もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之三十一 大魔王のフルパワー

瞬きをするほどの間もなく、ピッコロ大魔王の姿が消えた。

 

と、気付いた時にはすでに悟空の後ろへ回り込んでいる。

すかさず跳びのいて逃げた体を追いかけもせず、彼は笑っている。

じっとりと、嫌な汗が全身を覆った。

 

息苦しさを振り払うようにフーイが殴り掛かる。

素早い動きで突き出した拳は、しかし難なく受け止められた。

驚いて後ろへ下がった彼女を止めようとすらしない。

 

「このっ」

「ふっふっふ……さっきまでの威勢はどうした?」

 

余裕綽々の挑発に、彼女の額へ青筋が浮かぶ。

苛立たし気に放たれたパンチのラッシュは、文字通り嵐のようだ。

並の武闘家なら、勢いになすすべもなく飲み込まれ、サンドバッグにされるだろう。

 

だが、ピッコロは、その一撃一撃を、丁寧に、わざわざ手のひらで受け止める。

子供の遊びに付き合うように。

 

「なんだ、そんなものか? では、今度はこちらから行くぞ」

 

かぎ爪が空を裂く。

そう、言ってしまえば単なる素振りで、フーイには当たっていない。

当たっていないのだが。

 

「ぐうっ」

 

至近距離にいた彼女だけでなく、悟空と天津飯までもが腕を交差させ衝撃に耐える。

気を抜けば後ろへと吹っ飛ばされてしまいそうだった。

 

踏みしめた地面に足の跡がくっきりと残る。ビリビリと全身がしびれる。

鋭い風に腕や頬がうっすらと切れ、たらりと血が流れた。

 

「す……素振りでこ…この威力か……!!」

 

思わず呻いた天津飯の隣に、ピッコロはいつの間にか立っている。

 

「まだまだこんなものではないぞ?」

「はっ!」

 

咄嗟に蹴りつけようとした足をジャンプで軽くよけ、そのまま頭を蹴り飛ばす。

間をおかずつっこんできた悟空にこぶしを握り締めると、思いっきりその顔を殴った。

 

「悟空!」

 

天津飯が立ち上がり、振り向いた時には、丸いクレーターと、その中央に穴があるばかりで彼の姿は見当たらない。

恐らく小さな体は地中へとめり込んでしまったのだろう。

 

「なっ……」

「ふふ……木っ端みじんだ、これで残りあと二人……」

 

飛び掛かった天津飯の体を掴み、瓦礫の山へ向かって投げつける。

ガラガラとさらにその後ろの建物までも崩れ、完全にその姿は見えなくなった。

 

「あと一人……おまえで終わりだ!」

 

鋭い手刀がフーイに向かって振り下ろされる直前。

 

「か…」

「め…」

「は…」

「め…」

 

二か所から同時に掛け声が聞こえてくる。

 

「「波――ッ!」」

「なにぃ!?」

 

地中から、瓦礫から、二つの姿が飛び上がった。

 

「っつあ!」

 

呆気にとられた彼の足を、折り取らんばかりの勢いでフーイが蹴り飛ばす。

倒れないまでも体勢を崩した彼へ、再び悟空と天津飯が構えをとる。

 

「かーめーはーめー」

「どどん――」

「「波――!!」」

 

「その技は通用せんぞ!」

 

での早いドドン波が先にピッコロ大魔王へ届く。

はたき落とす様に払いのけた目の前にかめはめ波が迫り、それもはじこうとして、

失敗した。

かめはめ波が()()()()のだ。

 

不意をつかれ、思いっきり後頭部をかめはめ波で殴られる。

 

「やった!成功だ!」

「なんてやつだ、かめはめ波をまげた!」

 

嬉しそうに天津飯が感嘆の声をあげ、地面に降り立つ。

悟空は追い打ちをしようとするフーイを止め、ピッコロ大魔王へ怒鳴った。

 

「立て!対して効いてねぇはずだ!」

「き……貴様化け物か……!」

「それはお互い様だ!」

 

