25歳、アラサーまでカウントダウン寸前だった俺がウマ娘になって三冠を目指す件   作:鳴神ハルキ

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勢いだけで書くの楽しい(なお後のことは考えないものとする)
セイウンスカイPUでジェム開放したらナリタブライアンとナリタタイシンが来ました。今回はナリタPUだった?


※注意
1話を見ていただいた方へ。
運営様から注意をいただき、主人公をオリ主へと変更いたしました。今後は『鮫島カフカ』となるのでご了承ください。その他詳しいことは1話の前書きと後書きに追記を記載してあるのでそちらを見ていただけると助かります。




2話

『さてついに今年もやってきました!!』

 

『激動の一年の始まりを告げるクラシックレース第一冠目!!!』

 

『『皐月賞』の開幕です!!!』

 

 

 

『うおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

 

 

「先輩、記念すべき一冠目ですよ。頑張ってください!!」

「なんでこうなったんだろうなぁ」

 

 

 

さて、本当に何故こんなことになってしまったのだろうか。事情を説明をするには結構な時間を遡らなければならない。

そうだな、ざっと2年くらいは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――パイ!!」

 

浮上しようとする意識を強く揺さぶる声がした。

それはつい最近聞いたようで、ずいぶん久しく聞いたような気もする。

 

「――――――ンパイっ!!」

 

鬼気迫る呼び声にはそれが誰へ向けたものか分からずとも、意識を引き上げる力が存在する。

意識は呼び声と共鳴し、加速度的に浮上の速度を上げていった。

 

「なんだ!? いきな、眩しッ!?」

 

とはいえ頭の中ぐるぐるで最悪な気分の中、何度もなんども大声をあげられるのは流石に気が滅入る。

浮上した意識を総動員し、音がする方向へと手を伸ばす。

 

「―――――センパッッ」

「あ"~、うるさいうるさい。わかったから少し静かにしてくれ」

 

無理矢理口を押さえつけることによって相手はもごもごと口を黙らせる。

寝ぼけたように不明瞭な瞳を開くと、そこが見慣れたレース場の芝の上だということがわかった。

 

「ん。なにがどうなってんだ?」

 

俺は芝生の上で横になっていた。

ちなみに言っておくが芝生の上で睡眠をとるなんて趣味はない。そういった習慣もない。

ということは知らず知らずのうちに眠ってしまったか、もしくは。

 

「気を失ったってところか。なんだ情けねえな」

 

慣れた仕事だからと昼間の熱気と湿度にやられたか?

この仕事に就いたばかりの頃には何度か経験したことだが、まさか今更疲労で倒れてしまうとは。なんとも情けない。

 

と、やけに隣の人影が静かになっていることに気が付いた。

たしか一緒にいたのは目代…じゃなくて礼乃だったか。

 

「すまんすまん、心配かけたな」

 

バイト先の先輩が急に目の前で倒れればそれは混乱したことだろう。あの声の荒らげ様も頷ける。

 

「だけどもう大丈夫だ。ほら体もこんなに軽いぞ、むしろ前より力がみなぎっているくらいだ」

 

俺は自慢の太い腕をまくり、力こぶを作ろうとぐっと腕を曲げようとする。

 

はて、それにしてもこの長袖はこんなにぶかぶかだっただろうか?いつもは大分ピチピチして捲るのにも一苦労なんだが。

 

俺が服のサイズに違和感を覚えていると黙っていたはずの礼乃が震えた声をあげる。

 

「せ、先輩……なんですよね?」

「…? それ以外に誰に見えるんだよ」

 

みよ、この鍛え上げられた上腕二頭筋。

みなぎる力を集結させれば現れたる自慢の富士山麓。いや嘘、ほんとは槍ヶ岳くらい。槍ヶ岳も見たことないけど。

 

「ってあれ?」

 

なんだか妙に腕が細い。

これでも仕事を始めてはや七年、欠勤なしの皆勤賞が自慢のそこそこ鍛えた肉体のハズなのだが、それも見る影が無いほどの細さだった。

それになんだ、なんだ、この違和感は。

 

「……先輩、もしかして今の自分の姿がわかってないんですか?」

「なんだよ姿って。コ〇ン君じゃあるまいし俺が若返ったとでも言いたいのか?」

「…………………………ハイ」

 

………………え?

