もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之二十四 武道会の後で

「ではまた3年後にお会いしましょう。さようなら――!!」

 

閉会のアナウンスが流れ、殆どの人間が帰路についたころ。

同じように選手たちも帰り支度をすませていた。

 

「ん?」

「え?」

 

そして、2人の仙人がばったりと出くわす。

彼らの後ろをついて歩いていた連れ添いたちも、どやどやと顔を見合わせた。

 

「ふんっ」

「ひっひっひ」

 

腕を組み、嫌そうに鼻を鳴らし顔をそらせた亀仙人と対照的に、鶴仙人は得意げに笑う。

 

「いやぁ、見事だったではないか亀仙人。

 まさか自慢の弟子が準優勝とはな~ァ!」

「はっはっは! おぬしの方こそ、優勝とはのう~!

 まったく出来のいい弟子じゃな、師匠とは大違い!」

「なにを!このつるっぱげ!」

「だまれ!この中途半端はげ!」

 

体裁をギリギリで取り繕い、嫌みを言い合っていたのも一瞬の事。

あっという間に単なる喧嘩に変わる。

弟子の前での勿体ぶった師匠像もかなぐり捨てて、やいのやいのと罵り合う。

そこだけ切り取れば、老人2人というより折り合いの悪い青年同士のようだ。

 

「そもそも、おぬしはなんじゃ! 弟子が出場するならともかく、じぶ…もがっ!」

 

自分まで出場しおって、っと言おうとした彼の口を慌てて亀仙人が塞ぐ。

必死に人差し指を唇の前で立てる仕草は、亀仙流の面々には見えず、彼らは首をかしげている。

事情を呑み込めない餃子も同じように首を傾け、天津飯とフーイは互いにちらりと視線をかわす。

桃白白は興味なさげに突っ立っていた。

 

「ええい!やめんか!」

 

力づくで腕をはたき落とし、鶴仙人は肩で息をする。

口元を拭って襟元を正し、年甲斐の無い奴めと吐き捨てた。

正直、年甲斐に関してはドングリの背比べである。

 

「まあいい、これで本当の武道というものを、みんなもようく知ったことじゃろう」

 

ひっひっひとまた高らかに笑い声をあげる。

 

「フーイのお師匠さんってわりに、陰湿な感じね」

 

こそこそとブルマはヤムチャへ耳打ちをした。

ヤムチャ、クリリンは少し顔をしかめて小さく頷く。

そこへぬるっとフーイが割り込む。

ぎょっとする彼らをよそに仕方ないよ、と彼女は言った。

 

「だって鶴仙人のじっちゃんもはしゃいでるんだよ。

 天津飯が優勝した時嬉しすぎて、餃子と一緒になって、万歳しながらジャンプして、テッ!?」

「余計なことを言うな!」

 

勢いよく拳が脳天に直撃し、頭を抑えてフーイはしゃがみこむ。

天津飯は驚きと喜びを隠せず、クールな表情が緩みかけている。

 

「なんだよ!ホントの事じゃん!

 桃白白だって思いっきりしっかり、ガッツポーズし、いって~~!!」

 

一切の容赦がない膝蹴りが小さな体を襲った。

天津飯は最早心の底からにっこりと誇らしげに微笑んでいる。

やや冷ややかだった亀仙流の面々からの視線が、全く生温いものに変化した。

ごほん、とわざとらしく咳をして、鶴仙人が仕切り直す。

 

「さて、それでは天津飯の優勝を祝して食事にでも行くか」

「わーい!」

「わーい!」

 

餃子が嬉しそうに両手をあげ、フーイもそれに続く。

それなら、と天津飯は鶴仙へ言う。

 

「私に賞金でごちそうさせてください」

「何を言うか。それはお前が、お前自身の手で稼いだ初めての金じゃ。

 自分の好きに使うがいい」

「ですが……」

「だいたい、フーイがいるんじゃぞ、50万ゼニーぽっちじゃ足りんわ」

「そうそう」

 

二ッと彼女が笑うと、天津飯も苦笑するしかない。

鶴仙人は軽く彼の背中を叩いて、歩みを促す。

 

「わしらもメシでもくいに行こうかの。悟空もクリリンも、腹いっぱい食べて力を蓄えんとな」

「賛成!」

 

亀仙人の言葉にブルマとヤムチャが声をあげる。

それぞれに出発しようとしたとき、あっと悟空が自分の両手を見た。

 

「いけねえ!!じいちゃんのドラゴンボールと如意棒!!」

 

しょうがないな、とクリリンが笑う。

 

