もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之二十七 ゴー・トゥ・ヘル!!

「カリン様」

「……来たか」

 

天下一武道会の会場を飛び出したフーイは、カリン塔のてっぺんを訪れていた。

桃白白を殺すような相手に自分がかなうはずもない、それは彼女自身よく承知している。

だから、ここへ来た。

じっとりと怒りで瞳を濁らせた少女に対し、カリンの表情は硬かった。

 

「仙人様なら知ってるよね、私、物凄く強くならないといけない。それも、今すぐに」

「おぬしが戦おうとしておる相手が、いったい誰だかわかっておるのか?」

「知らないよ。でもどこにいるか、わかる方法は知ってる」

「……ピッコロ大魔王の名を、聞いたことはないか」

 

バチリ、はじかれたように瞳を大きく見開く。

ぴっころだいまおう、と鸚鵡返しに呟いて彼女は仙猫様へ詰め寄った。

 

「ピッコロ大魔王って、あの?」

「ああそうじゃ。おぬしは知らんだろうが、やつは鶴仙人と亀仙人の師匠、武泰斗が、その命と引き換えに封じたほどの恐ろしいやつじゃ。生半可な方法では決して勝ち目はないぞ」

「それでも!」

「落ち着け。だいたい、桃白白は死んではおらん。傷は負ったがまだ生きておる」

「……へ?」

 

唐突に前提が崩壊し、フーイは思わずぽかんと口を開けた。

籠っていた力が一気に抜けていき、腰を抜かしそうにすらなる。

 

「生きてるの?」

「桃白白だけではない。クリリンというやつも、ショックで呼吸が止まっとったから、勘違いしたんじゃな」

「は、ははは……あはは!なーんだ!勘違いだったんだ!」

 

先ほどまでの暗い決意はすっかり消え去り、ケラケラと笑いだす。

安心からかとうとうその場にすとんと腰を下ろし、くつろいだ様子で手足を投げ出した。

 

「クリリンも生きてるなら、悟空に知らせてやらないと。

 あ、でもやっぱり二人とも死にかけたんだから、どっちにしろやっつけないとね」

 

戦いを決意しながらも、口調は軽い。

しかし、すっかりいつもの調子を取り戻した彼女とは違い、カリンの様子は未だ暗かった。

それに気づいたフーイは首をかしげる。

 

「どうしたの?」

「……桃白白とクリリンは生きておるが、しかし……」

 

彼は、少し迷った。

迷ったがしかし、結局は彼女を水瓶の前へ手招きする。

黙って知らせなかったところで、事実は変わらない。

それに、やつを倒せるとしたら彼女とあと二人、孫悟空と天津飯を置いてはいないのだから。

 

「この水は、過去現在未来を映し出す」

 

酷い話だとカリン自身も思っている。

世界のためとはいえ、まだ幼さの残る彼女たちを死地へ送ろうというのだから。

それでも、僅かに可能性があるのならそれにかけるしかない。

 

不思議そうにしながらもフーイが覗き込んだ水面に、とある景色が映り込んだ。

 

鶴仙人と亀仙人、そして見知らぬ怪人の三人が向かい合っている。

緑色の肌にとがった耳、ぎょろりとした目つき、とがった歯。

昔話に聞いていた、ピッコロ大魔王本人に間違いない。

 

「はっはっは……!どうやら貴様ら、本気でこの大魔王様に戦いを挑むつもりのようだな。

 身の程知らずめ……とは言っても、噂話でしか俺様を知らんのだろうから、無理もないがな」

 

薄ら笑いのまま、構えようともしないピッコロ大魔王と違い、2人の表情は硬い。

けれどすっきりと背を伸ばし、力の差を感じながらも真っ向から向かい合っている。

そして、その背中にははっきりと決意の色が見て取れた。

 

「貴様と会うのはこれが初めてではない」

「くっくくく……!デタラメを言いおって」

「デタラメなどではないわ。3百年前、わしらは師匠と共に貴様と闘った」

「なんだと!?」

「師匠の名を教えてやろうか……」

「「武泰斗様じゃ!」」

 

声が重なったのを合図に、同時に後ろへと飛びのく。

亀仙人はホイポイカプセルから、お札を張り付けた電子ジャーを取り出した。

ピッコロ大魔王の顔が驚愕に歪む。

 

「ま…まま…まさか……!」

「その顔、忘れてはおらんようじゃな!」

「武泰斗様が貴様を封じ込め、魔の手から世界を救った術……!」

 

四本の手が同時にピッコロ大魔王へと向けられる。

ピッタリと息の合った動きで、左右対称に彼らは体を動かした。

 

「「ダブル魔封波――!!」」

 

「お…!おおお――!!」

 

大魔王の体が揺らめき、歪み、巨大な渦へと呑み込まれていく。

断末の声を響かせ、再びその体は電子ジャーへと封じ込められる――

――かに、思えた。

 

今まさに、再び数百年以上の封印へいざなわれようとしているのにもかかわらず。

彼は、邪悪に口角を吊り上げて、確かにニヤリと笑った。

 

「魔封波破り!!」

 

勢いよく両手を振り下ろすと、渦は強烈な暴風へと変わり吹きつける。

電子ジャーは所在なさげにコロコロと転がり、岩に当たるとあっけなく蓋が壊れた。

あとには呆然とした2人の老人が残されているだけ。

 

「ま、まさか……!」

「クソッ……!」

「は…ははは、は――っはっは!!

