青い星が眼下に見える周回軌道上。
アメリアの宇宙艦隊が宇宙へ上がるための艦隊航行をしている中、その囮として別方向から軌道上に上がったメガファウナこと海賊部隊は、その思惑通りにキャピタル側から出てきたアーミィ部隊との交戦を開始していた。
先遣隊であるカットシーの編隊を相手取りながら宇宙戦争を始めるメガファウナ。そこから幾分か離れた軌道上では、2機の人型MSと、飛行形態に可変できる歪なMSが激戦を繰り広げていた。
「機体性能が速い!」
自分の周囲を飛ぶキャピタル・アーミィのエルフ・ブルを睨みつけながらベルリはフットペダルを踏みつけるように押し込む。
リフレクターパックを装備したGセルフは、エルフ・ブルから放たれたビームをガードし、そのエネルギーを吸収しているため出力が上がっているのだ。
だと言うのに、スラスターの出力を上げても前をゆくエルフ・ブルを完全に捉えることは出来なかった。
宙域や軌道上でも負荷なく飛べるほどの出力を有するエルフ・ブル。その速度は今まで見てきたどこのMSよりも早く、そして恐ろしく感じられた。
『貴様は…何人の戦友を殺してきたのか、わかっているのかぁ!?』
エルフ・ブルのコクピットの中で雄叫びをあげたデレンセン・サマターは、長距離移動用の補助ブースターをパージする。余力を残したブースターは機体の脇をすり抜けて真っ直ぐにリフレクターを背負うGセルフへと飛んでいった。
「体当たりをしようって言うの!?」
飛来してくる巨大なサブスラスターに目を向くベルリの横合いから光が二つ奔った。撃ち放たれたビームは一直線に飛ぶサブスラスターの横っ腹を貫いて、爆散させる。
その爆炎の脇を白い光の尾を引き連れた機体が閃き、シールドを構えていたGセルフの隣に並ぶ。
「ベルリ!目の前の敵に惑わされるな!」
接触回線で声を発したのは、シールドブースターを装備したラリーの機体だった。
ローンズーに備わっていたフレキシブルスラスターは、地上での戦いで破損していたためパージされていたが、代わりに大気圏突破用のシールドブースターを装備している。
大型ブースターとプロペラントタンクを積んだシールドブースターは、攻撃を受ける防備よりも、機動性を底上げする側面の方が強い。
接触回線直後にエルフ・ブルから放たれた無数のレーザーの網を、Gセルフから離れたローンズーはシールドブースターの力を借りて抜け出して見せる。
『外した!?直撃のはずだぞ!!』
「ラリーさん!!リフレクター!!」
追撃しようと迫るエルフ・ブルの前にリフレクターパックを展開したベルリのGセルフが立ち塞がる。両腕に備わるライフルから攻撃を放つも、その全てがリフレクターの防御力によって阻まれていた。
『Gセルフめぇ!!』
異様な光と音。リフレクターに吸収されたエネルギーはGセルフの能力を飛躍させた。その事実にベルリは戦慄する。それほどの威力を有した武器をキャピタル・アーミィが作り出してしまったのだ。
スコード教のタブーを破ってまでして。
「なんて出力…こんなものをキャピタル・アーミィが建造していたなんて…!母さんは、キャピタル・アーミィを知らなすぎたんです!!」
スロットルに力を込めてベルリのGセルフは、エルフ・ブルとビームの応酬を始めた。
機体性能が、その癇癪についてきてしまっている。
グングンと速度を上げていくGセルフは、エルフ・ブルから放たれたレーザーを難なく躱すと、カウンターを取るように敵の肩部装甲をビームライフルで撃ち抜いたのだ。
「ベルリ!!」
「キャピタル・アーミィがぁっ!!」
あの動きはまずい。二人の攻撃を見ていたラリーは思った。あまりにも感情的で短絡的すぎる動きだ。あんな動きをしていれば、ほんの少しの判断ミスでベルリが死んでもおかしくない。
そう思った矢先、背後を見せたGセルフにエルフ・ブルがレーザーの斉射を浴びせる。しかし、その一撃はリフレクターから発せられる光の前に飛散した。
「フルガードできた!」
『直撃しているはずだ!ええい、化け物め!!』
