勇者(幼馴染)の右腕目指す   作:シーボーギウム

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プロローグ
1話


「アラ────ン!!!」

「朝から叫ぶな馬鹿」

 

 スパーンッ!と良い音が鳴る。若干叩き慣れてきていることによろしくないものを感じながら、頭を抑えつつふへへと笑う幼馴染を呆れた目で見る。ポケットに手を突っ込みながら、思わずため息をついた。

 

「おい、このやり取り何度目だ馬鹿」

「100回!」

「それ以上だよ馬鹿」

 

 再び快音が響く。先程よりも音は大きい。が、生憎俺はポケットから手を出していない。虚空から現れた衝撃がコイツの頭にヒットしたのだ。

 

天恵(ギフト)は酷くない?」

「何度も同じ事をやりくさるお前が悪い」

 

 俺達は今年で12歳。この平々凡々な村ではもう親の仕事を継ぐために本格的に習い始める頃合だ。そのくせコイツは、うん、まぁ、精神面がかなりガキだ。俺がガキじゃないと言うと語弊があるが、俺が12歳相応のクソガキなのに対してコイツはその半分くらいだ。純粋と言えば聞こえは良いか?

 

「私仕事したくない………」

「親父さん来てるぞ」

「へっ!?嘘!?」

「嘘」

「もう!!」

「アラン君、時間稼ぎご苦労様」

「報酬は後日で良いぞ」

「マセガキ」

「違う、クソガキだ」

 

 さあっと顔を青ざめさせる幼馴染、エレーナに内心爆笑しながらコイツの母に金をたかる。しかしコイツは自分が親父さんの仕事を継ぐとでも思っていたのだろうか?普通に考えれば継ぐのは母親の仕事だろう。

 

「嘘吐き────ッ!!」

「親父さん()来てなかったぞ!」

「ア──ラ──ン────!!!」

 

 だから朝から叫ぶなって。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 不貞腐れた様子のエレーナに彼女の母親が苦笑する。

 

「そんなに仕事は嫌?」

「………アランのお嫁さんになるからいいもん…………」

「なら花嫁修行ね」

 

 その言葉で表情を明るく、瞳を輝かせるエレーナ。

 彼女は自分の娘の単純さに再び苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「金くれ」

「馬鹿かおめぇは」

 

 本気で馬鹿を見る目やめてくれ。

 というわけで俺の成した偉業を伝える。

 

「奥さんがエレーナを連れて行くの手伝った」

「…………少しだけだぞ」

 

 笑。

 

「ったく。ほんとに可愛げのねぇガキだ」

「可愛げあっても金にならないじゃん?」

「そういうとこが可愛げねぇっつってんだ。お前ほんとにあの神父の息子かぁ?」

「養子だからな。似てなくて当たり前だ」

「顔の話してんじゃねぇよ馬鹿」

 

 信仰心、という話なら問題無い。俺は神は実在すると思っているからな。なんせ俺の父は神待ち孤児だった俺を拾ってくれたのだ。

 

「要するにシスターこそ神だ」

「話が繋がってねぇじゃねぇか馬鹿」

 

 何を言う。俺の父は性根が善人だから認められているだけで神父とは名ばかりのセクハラオヤジだぞ。おかげで日に日にシスターの腹パンの鋭さが増していっている。しかし彼女は今なお俺達親子を見捨てずに飯を作ってくれたりと面倒を見てくれているのだ。

 

「そう言う意味で言うなら神というより天使か?」

「やっぱり馬鹿だろ」

「馬鹿馬鹿言わないでくれ。アンタの娘程じゃない」

「おうこら喧嘩なら買うぞ」

 

 事実を言ったまでである。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「ただいま」

「あら、おかえり」

 

 おっと天使がお出迎えだ。

 

「ただいまシスター(天使)

「その巫山戯た副音声やめてね?」

「分かった天使」

やめてね?

 

 圧が堅気の人間じゃないぞ。

 

「はぁ、ますます神父様に似てきたわね………」

「村の中での認識の齟齬が凄い」

 

 さっき似てないと言われたばかりなのだが。

 

「そう?私はとても似てると思うけれど」

「不名誉」

「貴方って大概毒舌よね…………」

 

 失礼な。事実を言っただけだろう。あのセクハラオヤジと同じとか結構な侮辱になり得る。

 

「あんなオッサンの何が良いのやら」

「……………なんのことかしら」

「あっダメです神父様……そんなところ………(裏声)」

「そんなことはしてないわよ!!」

「そんなこと()?あっ、ふーん(察し)」

 

 顔が赤くなっていく。なるほど似たような事はしたらしい。ここが弱点か。

 

「実際俺がいない時はセクハラされても腹パンはしてなかったし」

「なっ!?どこで…………はっ!?」

「へぇ、俺のいない所だとセクハラ容認してるのか」

「貴方ねぇ…………!」

 

 プルプル震え始めた。この人も大概チョロい。叩けば叩く程ホコリが出てくる。追い立てるとしよう。これで終わりだ…………ッ!

