勇者(幼馴染)の右腕目指す   作:シーボーギウム

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12話 エルフの男

 異種族。その代表的とも言える存在である森人族(エルフ)。人生で一度でもその姿が見れれば運が良いとまで言われる程珍しい種族だ。

 

(何でそんなのがここにいるんだよ………)

 

 左眼に眼帯を付けてはいるが、声質から男と分かっていても美しいという感想が出てくる。………気持ち悪いな今の。

 基本、この世界の人間は異種族との関係は良好だ。鬼人族(オーガ)鉱人族(ドワーフ)などは街でも稀ではあるが見るし、もっと大きな都市ならそこら中で見つかるだろう。だがもちろん、全ての種族と仲がいい訳では無い。そしてその中でも特に仲が悪い、というか向こう側から死ぬ程嫌われているのがエルフだ。理由?全員容姿端麗、老いが遅い、奴隷。これだけ単語を並べれば嫌でも分かるだろう。しかし嫌われているからこそ疑問だ。エルフは基本的に故郷を出ない。ましてや人間の生存圏には近付きもしない筈なのだ。

 

「どうしたもんかね」

 

 とりあえず、街に帰りながら考えよう。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「…………」

 

 とりあえず俺の宿へ連れて帰った所で、どうしようかと思案する。結局結論が出ないまま宿まで帰ってきてしまった。最も楽なのはこの地の領主の元へ連れていくことだろう。エルフ達はそれはもう人間が嫌いで、そして関係改善を謀っても使者の生首が送り返されるとかいう詰みの状況だ。それ故、法律的には一応エルフを奴隷にすることは違法とされているが、実際には位の高い貴族は普通にエルフの奴隷を持っている。

 まぁ流石にそんなクズムーブをするつもりは無い。だが匿うというのも明らかに面倒なことになる。というかあの森での様子を見るに素直に言うことを聞く訳が無い。

 

「ん、うぁ…………」

 

 そろそろ目を覚ましそうだ。コイツの装備は全て外して離れた場所に置いてある。対して俺はフル装備だ。魔法による強化も施す。これで目覚めた瞬間暴れ出してもほぼ対処できるだろう。

 

「こ、こは………?」

「起きたか」

「っ!?」

 

 咄嗟に剣を取ろうとしたのか腰に手を伸ばし、しかしそこに剣が無いと分かった瞬間エルフの男は魔法を発動すべく掌を俺の方へ向けた。今こんな状況で魔法をパなされれば今後この宿を使えなくなる。

 

 パァン!

 

 快音。魔法が放たれた音では無い。俺の手拍子、もっと言えばねこだましだ。エルフの男が咄嗟に防御の姿勢を取った為に魔法が中断される。そこに顔面スレスレ、ギリギリ当たらないように拳を放った。生まれた風圧がエルフの男の髪を靡かせる。まだ眠らせただけだ、万全な訳が無い。今のコイツは俺に抵抗するのは不可能だ。

 

「いい加減話を聞けよ。俺は一度もお前に害を与えるなんて言ってないしそのつもりも無い」

「あ、う………信、じられない………」

「ならお前、何で今無事なんだ。売るにしろ俺自身がどうこうするにしろ、マトモに拘束すらしてないんだぞ」

「それ、は………」

 

 反論全てに正論を叩き付けて黙らせる。俺は自分が善人だとは思ってない。何も理由が無ければコイツのことは放っておいた。しかし助けた。その理由は、勘に過ぎないが放っておいたら面倒なことになるという直感故だ。

 

「ま、とりあえず飯にしよう。俺もクエストから帰ってきて何もくってないんだ」

 

 コイツが寝ている間に持ってきていたパンとスープを出す。ちなみにスープ冷めている。俺も一応コイツが目覚めるまで待っていたので文句は言わせない。

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、前世由来の食前の挨拶を済ませてパンに口を付ける。基本的に技術面は前世と比べるまでもないのでめっちゃ硬いパンだが贅沢は言えない。スープも薄味だ。栄養のあるものを食べたければ、冒険者なら自分で狩ってくるのが一番手っ取り早いが、生憎と今回のは急いで買ってきただけなので仕方がない。

 

