もう一人のサイヤ人が桃白白の弟子になる話   作:麻寿津士

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其之三十六 天津飯の夢

「私は、鶴仙人様のように鶴仙流を教える立場になりたいと思っています」

 

ピッコロ大魔王の一件に関する後片付け(主に桃白白の腹いせ)もすっかり済んで、人心地ついた夕食の後。

居住まいを正し、天津飯は緊張に面差しをやや硬くして、天津飯はそういった。

 

純粋に初耳だったのか、意外そうな顔をする餃子。どこか納得した面持ちのフーイと桃白白。

一番驚いていたのは鶴仙人である。殺し屋を目指すのはやめたという話自体は、あの天下一武道会の日に聞いていた。

しかし、こういう着地を遂げるとは思いもしていなかったらしい。

 

「あの日、鶴仙人様と亀仙人さんのお話を伺って、私は鶴仙流の真髄を理解しました。

 鶴仙流の技術も、志も、後世に受け継がれていくべきものだと、強く信じています。

 未だ若輩の身ではありますが、ゆくゆくは鶴仙様の後を継ぎ……」

「まて、まてまて」

 

就任演説かと聞き間違えそうな文言の数々に、老爺は思わず口をはさむ。

 

「おぬしは、それでいいのか」

 

余りにも枯れた考えではないか、と彼は思った。

育てる側に回るという、天津飯の言っている事はつまり裏方に回る、という宣言でもある。

若いうちにはもっとギラギラとして、我こそは世界一と欲深く傲慢に、頂点を目指すのもまた特権ではないか。

それをなにも、今の内からそんな、ある意味他者に時間を捧げるスタンスをとらずともよいだろう。

 

「いいもなにも、これが私の新しい夢であり、目標ですから」

 

しかし、天津飯はにっこりと笑って、はっきりと言い切った。

鶴仙人の微妙にズレてしまった思いやりなど、どこ吹く風である。

いいんじゃない、と横からフーイも援護を出してくる。

 

「殺し屋には私がなるし、そうしたら私が桃白白役で、天津飯がじっちゃん役になって丁度いいじゃん」

 

しかし、となおも口ごもる鶴仙人に桃白白がとどめを刺す。

 

「兄ちゃん、自分が引退した後の事考えてないだろ」

 

引退、という二文字が鶴仙人の頭に重くのしかかった。

鶴仙人は仙人を号しているだけはあり、他の人々に比べればはるかに長生きだ。

武泰斗様が死んでから、鶴仙流を作り上げ幾年月。本当に余りにも長い間、現役で師匠をやり続けたせいで自分もいずれ引退するべきだという事実を、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 

腕組みをして考え込む。最早、フーイと桃白白、天津飯の三人は鶴仙人が足元にも及ばないほど強く育っていた。

餃子がその列に並ぶのも、そう遠い日の事ではあるまい。彼らは間違いなく、鶴仙流の宝であり、希代の達人だ。

引退したのち後を任せるのに、これ以上の逸材はないとも思う。

そうなれば、後継者となるのに天津飯以上に相応しい人物はいなかった。

 

まずはフーイ、これは論外である。

彼女は天性のセンスと身体能力にまだまだ頼り切っており、技一つ一つの練度は天津飯にやや劣る。

それでも実践となれば姉弟子の勝率が上回るのは、彼女の動きと判断能力がどこまでも実戦向きだからだ。

しかし、それではとても人にものを教える立場など成り立たない。

 

次に桃白白、彼は現時点で既に、鶴仙流を教える立場にある。

あるが、やはり自身の弟子と同じで、というかフーイの方が師である桃白白と同じというべきか、彼の鶴仙流はどこまでも実戦向きであった。

これでは武術としてはともかく、武道としての鶴仙流を指導する立場としては不十分である。

 

餃子に関しては、正直イレギュラーという面が強かった。

才能は勿論申し分ないものの、彼の得意は超能力に特化している。

指導者となればあらゆる分野を不足なく体得している必要があるため、正直向いているとは言いづらい。

 

そこにきて天津飯といえば、真面目さとひたむきさでは他と比べるまでもない。

基礎の上に技術を積み上げていくスタイルは、理想そのものと言ってもいいぐらいだ。

加えて本人が努力家であるために、土台からしっかりと他人へ伝える才能に長けている。

出来ない人間に教えられるのは、自分のできないを克服した人間だけなのだ。

 

「……わかった。おぬし自身で決めた道じゃ。後継者としても、天津飯ならば申し分ない」

「それでは」

「これからはより一層、修行は厳しくなるぞ。当然その覚悟はあろうな」

「はい!」

 

力強く頷く天津飯の笑顔は、晴れやかそのものだ。

ちらりと彼の頭に、ジャッキー・チュンに言われた言葉がよみがえる。

 

――おぬしの師匠がそこまで慕われるだけの価値がある人間なら、お前自身が決めた道を、否定するまいよ――

 

当然だ、と天津飯は頭の中で在りし日の強敵に言い返した。なにせ、自分に武道という道を示したのは、鶴仙人その人以外の誰でもないのだから。

……尊敬ゆえに師匠の人としての未熟さに気づけていないところは、彼もまだまだ子供である。

 

一方で鶴仙人自身も、胸に来るものを感じていた。

鶴仙流は一つの武道、武術として間違いなく優れている。先人、後世の誰に恥じ入るものでもない。

しかし、それが受け継がれるかどうか、というのはまた別の話なのだ。

 

自分の手を離れてもなお、残るものがある。残そうという、志のある者がいる。

 

「……」

「……兄ちゃん、泣いてるのか」

「うるさい! 泣いとりゃせんわい! これは目にゴミがだな……」

「鶴仙人様……!」

「ええい! 貴様も泣くな天津飯!」

「も、って言った、やっぱ泣いてるじゃん」

「フーイ!」

「なんだよ!じっちゃんが自分で、もって言ったじゃん!!」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぎ出した姉弟子たちに、本当に仕方がないなと餃子はため息をつく。

外見に似合わず、シニカルなところがある男なのだ、彼は。

しかし、隣で感極まって目を潤ませている天津飯には、優しく微笑んで見せる。

 

「良かったね、天さん! 僕も手伝うよ」

「ああ、頼りにしているぞ、餃子」




あと2、3話幕間が続きます。
しばらくお付き合いください。
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