全ての攻撃が防がれたことへの焦りが、距離をとって戦うデレンセンの戦略に綻びを生み出した。リフレクターがある限り、遠距離からの攻撃は無意味だと悟った彼は、ほんのわずかにでもとGセルフへの接近戦を試みる。
しかし、その前にラリーの乗るローンズーが割り込むように入った。
「ベルリを前に出すわけにはぁ!!」
腰部のジャベリンを引き抜いて手からビーム刃を出すエルフ・ブルと対峙する。突きつけられた手刀とビームの刃をシールドブースターによる加速力で避けて、距離を取りながら牽制してゆく。
だが、その程度で動じるものではない。エルフ・ブルを駆るデレンセンは明確な決意があった。
『私は、私が教えるべき生徒達を救うために戦っている!!貴様らとは背負う覚悟と大義が違うのだ!!』
必ずベルリとノレド、ラライアを助ける。Gセルフは手に入ればいいが、生徒たちが助けられるならここで落としてしまってもいい。その覚悟を持ってデレンセン・サマターは立ち塞がる二体のMSへ果敢に挑んだのだ。
『貴様たちアメリアにはわかるまいよ!自国の領土とゴンドワンとの戦争にしか興味がない奴らに!!』
ジャベリンの一撃を躱したエルフ・ブルは残った装甲からゼロ距離でビームの弾幕を張る。致命打になる一閃をなんとか避けたラリーだったが、揉み合いをしてる最中にビームライフルが溶断されてしまった。
「ビームライフルが!?右からくる!!」
「ベルリ!!レイレナード大尉!!地球に引っ張られてるぞ!!」
ラリーの援護していたベルリは、メガファウナの航行戦から離脱し、こちらの援軍に来た青い機体を見つけた。
モンテーロに乗るクリムは、ラリーのローンズーを追い回すエルフ・ブルへ死角からの一撃をお見舞いするが、まるで分かっていたかのようにエルフ・ブルはクリムのビームを完全に避けた。
『死角からの攻撃か!!』
目標がラリーから急に現れた青いモンテーロへと向く。異様な速さで近づくエルフ・ブルの動きに少し反応が遅れたクリム。その僅かな誤差が彼の命運を分けた。
後退するモンテーロを追い詰めるような放たれた無数のビームの一撃が、背部スラスターに直撃する。
「ビームの嵐…がはっ!?モンテーロのスラスターが!?はっ!?」
『もらったぞ、青い機体!!』
目の前に向けられるビーム刃。それを見たクリムの脳内に、やられる!?という思考が奔った瞬間、エルフ・ブルは凄まじい力で横へと弾き飛ばされた。
「中尉は!足で蹴り飛ばしなさいよぉ!!」
『なにぃ!?ええい、Gセルフが!!』
「体当たりをかけたのかぁ!?」
モンテーロの危機を救ったベルリのGセルフであったが、エルフ・ブルが離れ際に放った高出力のレーザーが残っているリフレクターの羽を二枚破壊したのだ。
リフレクターのパワーは正常に送られてきているのに、ビームを吸収しきれない!苛立ちに揺れるベルリの視線の先には、こちらを落とそうと迫るエルフ・ブルの鬼気迫る姿があった。
「ハッパ!!先に謝っておくぞぉっ!!」
周回軌道の外側から現れたラリーの機体は、機体各所のスラスターから青い燐光を放つ。
モンテーロにはない増設された無数のスラスター。その全てを〝任意〟で解放した。
青い燐光を残して飛び出すと、武器を握ってきたエルフ・ブルの片腕をジャベリンで切り落としたのだ。
『なんだ、その動きは!?』
「ラリーさん!?」
「可変機は動きに無駄が多い!!」
驚愕するベルリをよそにラリーはさらに追撃をかける。腕が切られたことに動揺したのか、距離を取ろうと飛行形態に移行したエルフ・ブル。
その一瞬の隙をラリーは見逃さなかった。
ラリーは肩部に備わるビームサーベルを引き抜くと、飛行形態に必要な出力を得るための脚部スラスターを両断する、
黒煙をあげ、エルフ・ブルの機動力がガタ落ちしてゆく。安定しない機体を制御するデレンセンはその異様さに息を呑んだ。
『斬られたのか?あんな動きをするMS…!』
その姿。
その戦いぶり。
その異様な感の良さ。
