25歳、アラサーまでカウントダウン寸前だった俺がウマ娘になって三冠を目指す件 作:鳴神ハルキ
【追記】
※運営様から『これオリ主じゃね?』と警告をいただきました。
作者としては怪獣8号の主人公である『日比野カフカ』を描いたつもりでしたが、年齢改変・世界観が違うため人間関係が変化・一部陰鬱な雰囲気に・そもそも名前がほとんど出てこない等確かにこのキャラクターが日比野カフカであることの重要性が著しく低いと感じたため主人公を『鮫島カフカ』としてオリ主に変更いたしました。内容は変わっていません。
それに伴い純粋な原作キャラクターが誰もいなくなったためタグの一つであった【怪獣8号(キャラクターのみ)】を削除いたしました。今後はただのウマ娘原作の怪獣8号オマージュ作品となりますのでご了承ください。こらそこ、パ〇りっていわない。
『伸びていく、伸びていく!!ぐんぐん伸びていく!!!』
『後続を3バ身、4バ身とつき離していく!!強い、強いぞ3番○〇――ッッ!!』
『後続も懸命に走りますが差が縮まりません!!これは強いッ、強すぎる!!!』
『そして今一着でゴォォォォォォォル!!!後続を5バ身つき放し3番○○、圧巻の走りでした!!!』
『二着は9番△△、三着は1番□□!!!』
『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
「うはー、今回もすげえレースだったぜ」
「最終コーナーまではトントンだったが最後で一気に化けたな」
「僕の読み通り、今年は3番の〇〇ちゃんがキていますね」
溢れんばかりの拍手と喝采が飛び交い合うスタンド。
隣の男達からも三者三様の意見が飛び交い合うように、スタンド中からも今のレースに向けての感想がひしめき合う。
トゥインクル・シリーズ、見る者を魅了するウマ娘たちのレースの祭典。
その中でもGⅠ・GⅡ・GⅢ、重賞と言われるレースの数々は年々激しさを増し、その熱は会場以外にも伝播していっている。
「いやー、いいレースだった。よし、この後のウイニングライブも楽し――――――」
「――――――じゃ、お前たち仕事に行くぞ」
…………………
「「「エ″ッッッ」」」
「『エ″ッッッ』じゃねえよ。次もここでレースがあるんだから早くコースを慣らしに行くぞ」
途切れない歓声の中で淡々と語られる無情な現実。
レースの熱気が瞬く間に冷めていくことを男たちは感じていた。
「それに今回は序盤から団子状態で内コースの消耗が激しかったよな?これがどういうことかわかるか?」
「わ、わかりません…」
「つまりどういうことですか……?」
「鮫島先輩………?」
「俺たちがライブを見ている時間なんてない、ってことだ」
「い、嫌だぁ! 俺はウマ娘のレースが安くみられるからってこの仕事に就いたのに!!」
「ウイニングライブが見られないなんてっ、そんなの満足できませんよ!!」
「僕はどちらかといえばレース派ですけどライブも捨てがたいと思っています」
煌びやかなレースやライブが行われる裏で、俺たちは人知れず働く。
ウマ娘たちが走ったコースを整地し、平らにする。
ただ、それだけ。
拍手も喝采も俺達には送られない。
地味で大変で、スポットライトの一つも当たりはしない。
それでも俺たちの仕事は彼女たちの走りを人知れず支えていることには違いない。
「やったよトレーナーさん!わたし1着をとれたよ!!」
「ええ、お疲れ様です○○さん。今回の走りも素晴らしかったですよ」
「へへぇ、それほどでも~~」
「次はライブですが体調に問題はありませんか?足に不調は?あっセンターの振り付けの確認をッ!」
「ト、トレーナーさん落ち着いてください。皆さんが見てますから!」
レースに勝ったウマ娘とトレーナーだけが味わえる勝利の味。
二人三脚、人バ一体ともいえる彼らの姿と、それ以外の勝つことができなかったウマ娘やトレーナーの姿を見ていると毎度の事ながら目頭が熱くなってくる。
『いつか一緒にレースで勝とうね』
「っ」
ターフから踵を返す。
ああ、そうだ。
俺にはここがお似合いだ。
