もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之二十八 毒か秘薬か超神水

「おぬしら、どうしてもやるつもりか」

 

フーイ、天津飯、そして悟空は力強く頷く。

幼さに見合わない決意の強さに、カリンは溜まらない気持ちになった。

彼らに頼るほかないと思う一方で、そんなことはしたくないと同じほど強く思う。

一番年上の天津飯ですら、ようやく二十歳を過ぎたばかりなのだ。

 

「ピッコロ大魔王の強さはケタ違いじゃ……

 おぬしら三人が束になってかかろうと、みすみす殺されに行くようなものだぞ」

「やれるだけやるさ!じいちゃん殺されて、クリリンまで死にかけて、ほっとけねぇよ!」

「オレも同じだ。師匠を殺されて大人しくしているなど、そんな恥知らずな真似耐えられん」

 

天津飯は怒りの余り汗をかき、力んだ拳は、ぶるぶると震えている。

悟空に至っては今すぐにでも飛び出していこうとしていた。

その言葉を聞いて俯き、杖を握り締めてカリンはもう一人の少女へ向き直った。

 

「フーイ、おぬしは」

「死んだほうがマシだよ」

 

キッパリと彼女は言い切った。

涙は既に流し終え、柔らかな頬に痕だけが残っている。

灰色の瞳は、痛ましいほどに真っすぐカリンを見つめた。

 

「じっちゃんを殺したあいつを殺せないぐらいなら、死んだほうがマシだ」

「…………」

 

最早、止めようとして止められるものではない。

どうにもならないことをはっきりと見せつけられてようやく、カリンも覚悟を決めた。

彼らを死へ追いやる覚悟を。

それでも冷えた汗が、じっとりと毛皮を濡らす。

 

「どうせ死をも覚悟なら、飲んでみるか……?『超神水』を……」

 

「チョウシン水?」

 

聞きなれない言葉に、悟空が首を傾げた。

 

「そうじゃ、すばらしい神の水と書く」

「一体、それは何なのですか?」

「超神水とは、己の中に隠れ持っておる力を全て引き出すことのできる素晴らしい水じゃ……

 じゃから、もしおぬしらが、既に修行によってすべての力を使いこなしておるようじゃと、超神水を飲んでも何ら強くなりはせん……」

「強くなるかどうかは、飲んでみないと分からないってこと?」

 

フーイの言うことに、こくりとカリンは頷く。

果たしてまだ自分に隠された力があるのだろうかと、彼らは自分の手のひらをじっと眺めた。

 

「どっちにしても、とりあえず飲んでみりゃいいじゃねえか」

 

身もふたもないヤジロベーの意見は、けれどもっともなことだった。

しかし、それにカリンが待ったをかける。

 

「実は超神水というやつは物凄い毒でのう……

 すさまじいまでの体力と精神力、そして生命力がなければたちまち死んでしまうのじゃよ……

 その毒に打ち勝って初めて、隠れ持っておる力を引き出すことができるのじゃ……」

 

「ど……毒か……やべえな……」

 

魔族を丸焼きにして食べてしまう彼ですら、余りの事に冷や汗をかく。

しかし――

 

「そっか、それでそれはどこにあるの」

 

――フーイは戸惑いもせず、早く寄こせとばかりに手を出した。

思わずヤジロベーが目をひん剥いて怒鳴る。

 

「おい、聞いてたのか!? 毒だぞ!?」

「だから何? 要するに耐えればいいんでしょ」

「おめぇなぁ……大体、今までに一体何人生き残ったんだよ」

 

その質問と共に四対の視線を受けて、カリンは口ごもる。

しかし、やがて沈黙に耐え切れず、重々しく語った。

 

「これまでに超神水を飲んだものは14人おった……いずれも腕に覚えのある強者ばかりじゃった……

 じゃが……生き残った者は……一人もおらん……」

「いっ!?」

「ひとりも!?」

 

悟空の呟きをかき消すほど大声をあげ、ヤジロベーは両手を大げさにふって、冗談じゃねぇと叫んだ。

 

「生き残った奴が一人もいねぇのに、なんでそんな、隠れた力を引き出す水だって分かるんだよ!

