「あれれ? どうなってんだ?」
悟空がマッスルタワーについた時には、既に大勢の人が辺りに倒れていた。
壊された砲台からは黒い煙がもくもく上り、正門らしき扉も開きっぱなしになっている。
建物の上の方からは重たい打撃音が聞こえてくる。
と、突然爆発音が辺りに轟き、壁に大きな穴が開いた。
「だれか、オラより先に戦ってんだな、よ〜し!」
如意棒を伸ばして高跳び棒のようにつかい、穴から建物の中へ滑り込む。
目の前に立ちはだかる大男に怯む様子もなく、悟空は正面から怒鳴りつけた。
「やいレッドリボン軍!村長さんを返せ!」
最上階ではホワイト将軍と、もう一人忍者のような格好をした男が監視カメラを眺めている。
予想もしなかった乱入者に二人は首を傾げた。
「うん?なんだ、あの小僧」
「さっきのガキの仲間でござろう。村長がどうとか言っておりますが」
「村の誰かにでも頼まれたんだな。がははは、仲間が死んだとも知らずにのこのこやってきたのか」
ぐいっとマイクを握りホワイト将軍は勝ち誇った声で笑う。
「おい小僧!村長ならいちばん上の階にいるぞ!
お前はここまであがってこれるかな!?がっはっはっは!」
「よおし!いってやら!」
「メタリック軍曹!そいつも殺ってしまえ!さっきのガキと同じようにな!」
そう言われると大男は片足を一歩後ろへ引き、ぎゅっと拳を握り締める。
応じる形で悟空も素早く構えをとった。
戦いが始まる直前の一呼吸分にも満たない静寂が張り詰める。
「死ね!」
子供など簡単に握りつぶせそうな手が、車のような猛スピードで振り下ろされた。
瞬間。
「死ぬのはお前だ!どどん波――!」
部屋の端、太いパイプの影から鋭い閃光が正確に男のこめかみを射抜く。
そして、
「えっ!?」
「へっ!?」
どこをどう確認しても、首の根元から先はきれいさっぱり無くなっていた。
攻撃の途中の、不自然な恰好のまま動きを止め、ピクリともしない。
光線が飛んできた方を見ると、悟空と同じぐらいの歳の子供が突っ立っていた。
真緑色の胴着に鶴の文字が特徴的な彼女は、ぽかんと口を開けている。
「い、今のお前がやったんか?えげつないことするなぁ……」
「ちがっ!爆発なんて、どどん波はそんな技じゃない!」
必死に首をぶんぶん横に振っていたが、はっとして悟空の方を指さす。
「後ろ!」
「え……わたっ!!」
咄嗟に横に飛びのくと、先ほどまで悟空がいたあたりを拳がかすめた。
それは腕の長さをこえて、地面にごとりと落下する。
と、今度は反対側の手が大きく開かれ、彼を叩き潰そうと勢いよく降ってきた。
なんとか避けると後ろに引いて、距離をとる。
大男の首なし死体が――今は片手もないが――こちらへ向かって襲い掛かってくる。
「手がとれた!?」
「どど……どうなってんの!?これ……!」
「がっはっは!メタリック軍曹はロボットだったのだ!」
頭上のスピーカーから再び、ホワイト将軍の高らかな声する。
「さあ殺れっ!ぶっ殺せいっ!!」
「よおーし!」
応えるように悟空が張り切って構えをとる。
が。
「あ……あれ?……」
切なげな機械音をか細く鳴らし、勇ましく足を踏み込んだ体勢のまま、メタリック軍曹は再び停止した。
「また動かなくなっちゃった……」
「……電池切れかな」
「電池ってなんだ?」
「知らないの?」
子供たちはお互いに顔を見合わせる。
しげしげと眺め合って、先に口を開いたのは少女の方だった。
「そういや、お前だれ?」
「オラか?オラは孫悟空!お前は?」
「私はフーイ」
「フーイも村長さんを助けに来たんか?」
「違う違う!ここの連中に襲われたから、修行ついでに潰してるんだ」
「じゃあ下で倒れてたやつらも、みんなフーイが倒したんか」
「まあな。けど悟空も結構強そうじゃん?」
「オラ、亀仙人のじっちゃんのところで修業したからな!」
「亀仙人?私の師匠の一人は鶴仙人っていうんだけど、なんか似てね?」
「もしかしたらじっちゃんの弟とかか?」
「えー、多分違うと思うけど、だって鶴仙人のじっちゃんの弟はさ……」
「お前ら!いつまで仲良くしゃべってるんだ!!」
スピーカーからしびれを切らしたのか怒声が飛ぶ。
はっと慌てて階段を上り始めた二人を見送り、指令室のイスに深く腰掛け、緊張感のない奴らめとブツブツ呟いた。
その隣でムラサキ曹長が深く頷いてみせる。
「全くでござる」
「お前もだ!さっさといって4階をまもれいっ!!」
ケツを叩かれ急いで階段を駆け降りる忍者の背中に、ホワイト将軍は深い深いため息をついた。
「ねぇ、悟空。ここはキョードーセンセンと行こうじゃん」
「なんだ?そのキョードーセンセンって」
背の高い木々に、土と草のかおり。
和風の小屋は風情のある佇まいで、その奥には池まで設けられていた。
頭上に青い空ではなく、白い、照明の取り付けられた天井があることだけが、ここが室内だと語る。
4階につくと、そこには外と見間違うほど立派な室内庭園が広がっていた。
「協力して戦うってこと」
「わかった」
ふっと左右に分かれて飛ぶ。
先ほどまで悟空とフーイがいたあたりには何本かの苦無が刺さっていた。
反応速度も、避ける動作も、二人はほとんど同時であまり差がない。
フーイはそのことに満足そうに微笑む。
「じゃ、決まり」
試合開始の合図の代わり、ムラサキ曹長の通りの良い笑い声が響き渡った。