 

真実(マジ)?」

「人に言われるよりも、自分で見たほうが早いでしょう」

 

そういって手渡された手鏡を受け取る。

なんで男のお前が手鏡なんて持ち歩いてるの?という疑問は胸の内に仕舞い、鏡の中をのぞき込む。

 

 

 

 

 

鏡の中には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見目麗しい一人の女の子が写り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふむ……………

 

 

 

 

 

 

「いや若返ってるとかそういうレベルの話じゃねええええええええええ!!!??」

 

夜のターフに甲高い絶叫が響き渡る。

 

アレェ!?鏡持ってたの俺のはずだよね!?じゃあ鏡に映ってるのは俺であるはずででも鏡に映っていたのは見たこともない女の子で俺の顔はそろそろアラサーカウントダウンは始まって少しばかり老けが見え隠れし始めていてそれでそれで。

 

というか心なしか声も高くなってなかった!??あのソプラノくさい高い声が俺の声?うっそだぁ!?

 

驚きはさらに連鎖する。

驚いた拍子に飛び上がると本当に飛んだ。意識が飛んだとかそういう意味じゃなくて物理的に肉体が飛んだ。それほど力も込めていないというのに恐るべき脚力だ。

 

「いや、いやいやいやいやいや」

 

ドシンと地面に着地するとより鮮明にその違いがわかった。

 

何故か?それは視界の高さが違うからだ。

自慢じゃないが俺の身長は181センチはある。男の中でも結構大きかったはずなんだがいまやそれも見る影が無い。

マイナス20センチほど低くなった視界はもはや別世界と言ってもいいほどで否応なく己の体が変化したことを突きつけられる。

 

流石にこの事態には俺も理性を保てない。

ギチギチとしまりの悪い首を回転させ、冷や汗の尽きないまま疑問を口にする。

 

「ナンデコンナコトナッテンノ??」

「ええっと、まず先輩が倒れて」

「ウン」

「そしたら突然体が光はじめて」

「ウン………うん?」

「で、目を開いたらこうです」

「」

 

どうしよう、礼乃の言っていることがなに一つ理解不能(わからな)かった。

 

つまりなにか?

俺は突然気絶したかと思えば、突然体が光りはじめ、突然女の子になっていたっていうことか?

 

「ダメだ…おじさん理解できない……」

「すいません先輩、若いのでも理解できません」

 

じゃあ誰もわからないってことじゃん。

 

悪態をつきながら改めて自分の体を隅々まで見る。

 

それなりに筋肉が付き日焼けもしていたはずの腕は、すらりと伸びた細くしなやかな白腕に。

短く切り揃えていたはずの髪の毛は肩まで伸びたセミロングへ。ストレートではなく少しボサついているところが元の髪の毛をそのまま引き伸ばしたような感想を抱かせる。

さらに全体的に小さくなった体。身長だけでもおそらく15センチから20センチほど縮んでいることだろう。

胸、そこそこ。元の大胸筋を還元してくれ。

 

そして一番気になっているのが。

 

「なあ礼乃……」

「っス」

「メジロ家育ちのお前に意見を聞きたい」

 

震える指で、左右それぞれ違う場所を指し示す。

 

「『ここ』に何が見える?」

 

指し示された一点は頭の上、つまり頭頂部。

もう一点は腰の後ろ、つまりは臀部だ。

 

これらの質問は俺が人間であった頃ならば上の質問には『髪の毛』、下の質問には『お尻』といった返答が得られるはずのものであった。

 

そう、俺が『ヒト』であったのなら。

 

尋ねられた礼乃はごくりと喉を鳴らすも、淡々と真実を告げた。

 

「『耳』と『尻尾』です、ウマ娘の………」

 

ピコンと突き立つ耳。

ふらりと揺れる尻尾。

 

ウマ娘だけが持ち得る二つの身体的特徴器官が、俺がヒトではなくなったという事実をまざまざと証明していた。

 

「どうするんだよ……これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念のためにもう一回確認しますけど本当に先輩なんですよね?」

「…………多分」

 

