もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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序三 フーイと鶴仙流

「4676、4677、4678」

「3312……3313…3314……」

 

板張りの床が汗ばんだ素足で踏みしめられ、汗が当たりに飛び散る。

100人は入れそうなほど広く立派な道場のなか、老人に見守られ叱られながら、たった2人の子供が『鶴』とかかれた揃いの服を着て竹刀をふるっていた。

 

「フーイ!姿勢が歪んどる!それではなんの意味もないぞ!あと500回追加!

天津飯!ペースを乱すな!」

「ゲッ」

「はいっ!」

「フーイ!返事が聞こえんぞ!」

「はいっ!」

 

フーイと呼ばれた方は12歳ぐらいだろうか、背は低く、髪を短く整えていて、こちらだけ、『KILL YOU!(お前を殺す)』と非常に物騒な文言が背中に踊る。

勢いよく腕を動かしているものの、集中力がすっかり切れているようで、灰色の瞳は落ち着きなくあたりのあちこちをきょろきょろ見回す。

動作は鋭いが荒っぽさがあり、そのせいで先程から何度か回数の追加を言いつけられてた。

 

もう一人の天津飯と呼ばれた少年はやや年上で、身長が伸び始めた頃だろう。フーイよりは頭一つほど背が高い。

こちらは頭をすっかり丸めており、額の3つ目の目が目を引く。

疲れ始めているのかやや腕や足にぶれと震えがでているが、それでもすっと背を伸ばし、正しい姿勢で真面目に取り組んでいる。

 

「敵を倒す(殺す)」ことを目的とする鶴仙流では、徒手空拳だけでなく武器の扱いも重要な修行の一つである。

剣はもちろんのこと重火器や爆発物まで最終的には一通り使えるようにならねばならない。

流石に年端も行かない未熟者に本物を握らせるわけには行かないため、基礎体力訓練も兼ねてこのように素振りを行っているというわけだ。

ちなみに竹刀の重さだけは本物と同じかそれ以上である。

 

「4731、4732、4733……あっ!」

 

突然、ピクリと耳を震わせ、フーイは竹刀を放り出し弾丸のようになって、縁側向きの障子をすりぬけるようにして外に飛び出す。

 

「3336…3337…えっ?」

「な、おい!こら!待たんか!」

 

少しして天津飯と鶴仙人にも飛行機の音が聞こえ始めた。

田舎に住む個人用の、四人用小型飛行機にかなりの違法改造を施したその機体は、エンジン音すら驚くほど小さい。

人間よりも敏感な鳥たちや木々でさえ油断してしまい、気がついたときにはすでに近くへ到着している。

 

「フーイのやつめ…!」

 

鶴仙人が障子をスパンッと開けたときにはすでに飛行機のハッチは開き、持ち主は今まさに地面に降り立とうとしているところだった。

庭にフーイの姿はない。建物や飛行機のあたりにも、茂みにも、見当たらない。

ふっと影が落ちる。さては屋根の上か――いや、違う。

()()だ。

 

「桃白白〜〜〜〜!!」

 

飛び上がったその小さな姿を直視できないのは、太陽を背にしているからだ。

重力を味方につけ、眼下の男に狙いを定める。

日光で姿を隠し、全身を矢のようにして鋭いケリを放つ。

高さと重さがそのまま破壊力に還元される、必殺の一撃を不意に食らい、男は――

 

――わずかに体を傾けると、わざと腹が来るであろう位置に膝を置き、鳩尾に一撃食らわせた。

 

「ぐふぅっ」

「様をつけんか、様を」

 

顔から地面に落下し、べちゃ、と潰れた饅頭のように地面に倒れ伏す。

ピクピクと指先を震わせる姿は、踏み潰された虫にも似ている。

と、たっぷり20秒ほど待ってあっさりと起き上がった。

 

「くっそー!今日こそはいけたと思ったのに!」

「まだまだ修行が足りんわ」

 

顔や体についた土を軽く払い、フーイはニカッと上を向いて笑う。

 

「おかえり!」

 

無言でぐりぐりと節くれだった手が荒っぽく頭を撫でる。

髪が乱れるのも気にせず、まだ幼い()()ははしゃいだ様子で笑い声をあげた。

 

 

「なー、桃白白」

「なんだ?」

 

ただでさえ周囲に人影らしい人影もない山奥は、夜になれば一層暗い。

暗いが、さほど静かでもない。あちこちでフクロウやカエルの鳴き声がひっきりなしに聞こえてくるし、木の葉のかすれ合う音も思いの外大きい。

 

怒り心頭の鶴仙人にこってり絞られ、夕飯抜きの上道場の掃除を一人で命じられたフーイは、僅かな明かりの中あまり気にせず元気に雑巾がけをしていた。

桃白白の手の中にあるおにぎりを物欲しそうにちらちら見てはいるが、見られている方は全く気にせずむしゃむしゃ頬張っている。

 

「私も桃白白みたいに外にでて強い奴と戦いたいよー」

「外には儂より強い奴はおらんぞ」

「知ってるけど、そういうことじゃなくて、ジッセンケイケンってやつ大事じゃん」

「一理ある」

 

ソフトボール大のおにぎりをあっという間に平らげ、指についた米粒をべろりと舐めとる。

 

「鶴仙人のじいちゃんにも言ったんだけど、絶対ダメだって」

「兄ちゃんは過保護だからなぁ」

「カホゴなのかぁ」

 

水の入ったバケツに雑巾をばちゃばちゃとつっこみ、きつく絞り上げた。

床はピカピカに磨き上げられており、これが最後の一往復だ。

さっさと済ませてしまおう、と手足に力をこめる。

 

「どうしても武者修行がしたいなら、勝手にしたらどうだ?」

 

そう言われてフーイは虚をつかれたようにきょとん、とした。

 

「勝手に行ってもいいの?」

「良くはないだろうが、儂は止めんぞ」

 

行くにしても掃除ぐらいは終わらせてから行けよ。といった桃白白はどれだけ本気だったのか。

何にせよ、数日中の内にフーイは着の身着のまま、夜中の内に道場を離れることになる。

桃白白がさっさと次の仕事に出かけてしまったため、『さがさないでください』の置手紙をみて悲鳴のような奇声を上げた鶴仙人を、一人おろおろと天津飯が宥めていたのもまた、別の話。

 

 

 

 




次回から原作突入の予定です。

フーイの髪型は鶴仙人が切ってくれました。
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