「おまえくたくただろ、いいや俺がとって来てやるよ」

「すまねえ、サンキュー」

 

そのやりとりを聞いて、桃白白は軽く自分の胸元やポケットを叩いた。

 

「なんじゃ、お前も忘れものか」

「すぐに戻る」

「おう」

 

同じ場所から、同じタイミングで、同じ場所へ向かう。

となると、自然と並んで進むことになる。

思わずクリリンは頬を引きつらせた。

 

なんといったって、桃白白は殺し屋なのだ。

それも、世界一を自称している。実際、自分等よりはるかに強いだろう。

ぶっちゃけ、怖かった。

とはいえ、観客席と選手控室は場所が違う。

すぐに離れる、と思ったのだが。

 

「あの……」

「なんだ?」

「いえ、なんでもないです」

 

何故か分かれ道を過ぎても、並んで歩いている。

選手控室へ向かって。

それを指摘しようと話しかけて、じろりと睨まれ(本人はただ見ているだけなのだが)クリリンは口を噤んだ。

 

じつは、桃白白の忘れ物とは選手控室と、予選会場に仕掛けたカメラだった。

天下一武道会にはその名の通り、世界各地の達人たちが一堂に集まる。

武道を志す者にとっては、一戦一戦が宝の山のようなものだ。

 

たとえ試合が成立しないほど技量の差があったとしても、知ることには価値がある。

様々な戦闘スタイルを目にすることは、それだけで勉強になるものだ。

とはいえ無許可なので大っぴらに回収するわけにはいかない。

まあいざとなったら黙らせるか、と少し物騒なことを彼は考えていた。

 

一方、鶴仙流と亀仙流の面々は、互いに人を待つ身なので何となく、まだ同じところにたむろしていた。

師匠同士の不仲も何のその、弟子たちはワイワイと自分達の試合の話で盛り上がっている。

流石にそこへ水はさせないので、老人たちはどこか所在なさげに見守るしかない。

 

「悟空もこっちに遊びにきなよ、また試合したいしさ」

「いいのか!?」

「ああ、俺も賛成だ。鶴仙人様にお願いしてみよう」

 

そんな他愛のない話をしていた時。

 

――断末魔にも似た叫びが辺りに響く。

 

「なっなんじゃ!!」

「クリリンの声だっ!」

 

悟空がはじかれたように走り出すと、全員がそれに続く。

声がした方に進みながら、きょろきょろとフーイたちはあたりを見回した。

観客席に桃白白の姿はない。

一体、どこまで忘れ物を取りに行ったのだろうか。

とうとう選手控室まで辿り着くと、誰かが倒れている。

 

一人はサングラスをつけた、天下一武道会の司会者。

 

一人は小さな体の、坊主頭の少年。

 

もう一人は、薄いピンク色の服を着た、三つ編みの男。

 

「えっ……?」

 

少女は立ち尽くす。

足を止めた少年の隣を、ヤムチャが走り抜けた。

鶴仙人も同様に倒れている弟へ駆け寄る。

彼の胸元には何かが焦げ付いたような跡がある。

 

「おい、クリリン!クリリン!」

「桃白白、返事をせんか!」

 

「ば……ばけものだ……」

 

辛うじて息があった司会者が苦し気に、なんとか言葉を吐く。

 

「そ…そこにあった袋からへんな球と……ぶ…武道会の名簿を奪って……に…にげた……

 桃白白さんが……とめようとしたが……あいつの右腕が……爆発して………」

 

「ま、まさか、死んで……う、うそだ……」

「何かの冗談だろ、クリリン」

 

鶴仙人とヤムチャの動揺しきった声が、妙にはっきりと耳に届いた。

 

死んだ。

 

桃白白が、クリリンが。

 

「殺された……」

 

一度口に出してしまうと、彼らはもう止まらない。

 

「ち……ちきしょう!!ちきしょう……!!」

「まっ、まて悟空!まて!!まてというに!!命令じゃぞっ!!」

 

悟空は如意棒とドラゴンレーダーを手に、筋斗雲へ乗る。

わき目も振らず飛び出した背中を、亀仙人は見送ることしかできない。

 

「……」

「や、やめろフーイ!どこへ行くつもりじゃ!おい!フーイ!!」

 

フーイは弾丸のように走り出し、外の柱を折り取って投げた。

必死に呼び留める鶴仙人の声も届かず、彼女は振り向かない。

 

呆然と、行き場のない沈黙が包む。

何かしなければならないのに、何も思いつかず、身動きが取れない。

しわくちゃの手が、すがるように抱きしめていた体が、僅かに動く。

こほ、と咳の音が響いた。

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