遊戯王世界に転移だと!?(カンコーン) 作:フランシスコ遼
俺、
高校辺りから日本各地の名所巡りはしていたし、大人になってからは世界中を飛び回った。幸い俺には文才があったようで、旅行記をブログに書いたりして生計を立てる事も出来た。流石にそれだけではギリギリだったので、翻訳の仕事などもしているのだが。
そんな俺だが、実はもう一つ趣味がある。
遊戯王、日本だけでは無く世界中で人気のトレーディングカードゲームの一つ。元々は漫画から派生したこのカードゲームは今では世界大会も開かれる程だ。
なお、最近のアニメは大コケした模様。ARC-Vはホント酷かった。
元々高校時代に友人と遊びそのままずるずると続けて今に至る。最近の主力は閃刀姫デッキ。
という事で、そんな俺が遊戯王原作と深い関わりを持つエジプトに観光に来たのはもはや必然とも言える。遊戯王関係無しでも一度行きたかったしな。
実際、エジプト観光は非情に有意義な時間だった。エジプトのピラミッド群は非情に見ごたえがあり、スフィンクスの巨体を見上げた時にはついに生スフィンクスを見れたと歓喜した。
料理の方も、鶏料理を中心に色々食べたが日本では食べられないだろう珍しい料理もありとても美味しい。
正直、もう一度絶対に行こうと思う程度にはエジプトの地を俺は気に入っていた―――――
「――――こうやって砂漠のど真ん中で遭難するまではな……ッ!!」
◆
普段から俺は、初めて行く地の旅行の際は絶対に現地の信頼できる人物を案内人として雇う。
仮にも旅行系のブログで生計を立てている人間として正確な情報を発信したいというのもあるが、一番の理由は身の安全の確保のためだ。
外国というのは危険が多い。日本に居ると良く解らないかもしれないが、あそこは女子供が夜道を一人で出歩ける数少ない国の一つだ。アメリカですら夜道を一人で歩くことは推奨できないと聞けば、日本がどれだけ治安という意味で恵まれているか分かると思う。
で、例に漏れず今回もエジプト周辺で活動をしている考古学者の友人から現地の人間を紹介してもらった。
そしてその条件として、今調べている遺跡の探索を手伝ってくれと頼まれたのだ。
現在はこのように世界各地をふらふらしている俺だが、これでも大学の史学科で博士号を取っている。せっかく世界旅行をするならば、世界各地の歴史も納めておきたいと思ったからだ。
今回現地の人間を紹介してもらった考古学者の友人も、その時の友人だったりする。その頃所か小学生の頃からエジプトの文化に興味を持っており、大学院を出てそのままその手の学者になった筋金入りだ。……考古学者なんて大抵そんなもんな気もするが。
現在では通常公開されている世界遺産、クフ王のピラミッド然り現在世界遺産と呼ばれる場所の周辺というのは、自然遺産でもなければ周辺は人も多く早々遭難なんて起こらない。
だが、今回俺が手伝う現在探索中の遺跡は、それこそ砂漠のど真ん中とすら言えるような僻地だ。
当然安全に行くルート自体は確立されているが、それでも万が一がある。案内人は居るとはいえその危険性に変わりはない。
当然俺は万全を期すために入念に準備をしたのだが……それでも、モンスター級の砂嵐は予想をしていなかった。
案内人とは逸れ、死に掛けながら目覚めた場所は見知らぬ砂漠のど真ん中。スマホは砂嵐の中壊れたのか電源が付かず、パソコンは動きはしたもののこんな所にLANケーブルを刺せるは物は無い。
そんなこんなで現在遭難から約三日。いい加減水分が底を付きかけており、いい加減もうそろそろやばい。というか既に意識が朦朧としている。
あーダメだこれは死んだか。そんなことを動かぬ頭でぼんやりと考える。
思えば、随分と好き勝手遊び惚けた一生だった。親父やお袋への恩返しもあまりできなかったが、それ以外は悔いのない人生を送れたのではないだろうか。
行きたい場所はまだまだあったが、それでもこれだけ色々遊んだのだから充分充分、満足できた。
