25歳、アラサーまでカウントダウン寸前だった俺がウマ娘になって三冠を目指す件   作:鳴神ハルキ

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引っ越しの準備やら家のネット回線が通じなくなるわで投稿が遅れてしまいましたが作者は元気です。
Abemaでウマ娘二期見ましたがアレですね、最高でしたね。テイオーは勿論他の子の活躍とかも同時並行して魅せるのがウマくてつい見入ってしまいました。回線が切れて動画が止まった時はキレ散らかしました。パーマー強い…強くない?バカコンビとか言われてるけど成績だけみたら本当に強い。あとパーマーパーマー言ってたヘリオスは可愛いかった。ギャル推しの一端を垣間見たぜ。



5話

メジロ家への養子縁組、という特大の爆弾が投下されてはや数分、車の中は少し変な空気に包まれていた。

 

その元凶である雄一さんは悠然とした態度で紅茶の味に舌鼓を打ち、マックイーンとライアンのメジロ家従姉妹はどこか値踏みするような視線を向けて、礼乃はなにかを真剣に検討するように顎に手を当てて思考の海に耽っている。

 

俺?

 

「じゅーすおいしいー」

 

俺はあまりの事態を受け止めきれずキャロットジュースの美味しさに逃げていた。

ウマすぎてウマ娘になったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、ここは一体!?」

 

気が付くと車は停車していた。

 

「なにしてるんですか降りますよ先輩」

 

後輩の声に急かされ人工的なシャンデリアの光の下から暖かな陽光差す日の下へ降りる。

目の前には立派な豪邸と一面の花畑が広がっていた。

 

広大な庭を埋め尽くすように広がる色とりどりの花、風が運んでくる花弁と胸いっぱいに広がる芳香は力んでいた身体をリラックスさせる効能があるようで身も心も癒やされるようだ。

それにしてもこんな広い庭があるとはさすがメジロ家といったところか。いったい俺の借りてる部屋や礼乃のボロッちいアパートの部屋幾つ分だこれ。

 

「どうでしょう、我がメジロ家本堤自慢の花畑は。これらは専属の庭師が毎日手入れしていてお客様にも好評ですのよ」

「それにここからは見えないけど本堤の裏手には自前のコースもあるんだ。そっちも専属の整備士の人がいてあたし達はそこで練習してるんです」

 

自前のコース!?

 

自前のコースって、そんなの個人の邸宅が所有するものじゃないだろ…どんだけなんだメジロ家。

 

「さて、ここで立ち話もいいが他の皆も集まっている頃だ。あまり待たせるとわたしが家内に怒られてしまうからね。いや本当に普段は優しいんだ、この前もわたしのためにケーキを焼いてくれてだね……」

 

雄一さんののろけ話を耳で拾いつつ俺たちは庭を後にする。

 

メジロ家の家宅はまさに豪邸と呼ぶにふさわしい大きさと内装をしていた。

 

華美にして質実、煌びやかにして品のある雰囲気は一日やそこらで醸し出せるものではない。

まさしく、芝上の貴族。

日本のウマ娘業界を牽引しているといっても過言ではない凄みを感じさせる。

 

大きな廊下を通り終わると少し広めの部屋に出る。

長い机に真っ白のクロス、規則正しく並べられた椅子がここが食堂なのだと理解させた。

 

そこに集められた人々の視線が入ってきた俺たちに一斉に注がれる。

 

「兄さん!!」

 

一人のウマ娘が立ち上がる。

 

礼乃に照準を定めた少女は最速最短で距離を詰めると極めて強く礼乃の胸に飛び込んできた。

 

「っバカ兄さん!」

「ドーベル……うっ、ぐふ」

 

長い黒髪を揺らし涙を目に浮かばせたウマ娘はポスポスと胸を叩く。

 

「三ヶ月もっ行方をくらませてっ、本当に心配したんだから!」

「悪かった…ごめんな…」

 

よっぽど心配していたのだろう。マックイーンやライアンと比べてもさらに激しいプッシュに彼がどれだけ愛されていたのかを理解させられる。

兄妹感動の再会。赤の他人の俺ですら少しウルっときちまったじゃねえか。

 

「ごほん」

 

でもごめんな、隣に初対面のおっさんがいるんだ。

 

