もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之二十九 恐怖!ピッコロ大魔王

「わ……私は……国王の座を追われ……

 こ……国王は……ピッコロ大魔王と……なってしまいました……無念です……」

 

都会の街頭モニターで、僻地の人々が集まる広場で。

一人で暮らすサラリーマンの部屋で、学校の教室に備え付けられた画面で。

お客でにぎわう食堂で、高速道路を走るスポーツカーで。

 

世界中のありとあらゆるテレビとラジオから、そのスピーチは流れ出した。

勿論、ブルマたちが隠れて逃げ込んだカメハウスでも。

如何にも優しげな顔をした国王が、悲痛に表情を歪ませ、画面のこちら側へ向かって叫ぶ。

 

「こっこんな奴が王になっては世の破滅だ――っ!!

 だっ誰かこの無法者をやっつけてくれいっ!!」

「余計なことは言うなと言ったはずだ」

 

にょっきりと緑色の不気味な腕がその首元に伸び、軽々と持ち上げる。

 

「まだ死にたくはないんだろう?」

 

ぱっと前触れなく手をはなすと、何かにぶつかる鈍い音がする。

特に気にする様子もなくレンズへ向き直り、ピッコロ大魔王は語った。

 

「世の者どもよ、よーく見ておくんだな。

 この私が貴様らの新しい国王となったピッコロ大魔王様だ。

 私の力は先ほど見せた破壊された街並みの様子で、充分に理解されたと思う」

 

もったいぶった様子でゆっくりと歩き、悪趣味な椅子へ優雅に腰を下ろす。

足元では国王――いや、元国王が苦し気に胸元を抑え、床にはいつくばっていた。

 

「さて、では早速新国王の抱負でも聞かせてやろか……

 まず、私の嫌いな言葉を教えて置いてやろう。それは『正義』と『平和』だ」

 

とある一家のリビングで、善良な家族が互いを抱きしめあうように身を寄せ合う。

 

「言っておくが私は何も国民を縛り付けようなどとは決して、考えてはおらん

 むしろ、好きなように自由に振舞えと言っているのだ」

 

一方でどこかの廃ビルの一室で、ならず者が嬉しそうに武器を取り出した。

 

「悪人どもよ!やりたいことをやれい!

 正義を振りかざす者は悉く我が魔族が退治してやる!」

 

屋外の巨大なテレビジョンにうつされた姿を、多くの通行人が呆然と見上げている。

 

「必ずや悪と恐怖に満ちたすばらしい世界となる」

 

誰かがどこかで引き出しから銃を出し、覆面を被ろうとして、やめた。

拳銃だけを片手に外へ出る。

 

「私の政策はそれだけではないぞ、実はさらにすばらしい死の恐怖を味わえるのだ……!

 今、一体いくつの地区があるか知っておるかな? そう、43地区だ。

 そこで私は1から43までの数字を書いたくじを用意させた……」

 

その言葉と共に箱を持った、プテラノドンのような外見の怪物が画面に現れる。

 

「今日、5月9日はこのピッコロ様が王座に就いた記念すべき日だ。

 そこで毎年5月9日のピッコロ記念日にくじを引くことにする……

 引いたくじの番号の地区をこの大王様自ら消し去りに行ってやる!

 なあにこの私が放つ爆裂魔光砲は一瞬の出来事だ、苦しむ暇もない……」

 

取り繕った表情を崩し、ピッコロ大魔王は狂ったような哄笑をあげた。

 

「私はただ人間どもの恐怖に引き攣る顔が見たいだけだ、は――っはっは!

 このピッコロのやり方がきにくわんやつは、いつでもこのキングキャッスルにこい!