「オラ仕事いくぞお前らァ!!」
「ウイニングライブがぁぁぁぁ!!」
「実は俺推しのライブを見ないと仕事に支障…ガッッ!!?」
「ええっと次の出走馬のデータは、と」
俺たちの仕事に、スポットライトは当たらない。
「だぁぁぁ、疲れたぁ………」
仕事が終わり自宅のソファーに転がり込む。
現在の時刻は深夜の10時。少し遠めのレース場での仕事だったせいで帰りの時間まで遅くなっちまった。
多いときは一日に十回近くあるレースの合間合間に素早く整地をしなければならない。
これでかなり過酷な仕事だ。
買ってきたビールを漁りながらテーブルの上に置いたリモコンに手を伸ばす。
テレビを着けると、今日のレースについて報道されていた。
『いやぁ、今回のレース勝利で今年度成績は3戦3勝0敗。○○選手の戦績はうなぎ上り、といったところですね』
『これから『皐月賞』が始まる今の時点でこの戦績は目を見張りますよ』
『シンボリルドルフさん、今回のレースをどうみますか?』
『そうですね、この娘の走りは――――――』
シンボリルドルフ。
その名を世界に轟かせる現代日本に現れた【皇帝】。無敗のクラシック三冠、有馬記念二連覇、七冠など彼女の功績を挙げ連ねればキリが無いといわれるほどの競争バである。
そんな彼女の輝かしい戦績を語る上で、まず最初に上げられるであろう称号がこれだ。
【無敗のクラシック三冠】
クラシックレースとはデビューして間もないウマ娘達が生涯で一度だけ出場できる夢の祭典。
曰く、
皐月賞は『最も速いウマ娘が勝つ』と囁かれる俊足の舞台。
曰く、
日本ダービーは『最も運のよいウマ娘が勝つ』と噂される才覚の舞台。
曰く、
菊花賞は『もっとも強いウマ娘が勝つ』と謳われる実力の舞台。
これらはどれか一つでも勝利を手にすれば後の世に名前が残るとまで言われ、出走するだけでも箔の付く格式高いレースである。
そんな三つのレースで並みいるライバルを蹴散らし世代の頂点に立った存在、それこそがシンボリルドルフその人だ。
現役最強、絶対の体現者、皇帝。
これらは彼女を飾り立てる言葉であり、彼女の残した功績そのものとも言える。その他彼女を飾り立てる華々しい功績はあるが、まあ、今は置いておくとしよう。
思考の端でそんなことを考えながら、テレビの向こう側で悠然と弁舌を振るう皇帝を眺める。
シンボリルドルフ………ルドルフのことを見つめていると、知らず知らずのうちに心の欠片が零れ落ちていた。
「俺は、何をしてるんだろうな………」
その夜、久しぶりに昔の夢を見た。
『今日のレース凄かったよな!』
『うん!すごかった! わたしも将来あんなウマ娘になりたいな』
『11番のウマ娘がさ、最後の直線でバビューンって加速したよな。あれ末脚っていうんだぜ』
『へぇ〜、かふか君ははくしき?なんだね』
『…………なあ、いつも言ってるけど俺の方が年上なんだぜ? カフカ君はやめろ』
『…? かふか君はかふか君だよ?』
『はぁ…まあいいけど。それでお前がすごいウマ娘になって走れるかって?』
『うん!』
『なれるさ。なんていっても………五歳のくせにもう俺なんか追い越していくんだからな!』
『わぁ!? 頭ぐりぐりするのやめて!』
『わはは、俺を追い越して好い気になってるからその罰だ』
『むぅ~、エイ!』
『ぅお!? 力つよっ!?』
『えへへ、ルナの勝ちぃ!』
『くっそズルいぞウマ娘の力使うとか』
『ルナが悪いんじゃないもん。かふか君がひんじゃく?なのが悪いんだもん!』
『こ、こいつッ。フィジカルエリートのウマ娘が言いやがるのか』
まだ俺が小学生だった頃、家の近所に一人のウマ娘がいた。
その子の名前はシンボリルドルフ。二色の茶髪と三日月形の白く脱色した前髪が特徴のとても足の速い子であった。
当時からウマ娘の走りに魅せられていた俺は毎日のようにレース場へと足を運び、ルナと共に語り合った。
そうそう、ルナというのは彼女が気に入った相手に強要するあだ名のようなものだ。ルナ、つまり三日月を基とした自慢の渾名らしく呼ばないと拗ねる。
『いててっ、でもこんだけパワーがあるならきっとレースでも勝てるだろうな』