「っ!?!!?」

 

顔を赤くしながら飛びのく暫定メジロドーベルさん。だがその手は依然として礼乃から手を離していないどころか強く握りしめているところをみると本当に懐かれているらしい。

 

「彼女は―――――――」

 

雄一さんから一通りの説明をしてもらったのち、一人づつ紹介をしてもらった。

 

「どもー、メジロパーマーです。わたしのことは気軽に『パーマー』って呼んでもいいよ、あたしも気軽に…って記憶喪失なんだっけ…ええと…ごめん!お詫びに今度アガるスポット紹介するから許して!」

「次は私ね。メジロアルダンよ、他のみんなよりちょっとだけ年上だけどあんまり気を使わないでくれると助かるわ」

「アルダン姉さん…家の中でセグウェイ乗り回すのはやめてって言ったでしょ。ええと、メジロドーベルです、よろしく」

 

ウマ娘による自己紹介三連単は中々に強烈だ。個性豊かにもほどがあるだろう。

とりあえず一人づつ整理していこう。

 

一人目はメジロパーマー。鹿毛の髪を後ろで括ったポニーテールのウマ娘で他のメジロの娘達と比べるとだいぶ気色が違い面を食らったがとても付き合いやすそうな娘だ。フランクな喋りの中にもどこか人を引き付ける魅力があり親しみやすさを感じさせる。ちなみにポニーテールというのは幼いウマ娘のことを海外の一部では"ポニーガール"と言うところからきているらしくフラフラと揺れる一纏めの髪がウマ娘の尻尾の動きに似ているところからきているらしい、どうしてこんなに事細かに説明しているのか俺にもよくわからない。

 

二人目がメジロアルダン。余裕のある応対力は年上の貫録を感じさせ、流れる水色の髪は彼女の清楚さと相まって清廉なせせらぎを彷彿とさせる。しかしいざレースとなれば話は別。彼女は"あの"オグリキャップと同世代、NHK杯や日本ダービーで2着、翌年の高松宮杯と毎日王冠で1着を手にしたこともある文句のつけようがない一流のウマ娘だ。何故部屋の中でもセグウェイにまたがっているのか、何故そんなに朗らかな笑顔なのか、これがわからない。

 

そして三人目は件のメジロドーベル。先ほど礼乃に突撃していったアグレッシブさはどこへ行ったのやら、少し素っ気ない感じの挨拶ではあるもののその礼儀作法は淀みがなく美しさはマックイーンにも引けを取らない。長く美しい黒髪ときりりと鋭い目元も相まってクール&ビュティ―、そんな言葉が似合うウマ娘だ。

 

マックイーンとライアンの二人からも感じたカリスマ性をこの三人からも感じるが二度目だったこともありなんとか気負いすることなく潜り抜けられた。

 

だがまだ油断はならない。

ここにはこの三人すらも越える気配の持ち主が一人構えているのだから。

 

 

「メジロ家当主雄一の妻、メジロファルコンです。突然のお招きで大したおもてなしもできませんが、メジロ家一同、貴女を歓迎いたします」

 

 

メジロファルコンさん、たしか俺が幼少の頃くらいに活躍していたウマ娘の名前だ。朧気ではあるがレースのビデオを見た記憶がある。成績もGⅡで3勝、GⅠでも何度か入賞を果たした凄腕のウマ娘だったと記憶している。そんな人が雄一さんの奥さんとは、なんとも羨ましい限りだ。

 

あれ、ということはこの人、礼乃のお母さんということか。

 

それにしては………若い。現役の頃の映像と比べても見劣りしない茶に近い鹿毛には艶があり、先端まで生命力が行き渡っているように見える。とても一児の母であり(ピー)歳だとは思えない。おおっと発達した感覚器官が危険信号を察知している、この思考は危険だ即刻切り捨てるとしよう、いのちだいじに。

 

いい仕事をした感覚器官が今度は近くから焦りの感情を探知する。

出所は俺の後方約3メートル、そこにいるのは確か。

 

「礼乃さん」

「っ!!!」

 