 

「俺に母さんって呼ばれてみたくない?」

「それはいいわ」

 

 あるぇ?おかしい。本来ならここで陥落するはずなのだが…………

 

「貴方本当にそんな可愛らしさみたいなものでどうにかなると思ってたの…………?」

「本気の馬鹿を見る目やめてくれ」

「言っておくけど貴方に可愛げが無いという部分に関しては村人全員で満場一致よ」

「満場一致のパラドックスって知ってる?」

 

 ざっくりと言えば、例えば盗みの犯人が誰か、という捜査で全員が同じ人間を犯人と証言した場合、その証言は間違っている可能性の方が高いというものだ。

 

「つまりシスターは俺に可愛げがあると思っている。Q.E.D.証明終了」

「そういうところよ」

 

 駄目らしい。

 

猫とか飼ってみるか………

「大分露骨ね…………」

 

 やっぱ駄目らしい。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

セクハラ親父」

「聞こえてるからな?」

「セクハラ親父」

「せめて隠せ」

 

 いや否定しろよ。

 

「無理だな。事実だし」

「父親が性犯罪者とかすごい嫌だ」

「………すまん」

「でもセクハラは?」

「辞めない」

有罪(ギルティ)

 

 シスター仕込みの腹パンを放つ。クリーンヒットする。が、所詮12のガキの腕力。ウッと声を洩らしたがそれだけだった。俺の父は何気に鍛えているのだ。

 

「ははは!効かん効かん!」

「俺の天恵が何か覚えてないようで…………」

「あ……ちょ待ぐぶおぉ!!?」

 

 腹部に衝撃。

 天恵【追撃】。自分の肉体で打撃を与えた場所に時間差でもう一度衝撃を発生させる力だ。ちなみに追撃の威力は初めの打撃より強くなる。

 

「お前……ほんとお前…………っ!」

「俺が身内だからと容赦すると思うなよ?」

 

 悶えているのを見て嗤う。本気で殴り合えば(まずそんなことは無いだろうが)負けるのは俺だが不意打ちなら負けるわけが無い。馬鹿め。

 

「馬鹿め」

「そういうのは心の内に留めとけぇ!!」

負け犬の遠吠えってこういうことか………

「聞こえてるっつーの!!」

 

 額に青筋を立てながらキレる様は見ていてやっぱり愉しいな。

 

「どうしてお前はそう煽るのばかり上手くなっちまったんだ…………」

「愉しいから」

「その愉しいはやめろ………」

「もっと直接的に言おうか?愉☆悦」

「やめろぉ!」

 

 キレるなキレるな。弱く見えるぞ?(煽)

 大きなため息をつきながら座り込む俺の父。俺と話すと毎回こんな感じになるのだが、今なお飽きずに似たようなやり取りを繰り返している。なんだかんだ俺に甘いのだ。

 

「金くれ」

「またかお前………唐突過ぎるぞ………」

 

 呆れた目を向けるのやめろ。ちょっと欲しい物があるから金がいるのだ。

 

「一体何が欲しいんだ?言えば買ってやるのに」

「自分の金で買うことに意味があるんだよ」

「たかってる時点で自分の金じゃねぇだろ………」

 

 相手の同意を得た上で貰い受けた場合、その金の所持者は俺になる。要するに自分の金だ。

 

「凄まじい屁理屈だな………」

「ところでいつになったらシスターのこと襲うんだ?」

「何聞いてんのお前!?」

 

 知ってるぞ。お前がセクハラすんのシスター相手だけってこと。

 

「32にもなって未婚ってのは考えものだろ」

「………戒律g「俺もう聖書読めるからな」うぐぅ……………」

 

 この国の国教は別に男女関係無く結婚を認めている。数年前までは聖書を読めなかったため戒律を知らず騙されていたが、もう読めるし知っている。その言い訳は効かない。

 

「てか襲ったら強姦だろうが…………」

「ヤってる最中に合意にすれば問題ないぞ!」

「大アリだよ馬鹿」

 

 パチンッとデコを弾かれた。痛い。股間辺りを狙って拳を放つ。

 

「あっぶねぇ!?」

「ちっ」

 

 上手く避けられ地面に拳が当たる。惜しい。もう少しで不能にしてやれたのだが………

 

「殺す気か!?」

「男としては死ぬな」

「やめろぉ!拳を振り上げるんじゃねぇ!!」

「慰謝料を請求する」

「結局金かよ!」

 

 俺の父ははぁ、と今日何度目かわからないため息をつきながら懐から金を取りだした。

 

「やったぜ」

「ほんっとにお前は…………」

 

 受け取った金をポケットに仕舞っていると頭をワシャワシャと撫でられた。

 

「なぁアラン」

「うん?」

「………母親が欲しいのか?」

「いや別に」

「は?」

 

 何シリアス顔してんだコイツ。

 

 

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