青白い光の尾を引いて迫り来る白きMS。
それを目の当たりにした時、デレンセンはアメリアとゴンドワンの大陸間戦争の只中に行われた会合で、アメリア側の政治官から聞いた話を思い出した。
たった一人でゴンドワンの艦隊全てを撃沈し、軍のMSを次々と撃破していったという信じ難いことを成し遂げたパイロット。
アメリアも、ゴンドワンも、その鬼神のような動きを恐れた。のちにパイロットは、その実力に畏怖を込めてこう呼ばれる。
「白き流星」と。
『まさか、あの機体が…!!』
光はすぐに瞬いた。高速で移動するローンズーがジャベリンを放ったのだ。その一撃は僅かに硬直したデレンセンのエルフ・ブルの肩装甲を完全に吹き飛ばしてゆく。
「あれがラリーさんの実力なの!?」
『アメリアの流星か!貴様は!!』
ベルリの眼に写るのは、人が乗っているとは思えない挙動をするMSの姿。
白いシルエットだけが見える。
その速度域で放たれる攻撃は、本来なら散漫なものになるはずなのに、確実にエルフ・ブルの四肢を捉える正確無比な一撃だった。
「…がぁっ!!運動性能は向こうが上!!だが、そんな道理は突き抜ける!!」
『な、なんだぁ…!?こいつは…!!』
急転身したラリーのローンズーは出力そのまま片足と片腕をもぎ取られたエルフ・ブルの懐への飛び込む。
「板っぺらの可変機が!!」
身を捩るように懐へと飛び込んだローンズーから放たれた一閃は、エルフ・ブルの腰部を捉え両断にする。だが、コクピットと火器管制システムの制御はまだデレンセンの手元に残されていた。
『だが、私は負けられんのだ!!』
エルフ・ブルは残った腕で突撃してきたローンズーをバックパックを鷲掴みにする。火を吹いたレーザーはバックパックのスラスターを焼き尽くし、ラリーの動きを封じる。
しつこい!!
まだ息のあるエルフ・ブルのコクピットにラリーは残った片割れのジャベリンを敵のコクピットに———。
「ラリー隊長!それは無茶です!!」
ベルリの声で自分たちが置かれている状況を理解できた。
コクピットから見える景色はすでに赤く染まりつつあったのだ。ラリーが突撃前に手放したシールドブースターを持ってきてくれたベルリのGセルフ。
接触回線で聞こえてきた声に、ビームを展開していないジャベリンを突きつけられたままのデレンセンは驚いた様子で言葉を紡ぐ。
《その声…ベルリ生徒だったか》
「デ、デレンセン教官殿…!?うっ!?」
デレンセンの問いかけに答える間も無く、3人の機体はさらに地球の引力に引っ張られていく。負荷に耐えきれなくなったリフレクターパックが音を立てて崩壊してゆく。
このままシールドブースターを構えていれば大気の層は突き抜けられるか。
フルブーストの負荷でエラー音が鳴りっぱなしのコクピット内で突入角度の調整をしていたラリーの前で、ベルリは信じられない行動を起こした。
なんとバックパックなしで大気層に飛び出したのだ。
「お前、ベルリ!正気か!?」
「天才も大気圏に落ちちゃってるんです!」
そう言うベルリの声に従って望遠モニターを見ると、距離が離れた場所でクリムのモンテーロも地球に落ちている様子が映っていた。
「デレンセン教官を頼みます!自分はクリム中尉を!今のGセルフなら大気圏突破ができます!」
何を根拠に、という言葉も聞かずに通信を切ったベルリ。
真っ白な冷却剤を散布しながらクリムのモンテーロを追う姿を見送ってから、ラリーは改めてシールドブースター内に匿っているアーミィのエルフ・ブルを見た。
《…貴様が、ベルリ生徒を誘拐した犯人だな。流星》
「…ラリー・レイレナードだ」
一応、名を名乗るとデレンセンは不満そうに鼻を鳴らしてヘルメットを脱いだ。
《デレンセン・サマターだ。フン、とんだ自己紹介になったものだ》
「ああ、まったくだよ。クソッタレ」
赤い光が消え、青空が広がる。
大気圏を抜けたラリーたちの眼下には青い海と共に大気圏を脱したメガファウナが浮かんでいるのだった。
デレンセン教官、生存ルートに入ります。