ファルコンさんのおっとりとした声が半音低く鳴り、一人の名前を告げると焦りの感情がさらに強くなった。

恐怖、混乱、罪悪感。滲み出る汗からは諸々の感情がない混ぜとなった焦りの感情が強く伝わってくる。それは他のウマ娘たちにも伝わったようである者は心配そうに、ある者は呆れ気味に、ある者はセグウェイに乗ったまま距離を取った。

 

「礼乃さんお返事は?」

「は、はい」

「よろしいです。では少し、お話があります」

「…はい」

「申し訳ありませんがお客様、私たち二人少々席を外させていただきます。それまでどうか同年代の彼女たちと談笑していていただけていると助かります」

「あ、はい」

「アナタ」

「あ、はい」

「お客様のことよろしくお願いね」

 

圧に圧された男三人は全ての語彙を失い「はい」としかいうことができなかった。

 

礼乃はそのままファルコンさんに手を引かれ(床と靴の間でズリズリ音がなっているところから礼乃の抵抗を感じるがウマ娘の力に敵うはずもなく)連れていかれる。

食堂を出てしばらくするとギギィと錆びれた扉の開く音がして、次いで重たい音を立てながら閉まる音が聞こえた。

そこから先は全くの無音が屋敷を支配し、不気味なほどの静寂が続いた。

 

怖かったので俺は言われた通り楽しく談笑をすることにした。

 

「貴女ったらこんなに毛をほったらかしにして。ほらこちらにお座りなさい、わたくしが梳いてあげますわ」

 

マックイーンは最初とっつきにくいお堅いご令嬢かと思っていたのが、思っていたよりも気さくでとても話しやすい娘だった。

彼女は俺の身だしなみが気になったようで髪を梳かしながら尻尾の手入れの仕方から服や化粧なんかについても教えてくれた。あんまりそっちのことは興味ないんだけどなぁ。

 

「髪もお肌も手入れはしていないというのにとても綺麗…まるで新品のようですわね」

 

ぎくっ。

マックイーンの鋭い観察眼にウマ耳と尻尾がピコピコと震える。同種の同性らしくやはりそのあたり勘が働くようだ。これからはその辺にも気を付けておいた方はいいかな。

 

「先生…ご指南お願いします」

「メジロの娘として承りましたわ」

 

マックイーン先生の身だしなみ教室。

カフカの賢さが10あがった。

 

 

 

「その、兄さんとは、どういう関係?」

「(互いに夢を追いかけるものという意味で)一緒に切磋琢磨しようって誓った者?」

「(トレーナーと担当ウマ娘という意味で)一緒に切磋琢磨しようと誓った者!?」

 

ドーベルの方はなんというか初見のクール&ビューティーという印象が大分薄れた。どうやら従姉妹の中では一番末っ子なようで一番礼乃に懐いているらしい。

 

「ど、どういうこと…!?兄さんが私たち以外のウマ娘の担当するなんて聞いてないっ!」

 

口から白い息を吐き目を赤く光らせ髪を逆立てて迫ってくる様はなんというか本当に同種の同性なのか疑問に思った。

 

「…え、そういう意味じゃない?お互いに夢を誓い合った? そ、そういうことだったの…」

 

礼乃が絡むと大分アグレッシブになるところがあるがそれも彼女なりの家族や親族への愛情が深いということなのだろう。

誤解が解けてからはきちんと謝ってくれてマックイーンと共に淑女としての振る舞い方なんかを教えてくれた。

 

「あなたは随分男勝りな喋り方みたいだから初対面の人はびっくりしちゃうかもしれない。ちょっと話し方を変えるだけでも印象は変わると思うよ」

「……こんな感じでしょうか?(半音高くした声)」

「うん、良い感じ。でも兄さんと距離が近い」

「うっす」

 

礼乃、お前がシスコンなのはそうだかこっちも大概なようだぞ。

 

 

 

「いいよね筋肉!みてよこの自慢の腹筋、それに大腿四頭筋!」

 

ライアンは見た目通りのハツラツさとパワフルさで俺と気が合った。

俺とて元男筋肉には並々ならぬこだわりがある。おすすめの筋トレ法なんかを紹介しあう頃には互いの間に壁は無くなっていた。

 

