好きな子がドスケベVtuberだったんだが。 作:杜甫kuresu
「透…………もしや彼女出来た?」
「何でそうなる」
「お前が俺にエロトークしなくなったから」
「待ってくれ兵藤、俺は何だと思われてたんだ?」
兵藤は大層ケラケラと笑ってらっしゃる。コイツはいつもヘラヘラしていて、賢くて、顔がよく、更に運動もできる男だ。しかも童貞ではない。
何で俺と友人なのかも分からないが、小学生から縁がある。俺はいつも面白いらしい、そんなにだろうか。
「まあでも透のトーク、何か教授みたいで物哀しいんだよね。どうせだし女を知っていけると良いんだけど」
「居るの前提で進めるなよ。居ないからな」
「え? そっか…………へぇ、明らかに居る気配がしたんだけど」
何でコイツはこんなに鋭いんだ。中途半端なやつは確かにいるから始末に困る。
ヘラヘラっと頬杖をついて笑うのが何とも怪しい、見透かされているような感じがするというか。
講義終わりにいきなり打ち込んでくる辺り、半ば確信を持っていたじゃないだろうかとは思う。兵藤は其処までトークが忙しないやつじゃない。
「変なことを言うなよ。自分でも分かってるが偏屈だろ、そんな簡単に女が生えてくるってことはない」
「それは透の思い込みだ。透はねぇ…………うーん、脈アリが一人いるかな。俺が見える範囲でも」
「は? マジで?」
「教えてあげないけど。逆にがちがちになるでしょ」
仰るとおりだ。いやしかし見える範囲内? 兵藤が分かるってことは、ホント身近なやつなのかもしれん。何か分かってないの申し訳ないな。
「透のやつねぇ…………物怖じしないからさっぱりしてて面白いんだけど、何か肉々しさっていうか、生々しさがないよね」
「じゃあ試しにそういう話振ってみろよ」
「分かった。そう言うなら女の子の下着の話をしよう」
うん? おう…………なんか微妙にカバーできてないポイントだな。
流石プロは違う。何のプロだ?
「で、透はどんなの好きなのさ」
「女性用下着を吟味する機会に恵まれた童貞は居ないだろ!?」
「だろうね。じゃあ透の得意なシチュエーションに置き換えてみよう、下着を買わされるやつ」
おお、あの伝説のイベントか。
何故か女は男に下着を選ばせたがる所があるらしい。いやでも何故かってこともないんだろうか…………。
兵藤は相変わらずいつもどおりヘラヘラしていて、俺以上にこの手のトークに躊躇いがない感じが有る。やっぱアレか、経験者の余裕か?
「俺はアレねぇ、結構好きなんだよ。嫌がる男って多いんだけど」
「理由を聞こう」
「ほら、女の子を染め上げるの楽しいから。服まで選んでいいなら選びたいよね」
「ものすごい自然にデカすぎる独占欲をぶちまけられたんだが!?」
いや待て兵動の顔がやばい、明らかにやばい顔をしているぞ!