「………」

「毒は入ってないぞ」

「……違う、お前が食事に手を付ける前に言った言葉が気になっただけだ」

「いただきますのことか?」

「………そうだ」

 

 なるほどと合点する。この世界にも一応、食前の挨拶はある。だがそれはあくまで神への感謝を述べるものだ。前世式の食材やその生産者へ述べる感謝では無い。それが物珍しかったのだろう。俺が知る限り、この世界での食前の挨拶は神へ感謝するもの以外が存在しない。

 

「別に、俺が正しいと判断した価値観に準じて行動してるだけだけ」

 

 今の俺の価値観、倫理観は8:2でこの世界寄りだ。流石に完全にこの世界の住人として12年間も生きてきたのだ。前世を思い出したからと言って前世の価値観に変わるということはありえないということだ。

 

「とりあえず体調整えろ。そんな状況じゃ俺から逃げられても他の冒険者に捕まるか、荒野で魔物に襲われて喰い殺される結末しか残ってないぞ」

「…………」

 

 独特な祈りの動作の後、エルフの男はようやく食事に手をつけた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 不思議な人間だ。長いとは言えず、しかし短いとも言えない旅の中でエルフ達の人間への認識に幾らかの誤解があることは流石に分かっていたが、それでも。

 自分の価値は理解している。人間の貴族にでも見つかれば、待っているのは終わりのない絶望だろう。冒険者に見つかってもそうだ。アレらは金に目が無い。見つかり、捕まれば貴族に売られて終わりだ。

 

 だからこそ、この男に見つかった時、終わりだと思った。

 

 以前の僕ならば惨敗、今の僕でも、この忌々しい左眼(・・・・・・・・)を使わなければ勝ち目は無かっただろう。万全ならともかく、消耗した状態では無理だと隠れ、隠蔽魔法まで使ったというのに見つかった。一か八かで殺しにかかったが、容易く対処され、気絶させられた。だと言うのに、

 

「うすい………うすい………」

「………」

 

 酷く味の薄いスープに渋い顔で文句を言うこの男と共に、今僕は同じ物を食べている。気の抜けた様子ながら隙一つ見せないこの男は、しかし本気で僕のことを警戒している訳では無い。

 

「さっきの言葉の意味は何なんだ………?」

「んぁ?」

 

 口の中のものを呑み込んでから男は僕の疑問に答えた。

 

「このクソ硬いパンとスープにもまぁ一応材料があるだろ?パンなら小麦、スープなら野菜と屑みたいなのだが干し肉が入ってる。だから、いただきます、だ。他人の育てたものをいただく、俺が生きるために死んだ生き物の命をいただく、そういう意味だ」

 

 その答えは、まるでエルフのもののようだった。

 僕達エルフと人間が信仰する主は同じだが、その形態は大きく違う。人間は全てを神の恵みであるとする。何かを食べられるのも、今日生きているのも全て神がそう定めたからだと。だがエルフ達はあくまでこの世の全てを創り出した存在だとしている。だから、感謝するのはこの世に生まれさせていただいたことだけとしている。

 

(だからこそ僕達は食事に感謝する)

 

 その食事に使われた命は、僕達と何ら変わりない一つの命だった。それを自分の命を繋ぐために貰い受ける。そうして生きていけることに感謝するのだ。男のそれは、少し対象は広がれど僕達のものとほぼ同じ価値観だった。

 

「ごちそうさま」

 

 再び手を合わせ、空になった皿へ告げる。本当に、不思議な人間だ。だから、だろうか。

 

「お前、名前はなんて言うんだ」

「せめて先に名乗るのが礼儀だろ」

「…………レスター」

「そうか、俺はアランだ」

 

 それだけ言って、アランは部屋の隅に丸椅子を寄せ、壁に背を預けた。

 

「少し寝る。逃げるなら逃げれば良い」

「は?」

 

 そう言って目を閉じる。数秒で寝息が聞こえてきた。

 

「嘘だろ………」

 

 信じられない。頭がおかしいのかコイツは。

 とはいえ、逃げるチャンスだ。そう思って立ち上がる。だが、

 

「…………」

 

 近くの椅子に座り直す。どうにも逃げ出す気にはなれなかった。

 





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