人気のない観客席に座り、力ない肯定の言葉を吐き出す。吐息のような言葉にはまったくと言っていいほど自信や説得力というものが封入されていなかった。

だってそうだろ?男が……人間がウマ娘に変身するなんて有史以来聞いたことが無い。俺自身が一番信じられていないくらいだ。

 

まだ俺の体にLEDか何かを巻き付けておいて、光りで目をくらませた後礼乃が気づかないほどのスピードで入れ替わったといった方が現実味がもてる。

 

 

 

これらを総合してみると、現状、俺が俺であることを証明できるものがなに一つとして存在しないということがわかった。

 

 

 

目が覚めたばかりの混乱がひと段落すると今度は際限ない落ち込みがやってきていた。

 

礼乃の話に心を奮い立たされ、ようやく人生の再出発を決められるかと思っていたところでこれだ。人生の再出発どころかヒトとしての生が終わって、ウマ娘生(『ウマ娘の人生』の略称)が始まっちゃったよ。

 

そんな俺の心境と連動するように耳はぺたんとへこみ、尻尾は力なくぶら下がっている。

見てもいないのに体のどこがどうなっているのかが手に取るようにわかるということが、俺自身に本当にヒトではなくなったということを再認識させる。

 

「俺は、本当に俺なのかな?」

 

自分ですら自分を信じられない。

本当に、いやになる。

 

「……………信じますよ」

「え?」

「信じます、って言ったんですよ。なに聞いてたんスか」

「いやなにって、なんで?」

「なんでも何も俺は先輩が倒れたところも、全身くまなく光るところも、先輩が情けない声挙げてるところも見てたんですよ?この状況で俺以外に誰が信じるって言うんですか」

 

それはそうなのだが。

だが如何せんあまりにも話が荒唐無稽すぎる。都市伝説くらいでしか聞いたことが無いぞ『ウマ漢』なんて。あ、そもそも男ですらなかった。都市伝説の線も消えたなこりゃ。

 

「………信じてくれるのはうれしいよ。正直今もすげー救われてる、俺一人の時にこんなことなってたら多分こんな風に話すこともままならなかった」

 

夢も希望もなく、たった一人の時に文字通り『独り』になってしまっていたらどうなっていたことか。

少なくとも今のように落ち着いて話すことさえもままならなかったような気がして全身に怖気が走る。

 

「だからこそ、申し訳ねえんだ」

 

だがそれ以上に怖いのは、俺という存在が後輩の重しになってしまうのではないかという重圧感だった。

 

「お前にはこれからプロトレーナー試験が控えてる。こんなところで意味不明な怪奇現象に巻き込まれて、本番までに調子が落ち込まないなんて保証はない」

 

プロトレーナー試験は過酷だ。

求められるスキルは十を超え、文字通り人生をウマ娘に捧げるともいえる仕事なのだ難しくて当然とも言えよう。

 

その中でも特に重要となる三つの要素。

ウマ娘を正しく導きレースで勝利させるための知識。

ウマ娘のトレーニングに最低限ついていくだけの体力。

そしてなにより大切となるのがウマ娘達と心を通わせる対ウマ娘コミュニケーション能力。

 

これらはどれが欠けていてもトレーナーとして務まらない。

何度も試験に落ちた俺が言うのもなんだが半端な調子で挑んで受かるものではない。

 

だからこそ、礼乃にはこの件にはなるだけ関わってほしくないと思った。

 

「この件についてはお前は無関係ってことにしておいてくれ。若い奴に迷惑はかけられねえ」

 

「心配すんな、これでもお前よりちっとは大人なんだ。どうするかくらいは自分で考えて、自分で決める」

 

「それに一人だけでも知ってくれている奴がいるんだ。世界で本当に『独りきり』になるよりはよっぽどマシ、ってやつだろうさ」

 

「………アーーー、今ちょっと恥ずかしいこと言ったかな? やっぱなし、今のなしの方向で」

 

それに?考えてみればウマ娘の体になれるなんてどんなトップトレーナーでも体験できない激レア体験じゃないか。

そう考えてみれば悪くない、うん悪くない体験だ。

ハハハ、いつか元の体に戻れたらこの話だけで一生食い扶持には困らないな。

 

「それじゃあ悪いけどよ…コースの、最終チェックの報告だけは任せた」

 

こんなことになってしまったというのに仕事の心配とは我ながら律儀なことだ。

あとで会社に迷惑掛かるのも嫌だしな。

 

観覧席の椅子から立ち上がり更衣室へと向かおうとする。

せめて自分の財布や大事なものは回収しとかねえとな。なるべく監視カメラとかには映らない方向で―――――

 

 

 

ゴンッッッ!!!!