「っていうのも有るんだけどほら、どうせなら可愛いって思って欲しいとかさ。他にもエッチだなって思われたいとか、何かそういう女の子特有の感じというか、アレ正直凄い下半身に悪いんだよね」
「分かるには分かるんだけど、お前が言うと多分何人かの女はその性欲に巻き込まれたんだなと思って集中できない」
「我慢しないとダメなのかな? それって」
「え、俺も分からないな…………そういうのは向けられたほうが嬉しいものなのか?」
それこそ千尋に問いたい議題になったな。実際どうなんだ? 女って難しいからな、多少不自然でも理解に努めないと俺にはさっぱりだ。
「そこはどこまで行ったかというか、まあ相手によってもライン引き違うよね。要するにイエスのサインが出てる時なら大抵嬉しいものなんじゃないかな」
「ほ、ほう…………」
「それに真面目な話さ、彼女に興奮も出来ないっていうのは色々上手く回らないとも思う。テンポとか合わせないと駄目だけど、変に抑え過ぎもダメというか。透そこすっごい堅そう」
否定は出来ないが、結局彼女居ないから分からない。凄い曖昧な顔で誤魔化した。
でも確かに言われてみればそうだったなぁと急に思い起こしてしまう。
付き合うと言えば、事実エロに繋がるのだ。俺もそう言っていた気がするが、微妙に実感を持ってなかった感じがしてくる。
「だから透にはさ、これは要らないアドバイスと言うか的はずれなお節介になってもいいから言っておきたい。お化粧をして、服を一生懸命考えて、日頃から体に気を使って、そういう女の子が体を許してくれるっていうのはね、とても凄いことなんだ。月並みな言葉でいいから、思ったとおりに褒めてあげないと嘘だと思わない?」
「…………確かに。いや馬鹿にして悪かった、その通りだな」
「透は真面目で結構愛嬌があるとは俺も思うんだけど、そういう時に妙に堅苦しそうだから。ちゃんと可愛いとか、綺麗とか、丁寧に言葉を重ねなよ?」
兵藤がそう言い終えると同時に、講義室の入り口から兵藤を呼ぶ声がした。
「友樹くん! ちょっといい?」
「えっと…………深冬か。分かった、今行くよ」
女だったし俺もよく知らない顔だったが、兵藤はあっさり名前を思い出す。こういう所がモテるのかもしれん。
「という訳で透、そこら辺はちゃんと気を使ってあげるんだよ。使うというか、自然体?」
「だから彼女は居ないって言ったんだが!?」
「そういう事にしとくよ」
くそっ、調子が狂うな。
「だからって何で俺が兵藤に付いていく必要があるんだ」
「え~、一人だと寂しいし。何かまた今度補填するから、それで勘弁してよ。ねっ?」
そう手を合わせて頼み込まれちゃ断らないけどさ。
ホント世話にはなった。さっきも言ったが、まあ若干変わった性格の自負もあるし、そこを兵藤にうまくしてもらったことも一度目って言うわけでもなくて。
しかしどこに行ってるんだ。適当に付いてきてるが。
「用ってどこにあるんだ?」
「軽音サークル。LackLuck」
「あー…………千尋がやってる?」
「そうそう。っていうかいつから俺の前でも名前呼びになったのさ、名前呼び文化に慣れないとか言ってたじゃん…………やっぱりそういう?」
「ちげえよ!」
いや、まあ何もなかったわけではないんだが。くそっ、ニヤニヤしやがって。
LackLuckと言えば、まあこの大学では割りかし有名なサークルだ。というのも決まった部屋を取って演奏をしているわけだが、サークルと言うには出来が良い。
昔は千尋がボーカルとベースをしていたが…………今はボーカルは変わったらしい。作詞はたまにしている、と話していた。
何かあるのかもしれないが、誰も聞かない。
俺はその生温い空気が優しさだと、素直に思えないのが良くないところかもしれない。
考えてる間についた。兵藤の話は生返事ばかりだった気がする。
その声に、少し固まった。
ハスキーボイスと言えば、ざらついた聴き心地だと思うだろうし。まさにそれだった。
悲しいくらいに絞り出すような、囁き声にも似た細い声。泥だらけの狼が潰れた喉で吠えているような、そんな痛々しさが頭の中を犯し回す。
生のライブはいいぞと誰かに勧められたことを思い出した。
きっとこれがいいんだろう。
『痛いばかりで、怖いばかりで、けもの道だって見当たらなくて』
どうしようもなく切ない。ただ、聞くたびに俺は傷だらけのように聞こえてしまう。
音楽から人のバックなんて想像しても詮無きことだと思っているし、そんなつまらない考え方の俺にとっては実際意味がないのだが、千尋のそれは本当に――――――傷を舐め取りながら歌っているような、痛みに耐えているそれを感じることがある。
