易く遭難する。

 そうでなくとも、自分がどこにいるかわかるのは旅をするうえで重要なことじゃ」

「確かに、おっしゃる通りです。ありがたく頂戴します」

「それから」

 

と、機械の端についたピンク色の、リボンのような部分を指さす。

 

「命の危機を感じるときには、この紐を引くのだぞ」

「そうすると何がどうなるのですか?」

「桃白白がくる」

 

桃白白が、くる。

天津飯はやや気恥ずかしそうにし、フーイはうらやましそうにしている。

彼らにとっては保護者がすっ飛んでくる防犯ブザーのようなものだから、当然といえば当然の反応だ。

鶴仙人にとっても、そういう認識だった。

 

が、残念ながら桃白白はただの保護者ではない。

名実ともに、押しも押されぬ世界一の殺し屋である。

しかも、慢心せず研鑽を重ねた結果、今や一人で小国の一大隊と対等以上にわたり合う実力をつけている。

 

少年の一人旅の防犯としては過剰戦力だった。

彼がどこかの軍隊とやり合うつもりなら話は別だが。

残念ながら、姉弟子が実際に軍隊を潰しているが故に、可能性を否定しづらい。

 

とにかく、長旅の準備を整えた彼は、最終兵器めいた防犯ブザーを手に出発した。

幸いなことに、紐を引く機会はなく、実に順調に旅は進んだ。

堅実にカリン塔にも上り、ツボを奪う試練にも挑んだ。

余りにも真面目な様子と愚直な性格に、カリン様から「本当にお主、フーイの弟弟子か?」と聞かれる一幕もあった。

いくらか日数をかけたものの、試練をパスし、見事超聖水を勝ち取った。

 

そして、見違えるように成長した彼は、道場へ帰還する。

一人の子供を連れて。

 

「え、なんで?」

 

と、出迎えたフーイが言った。

鶴仙人は頭を抱えた。

 

 




余談

「見送りの言葉は何かないのか」

と、天津飯はフーイに言った。
彼としては、夜中抜け出すようにこっそりと出発し、自分に見送りの言葉すら言わせなかった彼女への、皮肉も少し込められていた。

「気をつけて、とか?冗談でしょ」

しかし、伝わらなかったのか少女はニヤリと笑う。

「大丈夫に決まってんじゃん。天津飯なら」

予想外の返答ではあったが、期待通りではあるような気がする。
そうだな、と天津飯もニヤリと笑って返した。


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