 

 

 

「ビクッ」

 

突然の大きな音に腰の尻尾が飛び上がるように立ち上がる。

体をめぐる寒気のような感覚はウマ娘がヒトよりも動物に近いから故なのか、少なくとも危機察知能力はヒトよりも断然上のようだ。

 

俺は警戒しようと躍起する肉体を宥めつつ後ろを振り返る。

 

「―――――ッ」

 

そこには今にも人を殺せそうな形相でポールに拳を突き立てた礼乃の姿があった。

 

「お、お前なにしてんだよ!? 血が滲んでんじゃねえか!!」

 

鉄のポールに拳なんて突き立てればいやでも負傷するに決まっている。

それにあれだけ大きな音だ。かなりのパワーだったに違いない。

 

「ああもうとりあえず休憩室行くぞ。そこに救急セットとかも置いてたはずだからそれでなんとかっ」

 

と、口早にまくし立てていたところで突然胸ぐらをつかまれる。

 

「…んで…あんたは……」

 

小さくなった体躯で10センチは大きな相手から胸ぐらをつかまれるという行為は原始的な恐怖心を煽られる。

咄嗟に突き飛ばしそうになったところで瞳に入ってきたのは――――今にも泣きだしそうな礼乃の顔だった。

 

「ど、どうした。やっぱり痛むのか?なら早く応急処置を……」

「なんで…そんなに人のことばっかり考えられるんだよっ!!!」

 

耳元で爆発した大声量にウマ娘の大きな耳がこれ以上なく震える。

 

「あんた今不安なんでしょ!?怖いんでしょ!? なら少しは周りを頼るとかしろよ!!」

 

「さっきから聞いてればやれ『俺のことは気にするな』だの『若い奴には迷惑を掛けられない』だの。」

 

「あんたにとって俺や、周りの人間は『その程度』であんたを見放すくらい薄情なやつなのかよ!!!」

 

「大人なら近くにいる年下くらい上手く使ってみせろ!!そんで成功してみせろ!!!」

 

「それくらいしてようやく届くんじゃないのか!!」

 

「あんたの夢に!!!!」

 

はぁはぁ、と荒い息を繰り返し肩で息をする様はそれだけ本気でしゃべったことの証明だ。

スルスルと胸ぐらから手が離されるものの、正面からこちらを見る礼乃の目は俺から離されてはいなかった。

 

「あんたが、どんだけ本気だったかは知りませんよ」

「…………」

「でも言いましたよね。『レース観てる時の先輩はトレーナーに向いてる』って、アレは本心からです」

「…………」

「どこまでもウマ娘の目線に立つことができて、自分の担当ウマ娘でもないのにレースが勝った時には同じように喜べるし、負けたら悔しがれる。」

「…………」

「それはトレーナーになるのに一番大切な『要素』なんですっ。なるべきなんですよ貴方はっ、トレーナーに」

「…………」

「ウマ娘になるなんて非常事態になったのは残念ですけどそれでも俺はあんたの夢を――――」

「…ごめん、礼乃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耳、キーンってなってなに言ってるか聞こえない」

「夢をおうえ…………」

 

未だ耳鳴りの続く両耳を抑えてプルプルと震える。

なにか良いことを言ってくれていたのはニュアンスで伝わってくるが、最初の大声が耳を揺らしてからずっと耳の内側で大鐘楼が響き続けている。

耳、痛い。

 

「は?」

「あ、今のはなんとなくわかる。『は?』だろ、間抜けた顔がそんな感z」

「ッッッ!!!」

「あっ嘘嘘! 暴力反対、パワハラ(物理)!!」

 

なにかやけくそになった礼乃が手当たり次第に腕を振るってくるが慣れてきたウマ娘の身体能力をもってすれば見切るくらいは容易く、宥めるのは余裕のよっちゃんだった。

最終的には先ほどと同じくらい消耗し肩で息をする礼乃を椅子に座らせて落ち着かせることとなった。

 

