もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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第十八話あとがきに余談を追加しました。


其之二十 大会前夜

「そこまで!」

 

鶴仙人の高らかな声が響く。

それを合図にフーイは天津飯から手を放し、二人は距離をとって一礼する。

近頃組み手は道場ではなく、もっぱらこの裏山の空き地で行われていた。

理由は簡単で、本気でやり合うと建物が持たないからだ。

舞空術などを活用して思いっきりやるという意味でも、屋外の方が都合がよかった。

 

何とか試合終わりの礼までは耐えていたフーイだったが、どさりと土の上に転がる。

それをとがめるような視線を送り、鶴仙人の前で気をつけをする天津飯も、立っているのがやっとなのかふらふらしている。

 

「よい、天津飯、話はその辺の木陰で座って聞け。

 フーイ! 休むにしてもこっちへこい!」

 

はーいと間延びした返事をして、彼女は言われた通り鶴仙人と、その隣に立つ桃白白の近くへ寄って腰を下ろした。

正座をしていた天津飯も、鶴仙人に再び促され姿勢を崩す。

 

「まずは餃子、二人の組み手はどうだった?」

 

突然話しかけられ、見学していた餃子は少し慌てて、はい!と返事をした。

 

「す、すごかった」

「何がどう凄かったのだ?」

「天さんは、技の数も多くて、しかも、ちゃんと使い分けてた。

 でも、フーイも、ちゃんと受け止めたり、流したり、反撃もしてた。

 二人とも、すごかった」

「ほう、よく見ているな」

 

桃白白は素直に感心した様子でそう言った。

実際、餃子の成長は目覚ましい。

元々超能力という、ある種気に近いものの扱いになれていた為だろうか、気弾も舞空術もあっさり扱えるようになった。

今ではやや拙いが、どどん波も立派に打てる。

 

褒められるのは純粋に誇らしく感じるのだが、と餃子は思う。

頭を撫でるために、いちいち帽子をとって、また被せなおす一連の動作には何か納得がいかない。

強いのは重々承知しているのだが、よく分からない人だなと常々感じる。

気にするふうもなく、鶴仙人はフーイへ声をかけた。

 

「お主はどう感じた?」

「しんどいけど楽しかった!」

「違うわ馬鹿者!」

 

すぱん、と手刀が勢いよく頭に入る。

自分でさすりながら、今度は真面目に答える。

 

「天津飯のバリエーションの多さヤバいなって。途中、何回か危ないところあったし

 次にどれが来るとか、選択肢多すぎて全然わかんなかった」

「それは貴様が頭を使っていないからだ。反射神経任せに感覚でやっとるじゃろう」

「あー、うん、そう。そうです……」

 

頷きながら珍しく少し苦い顔をする。

 

「自分の戦法を考えるのと同じぐらい、相手の戦法を考えい。

 そのためには観察、そして観察のためには集中じゃ。

 今日から瞑想の時間を毎日設けるぞ」

「げえっ」

「返事は!」

「はいっ!」

 

歯切れの良い返事に頷くと、鶴仙人は最後に天津飯の方を向いた。

 

「お主はどうじゃった?」

「はい。やはりフーイの反射神経と身体能力に、対応しきれていませんでした。

 技の多さだけではどうにもならない。基礎的な部分をもっと強化しなければと思います」

「それは違うぞ」

「すみません、どういうことでしょうか?」

 

自分の至らなさを痛感していただけに、深く反省していた天津飯は、それをあっさり否定され、困惑した。

よいか、と老人のしわくちゃの手が人差し指を立てる。

 

「お前は目がいい。単純な技なら一度見ただけで真似できてしまう。

 その分、相手の動きが良く見えすぎ、次の予測を考えすぎてしまうのじゃ

 だから次の手が一瞬遅れ、フーイのような素早い動きに間に合わない」

「な、なるほど……」

「要は考え過ぎということだな。もう少し肩の力を抜け」

「わかりました」

 

深く頷いているその様子は、わかっているのかわかっていないのか。

これも彼の性格なので仕方のない面はあるだろうが。

 

「さて、三人とも、いよいよ天下一武道会は5日後に迫っておる」

 

そこまで行ってから鶴仙人は足を一歩踏み出し、力の限りこぶしを握り締めた。

強張りすぎてやや震えている。

 

「亀仙流のやつらが幅を利かせているような大会に!本物の武道を!見せつけてやるんじゃ!」

「おー!」

 

師匠の熱量に見合わない、気の抜けた雰囲気でフーイも拳をゆるく突き上げる。

餃子と天津飯も力強く頷いてみせた。

桃白白は、何処か他人事の様子でそれを眺めている。

 

「さて、それでは飯にするか。中へ戻るぞ」

 

5人はぞろぞろと連れ立って母屋の方へと歩いていく。

列が間延びしたタイミングで、偶然フーイと天津飯は横並びになり、他の3人とすこし距離ができた。

その時、何か思い出したようで、そういえば、とフーイは彼に話しかける。

 

「なんだ」

「私が最後、掴む前さ、あの時なんで殴ったの?

 どどん波でも何でも撃ってたら天津飯が勝ってたよ」

「そうだったか?」

「あれ? 自覚ない?」

 

そっかぁ。と言って、彼女はしばらく考え込む。

そして再び5人が一塊になり、玄関へ入ろうとしたところで再び口を開いた。

 

「天津飯って、桃白白みたいな殺し屋になりたいんだよね」

「ああ、何だ突然」

「でもさ、天津飯は向いてないと思うよ、殺し屋」

 

パキ、とあからさまに空気が凍った。

 

 

その後は酷かった。

 

何を言っても何を聞いても、フーイは向いていないものは向いていないの一点張り。

寧ろ、天津飯や餃子、鶴仙人が何故理由を理解していないのかの方が、不思議だとまで言う。

始めは努めて冷静に理由を聞こうとしていた天津飯も、最後には堪忍袋の緒が切れたのか「もういい!」と怒鳴ったきり、口を噤んでしまう。

慌てた餃子がどうにかフォローしようとしたが、それにも耳を貸さない。

 

鶴仙人の仲裁も 責もむなしく、2人は話すどころか目も合わそうとしない。

それでいて鍛錬はいつも通り、いや、いつも以上の熱量で打ち込んでいる。

 

そうこうしているうちに、天下一武道会の日がやってきた。

結局5日間、2人は一度も口を利かなかった。

 

 

 

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