「このクエスト頼む」
「かしこまりました!」
騒がしい冒険者達の声をBGM代わりにクエストを受注する。早いもので冒険者になって1ヶ月が過ぎた。その間色々あったがこれといった変化は殆ど無い。本当に無い。マジでAランクって遠いんすね。まだ1ヶ月なのにその難易度はヒシヒシと感じている。
ソロとチームでは昇格の条件が異なるのが原因の一つだ。チームの場合、チームメンバー全員が同ランクの魔物を単独で討伐出来るのが昇格の条件になる。だがソロの場合、一つ上のランクの魔物を単独で討伐出来なければいけないのだ。
一度だけ、クエスト終わりにAランクとかち合ったことがある。俺はその時即座に逃げた。万全な状態なら手傷は負うが勝てるだろう。だが少しでも消耗していれば勝率は五分よりも低い。そんな規格外が今の俺にとってのAランクだ。そしてそんなAランクを無双ゲーの如く蹴散らせる『真紅の瞳』ですら、Sランクの魔物は規格外の存在だ。過去に遭遇した際、どうにか手傷を負わせて逃げ出したが、時間をかければ修復魔法すら使えるオーロラがいてなおレオは1ヶ月もの間昏睡状態になったらしい。俺はそんなのを一人で殺せるようにならなければAランクになれないわけだ。キツすぎる。
一応、この1ヶ月で変化したことがあるとしたら一つだけある。
「アラン!今空いてるか!?」
「残念だったな。今クエスト受けた所だ」
「マジかぁ………!!」
こうして合同でのクエスト受注を度々頼まれることだ。
この1ヶ月クエストをひたすらこなし続ける内に、俺がオーロラほどでは無いながらも回復・補助魔法の使い手であることは周知された。そして俺が治療魔法と回復魔法を使い分けられることもだ。この使い分けができる人間はかなり少ない。冒険者チームに所属するヒーラーも殆どは使えるのは治療魔法だ。それこそ、難易度の高いクエストの時は金を積んで教会の神父シスターを雇う奴らもいる。
結果、発生したのは勧誘ラッシュだ。神父シスター達は回復・補助魔法こそかなりの練度で運用できるが、戦闘においては素人だ。対して俺は同程度の練度でそれらが使え、かつ俺自身が高い近接戦闘能力を持っている。ハンナ曰く、そんなのは冒険者達からすれば眉唾物の人材らしい。オーロラもあれで戦いはめちゃくちゃ強い。俺程ではないが高い質の魔力と俺をはるかに超える魔力総量で、俺では比べ物にならない精度の魔法を使うオーロラは、Aランクでも一体だけなら一人でも容易に完封してしまうのだ。
閑話休題。
勧誘に関しては全て断った。入っても、俺は2年後には中央へ行く。それに付いてきてくれるならいいかもしれないが、残念ながら冒険者はそう簡単に拠点となる街を変えることは出来ない。この辺りはこの魔物が出る、というノウハウを全て捨てるのと同義だからだ。
代わりにと言ってはなんだが、対価を払われればその日の間はチームのメンバーとして働いている。複数人での戦闘の経験は後々エレーナの旅に合流することを考えれば間違いなく必要になる。今のうちに経験を積んでおけば、いざと言う時にやれることが増える筈だ。
「なら明日はどうだ!?」
「明日なら問題ない」
「本当か!?ありがとう助かるぜ!!」
そう言って走り去っていくのを見届けてから、俺は受注証明の拇印を押した。
────────────
今日のクエストの目的地は西の森だ。そう、俺がクソ百足〜2nd season〜と戦った場所だ。
この森、普段は奥へ向かわなければ危険度は低い。しかしこれはどこでも共通している事だが、森の危険度は入ってすぐの場所と奥深くで段違いに変わる。間違えて深く入り過ぎてランクの高い魔物に殺される冒険者は少なくないらしい。
クエストの内容は増えたゴブリンの掃討。単体だと弱いゴブリンだが、魔物の中では結構知恵の回る方なため群れて数が増えると厄介だ。また、寿命が短く、その分成長が早い為強い個体が生まれやすい。とはいえ強くなっても流石にクソ百足ほどではない。あれは元の強さが違う。
「お出ましか」
現れたゴブリンの群れに目を向ける。数は……とりあえず目測で30はいる。実を言うと、普通のゴブリンならばどれだけ群れてもその依頼はBランクが受けるようなものでは無い。だが今回の群れは話が変わる。
例外無く被っている真っ赤な頭巾がその証明だ。
「ギャギャギャ!!」
「ギャギャッ!!」
「ギャガギャギャ!!」
下卑た笑みを浮かべるゴブリン共を無視して魔法を発動する。いつも通りの身体能力や高まる感覚。そして、それに加えて五感が鋭くなる。まだ精度は低い。だが、この1ヶ月で不完全という状態からは抜け出した。
短剣を抜く。魔力を込め、駆け出しながら斬撃を飛ばす。それとほぼ同時にゴブリン共が襲いかかってきた。斬撃を数体で受け止めかき消し、その背後から他の個体が横に広がりながら迫ってくる。数体が正面に、他の個体は俺の横を通り過ぎて背後へ陣取った。
これが血染め頭巾の特徴。一体一体は通常個体より少し強い程度だが、それを補って余りある凄まじい連携能力の高さがコイツらの強さの最大の理由だ。コイツらと戦ったことのある冒険者が口々に言うのが「統率された人間の集団を相手にするつもりで挑め」というものな理由がよく分かる。