『…? ルナ、レース勝てるの?』
『まあそのためにはしっかりとしたトレーニングと、それを支えられる凄いトレーナーがいてこそだろうけどな』
『トレーナーかぁ……』
齢五歳にして既に走りの頭角を表し始めていた彼女は俺とレースを見に行くたびにぐんぐんと成長していった。それこそ、優秀なトレーナーが付けばかなりのものになることが当時の俺でもわかるほどに。
『よし、決めた!俺がプロトレーナーの資格を手に入れて、お前を最強のウマ娘に育て上げてやるよ!!』
それは幼き頃の約束。
自分が将来プロのトレーナーになれると信じてやまなかったからこそ出た、今にして思えば大言壮語すぎる誓い。
『夢はでっかく、菊花賞ウマ娘だ!!』
『きっかしょう? それってすごいの?』
『ああ、ウマ娘の中で一番を決めるレースだ!』
『すごい! ルナ、きっかしょうに勝ちたい!!』
『ああ! お前と俺なら夢じゃないぜ!!』
膨らんでいく夢が俺たちの心を躍動させた。
未来に向けての希望が、いまだ見えないからこその可能性が子供心を絶世の万能感で満たしていった。
『じゃあねじゃあね――――――』
『わたしたち、いつか一緒にレースで勝とうね!!』
『おう、もちろんだ。どっちが早くトレセン学園の門をくぐれるか勝負だな!』
『うん!』
そしてここから誰もが知るシンボリルドルフの伝説が始まった。
デビューしてから無敗でクラシックの三冠を制覇。
一度の敗北を喫するものの同年の有馬記念で勝利を収め、年間4冠という偉業を達成した。
翌年、春の三冠と言われる天皇賞(春)での競り合いを制し5冠目を獲得する。
その後練習中の故障を理由に宝塚記念を見送ると、直ったその足で天皇賞(秋)へと参戦。
圧倒的ビハインドをものともせず好調な走りを見せるが、最後に差し切られ2着、惜しい結果となってしまった。
とはいえその後昨年の雪辱を晴らすかの如くジャパンカップで快勝、その勢いのまま有馬記念2連覇を成し三年間で合計七冠を手に入れるという誰もが目を見張る伝説を打ち立てたのだった。
トレーナー不在の中でこの記録を打ち立てたというのがさらに伝説を加速させここ数年で歴史に名を遺した第一人者、とまで言われるようになったのだとか。
そう、『トレーナー不在』だ。
彼女の伝説の中にみじめでちっぽけなアラサー目前野郎は存在しない。しないのだ。
「ぐぅ…頭痛ぇ……」
深夜に酒なんか飲んだからだろう。
昼間に思い出したことを忘れるため酒を飲んだというのに逆に夢でその時のことを思い出すなんて最悪すぎる。
バッドコンディション、絶不調ってやつだ。
「おいカフカ、ちょっといいか!」
「いつつ……なんだよ朝からうるせぇな」
二日酔いの頭痛に苦しめられる中で同僚に声を掛けられる、声が響いて痛い………
「今日から入るバイトの若いのだ」
「…………」
そう言って頭を下げてきたのはまだ若いすらりとした白髪のイケメン。
なんだこいつイケメンしやがって。
「聞けよカフカ、こいつな今中央のトレーナー目指しているんだってよ」
「………ぅいっ!?」
「わはは!想像通りの反応だな!! こいつは鮫島カフカ、こいつも少し前までトレーナー目指してたんだよ。今ではすっかりコース整備士が板についちまってるけどな!」
バイトの目がスッと向けられる。
その瞳からは少しの興味、少しの期待。
そして大きな侮蔑の感情が見て取れた。
「…………すか?」
「?」
「どうして、トレーナー諦めちゃったんスか?」
あまりにもまっすぐなバイトの言葉に一瞬黙り込んでしまう。
何故そんなことを話さなければならないのか、なんて言葉が頭をよぎる。
それでも何かを言い返さなければと思い絞り出した言葉は自分でいうのもなんだが、酷く不格好なものであった。
「別に、俺の才能の限界を知ったってだけだよ。上には上がいるってぇの?自分なりに最大限の努力はしてみたけどダメだったってだけさ。まあ、お前も夢を追いかけるならいつかそれがわかるように――――――」
「なりませんよ」
「―――――――……………」
「そんなことがわかるようになんて、一生なりません」