それは女として以前に、人として心配だな。
いつもそう思った。今日もそう。
「透。そんな辛そうな顔しても仕方ないよ」
聞き惚れていたが、兵藤が肩をたたいてニコリとした。
はっとする。
「悪い。そんな顔してたか?」
「いっつも聞くとそんな顔してる。気になるなら聞いてあげなよ、透なら大丈夫だって」
「不躾に傷をえぐり出すタイプだからな、もう少し慎重にだ。やるにしても」
「だからこそ聞いていいって言ってるのに」
兵藤の言いたいことがよく分からなかったが、頭には留めておこうとだけ思う。素直な心配なんだろう。
何だかんだコイツも聞き惚れた後、リズムを取りながら歩き始める。
「…………やっぱ良いよねぇ、千尋の声」
「続けてくれたら、俺は嬉しい。好きだからな」
「勿体ないって言わないところ、俺は嫌いじゃないよ。透はそういう所は悲しいくらい優しいと言うか」
「言いすぎ。ただ、俺の定規を押し付けたくないだけだ」
そう言って扉を開いて、声は途絶えた。
マイクを持つ千尋は中々久しぶりに見た。俺の顔を見て明らかに固まっていて、いやなくらい愛おしいなと思ってしまう。
俺も気が早いらしい。
「相変わらずいい声だな。邪魔して悪い」
「と、透…………と友樹」
「凄い間があったねぇ。そんな透が気になるかい?」
違うけど、と渇いた笑いで流す。コイツラはお互いきっちりしたコミュ装甲みたいなのがあって、話がどうしても上滑りする事があった。
他のサークルメンバーが友樹にたかるから、あっという間に俺と千尋は蚊帳の外だった。
「ど、どこから聞いてた?」
「捨てろと言うなら~のところから」
「はっず」
「何で。お前の声は人を動かすいい声なのに」
言われるなりくるくると髪の先をいじる。白銀で揃えた髪だが、毛先はグリムゾンレッドなものだから、まるで燃え殻のようにも見える。
気恥ずかしいような、という表情をしていたがすぐに笑顔に戻る。
最近の千尋を見てしまったせいか、”ああ。逃げられたんだな”って感じがするのは俺の傲慢だろう。
「それは何でも良いじゃん、別に…………で、二人してどうしたの? 練習中だからあんま話聞けそうにないんだよね」
「そうだな。それなんだが――――――」
「あ~俺がLackLuckに一曲頼まれちゃってさ。映像研究サークルだったかな、そこら辺から」
割り込んでくる兵藤。コイツ女が寄ってくるまでは慣れてるから、ぱっと逃げるのも速い。
たまに見てて女の方が可哀想だと正直思うが。
「へ~! どんなの?」
「ヒロインが推してるバンドの曲として提供してほしいって。ライブ想定だったかな」
「直接言いに来てくれれば普通に相談乗るのになぁ。杏奈はどう思う?」
何か同意してるっぽい。バンドメンバーは合計5人のはずだが随分姦しい、言っちゃ悪いとは思うんだけどな。
とはいえ彼女達もかなりの実力を持っていると言うか、正直ただのサークルか?と思ったことは一度や二度じゃない。
それこそ千尋がボーカルの頃は下手なメジャーデビュー済みのバンドより好きだった。
「まあ嫌って感じじゃないしやってみよっか。まずは内容とか見せてもらって~って感じだね、友樹を挟んでばっかじゃ悪いから連絡先教えて~!」
「え、とうとう俺と個人的にラインを? 嬉しいなぁ」
「いや映研ね? というか交換はしてるじゃ~ん」
軽い調子で会話をする千尋と友樹を見てると、何となく遠いと思った。
嫌なわけじゃない。ああだこうだと言いつつ、楽しそうな二人を見ていると安心するというのが近い。適当な席に着いて、遠くから眺めてしまうような。
実際にそうしてみると、ふとバンドメンバーの一人が俺の方にやってきた。
「えっと、天谷くんだっけ?」
「ああ、そうだよ。ごめんな、押しかけて」
「いいよいいよ、人が多いとやっぱ楽しいし…………千尋の歌を聞いてもらえたのは、いいきっかけかもだから」
「ははは…………そうなれば良いよな。本当に」
他愛もない会話は急に終わった。
「天谷くんはね、多分千尋をもう一回人前で歌わせられるよ。だから、よろしくね」
「何でそんな事言うんだ?」
「ひみつ~、君は相当にぶちんさんだね。頑張りなよ」
「主語が欲しい。あのー、ちょっとー!?」
いや本当によくわからないんだが。
そのまま歩いていってしまったので結局聞けずじまいだった。
感想とか全く来ねえな…………実は読んでないんじゃないの? 正体見たりって感じだな。
流石に言い草が失礼だな。冗談です。
冗談はさておき下着の話。私の個人的な気持ちとしては、一生懸命考えてドキドキしてることを考えた時点でお腹いっぱいなので好きなの着て良いんですよ。