もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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全体的に描写を少し修正しました。


其之三十二 300年の勝利

「ふふふ………は――っはっはっはっはっ!!

 おわった!!とうとう終わったぞ!!

 こなごなに消し飛んだ――――――っ!!」

 

見渡す限りの真っ平らな更地の大地に、人影らしい人影はどこにもない。

空の雲すら飲み尽くすような爆発の後で、残ったのは高らかに笑うピッコロ大魔王ただ一人。

 

足が不自由な悟空は当然として、フーイも集中力を失い、落下しかけているところを彼は見ていた。

残るは天津飯一人だったが、彼は自分が逃れようとするだけでなく、悟空とフーイへも手を伸ばしていた。

自分の事だけを考えていればいいものを、大方、2人を助けようという無駄な努力に共倒れしたに違いない。

 

そのはずだった。

 

「やっほっほ――!」

「なにっ!」

 

能天気な呼び声に彼は思わず上を見上げ、信じられない光景に目を見開く。

 

声の主である、両手を顔の横に当て、軽い調子でふざける悟空。

彼を抱え、空を飛ぶ天津飯。

そして、悟空と同じく抱えられたフーイ。

 

「ベロベロバ――だ!!」

「ま、まさか……!間に合ったのか、足手まといを2人も連れて!」

 

ピッコロ大魔王の目線はむしろ、悟空よりも天津飯に向かって注がれる。

冷や汗を吹き出しながらも、しかし彼は笑ったが、その飛行はふらついていた。

無理もない、ただでさえ激しい戦闘の後、必死の思いで急上昇したのだ。

しかも、小柄とはいえ人ふたりの体重を支えているのだから。

 

「しかし!その甘さが命取りだ!くらえいっ!」

 

再び邪悪な手のひらが三人を――いや、天津飯を狙う。

先ほどまでの爆発とは比べ物にならないが、それでも命を奪うには十分な威力のこもった気弾が襲う。

 

咄嗟に二人を巻き添えにしまいと、手を放そうとした天津飯の、その腕をフーイは掴んで、逆に下に向かって全力で投げ落とした。

勢いよく急下降する天津飯たちは気弾の範囲外から完全に逃れた。

が、しかし、身代わりになった彼女に避けるすべはなく、防御も間に合わない。

無防備な姿に、高エネルギーの塊が真っ向から衝突する。

 

「フーイ!」

 

上手く着地した天津飯たちとは違い、少女はぐったりと力を失い、地面に向かって落下する。

どうにか舞空術をつかい、地面とぶつかる直前ほんの少しだけ浮いた。

いくらか衝撃は和らいだようだが、もはや限界なのか立ち上がろうとして、動きが止まり、土の上に倒れる。

そのままピクリともせず、だんだんと彼女の気が小さくなっていく。

 

「狙いとは違ったが、まあいい」

「き、貴様よくも!」

「おっと、他人の心配をしている場合かな?」

 

歯を食いしばり、怒りに形相をゆがめた天津飯は弾丸のようにつっこんでいく。

しかし、直線的な動きはあっさり見切られ、避けられた。

 

「しまった!」

 

攻撃の直後、最も無防備なその腹部を全力の蹴りが襲う。

逞しい体があっけもなく吹っ飛んで、ゴムマリのように何度か地面の上をバウンドする。

そのまま、指先一つ、ピクリともしない。

 

「天津飯!」

「次は貴様だ小僧!」

 

大声を張り上げ、ピッコロ大魔王が構えをとる。

先ほど、このあたり一帯を更地に変えたのと同じ構えだ。

フーイも、天津飯もいない。片足は折れ、舞空術も決してうまくは扱えない。

最早あの爆発からのがれるすべはない。

それにもかかわらず、悟空はむしろ笑った。

 

「もう一回やってみろよ! おめぇだってさっきので、ずいぶん力を失くしてるはずだ!受け止めてやる!」

 

腕を交差させ、防御の姿勢をとる。

残る片足に力を籠め、地面を踏みしめる。

どうやら本当に受け止めるつもりらしい。

 

「ほざけっ!俺様の爆力魔波をなめるなよ……!」

 

余裕たっぷりに宣言され、ピッコロは吠えた。

全身に力を籠め、拳を震わせる。

バチバチと体を電撃のような気の膜が覆う。

 

「消えてなくなれいっ!!」

 

 ――ヴオッ――

 

空気が焼けるような、焦げ付いた嫌な音がする。

目がくらむ。

一拍ののち、爆音が閃光に追い付く。

 

悟空の言葉の通り、再びあたり一帯を消し飛ばすほどの威力はない。

それでも、あとにはスポンジを裂いてつくったような、えぐり取られた地面の穴だけが残っていた。

 

「はあ……はあ……や……やっとおわったか……

 ガ……ガキめ……てこずらせおって………」

 

勝ち誇って微笑むピッコロ大魔王は、しかし肩で息をしている。

全身を汗が濡らし、湯気が立ち上ってすらいた。

どうにか呼吸を整え、ひと心地突こうとした瞬間。

 

「き…筋斗雲~……!」

「!!」

 

か細い声にこたえ、雲がどこからともなく現れる。

 