バイトはそう言うとぺこりとお辞儀をしてどこかへ行ってしまった。
ちくしょう。
わかってるよ、そんなこと…………
「あ、ところであいつの名前なんだけどな」
「………なんすか」
「見て驚くなよ」
そういって渡された履歴書を見て目を見開く。
氏名
『
そうして来たる日曜日。
「っ、蒸し暑いッ」
「(来てる来てる、これが雨後の洗礼だ)」
前日の雨の影響が残る芝の上で目代が額をぬぐう。
コース整備は時間との勝負、そして環境との勝負でもある。
雨でぬかるんだコースを踏ん張るのは中々にコツがいる。それにレース直後で地面はデコボコだ下手すりゃ数歩歩けばコケる。
さらに前日の雨による湿気とそれを感じさせない容赦ない日差しのダブルパンチ。芝から湧き上がってくる湿気と降り注ぐ熱線がシンクロ召喚して瞬く間に体力を奪っていく。
「オラ、沈め!!」
凸凹とした芝を的確に踏み慣らし平たくしていく。
今回は内コースがぬかるんでいたから好んで内を走る阿保なウマ娘はいなかったようだが、その分足跡が拡散している。範囲が広く手を加えなければいけない箇所が多い。間に合うか?
「よし、次の場所行くぞ!!」
「オウ!!」
「お、おう!」
目代の奴も慣れないながらしっかり着いてきている。
トレーナーを目指すというだけあって根性はあるようだ。
それに仕事は丁寧で研修でならったことをしっかりと実践できている。
整地後の地面も申し分ない。
「(このままうちに就職してくれねえかな)」
万年人不足なんだ、うちの会社。
「はぁはぁ……」
「ほれ、これでも飲んどけ」
なんとか次のレースまでに整地を終わらせた。
この仕事は体力と時間の勝負だ。休めるときに休み、食える時に食う。これをしていないと早々にバテる。
「っ、ありがとうございます」
「どうだ、ここの仕事は」
「……コースのいい勉強にはなっていますよ。芝の種類や長さはもちろん整備がこんなに大変だったなんて今まで知りませんでしたから」
「そうか、そいつはよかった」
目代は渡したゼリー系食品を一気に流し込むと重そうな腰を上げる。
「レース、見に行くのか?」
「……ええ、そのためにここのバイトを選んだわけですし」
そういうと礼乃は休憩所を後にしていく。
まだ疲労も抜けていないだろうに、勉強熱心なことだ。
そういえば、俺もここに就職したばかりの時はどれだけ体が疲れていてもレース見に行ってたっけ。
「…………」
あいつの顔、俺がここに来たばっかの時と似てんな。
レースが格安で見られてラッキー、って顔だ。
目代家生まれのあいつがなんでそんなことしているのかはわかんねぇけどな。
レースが見られて嬉しい、楽しいって気持ちだけは金持ちだろうと貧乏だろうとあまり違いはないらしい。
「…………仕方ねえ、俺も行くか」
熱中しすぎて仕事バックレられたらこっちが困るしな(バックレ経験有り)
「よし、今日はこれで終わりだ!!」
「はぁー、やっと終わった……」
「なぁ、今から行けばライブ間に合うかなぁ!?」
「厳しいだろ」
「僕の計算によればあの近道を時速30kmで全力疾走すればライブの終わる五分前には到着しますね」
「よし、道案内頼んだ!!」
「お先でーす」
「おう、お疲れさん」
元気のいい新入社員共が駆けていく。
俺は最後の点検のため残り最終確認を進めていく。
「芝よし。ダートよし。ま、こんなもんだろ」
「先輩、こっちも終わりました」
「おう目代、お疲れ様」
なぜか最後の点検にもついてきた目代。
まあ楽になったからいいんだけど。
「その『目代』って呼ぶのやめてください」
「なんだよ、みんな目を丸くして面白いじゃねえか」
「………家の名前でどうこう見られるの、嫌いなんですよ」
苦虫を噛み潰したようにそう呟く目代の姿はどこかわかるような気がした。
嫌だよな、自分とは無関係な物事で期待される感じ。
「わかったわかった。『礼乃』、これでいいか?」
「……うっす」
顔が良いだけあって僅かに顔を背けるだけでも絵になる。
カァッーーーーー!!!イケメンで名家出身でイケメンとかカァッーーーーーー!!