ただ、叶うならば……
「まだ、死にたかねぇなぁ……」
その言葉と共に、俺は意識を手放した。
◆
「ん?あれって……人?」
◆
「知らない天井だ」
よし、人生で一度は言いたいセリフ第五位を言えた。第四位は「俺に任せて先に行け」だ。
それにしても、ふむ。どうやら俺は死に損なったらしい。
目の前に広がるのは見知らぬ日干しレンガの天井と壁、後は通路への道が一つ。恐らくだが、現地住民にでも拾われたのだろうか?取り合えずお礼を言わなければ。
そう考え体を起こすと、奥の方から"見覚えのある姿の美少女"が器をもって歩いてきた。
「あ!起きましたか?よかった~。体は大丈夫ですか?最低限の治療はしましたが……」
あの青く長い髪に優しそうな顔立ち、そしてローブの様な衣服。そして横に佇む"半透明の小さなワニっぽい生き物"。
……うーん、何処からどう見ても遊戯王の人気カードの一枚、《水霊使いエリア》の姿である。
「うーむ、運が良ければもしやとは思ったがやっぱり死んでたか。それにしても死後の世界で押しキャラに会うとは……」
「死んでませんよ!?というかなんですか押しキャラって!?」
「いや、だって君の横に浮かんでるそいつってワニの幽霊じゃ?」
「この子はワニの幽霊じゃありませんからね!?」
「え?じゃあカエル?それにしては角ばってるけど」
「違いますからね!?この子にはギゴバイトって名前がちゃんとあるんですよ!?」
ふむ、この感じだとマジで《水霊使いエリア》本人っぽい。コスプレにしては完成度高すぎるし、何より横の半透明ギゴバイトの説明がつかない。そして受け答えからしても死後の世界っぽい感じはしない。心臓の音はまだ聞こえる。
……一応聞いておくか。
「ほーん、そいつギゴバイトって言うんか。所で、此処って精霊界だったりする?」
「いえ、此処は物理世界……って、なんで精霊界の事を知っているんですか!?よく考えてみたらギゴバイトの事も見えてるみたいですし」
はい(はい)
これは俗にいう――――異世界転移という奴じゃな????
◆
あれから、エリアちゃんと情報交換をした。
とは言え俺から出せる情報は、自分が別世界から転移してしまったという事程度だが、その事をエリアちゃんに伝えると彼女は素直にその事を信じてくれた。普通に信じてくれるとは思っていなかったが、よく考えてみたらこの世界って割と何でもありだしな、うん。異世界転生くらいあるか。
俺が精霊界の事を知っている理由も、"その世界で精霊界の存在を知った"と言った。あながち間違いではない、情報元は漫画やアニメだが。
その後俺は彼女の下で暫く世話になる事となった。どうやら彼女は、この世界では先祖代々霊術を扱う一族の一人らしい。ここに居るのは修行の一環なんだと。
一応説明しておくと、彼女は俺の元居た世界では《水霊使いエリア》という名でカードとして人気を博していた。
元は四霊使い、現在は神以外全属性を持ち六霊使いと呼ばれ専用のサポートカードまで出ていたほどの人気を誇る霊使いシリーズの水属性担当だな。横に居るのは闇落ちに定評のある《切り込み隊長》の部下《ギゴバイト》。
なお、エリアちゃんは前の世界の俺の押しキャラでもある。やったぜ。
彼女曰く「これから暫く修行でここを離れれないので、それまでここで暮らしてください」との事。精霊術の修行ってなんじゃろうなぁとか考えながら家事担当に収まる事となった。
いや、彼女は病み上がりだし何もしなくていいと言ったのだが、流石に高校生くらいの年の女の子に世話になりっぱなしというのも、ちょいとおじさん的には不味いのだ。
幸い旅行で培われた世界各地のご当地料理レシピはかなりの数ある、毎回現地の料理人や主婦にレシピを教えてもらった結果、俺のレシピ帳は現在三本目に突入しちゃったりしている。
さて、今日はメキシコマフィアと意気投合したときに教えてもらったマフィア式タコスでも作ろうか。何故か食用サボテンがあったのでそれを使おう。