「(くそっ、俺の元の身体の筋肉があれば張り合えたのに…!)」

「あっ!こ、こんなに筋肉見せつけちゃうなんてはしたないよね…ごめんね突然変なところ見せちゃって…」

「そんなことはねぇ!筋肉はロマン、己の道を切り開くのはいつだって筋肉(マッスル)さ!」

「…!君はわかってくれるんだね筋肉(マッスル)の可能性を!」

「いえーい筋肉(マッスル)筋肉(マッスル)!!」

筋肉(マッスル)筋肉(マッスル)!!」

 

こんなところで筋肉について語り合える筋肉友達(マッスルフレンド)に出会えるとは。いつか鍛えあげた肉体で語り合いたいもんだぜ。

 

 

 

「こんなことになってさ…俺どうしたらいいのかわかんねえよ…(マックイーンに結われていつのまにかポニーテールになっていた髪を嘆きながら)」

「うんうん、辛いよね。わたしはこの通り大きい悩みとかないけどさ、悩んだらなんでも相談に乗るからね(記憶喪失のことだと思っている)」

 

パーマーは聞き上手で話し上手な子であった。相手の話題を上手く引き出す話術、なぜか身の上を喋ってしまいそうになるような安心感。ついつい設定を忘れて本音がポロリと漏れてしまいそうになったときには肝が冷えそうになった。

話題をすり替えるため彼女の走りについて話してみることにした。

 

「そ、そういえば礼乃から『逃げ』に転向したって聞いたんだけど、なにか心境の変化があったのか?」

「アレ、おにいそんなとこまで話してたの。…これはうかうかしてられないかなぁ」

 

…?

 

「逃げに転向した、って話ね。じつはわたし他のみんなと違ってもうトレセン学園に入学しているんだ」

 

パーマーの話によると一つ年上のパーマーは既に学園に入学してデビューを控えている状態らしい。

その準備期間を経ている間に運命的な出会いをしたというのだ。

 

「ダイタクヘリオス?」

「そ、わたしたちズッ友なんだ!」

 

ふらりと入った学園の占い屋で近いうちに運命の相手と出会うと予言され、その直後に出会ったダイタクヘリオスのお陰でスランプを脱したらしい。今では無二の親友、彼女が言うにはズッ友というまでの仲になりメキメキと力をつけ出した最中なのだとか。

 

でも多分、この子が礼乃の言っていたパーマーがグレ始めたっていう愚痴の元凶だよなぁ。

 

「ていうかわたし達ポニテでおそろだ!一緒に写メ撮ろ!」

 

でも当の本人は幸せそうなので心の内に仕舞っておこう。

 

 

 

「貴方は風の向こう側へ行ったことはあるかしら?」

 

アルダンは何故かセグウェイの乗り方を教えてくれた。発進と同時にポニーテールが近くにいたマックイーンの顔に直撃し零れた紅茶が精密機械であるセグウェイにウォーターフォール、制御を失ったセグウェイが高そうな調度品へと突っ込みもろともに御釈迦にしてしまった。雄一さんから数十万円程度の品だから気にしないでと言われた。もう絶対乗らねえ。

 

 

 

歳の違う女の子に囲まれて喋るというのはなんだかとても落ち着かなかったが時間経過とともに苦手意識は薄れていった。

メジロのウマ娘ということで苦手意識を持っていたがみんな付き合いやすい良い娘達ばかりだ、勝手なイメージで苦手意識を持っていた自分を恥じる。

 

「そういえばみんなは次の『皐月賞』誰が勝つと思う?」

 

そんなアルダンのつぶやきに皆の目つきが変わった。

 

「やっぱり今年に入って三戦三勝のディーゼルハイロウじゃない?この前は特集まで組まれてたし」

「私としては昨年の阪神JFを手にしたフロンティアセカンドさん辺りが来るかと。彼女のコーナリングには目を見張るものがありますわ」

「いいやここは断然マッハバイロだね。あのアゲアゲな逃げはきっと最速の舞台をかっさらってくれるよ!」

「わたしは…クリスティンかな」

 

ギラっとしたウマ娘の野性の勘と静かな理性からはじき出された結果予想はどれもが実績と固有の強みを持った今大会でも有力バとされるものばかりであった。

 

「君はどう思う?」

 

しかし、ライアンに話題を振られた俺が出した予想はというと。

 

「ハットリニンポー…かな?」

「「「「「え」」」」」

「ああいや、別に適当に言ってるわけじゃないんだ」

 