「ギャガァァァアア!!!」
背後からの叫び声。しかし声に反して襲いかかってきたのは前方のゴブリン共だった。武器を振りかぶりながら跳びかかってくる3体のゴブリンは口を噤んでいた。バックステップ。振り下ろされた武器を避け、回し蹴りを放った。2体の首に直撃し、ゴギッという硬いものが砕ける感触が伝わってきた。残り1体へ狙いをシフトする。しかしその瞬間、背後からの強襲。身をかがめて回避し反撃しようとした瞬間、左右のゴブリン共からの攻撃がきた。弓矢を持つ個体は矢を、剣や斧を持つ個体は石を投げてきた。
(1ヶ月前の俺なら避けられなかったな)
強化された動体視力でもって、行動の取捨選択を始める。最も攻撃の当たらない場所に身を置き、それでも避けきれないものをガントレットとブーツで弾いた。それを隙と見て突っ込んでくるゴブリン共。
「甘いな」
俺の周囲が衝撃で爆ぜる。衝撃をそのままくらったゴブリンは即座に絶命し、衝撃で飛び散った石などに身を叩かれたゴブリンは死なない迄も重傷だ。やったことは単純。矢と石弾く時に天恵を発動させていたのだ。擬似的な地雷。それも俺の強化された膂力を元に2倍の破壊力だ。並の魔物は即死する。
短剣を振る。込めた魔力はかなり少ない。先程と同じ様に斬撃を防ぐため2体のゴブリンが前に出る。タイミングを合わせ、斬撃にその手の刃を振り下ろした瞬間。当たる直前で斬撃が消えた。予想していた手応えが無かったために空中で体勢を崩したゴブリン共に拳を叩きつける。先程の蹴りと同様の時間設定。0.1秒で発生する、傍から見れば一撃にしか見えない瞬間的な二撃。
「『
パァン!!という破裂音と共にゴブリン共の頭が消えた。ゴブリン共の顔には明確な怒りが浮かんでいる。どうやら仲間意識というのはちゃんとあるらしい。
「ほら来いよ。死んだ仲間と同じ場所に送ってやる」
挑発を理解したのかどうかは分からないが、襲いかかってきたゴブリンを迎撃する。戦いはそこから30分ほど続き、
────────────
「コイツで最後か」
絶命した血染め頭巾の耳をナイフで切り取り、身に着けていた赤い頭巾に包んで袋にしまう。特殊個体なら魔力核を持って帰れば良いが、一応通常個体に分類されるコイツらは頭巾と耳の先を持ち帰る必要があるのだ。頭巾が死ぬ程嵩張って邪魔だが耳だけだと普通のゴブリンと見分けがつかないのだ。
「で、さっきから不躾な視線を向けてくるお前は何者だ?」
その視線に気付いたのはゴブリンの数が10体を切った頃だ。明らかにゴブリンのいない方に気配があったのだ。血染め頭巾相手に身を隠せるということは相応に実力はあるのだろう。だが、同じ冒険者なら、俺が戦っているのに身を隠す理由が無い。
そしてどうやら隠れていた何者かにとって俺に気付かれたのは想定外だったらしい。
「はぁっ!!」
そんな声と共に刃が振り下ろされた。ガキィン!!という金属音。ガントレットから伝わる感触からしてそこそこに剣を振り慣れているようだ。しかしどうにも弱々しいな。
「何故気付いた……!」
「知り合いが化け物でな。真横にいても気付かせないような奴だ。それに比べればお前のはびっくりする程お粗末な隠密だ」
知り合いとはノワールの事だ。真横で顔をガン見されていたのに声をかけられるまで気付けなかったことがある。というか組手の最中に見失ったことすらある。自分の意思以外では一切の音を発さず、一切の気配を感じさせない。そんなのが周りにいるのにこの程度の気配に気付けない訳が無い。
「悪いが、僕の姿を見られた以上生かしておく訳には行かない………!」
「はあ、そうですか」
と言う割にはやる気が無い。それ以前にフードを深く被っているせいでマトモに顔も見えていないので前提から間違っている。相当余裕が無いのかその事にも気付けていないようだ。
剣が振るわれる。技量はかなりあるように見えるが、一撃一撃がかなり軽い。剣は普通のロングソードな所を見るにコイツ自身の力が弱いのだろう。
「クソッ!!」
掌が向けられる。放たれたのは風属性の攻撃魔法、その最も簡単なものだ。回復・補助魔法に比べて攻撃魔法の無詠唱はかなり難しい。最も簡単なものとはいえ無詠唱な上に威力もそこそこある。魔法の腕もかなり高そうだ。まぁ効く訳では無いが。
ガントレットで弾けば、苦々しい表情をする。全力を出せていれば良い勝負になったかもしれない。
「悪いが、お前ばかりに構ってもいられないもんで」
「何ッがっ!?」
確定気絶腹パン(シスター直伝)を叩き込む。苦しげな表情で倒れ込む男。その拍子に被っていたフードが外れた。
「………………マジか」
恐らくは俺が知る限り一番端正な顔立ち。ぶっちゃけ女にしか見えない。が、そこは重要じゃない。その素顔の
人生初の
書き直す前より真紅の瞳メンバーの戦闘能力が上方修正されました。
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