やけに静かになった礼乃は、なんだか一回り小さく見えた。

 

「悪いわるい、でも聞こえなかったのもお前が耳元ででっかい声出すからだぞ」

「……………ぷい」

「だから悪かったって………まあでも、なんとなく話の内容は伝わってきたよ。」

 

「お前の言うとおりだ、俺の夢はまだ完全に終わったわけじゃねえ。」

 

「それに年下にこれだけ言われて引き下がるなんて男が廃るってもんだ、この体でやれるとこまでやってみることにするよ。」

 

 

「それも、ちゃんと他の人にも頼った上でな」

 

 

「……なんスか、ちゃんと聞こえてたんじゃないですか」

「あんだけ大きな声だったからな。途切れ途切れとはいえ聴こえてたんだよ、耳鳴りのせいで全部じゃないけどな」

 

こんなことになってしまったのは、もう仕方がないと思うしかない。

だが、それが俺の夢を諦める理由にはならない。荒唐無稽とはいえこうして第三者の証人もいるんだ、なんとかなるかもしれない。

 

見つけたら速攻討伐されてしまう化物や怪獣になったわけじゃないんだ。

やろうと思えばなんとかなるさ、ってな。

 

「とりあえずURAにでも掛け合ってみるか? ウマ娘の問題と言ったらあそこだろ」

「どうですかね。登録されていない所謂『野良ウマ娘』というくくりになるかもしれません」

「『野良ウマ娘』?」

「俗にいう出産記録の残っていないウマ娘のことですね。社会の闇ってやつです」

「…聞いたことないんだけど」

「表沙汰にならないようにしてるんです。俺はほら、家がメジロ家ですから」

 

そっかー、ならよかった。

俺の半生をかけてしてきたウマ娘の勉強が無駄だったのかと焦ったぜ。

 

「でもURAに助けを求めるのはいいかもしれませんね。あそこはウマ娘に駄々甘ですから」

「だよなー」

 

あそこ甘すぎるよな、主に運動競技に出るウマ娘全般に向けた手厚い補助やサポート。

ウマ娘の消費カロリー知ってるか?URAなかったら殆どのウマ娘干からびてるぞ。

 

三人寄らば文殊の知恵。一人でダメでも二人なら案は湯水のように湧いてくる。

胸中を覆っていた暗き暗雲は言葉を重ねるたびに、笑い合うたびに晴れていった気がする。ヒトは社交生物だということを改めて認識させられる。おっと今はウマ娘だったか。それに三人もいないけどな。

 

「………調子戻ってきましたね」

 

ふと礼乃が柔和な笑みを浮かべる。

 

「確かにいくらか余裕も戻ってきたけど、そんなにわかりやすいか?」

 

そう聞くと礼乃は少し考えるようにしたあと頭と尻を指さす。

 

「知ってますか? ウマ娘は耳と尻尾に感情がダイレクトで現れるんです。子供のウマ娘なんかは特にわかりやすいですね」

 

それは、確かに俺にも覚えがある。

 

ルドルフとよく遊んでいた時、嬉しければ尻尾がせわしなく揺れていたし、落ち込んだ時には逆に垂れていたりもした。

ヒトにはないわかりやすい物差しが俺があいつとすぐ打ち解け合えた間接的な要因とも言えよう。

 

「先輩の場合耳が立ったり、尻尾が揺れたりせわしないですからいやでもわかりますよ」

 

ウマ娘の尻尾と耳は、目や口ほどに物を言う。

俺がウマ娘になった結果、相手には俺の気持ちが手に取るようにわかってしまったということらしい。

 

「え、なに。じゃあ俺は今までお前に感情さらけ出しながらここまで話してたの?」

「そっスね。妹たちは年々制御が上手くなってきてたので、それと比べれば先輩のは駄々洩れって感じですかね」

 

えっ!!?シンプルに恥ずかしい。

じゃあ実は「若い奴には頼れない(キリッ)」とか「一人で何とかしてみせる(どやっ)」とかしてた時の俺の感情も駄々洩れだったの??