 ミサイルを撃ち込んでも構わんぞ!! ただし、間違いなく早死にすることになるがな!」

 

勝ち誇った声が世界中のスピーカーからあらゆる人々の耳に入り込む。

 

それから逃れている、否、真正面から立ち向かおうとしているほんの一握りの人間が、高い高い塔の上で耐えている。

吐きそうなほどのたうち回り、呻き苦しみながら、彼らはまだ息をしていた。

指先が石造りのタイルを引っ掻く。食いしばった歯がきしんで冷や汗が全身を濡らした。

 

「あ……ああう……!」

「がああ……う……」

「ぎ、ぐぎぎ……」

 

「も……もう6時間近く苦しんでるぞ……」

 

見守っているヤジロベーの方が、すっかり気が気ではなかった。

呻き声が途切れるたびに、飛び上がりそうなほど肝を冷やすのだから。

それでも間違いなく、三人ともまだ生きている。

いっそ死んでしまった方が楽なのではないかというほど、苦しんで。

 

「本当に死んじまうんじゃねぇか……?」

 

何度目かわからない呟きを彼が繰り返したその時。

 

――ドクリ、と力強く心臓がなった。

 

最初に目を見開いたのは悟空だった。

ぎょっとして思わずヤジロベーはたじろいだ。

続いてフーイが、最後に天津飯が立ち上がる。

 

先ほどまでの苦悶の表情もすっかり去ってしまって、寧ろすっきりとした様子で三人は、不思議そうに自分自身の手を眺めた。

 

「わかる……わかるぞ……!」

「ああ、俺もだ……いままでの俺ではない……」

「変な感じ。力があふれてるけど、落ち着いてるっていうか」

 

(こ……これはたまげたわい……

 こやつら……このわしにも想像がつかぬような大物になりおった……)

 

思わず慄くカリンとは違い、ヤジロベーは怪訝そうなのを隠そうともしない。

 

「ほんとかよ……俺には別に変ったようには見えねえけどな……」

「ほんとさ、すげえや!」

「……そんなにすげえならさ」

 

悟空の返事に、彼は腕組みをした。

 

「さっきから名前が出てる桃白白ってやつと、クリリンってやつにも飲ませりゃいいじゃねぇか。

 怪我してるって言っても、仙豆ってので治っちまうだろ。

 超神水だって、今まで一人も生き残れなかったって割には、おまえたち三人とも生きてるし……」

「それはダメ」

 

言葉を遮るほどキッパリと、フーイが提案を跳ねのける。

 

「なんでだよ」

「桃白白さんとクリリンは、ピッコロ大魔王には死んだと思われている」

 

彼女の代わりに、天津飯がそう答えた。

 

「これは大きなアドバンテージになる……もし、俺達が負けて死んでしまった時にな」

 

ニヤリと笑った彼の横顔はほんの少しだが引きつっていた。

 

「フーイと悟空も感じるだろう、あの凄まじい妖気を……」

「ああ、ピッコロ大魔王があっちにいる……」

「な……なんと! わかるのかそれが……!」

 

思わず感嘆の声をあげたカリンへ、悟空は握りこぶしを見せて、自信たっぷりに言う。

勇気に満ちた、相手に安心を与える、力強い笑み。

 

「オラ、退治にいってくる! 今度は何とかなりそうな気がするんだ!」

「オラたち、でしょ」

 

ひょいと手すりに飛び乗って、フーイも笑った。

悍ましく底冷えのする、邪悪な瘴気を、恐れる様子もなく背に受けて。

 

「大丈夫だよ、カリン様。ピッコロ大魔王は私たちが、こなごなに踏みつけてくるから」

 

 

 ~・~・~・~

 

 

「さてと、どの地区が記念すべき第一回目の消滅を迎えるかな……」

 

がさごそと楽し気に、ピッコロ大魔王は箱の中を漁る。

やがて、一枚の紙きれを取り出した。

 

「ほう……ここからちかいな」

 

そして、書かれていた数字をレンズに向かって見せつける。

 

「29番地区! 西の都だな。すぐに行くぞ!せいぜい遠くまで逃げるんだな!」

「なんですって!!」

 

見ていたブルマが画面にかじりついた。

 

「西の都!?と、父さんも母さんもいるのよ!?」

 

がたがたとテレビを揺する彼女を、ヤムチャが止める。

苛立たし気に台を勢いよく蹴りつけて、ブルマはへにゃへにゃと床に座り込んだ。

 

「一体どこに行ったのよ、亀仙人のおじいちゃんも鶴仙人も!

 天津飯は!?フーイは!?」

 

天井に向かって泣き叫び、ぎゅっと自分の膝を抱える。

 

「何してるのよ、孫くん……」

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