結われたテールを手で弄びながら出バ表の中にある一体のウマ娘を指さす。

このハットリニンポーはそれほど飛び抜けて強いウマ娘というわけではない。ジュニア期の戦績を含めても七戦三勝と全体の中でも目立ったものはない。だが。

 

「ハットリニンポーの勝利レースって全部不良バ場なんだよ」

「あら」

「本当ですわね」

 

このウマ娘は不良バ場においても安定した走りを維持できるちょっと珍しいウマ娘なのだ。そして今年の『皐月賞』の天気は雨の予報、それも前日当日続けての雨バ場、状態は限りなく最悪に近い不良バ場となるだろう。そんな中、不良バ場であっても実力を十分に発揮できるハットリニンポーが優位なのではないか、そう推論したわけだ。

 

「レースはどんなにウマ娘の調子が良くてもバ場の状態に左右されちしまう。その時の天気やバ場の状態、レース場の特色だったりな」

 

だからどんなバ場でも全力を発揮できるウマ娘がいるならそいつが最強だろう。

 

そんな風にいつの間にか自説を説いていたところで周りの目がこちらに向いていることに気が付く。

メジロアルダンを抜いた他の四人の目は丸くしており、アルダンだけは驚いた様子で興味深そうにこちらを見ていた。

 

「貴女、もしかして出走経験があるのかしら?」

「ぅえ!?」

「普通ならそのウマ娘の強みや距離適性を基に挙げるわけだけれど、バ場の状態まで予測する娘は中々いないわ。まるで実際にレースを走った経験があるような予想だったから」

 

興味深そうにするアルダンの顔を見て自分が一つ墓穴を掘ったのだと自覚する。

 

今の俺は記憶喪失。だというのにこんなにべらべらと喋ってどうするんだ。

周りを見れば他の四人も俺の考えが理解できたのか心底興味深そうな顔になっている。

 

まずいまずい。こんなところでばれるわけにはいかない。

だがどうすればこの状況を切り抜けられるんだ!?

助けてコ〇ン君!!

 

「…………ッテ、礼乃ガ言ッテタヨー」

「なんだお兄様の言っていたことでしたか」

「そっかー、お兄さんトレーナー志望だもんね。実践的な予想になるのも当然か」

「おにいは語るとき熱入っちゃうしそれが移っちゃうのはあるあるだよねー」

「流石兄さん…!」

 

助かったぜコ〇ン君!!

 

 

 

 

 

 

 

 

コ〇ン君の必殺技でなんとか窮地を脱した後、お説教部屋でこってり絞られた礼乃が帰ってきた。ファルコンさんがやたら艶々しているのはどうしてだろうか。

 

『(なんでアンタポニーテールになってんですか…)』

『(お前の従姉妹(いもうと)にさせられたんだよ)』

『(髪を整えてあげるなんて…なんて慈悲深い、天使か?)』

 

はいはいごちそうさま。

ツーカーしてたら従姉妹から訝し気な視線が飛んできた。チクチク刺さるなぁ。

 

ようやく全員が集結したところで昼食が開かれ始めた。

いったいどんな豪華絢爛な料理が出てくるのかとびくびくしていたが思っていたよりも普通の料理が出てきて安堵する。代わりと言っては何だが周囲から発せられる気品漂う食事作法の中での食事は正直肩身が狭かったです、でも料理はすごくおいしかった、人参一本丸ごと蒸かしただけの料理があんなにとろけるとは思っていなかった。メジロ家のシェフおそるべし。

 

マナーに四苦八苦しながら昼食が佳境にはいった頃、何気ない会話の中からそれは始まった。

 

「アナタ、礼乃さんにあの事はお伝えしたのですか?」

 

ファルコンさんの何気ない一言に意識は料理から雑談へと移る。『あの事』?