などと下らぬ憤慨を起こしていたところで。
「一応、今日はありがとうございました」
「―――――――」
突然下げられた頭に虚を突かれる。
「……俺なんかしたっけ?」
「ゼリーくれたり会場内の案内してくれたじゃないですか」
「あーね、いいよいいよ俺そういうの慣れてるし」
「ですがありがとうございました。おかげで今日を乗り越えられました」
再び深々と下げてくる頭に少しだけ居心地が悪くなる。
最初にあった時はあんだけヅケヅケ言ってきたくせに、どうしてこういうところは礼儀正しいんだよ。
「あー、じゃあ一つだけ教えてくれ」
「…? 俺に教えられることなら」
「なんで目代の……メジロ家の奴がこんなところでバイトしてるんだ?」
ちょうどいいので気になっていたことを聞くと礼乃は目に見えて表情を歪ませる。
やはり聞きにくいことだったか。
すぐさま「やっぱりいいわ」と言おうとしたところで礼乃はバツが悪そうに口を開く。
「……………家の力に頼りたくなかったんです」
「メジロのか?」
「はい。知っての通りメジロ家は代々優秀なウマ娘を輩出している名家です。その名前が競走バ業界に及ぼす影響力は計り知れません。だけど俺は俺の力で資格を手に入れたいんです」
なるほど。
自分の力で功績を立てたいというやつか。
はっ、なんだ。
そんな理由かよ。
「いいじゃねえか家の力。使えるものを使ったところで誰も何も言わねえよ」
少し、ほんの少しずつ暗いものが胸の内から滲み出してくる。
「むしろそれで試験も受からなかったらどうすんだ。笑い話にもならねえぞ」
俺は結局ルドルフと同じ舞台に立つことさえできなかった。
高校三年の最後、全てを振り絞って受けたプロトレーナー試験の結果は、『不合格』。
トレーナーを選別する鋼鉄の門は、無情にも俺を通さなかったのだ。
とはいえそれで諦めるほど俺も根性なしではない。
今のこの仕事に就職したのだって仕事をしながらレースを見られるから選んだ。格安でレースが見られて小躍りしてたら当時の社長に頭を叩かれたのが懐かしい。
それからも五年間トレーナー試験は受け続けたが『合格』の通知は一度としてもらえたことが無い。
そんな折、ルドルフのレースを間近で見た。
【皇帝】とまでもてはやされる絶対の走り。
あらゆるウマ娘が平伏してしまうような神威を纏った走りは今でも瞼の裏に焼き付いている。
だからこそ俺の心は折れてしまった。
トレーナーの一人も作らずクラシックレースを駆け抜けていってしまった彼女の姿を見て、もう俺のことなど必要ないと悟ってしまったのだ。
これが俺の過去、どうだ、情けない話だろう。
だからこそ礼乃の言っていることは酷く傲慢に感じた。手を伸ばせばなんだってできる環境にいて、それらを躊躇なく放り捨てこんなところでバイトをしているなど俺には到底理解できない。
俺の暗い感情に気が付いたのか礼乃は少し気まずそうな顔をする。
それでも、意を決したように彼は言った。
「俺には目標があるんです」
「へぇ」
「それは」
「"メジロを倒すウマ娘を育てる"ことです」
「…………」
は?
メジロを………倒す?