その言葉を合図に、再び三人は襲い掛かった。

 

フルパワーのピッコロ大魔王の強さは実際に圧倒的だった。

一対一の勝負なら、三人のうちの誰も敵わなかっただろう。

素早く重い攻撃は全てが致命傷になりかねないにもかかわらず、まともに攻撃したところで少しも効きはしない。

 

しかし、三人がかりなら話は別だった。

一人が傷を負えば、残りの二人がその倍の傷を負わせる。

時にはダメージ覚悟で動きを捉え、もう一人、あるいは二人の攻撃を成功させることすらする。

 

攻撃の途中で邪魔をされ、思うように動けない。

同士討ちを狙わせるが、どういうわけかお互いにお互いの動きを完全に理解しているようで、上手くいかない。

じわじわと蜘蛛の糸が全身に絡みつくように、動きが制限されていく。

蓄積し始めたダメージと疲労が、鈍く焦燥をくすぶらせた。

 

――何故だ、なぜまだ倒れない?

自分よりもずっと弱い、ただの人間が。

何度殴りつけ、踏みつけ、叩きのめそうと。

なぜまだ瞳を燃やし、立ち上がってくる――

 

「ハアッ…ハアッ……」

 

息は乱れ、最早混ざり合って誰のものかもわからない。

それでも自分達が押しているという、実感が悟空たちにはあった。

これほど全身全霊の全力で動いているのに、意識は妙に鮮明なのは怒りのせいだろうか。

それとも、単なるアドレナリンによるものか。

 

しかし、体の動きはわずかに鈍っていく。

 

「フッ!」

「ぐっ!」

「うっ!」

 

瞳から放たれた光線が、悟空の足と、フーイの腕を貫いた。

硬いものが砕ける嫌な音が響く。

 

「ふはははっ!やったぞ!!片足ではもう素早い動きは不可能だ!

 片腕では力も入りにくかろう、あの小賢しい連携も上手くはいくまい!」

 

「けっ!片足さえありゃあ十分だい!」

「丁度いいハンデだよ」

「はっはっは強がりを言うな!」

 

意気揚々と構えたピッコロ大魔王へ、天津飯が前に出る。

2人を庇うのかと笑ったピッコロは、それならばと彼が避けられない事を前提に、より大きく振りかぶる。

そして衝突する直前、天津飯はあっさりと上へ飛んで避けた。

 

「なにっ!」

 

その陰から、フーイに投げられた悟空の膝蹴りが襲う。

スピードに質量の乗った攻撃をまともに食らい、さすがの彼も後ろへのけぞった。

 

「く、くそっ」

 

口の端から血を流し、ピッコロ大魔王が震える。

苛立ちと怒りの余りに。

 

「ゆ……ゆるさん……ゆるさんぞ~~~!!」

 

拳にすら血管が浮く。

腹の底から唸り声をせり出し、彼は力を溜めた。

異様な雰囲気に景色が歪む。

 

「ま、まずいっ!」

 

とっさに天津飯は舞空術が苦手な悟空へ走り寄る。

緑色の手のひらが三人を捉えた。

 

「終わりだ――ッ!!」

 

フーイも上空へ逃げようとした瞬間、腕の痛みに顔をしかめる。

疲れと激痛から、集中力が乱れるのを感じる。

 

「あ」

 

彼女の上昇が止まる。

そもそも、フーイ自身、恐ろしく舞空術が苦手だった。

 

気弾、という表現は余りにもちゃちがすぎる。

ピッコロ大魔王本人すら覆い隠すような、悍ましいほど強大な力の奔流が辺り一帯を襲う。

 

一瞬、世界が光に包まれた。

 

次の一秒。

 

全てを覆い尽くし飲み尽くし、地面そのものが破裂する。

それほどの爆発が巨大な雲をすら作り上げる。

 

風が視界を開いた時、地上には何もなかった。

城も、兵も、ビルも、家も、人も。

何もかもが塵と消えていた。

ピッコロ大魔王、ただ一人を残して。

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