 

「いいやまだ伝えていないよ、車の中で話しておこうと思ったのだが色々あったものでね。でもあることを思いついたんだ」

 

雄一さんの視線がスッとこちらに向けられる。

色々、というのは養子に云々という話だろうけどそれと何か関係があるのだろうか。

 

「礼乃」

「は、はい!」

「お前には今年度からトレセン学園にトレーナーとして入校してもらおうと思っている」

「…え!?」

「そしてお客人、できれば君にも礼乃とともにトレセン学園に入学してもらいたいと思っている」

 

 

…………………

 

 

「え”っ!!?」

 

あまりの話題の跳弾っぷりに意識が全くついて来れなかった。まるで鳩が豆鉄砲を食らってそれが跳ね返って撃った方に返ってきたような気分だ、予測できるはずもない。

 

「どどどど、どういうことですか!?」

「少し込み入った話になるのだがね。来年度からパーマーとアルダンを除いたこの娘達がトレセン学園に入学する、ということは知っているかな?」

 

ふるふる、と首を横に振るう。

知らなかった。見れば礼乃も驚いた顔をしているということは彼も知らない情報だったらしい。

 

ウマ娘には本格的に走りの才能が開花し始める時期というものが存在する。

個人差はあるがヒトでいえば大体中学生から高校生くらいの歳になるとウマ娘はさらに速く走れるようになるいわゆる成長期に入るというのだ。その時期が近づくとウマ娘同士の年齢の差はあまり意味をなさなくなり、中学一年生くらいのウマ娘でも高校生のウマ娘と同等の走りができるようになるというのだから末恐ろしい。

 

余談だがルドルフの才能が開花したのは大体中学二年生の頃。ただでさえ速かった彼女が開花を迎えた直後からマスメディアは大きく騒ぎ立てた。正確無比なレース運びの才能と後に『神威』とまで称された天性の威圧感(プレッシャー)、その圧倒的な走りとレースプランニングは見るものを唸らせ誰もが彼女を【皇帝】と讃えた。

遠い存在になっちまったもんだぜ、としみじみしてしまう。

 

「この娘達のトレーナーになるため礼乃には幼い頃から英才教育を施してきたわけだが、思っていたよりも彼女たちの開花の時期が早くてね。来年入学するには礼乃はまだまだ未熟だと判断したわけだ」

 

それはまあ、納得できる。まだ一度もプロトレーナーとしての経験を積んでいないというのは如何に当主候補であろうと可愛い娘のデビュー控える他のメジロ家からみれば少し心許ないのだろう。経験を積ませたいという気持ちは痛いほどわかる。

 

だが、トレセン学園にトレーナーとして入校するにはプロトレーナーのライセンスが必要なはずだ。

礼乃はまだライセンスを所有していない。手に入れるためには今年度行われる試験に合格するしかなく、トレセン学園に入るのは最低でも来年になるはずだ。

 

「そこで君の力を借りたい。お客人」

「俺?」

「ああ、君が建物から飛び降りて礼乃の手を掴んだ時の走り、あれは紛れもなく開花を控えたウマ娘の脚力だ。少なくとも今年中には走りの才能に目覚めると思う」

「…確かにあの時は俺も度肝を抜かれましたが、言われてみればあのスピードが出せるようになるのは開花目前くらいですね」

 

なんで本人もわからないようなデリケートなことちょっと見ただけでわかんの?この一族怖いんだけど。

 

だが、それにしてもまだ謎は残る。

俺の開花が近いことはわかった。礼乃に経験を積ませたいこともわかった。

しかしながらその二つがどうして俺たち二人でトレセン学園に行くことに繋がるのか。これがわからない。

 

「結局どういうことなんですか?」

「『野良ウマ娘』については一般的に公になっていないのだけどね、彼女たちには最低限の力と知識を身に着けてもらうため地方でも中央でも好きなトレセン学園に入学することができる決まりがあるのさ」

「ふむふむ」

「そしてその過程で一名だけ、信頼のおける者をトレーナーとして一時採用することができる」

「…!」

 

そう繋がるのか!