 正直、すこしヒヤッとしたぞ……

 大したものだ、二人がかりとは言え、あの武泰斗を完全に超えていた……」

 

勝ち誇った笑みを浮かべ、一歩、また一歩と彼らに近づいていく。

怯えることも出来ない。鶴仙人と亀仙人は魔封波の反動で、命尽きようとしているのだから。

全身が底冷えする様な感覚。指先が震え、力が抜けていく。

必死になって堪えてはいたが、やはり耐え切れず、膝をつく。

 

「放っておいても死ぬだろうが、褒美としてわし自らが殺してやろう」

 

容赦なく蹴り飛ばされ、鶴仙人はせき込んだ。

踏みつけにされた彼へ手を伸ばす間もなく、亀仙人は首を掴まれ軽々と持ち上げられる。

 

「何か言い残すことはあるか?」

「こ…これで……安心できると思うたら、お…大間違いじゃぞ……」

 

自分を掴む腕を掴み返す気力すらなく、それでも亀仙人は言った。

 

「い……いつか必ずだれかが……貴様を倒し、世界を救うてくれると信じて……お……る……」

「ふんっ」

 

言い切るのと同時に、空いていた方の手がその胸へ大きな風穴を開けた。

ゴミのようにその屍を放り投げると、今度は鶴仙人を見下し、徐々に体重をかける。

 

「貴様はどうだ?何か言い残すことはあるか?」

 

かすれかけた視界でその顔を捉えながら、鶴仙人ははっきりと言い返す。

 

「そうとも……お前を殺す者が、必ず現れる……待っているぞ……地獄でな……」

「ふふふ、残念だが貴様は地獄へは行けん。魔族に殺されたものは、どこへも行けず永劫に彷徨うのだ」

「………そうか……」

 

彼は、笑った。いつも通りの意地の悪そうな笑顔で。

死が目前に迫り、どこかのたがが壊れてしまっていたのかもしれない。

 

「ならば、地獄へ行くのはおぬし一人じゃな」

 

何か硬いものと柔らかいものが同時に潰れた音が響く。

彼の腹部は、靴裏の形にへこんでいた。

 

その後はあっけない。

ドラゴンボールを奪い取り、ピッコロ大魔王は神龍を呼びだす。

永遠の若さを手に入れた彼は、神龍すらも殺して見せた。

 

水瓶の淵を握るフーイの背中へ、聞きなれた声がかかる。

 

「やっぱりここにいたのか、フーイ」

 

天津飯はカリン様へ軽く頭を下げると、呼び留められる暇もなく彼女へ話し続けた。

 

「桃白白さんも、クリリンも、死んでない。勘違いだったんだ。

 2人を襲ったのは、鶴仙人様が昔話してくれたピッコロ大魔王だ。

 詳しい事情は後で話す、とにかく、悟空を見つけたら、みんなのところへ戻って作戦を……」

「知ってる」

 

振り返った少女に、天津飯は怯んだ。

 

思えば恐らく、桃白白の死を彼女は現実のものとして受け止めきれていなかったのだろう。

心のどこかでそんなことはあり得ないと、信じ込んでいたのだ。

だからきっとまだ、本気で怒ってはいなかった。今と違って。

 

「桃白白が生きてることは知ってる」

「なら、どうしてそんな」

「鶴仙人のじっちゃんが殺された。亀仙人も」

「は……」

 

嘘だ、と言った彼に、少女は静かに首を横へふる。

 

「今度は勘違いじゃない。踏みつぶされて殺された、ゴミみたいに」

 

全身がぐらぐらと煮え立つ。

腹の底が燃えるように熱くたぎる。

まるで、骨の一本一本が薪に代わるような感覚。

脳が融ける。酷く喉が渇いて、声がかすれる。

なのにどうしてだろう、こんなにも体の奥から力が湧いてくるのは。

 

「殺す。ピッコロ大魔王を」

 

涙をあふれさせた彼女に何も言えなかったのは、天津飯も負けないぐらいに悲しんでいたからだ。

悲しくて悲しくて、気が狂いそうなほどに怒っていた。

 

「カリン様」

 

フーイが何か言いかけた丁度その時。

 

「ど、どうだ!つ、ついたぞ!」

「ありがとうな、ヤジロベー」

 

見慣れぬ男に連れられて、孫悟空がカリン塔の頂上へとやってきた。




水瓶はアニメでは「覗き込んだもの」の現在過去未来を見せるとなっていましたが、今回はカリン様が特別な力を使って下界を見せた、ということにしておいてください。
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