 

「格好いいこと言ってる割には耳も尻尾もビクビクしてて『あー、この人強がってるんだな』ってのが丸わかりでしたね」

「のわぁーーーー!!ハズーーーー!!!」

 

だからこいつあんなに察し良かったのか。

実は胸の内が不安でぐるぐるだったのわかってたからあんな本気になって止めにきてくれたのか。

 

「お前俺のこと大好きかよ」

「すいません、俺そっちの趣味無いんで」

「そっか。お前シスコンだもんな」

「別にそんなことはないですよ。ただマックイーンは幾つになっても耳と尻尾の扱いが下手くそでしてね。スイーツを没収されたりスポーツ観戦が雨天で中止になったときなんかはそれはもう土砂降りの中かってくらい毛が垂れ下がるんですけど、それが贔屓目に見てもまた可愛らしくてですね。ライアンは筋トレ大好きでとっても格好いいんですけど実は誰よりも女の子らしいんですよ、ぬいぐるみとかプレゼントした時はかげで凄い喜んでくれてるんです。ドーベルは人見知りが激しくて特に男性には当たりが強いんですけど懐に入ればすごく良い子なのがわかります。パーマーはみんなのお姉さん的存在ですけど俺にとっては妹みたいなものなんです、ただ最近は言葉遣いが少し変わってきたらしく友人関係が少し心配に―――――」

「俺、耳も尻尾もないけどお前が今どんな気持ちなのか手にとるようにわかるわ」

 

そっかー、人間から見たウマ娘ってこんな感じなのかー。

うん、制御の特訓、頑張ろ。

 

「っと、もう大分遅いな。とりあえず今日は解散して家に帰るか」

 

そろそろ時間も厳しくなってきたので帰ることにした。

まだ語り足りないと目で訴えかけてくる礼乃を冷たい視線で制し、帰路につこうかと考える。

 

俺の衣類や重要物などは礼乃に回収させればいい。

鍵と財布さえあればしばらくは問題ないはずだろう。

 

などとお気楽に考えていたところで、さらなる問題が浮上する。

 

「えっ先輩、その姿のまま帰るんですか?」

「…? 他にないだろ?」

「…………あの、先輩の家って戸建てですか?」

「いやマンションの一部屋だけど」

「だったらなおさら問題でしょ」

 

 

 

「近隣住民からしたら25歳独身男性の家に見た目中高生くらいのウマ娘が出入りすることになるんですよ?完全に事案じゃないですか」

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

「元の俺の人権紙くずになるじゃんッッッ!!!?」

「だからそう言ってるんですよ!!!?」

 

アッーーーーー!!!

まずいまずいまずい。それを失念していた。鍵があろうとなかろうと家に帰ろうとすればいやでも人の目につく、集合住宅による弊害が出てしまった。如何せん毎日きちんと挨拶をしていたのが裏目に出た。周りにはガタイの良くて礼儀正しい兄ちゃんで通ってたのにッッ!!!

 

ふるふると涙目になりながら、どこかに希望は無いのかと探し始める。

 

勿論ここは夜のレース場。

そんな都合の良いものがあるはずもなく、あるのは芝とダートと礼乃くらいのものだった。

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

「助けて後輩っ!!!」

「やめてくださいっっ!!? その姿で足にしがみ付かれてるの誰かに見られたら俺の基本的人権も紙クズになっちゃうじゃないですか!?」

「お願いっ!一晩っ、一晩だけでいいから!!」

「言い方ァ!!」 

「頼むよぉ!俺のこと助けてくれるっていったじゃん!!?」

「嫌っス!!こんな頼られ方は嫌っス!!!!」

 

明日はどうする!!

未来はどうなる!!!!

 

星一つ見えない都会の空がまるで俺達の未来を物語っているようにも見えた。そんなウマ娘生最初の夜の話であった。

 

 

 




やはり礼乃(レノ)がメインヒロイン、ルドルフさんのウマ圧が風前の灯火だ!!

仕事初日でこれだぜ?お互いが向ける感情が大分でかく見えるけど怪獣8号はもっとクソデカ感情向けあってるし問題ないでしょ。礼乃からすれば立派な大人で気配りできる良い人で、特にレースを楽しんでいた主人公がそれだけ魅力的に映っていたってことですね。
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