好きな子がドスケベVtuberだったんだが。 作:杜甫kuresu
”世界は悲劇で埋まるほど狭くない。”
どっかのアニメで言っていた。どこだったかな、未だに思い出せずじまいでいる。ただそれが優しい人柄ばかり出ていて、代わりにヒロインが妙に肌に合わなかったことだけ記憶してる。
悲劇は思ってるほど無いらしいけど、なら自分の周りにあるものはなんだろう。
いや、答えもある。自分で引っ張り寄せてきた。全部全部自分が招いたものだった。
――でも、埋まっちゃった。
埋まってしまった。タールのようなドス黒い思い出に浸っていると、その中が一番安心する。
私の居場所はどこにもない。どこに有っても、自分が許さないから。
「という訳で、チャラ男に頭を撫でられてえへへって言う女は可愛いわけだ」
「めちゃめちゃに分かる」
良いよな、果てた後のやつ。でもチャラ男がそこ以外で優しい態度を取ると萎えるんだなこれが、チャラ男文化は結構難しい。
そんな話を意気投合しながらFPS。どんな話だよと言えば、本当にこんな話ばっかりしている。
今日は遠野あけみをお休みして、千尋は俺と遊ぶらしかった。家のヘッドフォンからその特徴的なハスキーボイスが聞こえてくるのに、どうにも慣れない。
「でもどうせチャラ男を使うならそのままバテてる女に興奮しない?」
「それもそう」
口はさておき手はしっかり動く。しかしグラップル使いにくいな、初期解放っておかしいだろ。
あ、死んだ。
「というか普通に透下手じゃん」
「何か、人とやるのは好きだけどってタイプだからあんまり学習してないな」
「じゃあこれでやめちゃおっか」
そう言ってぷつんとゲームが終わった。
通話をしたいと言われた時は結構びっくりした。しかもアイコンも名前も遠野あけみ丸出しのDisc○rdのアカウントから申請来るし。
横においてた水を一気に飲み干す、ゲームしながら喋ると喉が渇いて仕方ないよな。
「――――話聞いてる?」
「あ、悪い。流れてきた記事に目がついつい」
「へぇ。何流れてきたの?」
「エメラルドゴキブリバチの生態」
ヘッドフォンから悲鳴が聞こえた。
椅子が倒れる音とか人がジタバタする音も聞こえてきたがあんまり考えないようにしよう。出来る男はこういうオフショットを脳内保存するんだと曾祖父様も仰っていた。
「いきなり何見てるの!?」
「流れてくる記事はいつもいきなりだ」
「あ、えっと、いや、そうだけど…………」
何だ急に声を小さくしてからに。
「話、聞いてよ…………」
「いやーエメラルドゴキブリバチなんかどうでも良くなったな。で、何の話をしていたのかもう一回頼む」
今の反則過ぎるな。リスナーに刺される、いや結構高確率でバ美肉と疑われてたから言うほどのナイフは刺さらないかもしれない。でもあのか細いおねだりボイスを聞いて正気を保てる童貞居るのか? 俺は…………どうだ、既に恋に狂ったのか?
それはさておき。
「いや、だから…………どう?」
「どうって?」
「引くでしょ、こういう女」
何だか心細そう、とは別の音が混じった気がした。でも今はいい、千尋にも色々あるんだろう。
それは否定して欲しい、という期待と逆のものがある。
「実際に咥えた話とかが飛んできてないし、まあそれほど…………」
「しゃ、喋れるわけ無いじゃん!?」
「あ、無理なの? 時期が来れば飛んでくるだろうし、構えれば知見になるかと」
マイク越しでも分かる慌てた声。
「いや性癖を全世界にばらまき倒してyout○beの収益化止められるでギリギリ済んだような女が、今更生々しい話して怖気づくか?」
「わーっ! 言うなっ! 恥ずかしいから!?」
「千尋の羞恥のポイントズレすぎて分からんな…………まあリアクションは可愛いんだが」
あけすけな物言いがストライクに入ったようで、ミュートにされた。何かこうされると無力感あるな、供給がもっと欲しいものだが。
しかし顔が見えない女を想像するというのは…………イイな!
仕草や表情、手癖について思いを馳せると堪らなく心が豊かになる感じがある! 後家の格好がラフなのかどうかというのも考え始めると止まらないな!