「なんで、そんなこと………」
わけがわからなかった。
メジロ家生まれの礼乃が何故そんなことをする必要があるのか。本気で分からなかった。
「これから親戚含めた俺の妹たちが台頭してきます」
「そしてそいつらは、間違いなくメジロ家史上『歴代最強』ともいえるウマ娘たちです」
そういって礼乃は語り始める。
どうやらメジロ家では今、4人のウマ娘がデビューを控えているらしい。
一人目はメジロライアン。
マイルから長距離までを自在に走れるオールラウンダー。特に差しの切れ味がピカイチで、後半怒涛の追い上げはデビューもしていないというのに既にジュニアでも上位のレベルにあるという。
二人目にメジロドーベル。
長い黒髪が特徴のウマ娘で、脚質は同じく差し。他の娘と比べると自信のないところが玉に瑕だが、走りの成績は悪くなくむしろ良い。自信さえ身につけばさらなる躍進が期待されているという。中盤以降の視野が広く、バ群の中からでも抜け出せる突破力を持っているらしい。
三人目はメジロパーマー。
一時期は伸び悩んでいたが最近『逃げ』へと転向したことでグングンと成績を伸ばしている成長株。最近喋りにギャル語が混ざってきて心配だとかどうとか、いやそこまでは知らんわ。
そして最後、四人目のメジロマックイーン。
長距離を走り抜けるほどの莫大なスタミナに気位の高さと比例するかのような終盤の加速力が持ち味の生粋のステイヤー。中距離以上の成績では四人の中でもトップを誇り、特に期待されているメジロ家の秘蔵っ子だという。
「……………」
そこまでの話を聞いただけでも伝わってきた。
これから来るであろう『メジロ家時代』ともいえる世代の分厚さが。多少身内の目線が入っていようと礼乃の話はこれからの競走バ業界を揺るがすほどの内容だった。
一人一人が確実に重賞をブン取れるだけのスペック、さらにメジロ家の教育によりモチベーションも高いという素晴らしい逸材だった。
なればこそ、なおさら疑問が残った。
「だとしたらわからねえぞ。そこまでの傑物が揃っているならどうしてそいつらを育てようと思わないんだ?聞いている限り別に仲が悪いわけでもないんだろ」
彼女たちの成績を語る礼乃は端から見ていても楽しそうに見えた。
兄が優秀な妹について自慢げに語る、そういっても通じるような兄バカ加減であった。
優秀なウマ娘に、それに見合う若きトレーナー候補。それでいいじゃないか、と。
「………俺も最初はそう考えていました。妹たちに見合う優秀なトレーナーになってこいつらをレースで勝たせてやりたい、って」
「でも、トレーナーとしての勉強をすればするほど思えてきたんです」
「どうせなら凄いウマ娘を鍛えるよりも、凄いウマ娘に勝ってみたいじゃないですか」
太陽が落ちスタンドの照明が輝く空に向けて礼乃は手を伸ばす。ぐっと握られた拳は太陽に手を伸ばす無謀な挑戦者のようにも見えた。
しかし、光輝く照明に向ける眼差しは本気だった。
本気で、
メジロ家がバックにつくウマ娘に勝とうとしている。
「あの家で学べることは全部学んできました。これ以上はメジロの家の外でしか学べない、そう思って家を出たんです」
自分自身の力で『最強』だと認めるウマ娘たちに立ち向かって、本気で勝つ!!という覚悟が伝わってくる。
ははっ、なんだよ。
やっぱり、俺格好悪いじゃねえか………
一回り年下の若者にどこか羨望にも近い感情を覚える。
それと同時に胸の内から忘れて久しい感情が芽生え始めていた。
これは一体?
そんなことを考えていると礼乃はこう言ってきた。
「あ、そうだ。今年からプロトレーナー試験の合格人数が増やされるらしいですよ」
何の気もなしにそんなことを語られる。
どうやら少子化の影響だのなんだのでプロトレーナーの数が減っているらしく受け入れる定員数を増やしているのだそうだ。
稀にウマ娘に襲われて円満()退職していくのも珍しくないらしい、こわ。
「正直、トレーナーを諦めたことの言い訳をしてた時の先輩は見ていてダサかったです」
「う、うるせぇ!」
自分でもわかっとるわ!!
「でもレースみてる時の先輩の顔はすっげえトレーナーに向いていると思いました」
「ッ!!」
『このレース場の芝は滑りやすい。5番は走り方が上手いからきっと入賞するぞ』
『アーッ!! そこはもう少し手前から減速しないとカーブがだなぁ』
『直線でも見通しが良いラインがあるんだ。2番がもうちょい左によれてれば先頭が見えて走りやすくなるはずなんだけどなあ』
礼乃の監視のためにレースみていた時のことを思い出す。
アーーーッ!!偉そうに解説してるのばっちり見られてるぅーーー!!