そう思いキッチンで手際よく下ごしらえを始めていると、エリアが修行から帰ってきた。
「ただいまです~」
「おー、お帰り。今日はタコスだぞ」
「ほえ~タコス。タコスってそんな簡単に作れるんですか?」
「トルティーヤ生地はトウモロコシ風味にこだわらなければ薄力粉で作れる」
「へー」
此処で生活を始め早一週間は立つが、彼女はどうやら日本で生まれ育ったようで俺の日本人好みに調節した外国の料理は結構好評を得ている。
日本人にしては髪の色とか名前とか突っ込みどころは多いが此処は遊戯王世界、気にするだけ損だろう。
「所で、前々から疑問だったんですけど」
「ん、なんだ?」
エリアちゃんから質問が来たので一旦手を止める。一体何だろうか。
「廻さんって、自分のデッキは持ってないんですか?」
――――――っぁ。
「ん~、一応持ってるけども、そんなに強くは無いかな~?」
「そうなんですか。精霊も見えるし弱くは無さそうなんですけど……あ、そうだ。後でデュエルしましょうよデュエル」
「まだこの世界の正確なデュエル知識無いし、また今度な~」
「ああ、確かに何かルールに違いがあるかもしれませんしね。じゃあ後でそれについて話しましょうか?」
「おー、頼むわ」
―――よーし時間稼ぎ完了俺ナイスゥ!!いや、そういえばこの世界は
一応デッキ自体はエジプトに来たって事で持ってた前世界の奴があるのだが、残念ながらリンク召喚前提デッキだったりこの世界だと重要な位置にいるカード入りのデッキだったりで使えん。ガチデッキの閃刀姫とか完全にリンクしまくるデッキだし。
因みに、俺がエリアちゃんから聞いた限りでは恐らく現在はDMとGXの間だろう。KCグランプリが終了して暫く経ってる辺りが判断基準。恐らく闇遊戯は既に冥界へ帰っていると思われる。
そういえばここエジプトだし、エリアちゃんの修行もかの王に関係した物なのかもしれないな。
さて、それじゃあデッキはどうしようか(無計画)
いやマジでどうしようか。HEROデッキとか論外だし時機神とかも怖い、実は持ってる青眼の白龍デッキも社長が居る手前使う気は出てこないし……いや、一応大丈夫そうなデッキは一個あるのか。
ただ、このデッキは"本人が目の前にいる"ので普通に使いにくい……というかこのカードどういう事になっているんやろか。
……聞くか?聞いてしまうか?「貴方ってカード化とかしてませんか?」とか聞いちゃうか?
うっしゃ聞こう。別になんでそんな質問したのか聞かれても正直にこっちの世界だと貴方カードで出てたんですーって言えばええんやし大丈夫やろ。
◆
「カード化ですか?していますよ?」
「っぇ」
夕飯後、意を決して質問すると、彼女はあっけらかんとそう答えた。
「私含め、霊使いはみんな精霊界にも並行世界のもう一人の私、みたいな感じで存在しているんです。多分カードになっているのはそっちの私じゃないですかね?」
「な、なるほど~?」
どうやら、精霊界にもう一人の僕的存在が居てそっちがカード化している模様。ヤベーな霊使い。
「もしかして、私の入ったデッキを使ってたりするんですか?」
「と言うか、六色霊使いデッキだな」
「なるほど、という事はヒータやウィン、アウスにライナにダルク君も居る感じですかね?」
「そうやね。憑依装着軸ビートダウンデッキ」
「おー、変な縁もあるものですね~?」
「だな~……」
……実際には普段使いでは無くファンデッキの域を出ないデッキなのだが、他のデッキが色々と不穏過ぎるのもあり手持ちではこのデッキくらいしか選択肢がないだけだったりする事は言わないでおこう。
まあファンデッキとは言え、まだシンクロすら出てきてない時代ならばオーバースペック気味のカードも多い。それなり以上に戦えるとは思うが……どうだろうか。
取り合えず、目標はちゃんとした職に就く事だな!!
感想求む(なお、作者は遊戯王を最近再開した模様)