「ま……まさか……」

「う……うひひひ……な…なんとかこらえたぞ……」

 

雲の端を掴み、小さな体が再び地に足をつけた。

あまりのことに慄き、息が詰まる――そうだ、間違いなくその瞬間、ピッコロ大魔王は恐怖を感じた。

それも、己の理解を超えたものに対する、不可解への恐怖を。

 

「あ……ありえん……こんなことがあるはずはない……

 こ……このピッコロ大魔王様に太刀打ちできる人間などおるわけないのだ……」

「ふっふっふ……悟空だけじゃないぞ……」

 

背後からの言葉に思わず振り向くと、地面から何かが起き上がろうとしているところだった。

目を疑いたくもなる。それは確かに先ほど、叩きのめしたはずの天津飯だったのだから。

体中のあちこちに血をにじませ、目に見えて消耗してはいるが、確かに二本の足でしっかりとたっている。

その瞳も、未だ闘志を失ってはいない。

 

「とはいえ、俺も殆ど力は残っちゃいない……」

「オラもだ……そろそろ決着がつきそうだな……」

「ああ、俺達が死ぬか……ピッコロ、貴様が死ぬかだ……」

 

「………………」

 

一瞬、ピッコロは考えた。

そして、気付く。

未だ立ち上がろうとしないが、はっきりと息のある少女の存在に。

 

そこからは早かった。

 

「なっ」

 

素早い動きで彼女の頭を掴む。咄嗟に攻撃しようとした悟空へ、彼女の体を向けて盾にした。

捕らえられ、急に降り動かされたフーイは、細く呻き声をあげる。

気は今にも吹き消えてしまいそうなほど小さい。

 

「よ――し、うごいてみろ!こいつの頭が砕け散るぞっ!」

 

その言葉に、悟空も天津飯も、一様に止まる。

腕一本まともに動かせない。

 

「くっ……許さんぞ、ピッコロ……!」

「おおっと、喚くのは勝手だが、わずかでも動いてみろ……!こいつの頭ぐらい一瞬でこなごなにできるぞ!」

「ちっきしょう……!」

 

拳を握り締める悟空に、ピッコロは手の力をわずかに強めた。

 

「ぐうぅ…あああ……」

「やめろ――っ!やめるんだ――っ!!」

 

思わず少年は叫ぶ。

やがてだらんと腕を下に垂らし、脱力した。

睨みつけていた天津飯も、フーイの苦しげな声を聞き、構えを解く。

 

「い……いうことをきくからよ……」

「いい心がけだ……くっくっく、貴様たち人間の弱点はその精神的な甘さにある……

 非情になり切れん奴が悪に勝てるわけがなかろう」

「…………」

「そうだ、そこのお前」

 

ぴ、と黒いかぎ爪が天津飯の方を指す。

 

「……なんだ」

「そっちのガキを殺せ」

「なっ!」

「ふっふっふ……できなければ、コイツが死ぬだけだ。手を抜くなよ」

「…………」

 

ちらりとフーイの方を見て、天津飯は指先を悟空へと向けた。

少年は、何も言わない。

何も言えず、ただ黙って天津飯を見つめている。

 

「………悟空」

「大丈夫だ、天津飯」

 

安心させようと、脈絡もなく悟空は笑ってみせた。

しかし、思いもよらず天津飯も笑う。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

力の集まった天津飯の指先が自分の方を向くのと同時に、ピッコロ大魔王は意識の外にあった自分のすぐそばで、気が膨れ上がるのを感じた。

一瞬生じた迷いは、思いもよらぬ攻撃が二方向から飛んできたためだけではない。

その一方が、人質だったせいだ。

 

人質は、殺してしまえば何の意味もなくなる。

だからこそ彼は一瞬迷い、その刹那が命取りになった。

 

「「どどん波――ッ!!」」

 

二つの光線が、彼の胸を貫いた。

思わず手をはなすと、先ほどまで瀕死だったとは思えない素早さで、フーイの体が離れる。

 

「き、きさま……!油断を誘うために、わ、わざと、気を……!」

「今更気がついたのか、馬鹿め」

「く、くそ……!こんな、こんな……!」

 

震え、よろけ、崩れ落ちそうになりながら、ピッコロは穴の開いた自分の胸を抑える。

 

「このままではすまさんぞ!」

「諦めろ」

 

なおも力を振り絞る大魔王へ、天津飯が冷たく言い放った。

彼とフーイは、先ほどのどどん波ですっかり気を使い果たしていたが、しかし。

 

「か~め~は~め~」

 

悟空が構える。

自身の全てを、ここで使い果たそうとする。

ピッコロ大魔王を倒すために。

 

「波――ッ!!」

「お前の負けだ」

 

「おおおお――!!」

 

光弾はその体を天高く持ち上げ、やがて貫通する。

 

そして、ピッコロ大魔王は爆ぜた。

自身の持つエネルギーに耐え兼ねたように。

あるいは、注意を惹くことで、産み落としたばかりの我が子を庇うように。

破片すら残さず完全にこの世から消え去る。

 

()は、間違いなく死んだのだ。

 

「地獄へ落ちろ」

 

空を見上げ、フーイはそう言った。

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