 そんなのただの毒じゃねぇのかよ!」

「い、いや、ちがう。超神水は大昔より伝えられた、確かなものなのじゃ」

 

2人の言い合いを聞きながら、悟空は黙って考え込んでいる。

やがてはっきりと、こう言った。

 

「オラ飲む!」

「は!?」

「オレもだ」

「へ!?」

 

続く天津飯の宣言に、ヤジロベーは腰を抜かしそうなほど驚く。

 

「てめぇらはバカかよ!そんなのは勇気があるってことにはならんのだぞっ!

 あほだぜ!!自殺もんだ!!

 お前、フーイって言ったか!お前もそう思うだろ!?」

「だから、私はさっきから飲むって言ってるじゃん」

「そ、そうだった……」

 

同意を求めたもののすっぱりと断られ、彼の人生でも珍しく頭を抱えて考え込んだ。

やがて三人に向かって向き直る。

縁もゆかりもない他人の生死にここまで真摯になれるのだから、性根はかなりのお人好しなのだろう。

 

「よ――っくかんがえてみろよ!生き残る可能性は殆ど(ゼロ)だ!(ゼロ)だぞ!!

 運よく生き残ったとしても、全然前と変わってねえかもしれねぇんだぞ!」

 

だってよ、と今度は悟空が正面から言い返した。

 

「このままじゃどっちにしたってあのピッコロってやつに勝てねぇよ、殺されちまうさ」

「だからよーばかだなおめーは……知らん顔してりゃいいんだよ。

 ピッコロなんか関わり合いにならなきゃいいんだ」

 

その言葉を聞いて、きっと少年は目つきを鋭くした。

 

「いやだ!クリリンは友達だ!亀仙人の爺ちゃんには世話になったんだ!仇を討たなきゃな!」

「悟空の言う通りだ」

 

天津飯も隣に並ぶように一歩並び出る。

 

「鶴仙人様は俺の武道の師でもあるが、同時に育ての親でもある……

 それをむざむざ殺されて、黙ってなどいられるか!」

「大体さ」

 

にぱっとフーイが笑ってみせた。

 

「生き残れるかって、つまり執念とか決意の話じゃん

 それなら今、私、この世の誰にも負けないよ」

 

残りの二人も無言のまま肯定する。

どれほど切実に訴えられても、聞く耳など絶対に持たないだろう。

その様子を目にして、ヤジロベーは腕組みをして顔をそらせた。

 

「……いいさ、スキにしな……どうせおれは悟空たちが死のうが知ったこっちゃねえもんな……」

 

内心複雑であろう彼に気づくこともなく、悟空ははっきりと頷いた。

 

「うん!のむ!!」

 

「……よし……」

 

カリンは重々しく頷き返す。

それは確かに三人に向けた言葉だったのか、それとも単なる漏れ出た呟きだったのか、彼本人にもわからない。

けれど、水を取りに行く直前、確かにこう言った。

 

「死ぬでないぞ……」

 

しばらくして、急須のようなものを手に戻ってくる。

三つの湯飲みになみなみと、超神水が注がれた。

 

すばらしい神の水というのに似合わず、墨のように黒い。

揺れる水面は光すら呑み込むのではないかと思うほど、一切の色を見せない。

覗き込む自分の顔すら映らない。

 

「や……やめてもよいのだぞ……

 これから先何年か、修行を重ねればピッコロと闘えるようになるかもしれんのだしな……」

「そんなに長い間、あいつを放ってはおけませんよ」

 

そういうと引きつった笑みを浮かべて、天津飯は一気に器の中身を飲み干した。

悟空とフーイもそれに続く。

 

「うぎゃあああ~~~ッ!!」

 

耳をつんざかんばかりの悲鳴がカリン塔に響いた。




日間総合ランキング18位、二次創作ランキング12位ありがとうございます!
何かの間違いではないかと怯えています。
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