「奴らがドラゴンボールだけでなく、天下一武道会の名簿を奪ったのは……」
「武道会の名簿は、武闘家を始末するためじゃろうな」
「ああ、間違いない。やつは再び魔封波を使うものが現れるのを恐れている」
鶴仙人と亀仙人は2人、飛行機を使いドラゴンボールを集めていた。
特に妨害にあうこともなく、既に手元には4つのボールがある。
どうやらピッコロ大魔王たちはボールを集めることより、武闘家を殺すことの方を優先しているらしい。
「しかし、また亀とボール集めをすることになるとはのう」
「また?」
「覚えとらんのか、武泰様との修行で」
「ああ、あの武の字が書かれた石を拾う奴か」
「あれはしんどかった……」
「地平線に向かって消えていっとったからなぁ……」
ぽつぽつと昔話などをかわすが、どこか言葉少なだった。
しばらくの沈黙のまま、飛行機は草むらへ降りる。
腰が痛いなどと呟きながら、四本の腕ががさがさとあちこちをあさった。
「のう、鶴」
「なんじゃ」
「おぬし、どういう心変わりがあった」
丁度その時、鶴仙人の指先が、硬いものに当たる。
拾い上げたそれは、つやつやと蜂蜜のように光り輝いて、綺麗なオレンジ色の中に小さな星を閉じ込めていた。
七つ集めれば、どんな願いでも叶う奇跡の球。
神が作ったといわれてはいるが、そんなものがいるのならなぜ大魔王をそのままにしておくのだろうか。
立ち上がって腰を擦ると、鶴仙人は言った。
「わしは貴様のような自殺志願者とは違うぞ」
「なんじゃと」
「死ぬつもりはない。じゃが……」
しわくちゃの手の中で球がくるくると回される。
磨かれた、というよりも元より完全な状態で生み出されたかのような真円は、鏡のように彼の顔を写した。
「ピッコロ大魔王の配下は桃白白を仕留めるのに、片腕を犠牲にしたらしい。
生きていると知ったら再び殺しに来るに違いあるまい。
名簿を持って行った以上、フーイと天津飯、餃子も命を狙われる。
加えて、亀。恐らくわしとおぬしも例外ではない。
奴らの師というだけでなく、武泰斗様の弟子じゃからな
おまけにおぬしは選手としても名が載っておる」
馬鹿な奴め、と嫌みな笑い声をあげる。
亀仙人はしばらくあっけにとられていたが、一呼吸置くと快活に笑い返した。
「なんじゃ、どうせ死ぬならというやつか」
「でなければ誰がピッコロ大魔王となんぞ戦うか!」
「しかし、そうだったとしても、鶴がまさか弟だけでなく、弟子のために戦うとはのう
……ちょっとおぬしらお互いに好きすぎんか?」
「はあ!?」
思わぬ言葉にぎょっとして、鶴仙人は思わずドラゴンボールをとり落しかけた。
「天津飯のやつもじゃが、フーイもわしがおぬしの事を言うとったら、殺気を向けてきよったし」
「それはお前がわしのことをあることないこと、好き勝手言い寄ったからだろうが!」
「へ~ん、全部本当のことじゃし~」
「な、おい!何を言うかこのうすらとんかち!」
顔を真っ赤にして怒り散らす彼に対し、いつもと違って亀仙人は罵りの言葉を返してこない。
それを感じて、鶴仙人も少し冷静になり、とがらせていた肩から力が抜ける。
「えらく好かれたもんだな、鶴」
茶化す様にニヤリと笑われ、鶴仙人ははくはくと口を動かしたが、結局何も言えなかった。
腹立ちまぎれにドラゴンボールを投げ渡し、しかし亀仙人は軽々とキャッチする。
彼は手元にある袋に入れると、再びレーダーを確認した。
「……む!」
「どうした?」
「のこり2つがそろっておる……しかも、どうやらこっちに向かって動いているようじゃぞ……」
ピッコロ大魔王が、くる。
ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込み、鶴仙人はそちらの空をじっと見つめた。
「い、いよいよか」
「なんじゃ、今更震えとるのか」
「む、武者震いじゃ!」
「そういうことにしといてやろう」
そういう亀仙人も、じっとりと濡れるほど背中に汗をかいている。
三百年経った今でさえありありと思い出される。
あのシンボル、顔、声、そして強さを。
「いいな、隙をついて向こうの二つを奪う……そして神龍を呼びだし、願うのじゃ。ピッコロ大魔王の死を……」
「わかっとるわ……しかし、万が一にでも失敗したならその時は……」
視線をかわし、こくりと頷き合う。
「おぬしも身につけたのか、あの術を」
「……何かと使えそうだったからのう」
その言葉に亀仙人は、場違いな嬉しさを感じずにはいられなかった。
和解したわけでも、改心したわけでもないが。
かつての兄弟弟子と、またこうして肩を並べることができるとは、思ってもみなかった。
それも、同じ師匠から最後に受け継いだ技を引っ提げて。
「長生きはするもんじゃわい」
「それも今日までかもしれんがな……来たぞ」
黒塗りの飛行艇が、太陽にかぶさり地面へ暗い影を落とす。
上部に備え付けられたテラスに現れたのは、見間違いようもない姿。
「ピッコロ大魔王……!」
そして、彼は二人が見ている目の前で、ごくりと2つのドラゴンボールを呑み込んでしまう。
「く、く……これでは奴を倒さん限り、ドラゴンボールは手に入らんではないか……!」
「ははは、鶴よ、腹をくくるしかないわい」
空元気に肩を揺らすと、亀仙人は表情を引き締めた。
鶴仙人も一つ深々と、ため息のように息を吐いて意識を整える。
待ち構える二人の元に、大魔王が降り立った。
「はっはっは……!貴様ら、わしがピッコロ大魔王だと知っておりながら、ここで待っていたのか?」
「ああ」
「だったらなんじゃ?」
「なるほど、頭がいいとは言えん連中だな。しかし」
にたりと、牙を見せつけるように笑う。
「勇気だけは認めてやる」