「まあ、先輩の人生ですし勝手にしたらどうですか。俺は先輩と同期になるのもやぶさかじゃないですよ」
「………先輩が同期って、それ煽ってんじゃねえだろうな」
だけど久しぶりにレースについてあれこれ語れたのは、楽しかった。こんな気持ちになるのも久しぶりだ。
あぁ、そっか。
この気持ちは礼乃の夢に"嫉妬"してるのか。羨ましい、俺もそっちに行きたいと心が叫んでいたんだ。
そんな気持ちもわからなくなるほど俺はレースから目を逸らしていたんだな。
トレーナーになるのを諦めて三年。
立ち止まってしまった自分と輝かしい道をひた走るルドルフとを比べるのが嫌で仕事をしながらもレースからは目を逸らしてばかりの数年だった。
だけど――――――俺にもまだトレーナーを目指す心は残っていたんだな。
「そう………だな……」
まだ遅くないのかもしれない。
ルドルフとの距離は大きく離れ、もはや雲の上のような存在とまでなってしまった。
だけどまだ遅くはない。この心があれば、きっと彼女ともう一度真正面から向き直せる気がする。
「なあ礼乃、俺も――――――」
「ミツケタ」
急に視界が黒く染め上げられる。
振り返ったはずの場所に礼乃はいなくなり、芝生の上に立っていたはずなのに足元は暗闇に包まれている。
そしてなにより謎なのが。
「ミツケタ」
目の前に浮遊する蒼白い炎。
幽霊屋敷のアトラクションに出てくる人魂のような発光する浮遊体がこちらを見つめてきている。
いったい目もないのに何故こちらを見つめていると思ったのか、自分でもわからない。
「ミツケタ」
じわじわと近づいてくる人魂に不気味なものを感じ、逃げようとしたところで体が動かなくなっていることにも気が付く。
顔を動かすことも、口も開くことができない。
これでは助けを呼ぶこともできない。
じっと近づいてくる人魂から目を逸らすことさえできない。
「ミツケタ」
「タマシイノ、ウツワ」
奇妙な声?を最後に人魂はスルリと俺の体の中へと入ってくる。
全く理解不能な事態に頭を悩ませていると、
ドクンッ!
瞬間、体が一気に熱を発する。
出来ているかもわからない呼吸が不明瞭になり、視界すらも白く染まっていく。
肉体がドロドロに溶けていく感覚を覚える。
生物的な恐怖を覚える感覚に悩まされながら、俺は必死に自我を保とうとする。
先ほど決意したトレーナーに再戦するという夢。
礼乃の夢を応援してやりたいという純粋な気持ち。
そして――――――――――――もう一度、ルナと向き合うんだという二度目の誓い。
あまりの情報量の多さに思考まで融解していくが、これだけは譲れないと感情を抱き込む。
そして何もわからないまま、俺は意識を失った。
そうしてなんやかんやがあって、俺はターフの上に立っている。
『さてついに今年もやってきました!!』
『激動の一年の始まりを告げるクラシックレースの第一冠目!!!』
『『皐月賞』の開幕です!!!』
『うおおおおおおおおおおおお!!!!!』
「先輩、記念すべき一冠目ですよ。頑張ってください!!」
「なんでこうなったんだろうなぁ」
25歳、アラサーまでカウントダウン寸前だった俺がウマ娘になって三冠を目指す件。
※原作メインヒロインのミナ隊長ごめんなさい。存在が消失しました。
※会長ごめんなさい。作者皇帝を所持しておりません、想像でしか書けないのにどうして幼少期を描いているんだろう。書いた後で反省した。
※市川レノ消失、目代礼乃誕生。名前は完全にメインヒロイン。
※日比野カフカ、女の子になっちゃった!?
【追記】
※日比野カフカ消失、鮫島カフカに。
名前も変えたかったけど幼女会長の「かふか君」呼びが可愛すぎるのと、存在が消失したミナ隊長の「カフカ君」呼びが大好きなのでカフカの部分を変更できませんでした、許して。