「…………透」
「お、どうした?」
「全部聞こえてる。後ちゃんと今は服着てるから」
それは朗報だ。
「そういう律儀なタイプか。真面目で良いと思う、俺は好きだ」
「あぁ~っ!」
「何で透はそう、えっと…………嬉しいけど!」
「だろ? 意識して言うようにしてる」
心構えがしっかりしすぎててあのエロトークをしてる顔と一致しないんだけど。
まあ事実、服はちゃんと着てる。普段は適当だから偶に着てないけど何か、こう…………大学の友達と通話すると思うと、どうにも。
ちゃんとしなくちゃ、という気持ちになった。
気持ちだけだけど。別に透だからでもないけど。多分。いや絶対そう。
置いておいたコーヒーもそろそろ切れそう、砂糖残ってたかな。砂糖は有れば有るだけ良い、体に良くないけど。
「でもお前、もう処女じゃないってバレてるんだぞ? 今更初体験について赤裸々に暴露されても興奮はするが驚きはしない」
「あのね透、手順を踏んで欲しい。難しいけど、頑張って。今は事後報告で核ミサイルを飛ばされてるから…………」
何でこう、凄いズケズケと言われてしまうんだろう。許してるから? そんな事無いはず。
でもVtuberとしての活動を知られてると思うと、何か無駄だなって思っちゃうのも事実で。だからって、まあ、普通隠したい。
何で? それは…………。
バレたら社会的に死ぬから。凄い簡潔だった。
「千尋自体の生々しい体験は駄目なのか、経験豊富なのに処女みたいだな!」
「デリカシーが無いを超えたよもう」
「ごめん。もう言わないようにするよ、千尋が嫌がることを言う必要はない」
こういうところだけ妙に素直で扱いに困る。もっとこう、無神経なだけで嫌なやつならこんな押され気味にならないのに…………。
透は本気でそう言ってるし、もう言わないんだろうって一年ぽっちの付き合いで分かっちゃう。
多分変なことを言っても普通に気にしないし、私が誘うような言動をしても傾いたりもしない。ただ生きてるだけで鉄柱みたい。
「…………透は真っ直ぐだね、前から思ってたけど」
「千尋も純粋で良いやつだと思うぞ? 俺の色眼鏡は関係なく」
「それはないかな」
言えないことだらけだ。真っすぐ歩いた覚えがない。
「でも千尋はアイスを食べる時、いつも違うのを食べて美味しそうにしてるだろ」
「……?」
「ゲーセンに行ったら誰よりもはしゃいでるし」
「えっと、つまり?」
「色んなものを素直に楽しんでる。俺は、何かこう…………気が乗る乗らないで振り回されるから、凄いと思う」
あーあ。まあ誰にでも言うんだろうな、これ。
そんな風に思った。そういうやつだ、人を褒めたり良いところを見つけることに何の躊躇いもない。捻くれたことを言っても、嫌味なくらい親身に説いてくる性格。
でも誰にでもそう。
誰にだって優しくする。
「他の子にも言ってそ~」
「――――――確かに褒めるが。この言葉は千尋だけのものになるな」
読まれたな、と直感的に悟る。
急に真剣な声でそんな事言うのは、ずるい男のやること。それこそ――――――透とは縁もゆかりもないような、本当にひどい男が使う言葉遣い。
でも変な話。嬉しいなと思った。
「そうなんだ。何でそう言い切れるの?」
でも、つい聞いちゃう。
だって聞きたいから。欲しい欲しいって、胸が疼いてる。
「褒め言葉にバリエーションとか有るのかは分からないが、俺は千尋を見て、千尋の仕草を見て思ったことを言ってるんだ。だからそれはたった一つしか意味を持たない千尋のための言葉だろ?」
「やっぱ他の子にも言ってそうじゃん」
「思ってはいるが、お前だからちゃんと説明する。信じて欲しいから」
ああもう。
ずるすぎる。無神経で下ネタばっかり言うくせに。絶対絶対女の子に避けられてそうなやつなのに。
「…………じゃあ、他の人には言わないって約束できる?」
「え? うーん…………努力はする、お前の返答次第で」
「そっか」
最悪だ。
顔がにやけてしまった、透だからとかじゃないかも。でもそういう言い回しをしてくれる人が自分にいることが、多分嬉しかった。
「…………今日は疲れたしもう寝るね。課題やった?」
「急いで準備したから後回しだ、つまり今から死ぬ」
ダメダメだ。まあ私が急に言ったからだろうけど。
「それは大変だ。でも私は寝るから。おやすみ、透」
「――――おやすみ、千尋」
ダメダメな透の、妙に耳障りのいい言葉を最後にイヤホンを置いた。
女性の一人称、可愛く書けないという抵抗があったんですけど今回は悪くなくなくない? どう?
透くん、基本無神経でバカっぽいけど根っこが真面目とかいうビミョーにモテないタイプ。男女関わらず長い目で付き合い続けると味がわかってくる。