 

『野良ウマ娘』とは表向きに存在が認知されていないウマ娘のことを指す。十中八九、満足な教育や人間関係の構築ができているとは言い難い娘が沢山いただろうことが想像に難しくない。

そんな彼女たちのために作られた規則、それを礼乃の成長の抜け道として使うということか。

 

「もちろん君が一年経った後もトレセン学園に通うかどうかは君自身で決めていい。学園を辞め自らの道を進むも良し、盛大なデビューを望むならその力添えもすると約束しよう。それに、並行して君の記憶を戻す手伝いも進めよう。なに、メジロ家がウマ娘のために力を尽くすときそこに『不可能』の文字はないと断言する」

 

「私はウマ娘への協力を惜しまないつもりだ。使えるもの全てを使って君の力となろう」

 

「…だけどね表立って協力するには君の立場はあまりにも不安定すぎる。無責任な誰かの発言やメジロを快く思わない者の権力が向けられればアッサリと崩されてしまうくらいにはね」

 

「そこで考えたんだ。君がメジロ家のウマ娘となってくれさえすれば、私たちは誰に恥じることなく力を使うことができると」

 

雄一さんの低いながらもよく通る声には熱意とこちらへの誠意が籠っている。

 

雄一さんの提案は言ってしまえば俺という存在を礼乃のひいてはその先のメジロ家のウマ娘のために利用させてはくれないかと言っているようなものだ。

だからこそ雄一さんは誠意を見せた。それがメジロ家への養子というカードだ。

 

どこの何タラの骨とも分からぬウマ娘を養子に入れるなど如何にメジロ家が業界を牽引する名家であろうと目立たぬはずがない。いいや、むしろそういった家だからこそ非難は集中するだろう。雄一さんの言う通りメジロ家を快く思わない勢力からすれば「メジロ家は既に四人もウマ娘がいるのにさらに新しいウマ娘を取り込んだ」などと囃し立てられることが想像に難しくない。

 

そういった者達を敵に回すことまで含めて俺を誘った。

彼の言葉にはどんなことになろうと俺を守り抜くといった覚悟も込められていたのだ。その言葉に一切の偽りなし、車の中で飲んだ100%キャロットジュースくらい純粋なものなのだとわかった。

 

ウマ娘に対しての深い愛情が込められた言葉に俺は確かに胸を打たれた。

 

「メジロ家は…私たちはどんなことがあろうと君の味方となることを約束しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

だけど手を取ることはできなかった。にべもなかった。

 

「…理由(わけ)を聞いてもいいだろうか?」

「あー……」

 

きっと、先に出会ったのがこの人なら俺は喜んで手を取っただろう。

当時の俺はトレーナーを目指すという夢を捨ててただ毎日をレース整備士として送るだけの無気力な毎日を送っていた。わけもわからぬままウマ娘になって、自分が自分なのかもわからないままこの提案を受けていれば誘蛾灯に誘われた蛾のようにソコに救いを求めてしまっていたに違いない。誰かに与えられる役割を喜んで受け入れていただろう。

 

だけど俺は出会った。

 

 

『俺には目標があるんです』

 

『"メジロを倒すウマ娘を育てる"ことです』

 

『どうせなら凄いウマ娘を鍛えるよりも、凄いウマ娘に勝ってみたいじゃないですか』

 

 

眩しいくらいに輝いて、触れたモノまで熱くさせるようなその夢に。

一度は折れて、燃え尽きて、地面に転がったそれをもう一度引き上げてくれた人物に。

 

今の俺には確かな夢がある。それが前の俺と今の俺を繋げる確かなモノ、誓いは今もこの胸の中でしっかり燃えている。

 

「俺にはもう味方になってやりたい相手が決まっているんです。だから、その提案を受けるわけにはいきません」

「…? すまない、話が見えてこないのだが」

 

まあわかるわけねえよな。

 

「ということだ」

 

「"宣戦布告"してやれ」

 

「礼乃」

 

偉そうにふんぞり返った俺が顎で指した先でぽかんとアホ面下げていた男が周りの視線を一気に引き受けることとなる。

一瞬慌てた形相ののち恨めしがまそうな顔を向けた後でため息をついて腹をくくる。百面相かお前は。

 

でも、そうだよ。

その覚悟を決めた顔、俺が力になってやりたいと思ったのはそういう男だ。

 

 

 

「父さん、母さん、みんな。聞いてほしい」

 

「俺は今日を以てみんなのトレーナー候補を降りる」

 

「そしてお前たち全員を倒すトレーナーになるために、今度こそこの家を出る!!」

 

 

 

堂々とした家出宣言。

 

次回!修羅場突入!!!

 

 

 




※皐月賞の予想やメジロファルコンさんなど多数のオリジナルウマ娘が出てきましたが、これらは全てモデルのいない架空のウマ娘なのであまり気にしないでいただけると助かります。
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